手のなる方へ
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9部分:第九章
第九章
「おめでとう」
「捕まりましたけれど」
「うむ」
恭子に対しても答える。
「これで遊びは」
「終わりじゃよ」
優しい声で彼女に語った。
「これでな。さて、皆は解散じゃよ」
「これで終わりですか」
「ところが恭子ちゃんはじゃ」
「私は?」
「少し残ってくれ」
こう彼女に述べるのであった。
「それでよいかのう」
「ええ、まあ」
何が何なのかわからないまま神主の言葉に頷く。
「それでしたら」
「少しで済むからのう」
「そうなんだって」
須美にもこのことを伝える。
「だからね須美、悪いけれど」
「わかったわ」
須美も納得した顔で恭子の言葉に頷いた。
「村の行事だし仕方ないわね」
「ええ、だから」
「待ってるからね」
笑顔で恭子に言ってそれから別れを告げるのだった。
「またね、恭子」
「後でね」
二人は笑顔で手を振り合って別れる。今はこれで終わりだった。しかし神社の玄関を出たところで須美は。ふと変わった名前を口にするのだった。
「春日も羨ましいわね」
「そうよね」
「またお饅頭じゃないかしら」
周りの女の子達も彼女の言葉に頷く。その春日という名前にも。
「もっと食べられるなんてねえ」
「運がいいわ」
「もう少しだったのに」
中にはかなり残念そうな娘もいる。靴を履いて神社を出たところでそれぞれ言っている。
「それがね。春日のところに行って」
「まあまあ」
そんな彼女を周りの女の子達が慰める。
「次があるわよ」
「そうそう」
こう言って慰めるのであった。
「だからそんなに嘆かないでね」
「忘れて忘れて」
「別に忘れてもいいか」
その女の子もその言葉で落ち着いて納得した顔になるのだった。そのうえでまた言う。
「じゃあお家に帰ったら」
「どうするの?」
「今度は羊羹を食べるわ」
気を取り直してこう言うのであった。
「それ食べてね。満足するわ」
「どっちにしろ食べるの」
「お饅頭が駄目なら羊羹よ」
何故かそういう理屈が彼女の頭の中で完成してしまっているようである。どういう事情なのかは理解不能なものであるが。
「だから。お家に帰ってね」
「それはいいけれど太らないようにね」
「食べ過ぎたら彼に嫌われるわよ」
「それはわかってるわよ」
少し憮然とした顔になって言葉を返す。
「そんなことは」
「だったらいいけれどね」
「まあ今は早く家に帰ってね」
「そうね。さて、と」
須美は神社の階段に足を入れたとことでまた言った。
「春日が来る用意。しておきましょう」
彼女は自分で気付いていなかった。自分が言っている名前が違うことに。そして誰もこのことには全く気付いてはいなかったのだった。
そしてその頃恭子は。何故か神主の家から神社の境内に案内されていた。服も着替えさせられ先程の鬼の娘と同じ巫女の服を着ていたのである。
「あの神主さん」
その暗い境内の中で彼女は神主に声をかけていた。
「何じゃ?」
「今から何をするんですか?」
怪訝な声で彼に尋ねていた。彼女は神社の中で立っていてその側に神主が寄り添っていたのである。二人並んでそこにいるのであった。
「この境内でするんですよね」
「ああ、そうじゃが」
「それは一体何でしょうか」
「すぐにわかる」
彼はこう答えるだけであった。
「すぐにな。さて」
ここで。扉が開いたのだった。そして入って来たのは。
「やあ神主さん」
村の村長だった。にこやかに笑って神社の中に入って来たのであった。
「もうそちらの準備はできておるようですな」
「はい、そうです」
またにこやかに答える神主であった。
「今年も無事できました」
「そうですな、今年もこれで大丈夫です」
「!?今年も」
今の言葉を聞いて怪訝な顔になる恭子だった。
「今年もって。何が一体」
「ああ、こちらの話じゃよ」
村長もまたにこにこと笑って彼女に答えるのだった。
「こちらのな。だからな」
「気にすることはないんですか?」
「その通り。ささっ」
ここでもう一人村長に案内されて部屋に入って来た。その部屋に入って来たのは。
あの少女だった。鬼をしたあの少女だ。今度は目隠しをせず表情がない朧な様子で部屋に入って来たのだった。目だけが恭子を見ている。黒い大きな目で。
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