ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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妖精亭-フェアリーズハウス- part3/生きていた魔人
一方その頃、シュウは王立アカデミーを訪れた。やってきたばかりの頃は立ち入り禁止だ、だの平民ごときが入れると思うな、などと言われたが、アンリエッタからの許可証を見せた途端彼らは失礼した!とすぐに通してくれた。
アカデミー内部は、研究員が貴族なだけあって内部構造は立派な作りとなっていた。さま「ざまな研究員たちが近くを通り過ぎたり研究中また話し合っていたりを繰り返していた。中には、見ない顔である上貴族ではないシュウをめずらしいものや厄介者みたいな目で見ていたものもいたが、シュウは無視して近くの研究員に、王軍に回収されたジャンバードの保管場所を聞いた。
「失礼、タルブ戦役でトリステイン軍が回収したゴーレムの保管場所を教えていただきたい」
「平民がどうしてここにいるの?気安く私に話しかけないでくれないかしら?」
振り向いたのは、ルイズと同じ長いウェーブの髪型の金髪の、眼鏡をかけた女性だった。外見的に20代後半のようで、その鋭い目がきつい印象を抱かせ、彼女の美貌にひかれた男さえも寄せ付けようとしない。が、シュウは特に深い興味を抱かなかった。尊敬できる上司ならまだしも、この女性からはルイズと似たものを感じ、あまりかかわりたいタイプの人間とは思えなかった。
「気を悪くされたのなら申し訳ありません。ですが、私は姫殿下の命令で例のゴーレムを調べに来たのです」
「アンリエッタ姫殿下が?信じられないわね、どこの馬の骨かは知らないけど…証拠はあるのかしら?」
女性から証拠を見せろと言われ、シュウは女性にアンリエッタからの許可証を見せつける。それを見たときの女性は信じられないとばかりに目を見開いた。偽物じゃないのか?そう思って目を凝らすものの、その
すぐにイラついたような口調でぶつぶつぼやきだす。
「陛下は何を考えてらっしゃるの…平民を重用するなど、かえって保守的な貴族の怒りをあおって国を混乱させてしまうだけじゃない」
彼女はここ最近、この国がおかしな方向に傾いている気がしていた。それもこれも、ウルトラマンやら怪獣やらが出現してからだ。そのせいで、エレオノールがこうあるべきと考えるトリステイン王国の形が崩れていくことに危機感があった。それは自分たち貴族の権威が地に落ちること、それゆえに始祖の代から保ってきたこの大陸の秩序が崩れ去ることだ。だから最近シュヴァリエの称号を得て貴族となった平民出身のアニエスや彼女の率いる銃士隊を疎ましく思っていた。平民を貴族にするなど、金で貴族を名乗るあの野蛮なゲルマニアの真似事のようにも思えて気に入らないとも考えていた。
急な変革が返って混乱を起こすことを、あのアンリエッタ姫はわかっているのであろうかと疑念していた。
「すいませんが、私の質問にお答えください」
思わず目の前の平民を無視し愚痴をこぼした彼女は、シュウの呼びかけで我に返る。表情一つ変えない彼の態度が妙に癪に障るが、そのイラつきを何とか押し殺す。顔に出てしまっているので、本当に抑え込みきれているか疑問だが。それにしてもこの男、いったい何者だ?見たところこの男は貴族じゃない。なのに許可証があるからって、この神聖な王立魔法研究所に足を踏み入れるなど…。見極める必要があるか。この平民がはたして本当にアンリエッタ姫が認めた男なのかどうか。
「…いいでしょう。感謝なさい。このエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールが直々に、例のゴーレムの場所へ案内して差し上げましょう」
シュウは、ああ…と内心で納得した。やけに雰囲気が似ていると思ったら、あのちび女の姉だったのか。迂闊に関わったらいらない癇癪を起されそうで、あまりお近づきになりたくない。まあ、あのロボットの元へ案内してくれるなら誰でもよかった。
「よろしくお願いします」
興味なさそうに、ただ頭を下げて案内を頼んだ。エレオノールはこの平民にムカッと来た。彼女は身分や格式に厳しく、さらにルイズの高慢さを肥大化させたように気性が激しい。下級貴族以下の身分の人間からこのような態度を取られるとすぐにでも踏みつけてやりたい気持ちに駆られる。自分でも気づかないうちに眉間にしわが寄ってしまっていた。
すると、ひそひそと周囲から声が聞こえてくる。
「あの平民、なんだ?あのミス・ヴァリエールを相手に澄ました顔でいるぞ?」
「いや、もしかしたら内心ビビッて足がすくんでいるんだろ。エレオノール嬢は気性が激しいうえに魔法の技術も優れていてお強いからな。ほんのちょっとでも機嫌を損ねたら何されるか…」
「けど、あれが素だったらあの平民はすごい度胸の持ち主ですね。最近のエレオノール様は、噂によるとバーガンディ伯爵との婚約を破棄されてご機嫌がななめだというのに…」
「そこのあなたたち!!!!」
その噂話が10メイル以上も、噂の発生源の研究員たちから離れていたのに、まるで耳元で聞かれたかのようにすべて聞こえていたエレオノールは過剰に反応し、その噂を立てた研究員たちの元へ超特急で駆け寄る。
「や、やばい!逃げろ!」
逃げ出そうとする研究員たちだが、エレオノールが瞬時に杖を振り、彼女の意思に応えて床から土で構成された腕が生えて研究員たちをとらえ、彼らは床の上に転んだ。背後に怒りの炎を燃え上がらせながら、床の上に転んでしまった研究員たち三人を見下ろす。
「さて…あなたたち」
「「は、はい!!」」
果たして鬼か悪魔か、少なくとも今の彼らにとってエレオノールは何よりも恐ろしい怪獣そのものだったことだろう。
「今、いったい誰のどんな噂を口に出していたのかしら?」
「え、えっと…そ、そう!!最近第二実験室研究員の友人が最近恋人が出来たとか…」
「ば、ばか!!今その系統の話は…!!」
恐れをなして逃げ出しておきながら、適当に違う話をしていたと誤魔化そうと図った一人の研究員だが、もう一人別の男がその話題を聞いて青ざめた。
「へえ……恋人ねえ。さぞ、幸せの絶頂なのでしょうねえ…私と違って…………ねええええええええええええええええ!!!!!!?」
エレオノールは、実は以前のルイズ同様バーガンディ伯爵という男性とは婚約していたそうだ。だが、説明したとおりルイズ以上の高慢かつ過剰に気性の荒い性格が災いし、婚約破棄されてしまったのである。そのことをほんのちょっとでも話題に挙げると、ルイズの何倍もの怒りを放って今のようになってしまうのだ。
「「「ひ、ひいいいいいいいい!!!」」」
周囲の研究員たちは関わろうとしたら自分たちも巻き込まれると感じて知らないふりをしたり、傍観者に回っている。オワタ…自分たちの人生オワタ。三人の研究員たちはエレオノールが杖を振り上げた瞬間、自分たちの未来がここで閉ざされることを覚悟した。
…が、それはあまりにも意外な形でなかったことになるのだった。
「エレオノール・ド・ラ・ヴァリエール女史。八つ当たりの方でお忙しいなら、他の方に案内を頼みます。では私はこれで…」
シュウが、エレオノールが彼らに対して話をし始めたのを見かね、彼女とは違う人間に案内を頼むことにしたので、一言彼女に声をかけて立ち去ろうとしたのだ。それを聞いて、エレオノールは怒りの炎を鎮火させ、立ち去っていくシュウの肩を掴んだ。
「お、お待ちなさい!!せっかくヴァリエール公爵家の長女である私が案内してあげようというのに、私を放り出すなんて無礼も甚だしいのではなくて!?」
どうもシュウが、トリステインでも頂点に最も近い家計にある自分を差し置いて別の人間に案内を頼んでもらうことが気に入らなかったようだ。実にどうでもいい理由だった…。
「ご無礼を承知の上で申しますが、そう思うのならいちいち下らない噂話に過敏に反応しないでいただきたい。案内してくださるのでしょう?ならば自分から途中で放りださないでください」
平民のくせに正論を…。一体この私を誰だと思っているの!できることなら、この男をすぐにでも首輪をつけ、鞭でぶっ叩いて許しを請う姿を見届けてやりたいと思ったが、相手が正論を言っている状況でやり返したら自分の器の低さをさらすことになる。エレオノールとて決して横柄な貴族のように愚か者ではない。寧ろ公爵家にて立派な淑女となるために育てられた身。今の自分の行動がまさに彼の言うとおり八つ当たりでしかないことは重々承知していた。身分の低い男に言いように言いのめされた屈辱を堪え、エレオノールはシュウをジャンバードの元へと案内することにしたのだった。
「た、助かった…」
三人ははっきり言ってガチで死ぬと覚悟を決めていたので、すっかり腰を抜かして床の上に座り込んでいた。同時にシュウを、自分たちの危機を救ってくれた救世主…自分たちにとってのウルトラマンとして密かに尊敬するようになったというがそれは別の話である。
さて、一方でサイトたちは…。
トリスタニアの街が夕暮れに照らされた頃、街の聖堂から夕刻の鐘が鳴る。日本でいえば、夕方5・6時のサイレンのようなものだ。
「んもう…ルイズさんったらどこに行っちゃったのかな…」
運動には不慣れなせいか、ハルナは膝に手を置いてぜーぜーと息を吐き続けた。体育の成績は筆記以外そんなによくないのかもしれない。
『一人でほっつき歩きやがって…もしアンリエッタの話が本当だったら、街の中に星人か人間に擬態した怪獣が潜んでることだってない話じゃないんだぜ』
サイトの中で、ゼロも意地を張ったルイズの独り歩きに呆れていた様子だ。愚痴の内容が宇宙規模に飛躍しているが、事実あり得ない話じゃない。星人や怪獣の中には人間に成りすまして侵略計画を進めていたり、人知れず殺人事件を起こしたりなどの恐ろしい前例がある。もしそういった類がいないにせよ、女の子が…それもルイズ並みに外見が可憐な少女が一人でふらふらするのは、よからぬ輩の絶好のターゲットにされる。説教するなら後にして、まずはルイズを見つけてやらなくては。
「ルイズ!!どこだ…っと、見つけた」
街の噴水広場の噴水の傍らのベンチで、ルイズが座っているのが目に入った。一人ふてくされた様子で座り込んでいる。あの様子なら大きなけがもなかったようで、サイトとハルナは一安心した。だが、それもわずか一時の物だった。
「ぎゃああああああああああ!!!!」
「「「!?」」」
尋常ではないすさまじい悲鳴が聞こえてきた。ルイズが真っ先に飛び出し、サイトが彼女を、ハルナがさらに彼を負う形で三人は駆け出した。
すぐ近くの路地裏だった。そこには、若い男性が血を流して倒れ、周囲の応急処置を受けていた。
「何があったの!?」
「チュレンヌだよ…」
目撃者たちの話によるとこうだ。被害を受けた男性はすぐ目の前の新設された店を経営している支配人だが、そこを噂のチュレンヌが来訪、彼女の妻の容姿に惹かれた彼は部下にその女性を無理やり屋敷に連れて行こうとしたのだ。もちろん愛する女性を連れ去ろうとするものを支配人が許せるはずもなく、頼むから連れて行かないでくれと懇願したり、必死の抵抗を試みたが、チュレンヌの雇った少年の姿の兵によって叩きのめされ、毒に侵されてしまったのだという。
「最低…!貴族の…それ以前に男の風上にもおけないわ!」
チュレンヌに対する怒りを募らせるルイズ。自国の中にあのようなシロアリのような男の存在を許せるものか。
「衛士には通報したの!?」
「…いや、通報はしたんだけど…」
ルイズはすぐ目に入った平民の男性に声をかけたのだが、この区域の警備をしている衛士がチュレンヌの息がかかっているせいか、ここしばらく警護に当たっている姿がないというのだ。しかもこれが初めてのことではない。タルブ戦役が終わってからチュレンヌの横暴さは磨きをかけて、被害にあった人は毒に侵され長くはもたない状態となっているという。
『通報したところでチュレンヌは権力で情報を隠蔽、ばらそうとした奴は重税をかけられて店をつぶされたりするってことか…』
アンリエッタの話をゼロは思い出した。街の暴君チュレンヌと、彼の被害で毒に侵された被害者。真実なのは確かだが、街の警護をしている衛士が守ってくれなかったこと、全て姫の話していた通りだった。
「くっそ…あんな奴、ウルトラマンがぶっとばしてくれたらなあ…」
去っていく野次の一人がそう呟いていた。ゼロもその意見に理解と共感を覚えた。自分もチュレンヌに怒りを覚えたからだ。できることならそのチュレンヌを自分の手で殴り飛ばしてやりたいと思ったが、立場上自分自らの手を下すことはできない。ウルトラマンとして立場を忘れて軽率な行動をとったら、余計に事態が混乱しかねないのだ。
「いっそレコンキスタにとってかわった方がよかったんじゃねえか?最近のトリステインは腐った貴族ばっかが実権握ってやがるんだから…」
「もうじきアンリエッタ姫が即位なさるみたいだけど、あんな若い世間知らずの姫に何ができるってんだ。怪獣一匹倒すことだってできねえ上に保身に走ってばっかの貴族の大将だぜ…?」
ブチっ!ルイズは思わず杖を取り出し、それを振りかざそうとした。レコンキスタなんかに国を明け渡す?しかもアンリエッタ姫にまで侮辱するような発言を取ってきた!
「ルイズ落ち着けって!」
すぐにサイトはルイズの腕を捕まえ、取り押さえた。
「離しなさいよサイト!!あいつら、こともあろうかこの国のために頑張ろうとしている姫様を侮辱したのよ!」
「気持ちはわかるから!!けど、ここでお前が騒ぎを起こしたらかえってこの人たちの不安と疑念を煽るだけだろ!姫様にだって迷惑がかかる!」
「でも…でも…!!!」
散々貴族としての誇りと、アンリエッタのことを侮辱され、我慢しろと言われてできるだろうか。
「…ルイズさん、ここから離れましょう」
ハルナが優しく肩に手を添えながら、落ち着かせるように言うと、煮え切らないままだったもののルイズは杖をしまった。
「「全部カジノですったあああああああああああ!!!?」」
噴水広場まで戻ってから、落ち着きを取り戻したルイズが自分たちと別行動を取っていた間のことを聞くと、サイトとハルナは仰天した。
なんと、ルイズは400エキューでは足りないからとばかりに、慣れてもいないカジノに足を踏み入れお金を増やそうとしていたのだ。だが、致命的に彼女は賭け事に弱かった。無理も無い。ルイズのような結構熱くなるタイプの人間は心情を読み取られやすいので賭け事には非常に不向きだ。それを補う天運だってもちろんのこと持ってない。
その結果、見事にせっかくアンリエッタがくれたお金を全部無駄にしてしまい、報酬もなにもかもが…ゼロになってしまった。
「だって…必ず当たるっていうから…」
そんなカジノがあったら平民はみんなお金持ちだっての。サイトの突込みにルイズは言い返せない。
「まあまあ、そういじめてやるなよ。娘っ子がそろそろかわいそうになってきたしよ」
「下手に慰めないで…」
デルフが宥めてきたが、ルイズは逆に施しを受けた気がしてその言葉を拒絶した。
「これからどうしたらいいんだろう…」
人生金がなくては何もできない。ある意味真理と言えなくもない。事実自分たちはほとんど何もできない状態だ。ハルナは不安そうに呟く。
「お姫様に頼んで、もう一度金を貸してもらうしかないかな…」
サイトがそういうと、ルイズは「だめよ」と否定した。
「姫様が私的にご命令した任務よ。お金の工面に苦労されたに違いないわ。これ以上姫様が国のために使っているお金を無駄にできないわよ」
「お前な…それがわかってて高額な馬を買いたがったりするわ、高級な宿じゃないと眠れないとか、ドレスや宝石の無駄遣いとか、よく言えたもんだぜ」
こいつは我儘であると同時に世間知らずでもあるのだろう。お姉さんも困っているみたいだし、こいつには二度と財布を持たせないでおこうと決意したサイトであった。
「…だって、必要なんだもん」
「いらねえっての」
「いるの!」
「いらない!」
「いるったらいる!」
「いらないったらいらない!!」
サイトとルイズは互いに目線を合わせ、目線上に火花を散らす。無駄な意地を張るルイズもルイズだが、売り言葉に買い言葉なサイトも熱くなりすぎていた。
「もう二人ともいい加減にして!!まずは寝るところを探すのが先決でしょ!」
すると、子供じみた二人の争いにハルナが痺れを切らして怒鳴り散らした。責任もって保護しているはずの彼女に怒られ、二人は母親にしかられた息子のように俯く。確かに彼女の言うとおりだ。任務は始まったばかり、数日間はこの街に留まるのだから寝床になる宿泊施設を探さなくてはならない。
…が、直後にぎゅるるるるるるる…っと腹の虫が鳴った。
「…ルイズ」
「私じゃないわよ!」
サイトは真っ先にルイズを疑ったが、ルイズは怒った。疑惑の目を向けたサイトも腹を鳴らしてはいない。つまり…。
「…………うぅ」
ハルナだった。二人を叱っておきながら腹の虫を鳴らすというなんともまあ締まらない自分に、案の定腹を押さえたときのハルナの顔は真っ赤だった。
「…っぷ…あははははははは!!!」
「ひ、ひひ…ぶわははははは!!!」
あまりにおかしかったのか、サイトとルイズは互いに腹を抱えて大笑いした。無論ハルナは顔から蒸気さえも吹き出して怒鳴り散らす。
「そ…そんなに笑わなくてもいいじゃないの!!!」
「ははは…はぁ…ああ、腹痛かった~…」
「もう、知らない!」
ふん、とハルナは頬を膨らませてそっぽを向いた。地球にいた頃はクラス委員長だったこともありクラスのみんなをまとめてくれた彼女だが、今の彼女はまるで子供のようでかわいらしかった。
「あはは…もう笑い過ぎて怒る気がなくなっちゃったわね。それはともかく、これからどうしたらいいのか考えないと…」
ルイズはなんだかんだで自分のせいで起こった今の状況を打開すべく思案したが、未体験なこの状況をどうこうできる案など何もない。やはりサイトの言うとおりアンリエッタに、無理を承知でお金をめぐんでもらうしかないのだろうか。
「トレビア~~ン♪」
すると、困った三人に奇妙な声が聞こえてきた。その声の主を見た途端、う…と三人は青ざめた。筋肉質な体つきで、黒髪をオイルでピカピカに光らせ、胸毛が吹くの間からのぞかせていて、小粋な髭を生やした男…。
「綺麗な顔の女の子二名と、たくましくていい男の子が三人そろってお困りの様子ねぇ」
(お、オカマ…)
できることなら一生お近づきになりたくないタイプの男と遭遇してしまったとサイトはビビった。まさか異世界でもオカマという人種が存在するとは思いもしなかった。もちろんルイズとハルナもかなりビビッていて若干後ずさりしているのが見える。
『な、なんだこいつ!?新手のエイリアンか!?サイト、ゼロアイを構えろ!いいな!』
一方でゼロはさりげなく一番酷いコメントを吐いていた。恐らく光の国にオカマのウルトラマンなどいないから、このようなタイプの人物に対してかなり引いてしまったのかもしれない。
見ての通り怪しい者じゃあ~りませ~ん、などと敵意がないことをアピールしてはいるが、三人+一人+一本は思う。
――――怪しすぎる。
「あたしはスカロン、近くで宿を経営しているものよ。ちょうどいいわ、あなたたちに私の店の部屋を提供してあげましょう!」
サイトは想像してみる。この手の人の経営する店って、もしやカマバーではないだろうか?と疑惑していた。そして唯一の男である俺はそこのオカマ店員たちに言いようにされて…。
(い、いやだああああああああああああ!!!)
俺の男の貞操…いや、人生はここで終わってしまうのではないか!?この世界を狙う侵略者を撃退し、地球へ帰る前に俺のロードはここで途切れてしまうというのか!?男としての死亡フラグの接近を感じ、サイトは頭を両手で抱えながら噴水の傍らでごろごろ転がり続けた。はたから見たらエクソシスト状態で奇妙だ。それほどサイトは絶望しかかっていたのだ。
『…サイト、ここでお別れのようだな。お前のおかげで、俺は本当の強さってものを、教えられた気がするぜ』
『お願い行かないでゼロさん!!お願いだから僕を見捨てないでええええええええ!!!!』
オカマにいいようにされて男の誇りを失うくらいなら、ルイズのお仕置きで爆死した方がまだましだ。不吉なことを言い残して別れを告げて暗闇に消えていくゼロに、暗闇の中でスポットライトを照らされたサイトはすがるように見捨てないでと懇願した。
「大丈夫よ。店の女の子たちは正真正銘みんなかわいくていい妖精さんたちだから」
ん?今のはスカロンと名乗ったオカマ男の声ではない。サイトは顔を上げると、そこには給仕服を着た長い黒髪の女の子が両手に腰を当て、サイトを見下ろしていた。…かわいい。どこかシエスタに似ている気がするが、素朴で大人しい彼女と比べて活発で明るい女の子だ。しかも…胸が大きい…。谷間までも見えてしまっている。もしや、スカロンが経営するという店の店員の娘だろうか。
「ほ…ほんとですか!?」
サイトはがばっと起き上がって少女とスカロンに尋ねる。新しい美少女との出会いのおかげか、あっさりとさっきの不安がぶっ飛んでしまった。
いや、あのスカロンという人についても考え直してみよう。こういう変わり者なキャラほど実はいい人だったりすることを漫画の世界ではよくあることを思い出し、サイトの顔が輝く。一文無しだし、せっかく部屋を貸してくれるというのだ。ここは話に乗らなくては。
「断りなさいよ!あいつ変だわ…」
しかし、ルイズはサイトの取ろうとした選択に難色を示す。あのオカマ男には関わりたくない。ああ、その気持ちは誰にでも確かだろう…。
「でも、私たち他に泊まるところなんてないし、えり好みなんてできないと思いますよ…?」
ハルナの言葉に、ルイズは唸る。そう、自分たちに選択権などもうなかった。まして、今回の任務のために姫が用意したお金を全部無駄にしてしまったルイズならなおさらだ。
「た・だ・し…条件があるわ」
スカロンはルイズとハルナをピッと指さす。突然指を刺された二人は、なんだろうと思って首をかしげていた。
スカロンに拾われたおかげでサイトたちは宿泊先を手にすることができた。
宿泊先は、トリスタニアの下町チクトンネ街の居酒屋の一角にある店、『魅惑の妖精亭』。スカロンはその店の店長だった。店内にて、一列に様々な色合いの派手で際どい衣装を着た美少女達が並んでいた。名前の通りこの店は、店員の美少女達=妖精さんが仕事帰りの男たちの心身の疲れを癒す効果をもたらし、貴族からも大人気の店であった。
「いいこと妖精さんたち!今日も張り切って行くわよん!」
「「「はい、スカロン店長!」」」
「違うでしょおん!!店内では『ミ・マドモアゼル』と呼びなさいと言ってるでしょおん!!」
「「「はい、ミ・マドモアゼル!!」」」
「トレビア~ン。か・い・か・ん」
傍から見たらくねくね動くスカロンは吐き気さえも催すほど気持ちが悪い。なれているのか笑顔を崩すことのない妖精さんたちから見るからに慕われているから、いい人であることは確かなのだろうが、中年男のその様をちらと見るだけでサイトは吐きそうになる。
ちなみにマドモアゼルとは女性を褒め称える言葉なのだが………言わなくてもわかる。だが、わかりきっていることなので敢えて口に出したりはしないでほしい。
スカロンはパンパンと手を叩いて妖精さんたちにお知らせした。
「さあて、妖精さんたち!今日から新しいお仲間ができます!」
新しい仲間と聞いて妖精さんたちから拍手が上がる。
「ルイズちゃん、ハルナちゃん、いらっしゃい!」
スカロンからの呼びかけに応え、ルイズが妖精さんたちの前にやってきた。驚いたことに、彼女もこの店の女の子たちの色違いの妖精さんコスチュームを着せられていたのである。短いスカートに際どい白のキャミソールを身に着け、上着に至っては彼女の体に密着していて細いラインを、引き立て色気を出している。
スカロンが三人に言った仕事の条件とは、三人に働いてもらうことだった。
スカロンが---これはサイトがとっさに就いた嘘だが---父親の博打の借金の肩に売り飛ばされそうになったところを兄とその幼馴染と共に逃げ出してきたと説明し、女の子たちが同情の声を寄せている中、ルイズはピクピクと顔をひきつらせていた。カワイイ恰好なのだが、当の本人はプライドの高い貴族だから、はしたない恰好を着せられてものすごく屈辱なのだろう。
「る、るる…ルイズなのです…よよ、よろしくお願いなのです」
きゃーーーー!!と可愛らしい新しい仲間が来たことを喜んでくれている妖精さんたちなのだが、ルイズは嬉しくなかった。
(あちゃ…あれ絶対怒ってるな…。あれ?そういえばハルナはどうしたのだろう。ルイズと一緒のはずなのに姿が見当たらないじゃないか)
「ジェシカ!ハルナちゃんはどうしちゃったのかしら!?」
スカロンは、ルイズの隣にハルナがいないことを気にして、奥の着替え部屋にいるであろうジェシカという少女に声をかけた。
「ごめ~ん!だってさっきからあの子、服を脱ぐの渋っているのよ!」
着替え部屋から出てきた少女が申し訳なさそうに言った。ジェシカとは、さっきスカロンに同行していた長い黒髪の少女だった。
「お、お願いですからその服だけは~…!!」
奥からハルナの悲鳴が聞こえてくる。相手が同じ女の子でも、誰かの前で着替えるのが嫌なのだろうか。
「ハルナ!人が我慢して恥ずかしい恰好してるのに、一人だけ逃げる気!そんなの許さないわよ!」
こうなったのは全面的にルイズのせいなのに、自分だけ恥ずかしい思いをさせてたまるかとルイズは着替え部屋の方に歩き出していくと、ハルナが部屋の中から声を上げた。
「!ま、待ってルイズさん!!入ってこないで!!」
「な、何よ…そんなに拒否しなくても…」
「…ふう、ちょっとあたしが話しつけてくるから、みんなはここで待ってて」
ジェシカはため息をつくと、着替え部屋の方にもう一度言ってハルナと話をしてみることにした。一体どうしてだろう。サイトは不思議に思った。ルイズは気に食わないようだけどかわいらしく着こなしている。ハルナだってきっと似合うはずなのに、そんなに恥ずかしいのか?もし来てみたら…。
(でへへ…)
『お~い。鼻の下伸びてるぜ~。いけないんだ~』
ぐっ…!人がいい思いに浸ってる時に水を差すとは…!!サイトは茶化してきたゼロにムッとした。
すると、着替え部屋からようやくジェシカとハルナが出てきた。が、ハルナは妖精さん衣装を着ておらず、ジェシカの緑の給仕服ではなく、その色違いの黒い服だった。
「あれ?」
やはり恥ずかしかったのだろうか。でも、あの服もあれはあれで似合っている気がした。ハルナは地球にいた頃はほとんどのことをこなせる完璧少女の印象が強かった。この店の店員になれば、もしかしたらがっぽり稼ぐことなんて容易じゃないだろうか。ルイズはあの様子だが、まあ我慢さえ覚えれば何とかできるだろう。
さて、その後はスカロンから説明が入った。今週はチップレースというイベント期間だった。一週間内に一番チップを稼いだ妖精さんに、この店の名前の由来になった家宝『魅惑の妖精ビスチェ』を身に着けることが許可されるという。そのビスチェには人を引き付ける魅惑の魔法といかなる体格にもフィットする魔法の両方がかけられており、これを着用すればさらに稼ぎ放題、昨年のトップは稼ぎ過ぎて田舎に帰ってしまったほどだったという。
ルイズはこれをチャンスととらえた。これならアンリエッタから借りていた持ち金以上の金を手に入れられるかもしれない。悪いことを企んでいるような不敵な笑みを浮かべているルイズに対し、ハルナはものすごく不安な様子だった。
さて、いざ始まったチップレースなのだが…。
「な、なにしやがんだこのガキ!!」
「こ、こここの下郎!お、おおおおお恐れ多くも公爵家の…!!」
ルイズについてはサイトにとって案の定だった。貴族としてのプライドが先行しているルイズは、客に注文通りの品は届けても、平民に尺をすることに屈辱を覚えるあまりグラスからワインをこぼしてしまって怒らせてしまった。酔っていた勢いもあってか、その男性客はルイズに口移しをしてくれと言ってきたので、ついに逆上した彼女は一発ビンタを食らわせてしまったのである。客は神様とはいうが、店員だって人間、嫌なことをされたら殴りたくなるほど怒ることだってある。でも、殴ってはいけない。客に暴力を振うような店に誰が来たがるものか。スカロンが直ちに駆けつけ、ルイズに新しいワインを取りに行かせるとその間に詫びのサービスを与えたというが、寧ろルイズに殴られた方がマシだと思える目に合ってしまったそうだ。何があったかって?それは聞かない方がいいだろう…。
が、予想外だったのかハルナだった。
つるっ。
「きゃあああああああ!!!」
ガシャアアアン!!
「あっちゃー、せっかくのお酒が…すみません6番待ちの方!少々お待ちくださいませ!」
「うぅ…ごめんなさい」
「おい姉ちゃん!頼んでたやつと違うじゃねえか!」
「ご、ごめんなさい!すぐにお取替えいたします!!」
何とハルナは一度や二度だけでなく、幾度もビンを落として割ってしまったり、注文の品を間違えてしまったりというミスを連発してしまっていたのだ。掃除は学校生活で腐るほどやってきたので問題はなかったのだが、せっかくサイトの世話になっているのに、役に立てない自分が悔しくなっていた。出会った当初の服ではなく、店の女の子たちと同様の妖精さん衣装のジェシカがうまくフォローを入れてくれていたが、このままではいけない。張り切って次こそはと思っても、また同じ失敗をしてしまう。ハルナは優等生のように見えて、実際はかなりの不器用さんでもあった。意外な彼女の一面にサイトは驚いてしまったものである。
(…ジェシカ、すまん)
心の中で、一言ジェシカに謝罪した。まさかこんなに彼女に生活力がなかったとは。何でもできる優等生タイプかと思っていたのに、ここまで手際が悪いのか普通!?
「あうう…平賀君、そんな目で見ないで~…」
サイトから哀れみの視線で見られたハルナは悲しげに呟いた。
「ちょっと前途多難かしら…」
ルイズといいハルナといい、先は大変になりそうだ…とジェシカは頭を悩ませた。
「痛っ!」
すると、ハルナが小さな悲鳴を漏らした。どうしたんだろうと思ってサイトが彼女に目を向けると、割ってしまったビンを片付けていた彼女の右手の人差し指に小さな切り傷ができて、血が流れ落ちていた。
「大丈夫か!?」
「ん…平気。ちょっと切っちゃっただけだから…」
サイトとジェシカから気を遣われたハルナは、口に傷を負った指をくわえて血を舐めとった。
「少し休んだらどう?部屋に薬と布を用意しておくから」
「す、すみません…」
客の注文を間違えたり、せっかくの酒瓶を割ってしまったり。怪我もしてしまったので、一度見学する側に回ってみては?という提案で、ハルナはいったん、サイトたちのために用意された部屋に上がって行った。
大丈夫だろうか…落ち込んでいなければいいのだが。サイトは階段を駆け上がっていくハルナを心配そうな目で見送った。
その頃…王立アカデミーの敷地内。
ジャンバードは巨大ゆえにとても屋内で安置することはできず、外に『固定化』の魔法をかけられた状態で保管されることになった。
今、警備兵が周囲に囲んだ状態で待機しており、決して怪しいものを近づけようとしない。だが、そのジャンバードの船内にて、シュウがたくさんの工具を床の上に散らかしながら、ジャンバードのチェックを行っていた。壁に蓋のようなものを見つけ、それを開いてみると、その内部にはあまりに複雑にケーブルや鉄棒などがずらりと束ねられていた。
機械工学を志していたと語っていたということもあり、彼はジャンバードには強い興味を惹かれていた。思った通り、これはハルケギニアの現在の文明では決して作れるような代物ではなかった。高密度な機械とケーブル、ライト、モニター…どこからどう見てもそうとしか思えない。さらには巨人の形態を取り、斧を振い光線を放つ機能を持ってゼロを一度は苦しめたほどの兵器。まさに『オーパーツ』と呼ぶに相応しい。確証はないが、実際にはハルケギニアではなく、別の星で作り出されたものなのではないのか?そして、なぜこれほどの機械をアルビオン王家が所持し、秘宝として守り続けてきたのか。そして、これをレコンキスタはどうやって操って見せたのか。
内部を調べ始めてから数時間は経過していた。汗ばんだ額を拭いながら、シュウは水筒の水を飲んで一息ついた。
「この機械は地球で俺たちが操縦していたクロムチェスター以上かもしれない。これだけのものを作り出せる文明、おそらくハルケギニアだろうが地球だろうが数百年以上先は軽いかもしれない」
ジャンバードの壁にかけられたモニターに触れながら彼は一人呟く。
だが同時に疑問に思う人もいるかもしれない。それほどの超文明のものかもしれない代物を、どうしてシュウがその一端だけでも短時間で理解できたのか。ナイトレイダーでありながら、本当にただの機械工学を志していただけの身だったのか。
「一体、誰がこんな大層なものを作った…?TLTの技術者でもここまでのものは…」
まあ、答えの見えない問題にいつまでも付き合っているわけにはいかない。ビデオシーバーとパルスブレイカーの通信中継地点として確立させるために、この機械を起こさなくては。操作盤らしきものは、……困った。そう言ったものは見当たらない。こいつは一体どうやって動かすのか…。ふと、シュウはサイトの存在を思い出す。あいつの左手の『ガンダールヴ』のルーンの効力だ。あらゆる武器を使う、あの喋る剣はそう語っていた。妙に詳しいところに胡散臭さを覚えもしたが、あいつがいた方がよかったな。まずはあいつを探して、こいつに触れさせるべきだろう。そう思って、彼は一度ジャンバードから降りて外に出た。
エレオノールは、密かに彼がジャンバードから外に出たところを、研究室の窓から見ていた。こういった行為は正直貴族らしからぬことなので乗り気ではなかったが、平民であるはずのあの男が姫直筆の許可証を持っていることや、あの例のゴーレムの内部構造を、自分たちでは解明することさえままならなかったにもかかわらずたった一部だけでも理解していた。余計に胡散臭い存在に思えてならなかったエレオノールは正体を暴いてやろうと考えていた。ジャンバードの保管されている広場はアカデミーと繋がっている。必然的にアカデミーの舎内に来る。そこから、ちょいと誰かに頼んであの男をつけさせることにした。…いくら自分がやったらヴァリエール公爵家の令嬢らしくないからって、他人を巻き込んで追跡をさせることもよくないのだが…。エレオノールに頼まれた数名の研究員が無理やりシュウの追跡役を任された…というか、逆らったら痛い目を見る程度では済まされないことを恐れたためただただ頷くしかなかったのだが。しかし、誰かに追跡されていたことはシュウにはとっくに感づかれていたのか、街中であっさりと彼を見失い、エレオノールはまた平民に一本取られた屈辱を味わって機嫌を悪くした。ただ誤解はしないでほしい、ルイズ同様彼女も公爵家出身なだけあって国への忠誠心と公爵家としての誇り高さが人一倍なだけなのである。
(撒いたか…)
チクトンネ街の真っ暗な路地裏にて、前述通り追われていることに気付いたシュウは、エレオノールに着けさせられた尾行から逃れ、ふう…とため息を漏らした。変な奴に目をつけられたものだ、と彼は頭を抱える。物陰から覗くと、去っていく彼らは…
「あ~もう!あの人が怖いのに仕方なく変な頼みごとを任されたってのに、またエレオノール嬢に怒られるよ!」
「勘弁してほしいよな~あの人真面目で悪い人じゃないんだけど、結構理不尽なんだよな。キレるとめちゃくちゃ怖いし」
帰ってきたら彼らはエレオノールに「いったい何をしてきたの!?」とガミガミ怒られるのだろう。一番の被害者は間違いなく彼らだ。
が、彼らがエレオノールに何されるかなんて実にどうでもよかったし考えてもいなかったシュウは、とっととサイトのもとに行くことにした。どこにいるのかはわからないわけじゃない。目を閉じて、その瞼の先に移る景色でどこにいるのかを感知してみる。彼は、ウルトラマンの光を持つもの=適能者特有の超能力を応用して彼の位置を特定しようとしているのだ。
が、それを邪魔するかのごとく、彼の足もとに一発の爆弾が落ちてきた。
それを一瞬早く感づいたシュウは後ろに緊急回避、彼の立っていた場所の石畳の地面は暴発した。この路地裏は道幅が狭いから横からの攻撃はない。それに爆弾が落ちてきたのは、上の方。シュウは頭上を見上げると、すぐ自分に右隣の建物の屋根の上に見覚えのある人間の姿があった。
「ファウスト…やはり生きていたのか…!」
黒衣のマントに身を包んだ、闇の巨人ダークファウストの人間体でもあるあの少女だった。こうして姿を見るのは、ラグドリアン湖以来だ。
「くく…また会えたね…ウルトラマン」
「…一つお前に聞きたい。なぜ俺たちに付きまとう!?」
「その姿では私と戦えないだろ?さあ、光を纏いな」
変身して私と戦え。わかりやすい挑発だった。
「……」
シュウは沈黙する。もしここで自分が、サイトと会うことを優先して逃げたところでこいつは追いかけてくるか、自分を嫌でも変身させるために街を破壊していぶり出そうとする。こいつに暴れまわれたら、街の人たちが…。選択肢など一つしかない。
シュウは、迷わずエボルトラスターを取り出し、いつでも引き抜ける状態に構える。
「てっきり、私の作り出す無限の闇に怯えて変身をためらうと思っていたが…まあいいさ。むしろ好都合」
フードの奥でにやりと笑いながら、彼女は自分の身を闇に包み込み、シュウにとっていは不本意にも馴染んでしまった邪悪な姿…ファウストへと変身した。
「踊ろうか」
シュウは何も言い返さなかった。ただこいつを、今度こそ倒す。ただそれだけを考え、エボルトラスターを鞘から引き抜き、ウルトラマンネクサス・アンファンスへと変身した。
「ヘア!!」
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