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手のなる方へ

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8部分:第八章


第八章

「見たことないわよね」
「そうね」
 口々に言い合うのだった。
「この村の娘じゃないけれど」
「誰なのかしら」
「あれっ!?」
 ここで恭子はふと言うのだった。
「あの娘って」
「どうしたの?」
「いえ、やっぱり違うわね」
 しかし急にその言葉を止めてしまった。彼女に問うているのは須美だった。
「知らない娘ね」
「会ったことないの?」
「ええ」
 須美の問いに答える。
「見たことあるような気がしたんだけれど」
「そうなの」
「気のせいだったわ、やっぱり」
 これで一旦考えを止めた。とりあえず部屋の中に皆と一緒に集まる。するとここで神主がまた彼女達に声をかけてきたのであった。
「さあさあ皆」
「はい?」
「これからその遊びをやるぞ」
「遊びですか」
「そう、目隠し鬼じゃ」
 聞いてみると何ということはなかった。本当に何処にでもあるごくありふれた遊びであった。皆それを聞いてまずは拍子抜けしてしまったのだった。
「それをやるのじゃが」
「目隠し鬼をですか」
「どうじゃろうかのう」
 女の子達の顔を覗きながら尋ねるのであった。
「それで」
「別にいいですけれど」
「私も」
「私もです」
 誰も特に反対はしなかった。これは恭子も須美も同じであった。二人もまた神主の話を聞いて特に反対することはなかったのだった。
「まあ別にいいわよね」
「ええ」
 こんな感じだった。やはり同じである。
「それじゃあいいのう」
「はい」
「それで鬼は」
「あの娘じゃ」
 神主は部屋の奥に座っている巫女の服の女の子を指し示した。本当に誰も知らない、不思議な女の子であった。
「あの娘が鬼じゃよ」
「あの娘がですか」
「駄目か?」
「別にいいよね」
「そうよね」
 やはり誰も特に反対はしないのであった。遊びに過ぎないという理由もあった。
「別にね。鬼が誰でも」
「ええ、別にね」
「じゃあよいな」
「はい」
「それで御願いします」
「それでは早速じゃが」
 皆に対して述べてきた。皆この時まで誰も神主をおかしいとは思わなかった。女の子が誰か気になりそちらに注意がいっていたのだ。
「目隠しをするぞ。ささ」
「はい・・・・・・」 
 目隠しをされたのはその誰も知らない女の子だった。彼女の後ろに来て白い布で目隠しをするのであった。
「それでじゃ」
「ええ」
 神主は今度は他の女の子に対して声をかけた。
「皆は捕まえられるのじゃよ」
「捕まえられる?」
「私達が?」
「そうじゃ」
 女の子達の問いにその笑顔で答える。
「それがこの目隠し鬼のルールじゃ」
「逆なんだ」
 それを聞いてこう思う女の子達であった。
「普通は捕まらないようにするのに」
「ここではそうするのじゃよ」
 神主の言葉ではこうだった。
「これでわかったな。まずは自分から手を叩いてな」
「はい」
「手のなる方へと言って誘う」
 実際に手を使って叩く仕草さえ見せる。
「それで捕まえてもらえたらいいのじゃよ」
「わかりました。それじゃあ」
「やらせてもらいます」
「ねえ須美」
 ここで恭子が須美に声をかけた。
「何?」
「それが遊びなのね。神主さんが仰ってた」
「そうみたいね」
 須美は恭子のその言葉に頷く。
「どうやら」
「何かって思ったら随分変な遊びだけれど」
「変って言えば変ね」
 これは恭子も頷くのだった。
「まさかこんなことするなんてね」
「思いも寄らなかったけれど。まあ」
「やりましょう」
「何か面白そうだし」
 須美もまた言ってきた。
「うきうきした感じになってきたわ」
「そうね」
 こんな感じで遊びに入る。女の子達は早速それぞれ手を叩いて誘うのであった。
「鬼さん鬼さん」
「手のなる方へ」
 恭子もその中にいた。楽しげに笑いながら女の子を誘う。
「鬼さん鬼さん」
 誘うその顔は笑っていた。
「手のなる方へ」
 こう言って声をかけているその近くに目隠しをして歩いている女の子がいる。周囲に顔を向けることなく耳だけを頼りにしているようだった。その時々でくるりくるりと方向を変える。しかし目が見えないうえに声も一つではないのでどうしても誰かを捕まえることができない。そうして暫く時間が経った。
 やがて女の子は恭子の前に来た。彼女はそれを見てここぞとばかりに声をかけた。
「鬼さん鬼さん」
 これまで以上に手を叩いて。
「手のなる方へ」 
 こう誘うと女の子は恭子の方に近寄ってきた。そうして彼女の前に来て遂には。恭子を捕まえてしまったのであった。
「捕まったあ」
 恭子は捕まった瞬間に実に楽しそうに声をあげた。
「まさかここで捕まっちゃうなんて」
「ほほほ、よかったのう」
 神主は彼女が捕まったのを見て楽しそうに言ってきた。
 
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