ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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虚無-ゼロ-part2/誕生!ウルトラマンゼロ
ゼロが名乗る姿を見て、ネクサスとレオは頷いた。
「あれが、ウルトラマンゼロの真の姿…!」
見ているものを、思わず感涙させるものがあったのか、アンリエッタはゼロの姿に魅入られていた。
「ふん、セブンの息子だが何だか知らんが…楽しませてくれるようだな!」
ファウストは物怖じすることなく、す…と身構える。奴の後ろに、シルバーブルーメとケルビムが続く。しかし、異様なことが起こる。シルバーブルーメは宙に浮くと、周囲に転がっていたサドラとノスフェルの遺体に触手を伸ばし、食らい始めたではないか。ぐしゃぐしゃと食い散らかすその音に不快な生々しさを覚え、一部の者は吐き気さえも催した。
怪獣を食った影響か、シルバーブルーメに変化が起こる。
「う、うわあ!怪獣がでかくなった!」
50メイルほどの体が、さらに肥大化し、80mほどにまで急成長したのだ。怪獣を食って、二体分以上の力にパワーアップしたことだろう。しかし、今のゼロに負ける気など全くなかった。絶対に勝てると確信できた。となりに、ネクサスとレオの二人が立つ。同じウルトラマンとしての仲間、そしてゼロの師。この二人が一緒ならなおさらだ。
「ジュワ!」「ヘア!」「イヤァ!」
三人のウルトラ戦士たちは、勝利をつかむべく走り出した。
シルバーブルーメは先ほどよりも巨大になり、レオもこれには手を焼かされると自分でも予感していた。怪獣を食らって自らを強化するなど、少なくとも自分がかつて戦った個体にはなかった能力だ。何者かがシルバーブルーメに改造を施していたのだろうか。
しかし、だからといってここで負けて倒れることなど許されない。かつて自分がメビウスに語ったように、自分たちウルトラマンの戦いは…『必ず勝たねばならない戦い』なのだから。
シルバーブルーメの触手が、レオの腕に絡みつき、シルバーブルーメはレオを一飲みしようと、よだれがかった口を開く。すごい力だ。伊達に食って自信を強化したわけではなかったようだ。開かれた口を、両手で抑えながらレオは蹴りをくわえると、シルバーブルーメは怯んでレオに絡みつかせた触手を緩ませた。
だが、レオは敢えて触手をすぐに切り落とさず、絡みつかれた左腕で触手をつかみ、さらに右手でもその触手をつかむと、シルバーブルーメを自分の方へと引っ張り、強烈な拳を叩き込んだ。
「ダア!!エイ!ヤア!!」
さらに続けてパンチの連撃を放ち、シルバーブルーメの体を掴むと、そのまま地面に投げ倒した。まだ終わらない。再び地面に垂れていた触手を持ち上げて再度自分の方へ無理やり引っ張ると、レオは足に光エネルギーを溜めて、おなじみの必殺の蹴りをシルバーブルーメにぶつけた。
〈レオキック!!〉
「エイヤァアアアアアア!!」
今の蹴りが深々とシルバーブルーメの体に食い込み、すさまじい轟音が轟き、シルバーブルーメは大きく吹き飛ぶ。
さらにもう一撃。だめ押しにレオは右手に一発の光球を作り出すと、シルバーブルーメに向けて発射した。
〈エネルギー光球!!〉
着弾と同時に、シルバーブルーメの体をすさまじい爆発が包み込んだ。これで倒したか…?いや、予想は意外にも外れた。
「む?」
レオからの強烈な一撃を数度受けたにも拘らず、シルバーブルーメはいまだ健在だった。確かにダメージこそ受けていはいただろうが、怪獣を捕食し己の身を強化したためか、簡単には倒れてくれなかったようだ。
一方でネクサスはファウストと交戦。ファウストの、ネクサスの横腹を狙った蹴りが飛ぶ。それを防ぐと、ネクサスの頭を狙ってファウストの二度目のハイキックが襲いかかる。突き出された足を下から持ち上げるようにファウストをひっくり返そうとする。しかし、空中で回転して着地しただけで効果はなかった。返しにファウストは蹴りでネクサスを押し出し、彼に光弾〈ダークフェザー〉を放つ。瞬時に左方向へ飛ぶことで回避したネクサスは、お返しに、ファウストの足元めがけて光刃〈パーティクルフェザー〉を発射した。
「ハア!!」
「ぬ、グオオオオオオ!!!」
光刃は、ファウストの脛にヒット、ファウストは大きく仰け反った。すぐさまネクサスは〈マッハムーヴ〉で接近、怯んでいるファウストの脇腹に蹴りを、続けて拳を叩き込んだ。今の攻撃で少し頭に来たのか、ファウストはネクサスに掴み掛る。伸びてきた腕を、ネクサスは逆につかみ、思い切り背負い投げる。地面に倒れたところで、ネクサスはファウストを持ち上げ、宙に向けて放り投げた。身動きが取れないままのファウストはなんとか受け身を取ろうとするも、その隙さえも与えまいと、空を飛んできたネクサスが真上から強烈なパンチを振りかざし、ファウストを地面に激突させた。
「デヤアアア!!!」「グハァ!!?」
ドシン!!と大きな激突音と舞い上がる土しぶきとともに、ファウストは地面に落ちた。ふら付きながらも、ファウストは立ち上がる。その時、すでに地面に着地したネクサスは、光の剣〈シュトロームソード〉を形成していた。それを何十メートルにも伸ばし、ファウストに向けて振りかざした。
〈シュトロームスラッシュ!!〉
「フン!!」「グワアアアアアア!!」
胸元を切り付けられて火花が散り、ファウストは大きく後方へ吹っ飛んだ。剣を一度消し、次のファウストの攻撃に備えてネクサスは身構える。が、さすがにファウストはルイズの魔法に続き、力を吹き返したネクサスの猛攻によるダメージで戦闘の続行に無理が来たのか、自分の身を発光させたのち、姿を消した。
「勝ったが…また逃したか」
いや、今はファウストに勝っただけ良しとしよう、今はゼロとレオたちの方へ向かわなくては。
一方で。さっきまで受け続けた屈辱を今ここで返さんと、ケルビムがゼロに向かって走り出してきた。すぐさま自慢の尾を振い、ゼロを叩きのめそうとした。しかし…。
ザシュ!!!
「ギィイイイ!!!?」
ケルビムの尾が、切り落とされた。自慢の尾が切り落とされ、ケルビムは尻を押さえてもだえ苦しんだ。自慢の武器である角も尾も奪われてしまっては、ケルビムはもう相手にならない。
「さあ、せっかくだ!お前も来い!デルフ!!」
ゼロは右手を突き出すと、彼の手に見覚えのある剣が現れる。サイトの愛剣、デルフリンガーだ。しかも、本来のサイズよりもずっと巨大な、ウルトラ戦士の手に十分握られるほどのサイズに巨大化しているではないか。かつてウルトラマンエースも使用した、物質巨大化能力だ。
「お、おでれーた!!!俺っちが、でかくなってやがる!」
さらに大きな変化が起こった。ゼロの左手にガンダールヴのルーンが浮かび上がり、デルフの刀身にさらなる変化が起こる。
ついさっきまでボロボロの錆びついた剣だったデルフが、美しいまでに磨けあげられ刀身に光りを反射する名剣に姿を変えたのだ。
「思い出したぜ!これが俺の本当の姿だったんだ!すっかり忘れてたぜ!」
「なんたってわざわざ錆だらけになって…。まあいいや、一緒に戦ってくれよ、相棒!!」
いつもはサイトのほうを相棒と呼ぶのに、逆に今回はデルフのほうが相棒と呼ばれる。そしてさらには、これまでのデルフの長い人生の中で初体験に違いない、自身の巨大化。
デルフにも、ゼロ=サイトの遥かな昂揚感が伝わってくる。
「その高ぶり、いいぜ相棒!ガンダールヴの強さは心の震えで決まる!怒り、悲しみ、愛、喜び…なんでもいい!とにかく心を震わせて、俺を振れ!!」
ゼロは頷くと、巨大化させたデルフを頭上に振り上げる。ケルビムがまっすぐゼロの方へと突進してくる。サイトとゼロ、二人は心を一つに合わせ駆け出し、すれ違いざまにケルビムに剣を振りかざした。ガンダールヴの身体強化、そしてウルトラ戦士ならではの速さ。その二つが備わったためか目に見えないほどの速さを誇った。
互いに背を向け合ったまま立っていたゼロとケルビムだったが、ケルビムの体が上半身と下半身にズルッとずれた。瞬間、ケルビムの肉体は木端微塵に砕け散った。
「おおお!!」
「残るはあと一体だけだ!!」
トリステイン軍やタルブ村の住人達から、歓声が上がった。
すぐにデルフをしまったゼロと、ネクサスはレオのもとに駆けつける。他の怪獣と比べて体が頑丈だったためか、レオの攻撃を受け続けてもなお生きていた。
「次で決めなくてはならない。ゼロ!」
名前を呼ばれ、ゼロはレオの方を向く。
「俺とお前の力を合わせた技で、一気にこいつにとどめを刺す。」
「とどめを刺すって言っても、何をすればいいんだ?」
「ダブルフラッシャーだ!テクターギアが破壊された今ならできるはずだ。やれるな?」
ダブルフラッシャーと聞いて、ゼロは記憶を巡らせる。少しだけ記憶をたどると、すぐにレオの意図に気付く。
「ダブルフラッシャー…アストラと一緒に放つあの光線か!わかった!」
「なら俺も手伝おう。一人増えた方が、奴を仕留めやすい」
ネクサスも一人余るにしても、だからって見ているなどできない。自分もまた、ゼロとアストラと同じように光線を放って援護することにした。
「ああ!頼むぜ、シュウ!」
力を貸してくれたネクサスに、ゼロは深く感謝した。まだ出会って間もなく、会話の回数もいたって少ないのだが、サイトはこの男とともに戦っていけるような、そんな予感がよぎった。
シルバーブルーメが宙に浮かびあがろうとしている。最期に一矢報いようとでもしているのか。だが、その反撃も許すわけにはいかない。
レオが後ろに立ち、ゼロが前の方で身をかがめて両手を頭上で合わせる。ネクサスは両腕を広げたのち、胸の前で両腕を組むと、エナジーコアに光が宿る。
シルバーブルーメが近づいてきた。瞬間、三人のウルトラ戦士はそれぞれ、止めの必殺光線を放った。
〈レオゼロダブルフラッシャー!!〉
〈コア・インパルス!!〉
「「「デヤアアアアアア!!!」」」
ゼロとレオの、師弟コンビによる赤とエメラルドグリーンの光線、ネクサスの赤き波動が、シルバーブルーメを貫き、最後までここ場に残っていた敵、シルバーブルーメもウルトラ戦士たちについに敗れ去り、その身は粉々に砕け散っていった。
「やった…やったああああああああ!!!!」
うおおおおおおおおおおお!!!!
タルブ村の村人たちと、トリステイン軍の兵たちからの歓声が湧き上がった。
レコンキスタの侵攻から始まった、タルブ村の悪夢のような一日はこの時幕を下ろした。すでにこのときは、夕暮れが村の景色をオレンジ色に染め上げていた。
そんな中、アンリエッタは次群の兵たちの方を振り向くと、彼らに向けて盛大に宣言した
「皆、このトリステインは始祖のご加護によって偉大なる勝利を得た!始祖の祝福は我らにあり!!」
「「ヴィヴィラ・トリステイン!!」」
彼女の宣言に応え、兵たちから万歳の声が上がる。
「そして、此度我が国に救いの手を差し伸べてくれた英雄たちに、感謝の証として…全員、敬礼!!」
アンリエッタの号令のもと、トリステイン軍は一斉にゼロたちの方を向き、敬礼した。
国の兵たちや、アンリエッタからまでも敬礼を受け、性格上平然としていたネクサスと長年のキャリアで落ち着きを保つレオはともかく、不慣れなゼロは戸惑いを見せた。
(なんか、くすぐったいな…)
ポリポリとこめかみを掻きながら照れる。本当の意味でのウルトラマンとして認められた瞬間だった。さて、あまり長いことこの姿を保つとエネルギーが切れてしまう。三人のウルトラマンたちは並ぶと、夕暮れの空の彼方へと飛び去って行った。
「見事でしたぞ、姫殿下」
マザリーニが笑みを浮かべながらアンリエッタに言った。
「いえ、あなたの真似をしてみただけです。もっとも声の大きさだけ、ですけどね」
ほほ、と勇ましい戦乙女の顔から一転して、淑女らしく口元を手で隠しながら彼女は笑った。
「うぅ…ん」
ウルトラマンたちが去って行ったと同時に、ルイズは目を覚ました。目覚めてすぐ、自分の周りでキュルケたちが自分を取り囲んでいるのに気づく。
「気が付いたかね。ミス・ヴァリエール。どこか体の具合は?」
「ミスタ・コルベール…いえ、大丈夫です」
大きな虚脱感と疲労感を感じてはいたが、ルイズは起き上がった。ふと、すでに空の日が沈んでいること、怪獣もウルトラマンもいないことに気が付く。
「あれ?怪獣は!?」
「ルイズが眠っている間、すでに怪獣たちはウルトラマンたちに倒されたよ。しかし、彼らは本当に無敵だったな」
ギーシュが誇らしげに頷いている。
「でも、あの闇の空間を黒いウルトラマンが作り出している間はかなり劣勢だった。白い光があの空間を消し飛ばした時から、戦況がいい方向に傾いたけどね」
キュルケの今の発言で、ルイズは思い出した。水のルビーとアンリエッタから託された古書が互いに反応し合って光り、古書に浮きあがった文を読み上げた自分が、始祖ブルミルが行使したと伝えられるあの伝説の系統…『虚無』に目覚めた時のことを。
「あれも、ウルトラマンたちが使った技なのでしょうか」
「それはない。もしそうだとしたら、初めから使っているし、苦戦もしない」
シエスタは、あの白い光がウルトラマンたちのいずれかが使った必殺技ではないかと勘繰ったが、タバサがすぐさま切り捨てるように否定した。確かに彼女の言うとおり、もしゼロたちにあんな大技があったら、ここまで苦戦することなどなかったはずだ。
ある意味、お決まりの反応と言えるかもしれない。まさか、魔法成功率『ゼロ』と言われてきた自分が、ましてや虚無の担い手だなんて、きっと誰も信じないだろう。でも、思えばサイトは伝説の使い魔『ガンダールヴ』の力を、自分とのコントラスト・サーヴァントにて手に入れた。使い魔が伝説なら、主人である自分も伝説。単純ながらも納得できる。
だが、ルイズの心に不安が走る。自分は本当に虚無の担い手なのか?もし本当だとして、自分にこんな大きな力が使えきれるだろうか…。不安でいっぱいになり、ルイズはふと、今の自分が求めている人間の名前を言った。
「サイト…」
「サイト君か?そういえば、いったいどこに行ったのだ?」
コルベールも、サイトがいなくなっていることを思い出す。さっきから姿さえも見せてこない。シエスタもサイトの行方が分からず不安を抱く。
「『竜の羽衣』にも姿がありませんでした。一体どこに…?」
「あれだけ、あの子爵と激しく戦ったからな。傷を癒すためにどこかに行ったのかもしれん」
「探してみましょうよ。きっとどこかにいるはずよ」
ギーシュに続き、キュルケがそういうと、彼らはすぐにサイトを探しに向かった。
そのサイトはというと、変身を解いてタルブ村付近の森の中の丘にいた。隣にはゲンと、シュウの二人もいる。ちょうどこの位置からだと、村の全貌を見渡すことができた。
「これで、この村もしばらくは平和になるかな?」
村を一望しながら、サイトはシュウに尋ねる。
「さあな。あとは王室の連中がどうするか次第だろう」
戦後処理、投降者への対応と被害を受けたタルブ村への復興支援。王軍にはまだやることが山積みとなるだろうと、彼は予想した。
「しかし、あの白い光はなんだったんだろうな」
ふと、シュウはさっきダークフィールド内で戦っていた時、その闇の空間を打ち払った白い光のことを思い出した。少なくとも自分たちじゃないことはわかる。
『すごい力だったな。しかも、あれだけの威力と攻撃範囲だったのに、俺たちはダメージを受けなかった上、ファウストたちだけがダメージを食らっていた』
ゼロもあの時空を照らした白い光を思い出していた。見方さえも巻き込みかねないほどの広範囲にわたる攻撃範囲だったにもかかわらず、的確に敵のみにダメージを与えるなんて、ウルトラマンでもできる所業ではない。
「でも、不思議なんだよな。ルイズの声が聞こえて…懐かしいって気持ちが出てきた」
「奇遇だな。俺もだ」
ルイズの詠唱を聞いたとき、理由の見えない懐かしさを覚えたサイトに対し、シュウもそれを感じ同意した。すると、その理由をデルフがさやから顔を出して説明してきた。
「そりゃあ、お前さんが娘っ子の使い魔…伝説のガンダールヴだからな」
「ガンダールヴ?」
その単語に、シュウは反応を示した。ティファニアの歌の歌詞に、間違いなくガンダールヴという単語があったのを思い出した。
「で、俺っちは初代ガンダールヴの使っていた伝説の剣だったわけよ。
いやあ、退屈すぎる毎日に飽きててよ、どうせつまんない人生になるだろうから錆まみれの剣に化けてたんだ。んで…まあ、自分でもそのことに忘れてちまってたわ」
「早く言えっての…ってか忘れんなよ、自分のこと」
どおりで今まで、暇なときに錆を取ろうとしても錆が取れなかったわけだ。実際はボロボロではなく、あのような輝かしい名剣の姿が、デルフの真の姿だったとは。
「伝説の使い魔とはなんだ?」
シュウがデルフに尋ねる。
「お前さん、自分がどんな使い魔なのか知らねえのか?」
「知る機会がなかったからな」
「…まあ、情けない話俺もよく覚えちゃいねえんだが、お前さんも同じだよ。ブリミルには、使い魔が四人いてな。そのうちの一人がガンダールヴ。名前は…忘れちまったが、お前さんも確かその一人だったよ。胸に相棒と似た模様のルーンがあるだろ?」
「ああ、ルーンはこれな」
サイトは見本代わりに、左手のルーンをシュウに見せる。
「…確かに、俺の胸に刻まれたものと似ている」
伝説の使い魔、虚無の担い手…。だとすると、ティファニアは…。
「ゼロ」
と、ゲンがサイトの方を向いて、彼と共にある自分の弟子に語り始める。
「俺は一度、この星を離れるつもりだ。この星が少なくとも、外部より侵略者の干渉を受けていることだけは見えてきたからな。光の国にこの星の存在と状況を報告し、敵の攻撃に対処できるようにしなければならない」
『けど、ここから光の国って、どれだけ離れているかわからないだろ?』
「その場合はウルトラサインを送って位置を知らせている。いつまでかかるかはわからないがな」
この世界の存在をウルトラの兄弟たちに知らせるため、一度この世界から宇宙へ出るには理由があった。ウルトラサインとは、光の国のウルトラマンたちが持つ一種の連絡手段のことで、光の国独自の文字が光を使って描かれているようになっている。
ゲンがわざわざ宇宙へいったん出るのは、サインを出した際に、発信源を特定されることを懸念してのことだ。すでにこの世界の存在に気付いている侵略者もいるかもしれないが、もし、自分がウルトラサインをこの世界にとどまったまま放てば、さらに多くの侵略者がこの世界を狙って出現する可能性があったためだ。
「そっか…」
短い間だが、サイトはゲンから世話になったこともあって少し寂しさを覚えた。そんな彼に、ゲンは今度はサイト自身に向かって、ゼロの師としての言葉を贈った。
「サイトよ。これまで見てきたとおり、俺の弟子は父譲りの素質はあれど、まだまだ未熟だ。共に戦う者として、こやつを見てやってほしい」
「…はい!」
「では、また会おう」
ゲンは、再び傘帽子をかぶると、二人の前から歩き去って行った。背中からも感じられる男気と戦いの年季を感じさせるゲンに、サイトは男として憧れを覚えた。
(俺たちも、あんなふうになりたいもんだな)
(そうだな。俺もいつまでも今まで通りってわけにもいかねえ。せっかく元の姿に戻れたしな)
元の姿、と聞いて、サイトは自分の左手首を見る。ずっとしつこく手首に縛り付けられていたリング状のテクターギアが、あの白い光による爆発で破壊されたことで、ゼロは本来の姿に戻ることができた。おかげでさっきの戦いでも、ようやく光線技を使うことができるようになった。窮屈な場所から抜け出すとすごい解放感を覚えるものだが、二人はまさにそれを感じていた。
「レオ、また俺の知らないウルトラマン、か…」
シュウは、また一人自分の世界にはいなかったウルトラマンを見て、興味を示した様子だ。と、シュウからその言葉を聞いてサイトはあることに気が付く。
「そういや、俺たち何度かあってるのに、互いのこと知らないよな」
「そうだったな」
今までサイトとシュウが会えたのは、戦いの場ばかりだった。目的はほとんど同じはずなのに、おちおちゆっくり話す機会がなかった。
「あんたの世界のこと、俺に教えてくれ。俺のことも話せるだけ話すから。同じウルトラマンだから、お互いのことを知っておくべきだと思うんだ」
「…そうだな。これから俺が出会うことになる敵も、ビーストだけとは限らないのはもうわかっている。互いのためにも、お前から情報を聞くべきだろう」
そういったところで、シュウは左手に巻いていた通信端末パルスブレイカーに視線を落とす。
「ただ、できれば通信連絡網がほしいところだ。あまり村から離れると…な」
「う~ん…」
通信なんて、この世界に来てから地球人から見て機械というにふさわしいものがほとんど見たことがなかったサイトとしてはほしいものだった。
「これ、ビデオシーバーっていうんだけど…これとあんたのそれとは繋がらないだろうな」
一応シエスタがフルハシの形見である物品の中に、端末の一つがあったのだが、これがシュウのパルスブレイカーと繋がるとは思えない。住んでいる世界が異なるのだから仕方ない。しかし、シュウはさっきの戦いのことを思い出して、ある可能性を見出した。
「確か、俺たちが戦った敵にロボットがいたな。あれと必要な器具さえあれば、あのロボットに専用の通信回線機能を搭載すれば、俺のパルスブレイカーとその、ビデオシーバーとやらを繋ぐことができるかもしれない」
「できるの!?」
「昔、機械工学を志していたから、そこらの素人よりはできると自負している」
サイトは驚いた。意外だった。シュウが機械に詳しいタイプだったとは。しかしこれは幸運だ。パルスブレイカーとビデオシーバーの回線を繋ぎ、通信ができるようになれるかもしれない。
「ただ、あのロボットはおそらくトリステイン軍に回収されるだろうな。どうにか手に入れておきたいところだが」
確かに、レキシントン号と同様、ジャンバードも間違いなくトリステイン軍の監視下に置かれることになるに違いない。そうなれば、あれに触ることさえも国の厳重な監視下に置かれる以上ままならないはずだ。手に入れるって…まるで泥棒じゃないか。いくら、こいつの知り合いに本職の盗賊がいるからとはいえ、万が一のことになったりしたらまずい。
「俺、ルイズたちと合流したらお姫様に掛け合ってみるよ」
「知り合いなのか?」
一応ちらと見た程度だが、ネクサスとして戦っている最中シュウはアンリエッタの顔を見せてもらった。見た目は自分たちと年齢がほとんど変わらない少女ではあるが、王女であることに変わりない。立場的に会えるかどうか、普通に怪しいものだ。
「何よりはましだろ?それに、あの白い光はルイズが放ったってことはわかる。ルイズのことだから、きっと俺を連れて王宮に赴くって思う」
「そうか。頼む」
これなら、二人の専用の通信回線が手に入り、今後の対策が練りやすくなるはずだ。
「あ、でも…村のあの子たちのことは?」
しかし、サイトはシュウにも、家庭の事情…いや、ここは異世界だから家庭の事情というには少し変化…ともあれ、村を簡単に開けられない事情があるのを思い出した。シュウが暮らしているウエストウッド村には、子供たちがいる。そしてその子たちを保護し養っている、シュウの契約上の主であるティファニアがいる。しかもここからアルビオンまで長距離だ。アルビオンへ姫から承った任務に赴いたことのあるサイトにはその旅路のキツさはよくわかる。
「俺には、トリステインとアルビオンの距離を高速で移動できる手段があったのを忘れたか?覚えているはずだ、俺がお前と会った湖で使ったあれを」
「あれか!」
サイトはラグドリアン湖で、シュウが銃を空に撃った途端、ストーンフリューゲルが彼のもとに飛来し、戦闘機なんて目じゃないほどの速さで飛び去ったのを思い出す。確かに、あれならトリステインとアルビオンを高速で往来できる。
「時間が空いたとき、すぐにあのロボットのもとに自由に出入りできるよう、王女に掛け合ってくれ」
「わかった」
これで、なんとか憂いを晴らすことができた。
「じゃあ俺はそろそろ一度村に戻る。またな、平賀」
「お、おう」
シュウはサイトに背中を向けると、ブラストショットを空に撃ち、ストーンフリューゲルを召喚する。
名前を呼ばれて、サイトは一瞬度惑いを見せながらも、ストーンフリューゲルに入り、再びアルビオンの方角へと飛び去ったシュウを見送って行った。
思えば、シュウから名前を呼ばれたのは初めてかもしれない。それに名字で呼ばれたのも地球以来だ。
地球、か…。そういえば、母とクラスメート…特に、一緒にクール星人に誘拐され、そのまま別れてしまったあの子は無事だろうか、元気だろうか?
レオがもし光の国にサインを送ることに成功したら、きっと自分が地球へ帰るための道のりも分かるかもしれない。期待して待っていよう。
(さて、そろそろ戻るか)
あまり時間をかけると、ルイズから『勝手にどこへ行ったのよ!』と癇癪を起こされてしまう。タルブ村の人間でもあるシエスタや、キュルケたちも心配だ。すぐに合流するために、サイトは駆け出した。
が、彼は急に立ち止まった。
『おい、どうしたんだ?』
ゼロが声をかけるが、サイトの耳に届かない。驚くべき、訳のわからない光景を目の当たりにしたのか、彼は目を大きく見開いたまま、立ち止まっていた。
「ん?人が、倒れてやがんのか?」
デルフが顔を出し、サイトが見ている方角を見る。ルイズでもキュルケでもタバサでも、シエスタでもない。女の子がなぜか森の中の川沿いで倒れている。
サイトは一目散に走りだし、その少女のもとへ走った。少女は意識を手放している間に川水に充てられていたためか、顔と服がぬれてしまっていた。濡れることも構わず、彼女を自分の腕の中へと運び、顔を確認すると、サイトはやはりと驚愕する。夜風の中で美しく靡くであろう黒くて長い、綺麗な髪。その髪の持ち主を彼はよく知っていた。
「た………高凪さん………!!?」
何とその少女は、地球からこの世界へ来る直前、共にクール星人に襲われた、サイトのクラスメートの女子高生、高凪春奈だったのだ。
レコンキスタと怪獣軍団との戦いは、俺たちの勝利で幕を下ろされた。
勝利の余韻に浸っていた矢先に、信じられなかった。
どうして高凪さんが地球ではない、こんな場所にいるのか…俺はその時、目の前で起こっていることが、まるで理解できなかった。
BYサイト
to be continued for next season
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