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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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虚無-ゼロ-part1/目覚めの時

「此度の援軍の遅れ、誠に申し訳ありません。今回の失態は、私が責任もってこの村の再建に助力する形で返します」
「ひ、姫殿下自ら謝罪なさるなど恐れ多い!助けに来てくださっただけでも我々タルブの者はたいへん光栄ですぞ!」
軍を率いてタルブの救援に現れたアンリエッタは、ただちにレキシントン号を配下の者たちに包囲し、レコンキスタ軍の兵たちを一人残らず捕縛させた。その後、出陣の遅れとそれによって村に犠牲者を出したことを詫びたが、不測の謝罪を受けたタルブ村の村長は王女自らの謝罪に恐縮した。
すると、アンリエッタの元に、トリステイン兵士に連行される形でボーウッドが連れ出された。
「アンリエッタ王女殿下…ですな?」
「あなたは…?」
「ヘンリー・ボーウッド。僭越ながらこのレコンキスタ軍最上艦、レキシントン号の現監督を勤めております」
「要件を伺いましょう」
何か用があって自分の元に赴いてきた。一矢報いる、と言うわけではないようだ。すでに会派たちに杖や剣などの武具をレコンキスタ側から没収するように通達している。ボーウッドもまた例外ではない。レキシントン号も、武器も奪われ、今の侵攻軍にトリステイン軍と戦う力はもうなかった。
「我々タルブ侵攻軍は、全面降伏いたします。我が命にすべての責任を押し付けても構いませぬ。ですが、兵たちの命だけは、どうかお助け願いたい」
アンリエッタは、一瞬揺さぶられた。この者たちは、彼女にとって思い人の仇でもある。でも、何もボーウッドのような潔さを兼ね備えたほどの男が手に掛けたとは思い難いし、憎しみに駆られて捕えた兵たちを惨殺させても、かえって民たちに恐怖を与えかねないし、トリステインへの不信感と無慈悲さを他国にアピールすることになる。
「…いいでしょう。ですが、私はまだあなたの命を奪うかどうかでは判断するつもりはありません。ただ、あなた方の知るレコンキスタの情報をいただきます」
「わかりました」
情報提供を条件に、タルブ侵攻軍はこうしてトリステイン側に降伏、事実上タルブ村でのレコンキスタ軍とトリステイン軍の戦いは終わった。



だが、まだウルトラ戦士と、レコンキスタを陰で操る、ハルケギニアを混沌に陥れようとした者の戦いはまだ終わっていない。いや、今から始まったと言うべきかもしれない。
「いずれ、あの巨人どもは我が主の障害となるでしょうね…ならば」
シェフィールドはジャンバードの上から、三人のウルトラマンを見下ろしながらそう呟くと、額のルーンを輝かせて空に飛び降りた。
すると、驚くべき変化がジャンバードに起る。まるでロボットアニメに登場するロボのように、変形を繰り返していく。やがて、ジャンバードは一体の鋼鉄の武人の姿となって、ウルトラ戦士たちの前に降り立った。武人の姿となったジャンバードの目が、赤く怪しい光を放った。
「ジャンバード、…いえ『ジャンボット』!お前の真の力を見せなさい。あの巨人どもを一人残らず殲滅するのよ!…ん?」
ジャンバードに命令を下した途端、シェフィールドは何かの気配を感じ取ったのか辺りをちらちら見渡す。
「どうやら、彼女の『人形』も来てくれたようね。さて…私はそろそろアルビオンに戻るか」
そう言い残すと、彼女はシルバーブルーメを召還した機械端末を取り出すと、そこからさらにもう一体の怪獣を出現させた。怪獣はかつてウルトラマンジャックを苦しめた『宇宙大怪獣ベムスター』。その背に乗ると、彼女はアルビオンへと飛び去って行った。




サドラ、ノスフェル、ケルビム、シルバーブルーメ、そしてさらにシェフィールドがジャンバードを変形させて現れた『鋼鉄の武人ジャンボット』。頭数だけでも多い上に、これまでのウルトラ戦士たちを苦しめてきた怪獣たちも集まり、三人のウルトラ戦士たちは気を引き締める。
「さっき変身しようとしたときはどうなるかと思ったけど…助かったぜ、シュウ!」
「礼はいい。それよりも、この目障りな奴らを片付けるぞ」
さっき割るどの攻撃からかばってもらった時のことに礼を言ったゼロ(サイト)に対し、ネクサスは淡々と返した。
「それと二人とも、俺の傍に。連中を巻き込むわけにはいかない」
ネクサスは、その前にやっておくことがあると、ゼロとレオに言った。
「もしかして、前に使ったあの結界みたいなもんを?」
ゼロはその結界を体感したことがある。
亞空間メタフィールド。ウルトラマンネクサスが作り出す特殊空間。あの中に怪獣を誘い込み敵を殲滅できれば、これ以上の被害を出さなくて済むはずだ。
ネクサスはゼロに対して頷くと、今度はレオの方を向く。すると、レオもネクサスに頷いてくれた。やってみてくれ、と言っているらしい。頷き返したネクサスは直ちにジュネッスブラッドにスタイルチェンジ、空に向けて異相空間メタフィールドを形成するための光線、〈フェーズシフトウェーブ〉を上空に放出した。
突然光のドームが出来上がり、ウルトラマンたちも怪獣も包み込んだ現象に誰もが目を奪われる。ゼロとレオは、この結界の存在をありがたく思った。これなら皆に自分たちの戦いの余波が来ることはない。
しかし、ここで思わぬ横槍が入ることとなった。
「また新たなウルトラマンが現れるとは…本当に楽しませてくれる」
「「「!!」」」
死人のようにも、あざ笑うような少女の声が二重に混じった声が三人の耳に突き刺さる。
ネクサスの思った通りの相手だった。
赤き死の魔人…ダークファウストだ。
「ファウスト…!!」
以前にファウストに襲われたゼロと、ネクサスがファウストを睨む。
「思った通りだったな。いずれ、貴様もまたここに現れると思っていた。では…今度は私の闇の中にご招待してやろう…フヌアアア!!!」
ファウストは両腕を広げると、奴の体から黒いオーラが放出され始めた。同時に、その黒き波動は地面のほうからじわじわと、メタフィールドを構成する金色の光を飲み込み始めた。
「な…なんだこれ!!?」
周囲の金色の光が、不気味な闇の色に染まっていくのを見て、ゼロが予想もしなかった事態に困惑している。
「これは、まさか、闇!?」
レオも、長年戦い続けてきた身ではあるが、このような体験は初めてだった。やがて、ファウストが放出した『闇』は、メタフィールドを完全に塗り替えてしまった。
メタフィールドとは相反する闇の空間へと…。




「んん…」
ホーク3号の中で、ルイズは意識を取り戻した。頭が痛い。頭を強くぶつけたせいで気絶してしまったようだ。ホークのコクピット内を見渡してみるが、サイトの姿は見当たらなかった。あの犬、一体どこへ行ったのよ!不服に思うルイズだったが、外が騒がしくなっていることに気が付き、窓から外を見てみる。
そこには、三体のウルトラマンが、ジャンバードと四体もの怪獣たちが対峙し合っている姿があった。
「……わあ」
三体のウルトラマンが、後ろにいる仲間たちや村人たち、そしてアンリエッタたちを守るように立っている姿に、思わず彼女は惹かれていた。ん…アンリエッタ?
よく見ると、本当に彼女がいるではないか。
「姫様まで…!」
こうしてはいられない。一度ルイズはホーク3号から降りて仲間たちとアンリエッタの元へと急行しようとする。
出口から外に出ると、すぐにキュルケたちと合流した。ネクサスがホーク3号を下ろしてきた直後に駆け付けてきてくれたようだ。
「おお、無事だったかルイズ!」
ギーシュたちが無事を喜んでくれた反面、コルベールはすぐに喜ぶことはなかった。無断でホーク3号に乗り、現に危険な目にあったことをとがめた。
「ミス・ヴァリエール!君は自分が何をしたのかわかっているのかね!?」
「ミスタ・コルベール…言いたいことはわかります!でも、サイトは私の使い魔です!使い魔と主は一心同体!使い魔だけに全てをゆだね、自分だけ安全な場所から見ているだなんて…メイジ失格じゃないですか!」
「だからといって、一緒に飛んだところで君に何ができたと言うのかね!?」
そう言われると、ルイズは何も言い返せなくなった。実際、サイトが心配だからホーク3号に乗ったまま空を飛んだ時、不慣れなコクピットの環境、フライト中の何度も空中を回転しながら飛び回るあの感覚が、敵からの予測不可且つ未知なる攻撃におびえて何もできなかった。それ以前に、ただでさえ魔法がまともに使えないのだ。
「自分の軽挙妄動さを反省しなさい!君の軽はずみな行動が、かえってサイト君の足かせになるかもしれなかったのだぞ!サイト君が心配になる気持ちはわかる。だが、君は貴族としてのプライドよりも、もっと自分の命を大事にしてくれ。サイト君のためにも」
「…申し訳ありません」
サイトの前では、ご主人様の言うことを聞け!と偉そうに言えたのに、教師であるコルベールの前だと言い返せない。その通りだ、実際自分は後先考えずにホーク3号に残っていたのだから、このように説教されても仕方ない。
「ところで…サイトは一体どこに行ったの?」
「そうですわ!サイトさんは!?」
キュルケとシエスタはサイトの姿がないことに真っ先に気が付く。まだホーク3号に乗ったままだろうかと思い、そちらへ向かおうとした。が、この時ネクサスがメタフィールドを展開し、自分たちと怪獣たちを包み込んでいた。思わず足を止め、ルイズたちはその光景を凝視してしまう。しかし、直後にメタフィールドに異変が生じる。ファウストの闇の波動のせいで、メタフィールドが塗り替えられ始めたのだ。
ファウストの黒い波動がメタフィールドに与えた干渉の影響がさらに拡大、闇の波動は彼女たちを、アンリエッタたちトリステイン軍やタルブ村の住人、そして降伏したレコンキスタ軍をも飲み込んでいった。
ルイズたちが目を開くと、決して真っ暗ではなかったものの、光と言うものを一切感じさせない、不気味な闇の空間が広がっていた。その空間の空気に充満している冷たい恐怖の波動は、その場に立っているものすべてを戦慄させた。




空全体が暗く、黒ずんだ紫色にも見える。上空に太陽のような形をした円が見え、そこから光が差し込んでいるが、この世界全体を全く照らしてくれなかった。耳を澄ませると、気味悪い静寂さが寒気を感じさせる。
「これは…!!」
ラグドリアン湖の時とはまるで違うこの暗闇に動揺していたのはゼロも同様だった。。レオも驚いてはいたが、長年のキャリアか反応はゼロよりも薄い。
「これが、TLTにいたとき聞いた、闇の…」
「…ふふふふふふふ……」
ネクサスがそういうと、闇の奥からファウストがこちらにゆっくりと歩いてきた。
「そう、ここは無限の闇…『ダークフィールド』。光の存在であるお前たちに、勝ち目はない」
さらにジャンボット・サドラ・ケルビム・ノスフェルがファウストの後に続く形で再出現する。
すると、三人のウルトラマンたちの頭上からシルバーブルーメが急降下してきた。三人は一斉に違う方向へと散る。
「奇襲とはやってくれる…」
ネクサスがひとりごちる。ゼロはジャンボットとケルビム、ネクサスはファウストとノスフェル、レオはシルバーブルーメとサドラと、それぞれ二体の敵と対峙することとなった。




「な、なんなんだここは!?村は!?タルブはどこへ行ったんだ!?」
「もういやだ!早く家に帰りたいよおお!!」
村人たちは、辺りがのどかで住み慣れた村から突如、薄気味悪い闇の空間に変わったことで口々に恐怖を露わにし、それが更なる恐怖となって伝染していく。このまま恐怖が伝染すること、それはファウストたちにとって好都合だった。その恐怖と絶望の感情が、自分たちにとっての力の源でもあったのだから。やがて恐怖は、トリステイン軍にも伝染してしまう。
「光が差し込んでこない…ここはいったいどこなんだ!!」
「ウルトラマンまで敵だなんて…何でもアリかよ、レコンキスタは!!勝てるわけねえよ!」
しかも、三人のウルトラ戦士と同様、闇属性とはいえウルトラマンまでも敵として自分たちの前に立ちふさがっている。ウルトラマンはすでにこの世界の人間にとって無敵の存在として認知されている。そのウルトラマンが、三人のウルトラマンたちよりも戦力的に数の多いうえにどれも彼も厄介な怪獣を従えている。
まずい、このままでは我が軍が瓦解してしまう。
「静まりなさい!我々はトリステインを守るために国中から集められ、選ばれた戦士の精鋭!そんな我々が恐怖におびえるなど許されません!」
アンリエッタは必死に恐怖に飲まれないように呼びかけたのだが、軍からも民たちからも恐怖が消え去らなかった。彼女もまた恐怖に駆られていた。
「しかし、あの黒いウルトラマンは怪獣さえも従えていますぞ!我々はただでさえ編成過程の部隊を寄せ集めてきただけ…戦力的にまず勝てる見込みがございません!」
一人の貴族がアンリエッタにそういうが、マザリーニが彼女に耳打ちしてきた。
「まずは殿下が落ち着いてくだされ。将が取り乱しては、軍は瞬く間に敗走してしまいますぞ」
「…枢機卿、彼らに勝ち目はあるでしょうか」
今の言葉で少しだけ落ち着きを取り戻したアンリエッタが、マザリーニに問う。3対6。頭数だと厳しい状況だ。いかにウルトラマンといえど限界というものが存在する。
「彼らに、何かしらの切り札があれば、この状況さえも打開できるでしょうが…」
アンリエッタは聞いても仕方のないことを尋ねてしまったと思った。ウルトラマンはまだ未知なる存在というイメージが強く、実際この世界でも、まして地球でも彼らのすべてを知ることができた人間など長年の間誰一人としていない。なのに不利な状況に立たされても勝てるだろうか?なんて問うてもどうしようもない。
だが、それでも彼らは戦うのだろう。彼らの肩には、この世界のすべての未来がかかっているのだから。だが、この世界の命運がかかっているのは何もウルトラマンたちだけではない。この世界に生きる、人間たちにもかかっているのだ。
このまま黙って見ているなど、自分で「ウルトラマンにすべてをゆだねるなど恥だ」と言った自分を否定することとなる。
「各員に命じます!」
土と風のメイジを最前列に置き、空気と土の壁を形成して、タルブ村の住人達を防衛。こちらに攻撃の余波が届かないようにしつつ、グリフォン隊の火・防衛にあたっていない風のメイジを、ウルトラマンたちの援護に回す…といった具合の方針をとった。
だが、いまだ恐怖に駆られ難色を示すものもいた。その一人がアンリエッタにいう。
「しかし、我々の戦力では…」
だが、逆にアンリエッタはその男…いや、全員に対してはっきりと言い切って見せた。
「たとえ私たちの敵にウルトラマンがいようと、我々の国で暴力を振い、平和を乱す者とは戦わなくてはなりません!」



「デュ!デア!!」
ゼロはケルビムと真っ先に交戦した。
膝蹴りでケルビムの腹を突き、こぶしを連続で叩き込んで怯ませると、ジャンボットからのミサイル攻撃が降りかかる、ゼロは飛び立ち後ろ向きに回転しながらジャンボットの背後に飛び降り、ジャンボットの頭を踏みつけるように蹴って火花を起こす。
頭上から襲いかかってきた尾を、彼はガシッと掴んで振り回そうとしたが、ケルビムは自らの体をコマのように高速回転、遠心力を利用してゼロをぶん回し始め、振り落とされて大ダメージを受けてしまう。
「ケエエエ!!」「グァ…!」
さらに、ジャンボットが赤い瞳をギラリと光らせながら、ロボットアニメのロボットのように、左手のロケットパンチを飛ばし、倒れたゼロを真上から攻撃して地面に押さえつけた。
『…ジャン…ナックル…』「クハ!!」
みぞおちのところを食らったが、ゼロのパワーを抑制するテクターギアが皮肉にも防御力を上げてくれていたために、大きなダメージとはいかなかった。だが、ゼロは周囲がダークフィールドとなってから違和感を覚えた。
(ただでさえテクターギアのせいで、本気のパワーが出せないってのに…この闇の空間に入ってから力が余計に入らねえ…!!)
そう思っている途端、ケルビムのかぎ爪がゼロを襲う。それを両腕でガードし、ケルビムを蹴飛ばして立ち上がったゼロ。が、立ち上がった途端に、ジャンボットから、ジャンバードの形態の時でも使ってきたエメラルド色の光線が直撃し、ゼロは大きく仰け反った。
『ビーム…エメラルド』
「ウグアアア!!!」
いかにテクターギアが自分のパワーだけでなく、ダメージを抑えるといっても、いつまでも耐えきれるとは言えない。何せウルトラマンは人間の住む世界では大気の状況・太陽光線の照射状況などで、戦闘中にその姿を維持するためのエネルギーが影響し戦える時間が限られている。太陽光線が常にその身に浴びせられる宇宙ならまだしも、大気でそれが遮断されている・太陽光線が届かない闇の中などの環境下ではエネルギーが乏しくなりがちだ。
『抹殺…命令、ウルトラマンゼロ…の…抹殺』
「んの…機械野郎が…!!」
感情を抜き取ったように、機械らしく機械音を鳴らしながらジャンボットはゼロのほうへと歩き出す。その両手で、背中に装備されていた戦斧〈バトルアックス〉を構えながら、ジャンボットは大回転しながら斧を振り上げ、ゼロにバトルアックスをたたきつけた。
『必殺…風車…』
斧の刃がテクターギアの胸部に直撃した途端、ゼロの体から火花が散った。
『「ウアアアアアアアアアア!!!」』


レオのほうも手を焼いていた。ダークフィールド内ということでパワーが落ちてしまって、思っているほど自分の力を発揮しきれていない。
「ハ!ヌウン!!」
それでも、レオはサドラに向けて、得意の宇宙憲法で鍛え上げたコンボを与えて怯ませる。蹴りとパンチの連撃を与えられ、サドラは昏倒する。腕を伸縮自在に伸ばし、レオをとらえようとしたが、レオはその腕をつかみ、逆に引っ張ってみぞおちに強烈なひざけりを食らわせ吹っ飛ばす。サドラ一匹程度の相手なら、レオはこれまで何度も相手をしてきた。今更この程度の怪獣に負けるような未熟者ではない。
しかし、サドラにはある特殊な能力があった。サドラの体中から汗のように、奇妙な分泌液が流れ落ち始めた。それは煙のように白い霧を吹き始めサドラの体を包み込んでいく。サドラの体だけではなく、さらにレオの周囲さえも白い濃霧に包み込ませた。だが、この戦法も今更だったかもしれない。
レオは以前、分身能力を持つ『分身宇宙人フリップ星人』との戦いで、分身を無視し本体の星人のみを見極めるために、目を閉じたままソフトボールを避けたりキャッチするという荒い修行をしたことがあった。その結果、本物のフリップ星人を見極め見事に撃破したのである。
サドラのように、周囲の視界を閉ざす手段などで負けはしない。サドラの位置はすぐに掴んだ。自分からちょうど六時の方角…つまり真後ろだ。振り向きざまに、レオは足にエネルギーを充填し、サドラに一気にとどめを刺そうとした時だった。
「ヌオオ!!?」
シルバーブルーメがレオの体中に触手を絡ませてきた。円盤生物シルバーブルーメは、レーダーにもその存在を探知されることはないうえ伸縮自在。かつてMACがシルバーブルーメの強襲を許し、全滅した所以だった。たとえ目に見えない、気配だけでつかむことができたとしても、気配さえも察知させないシルバーブルーメに濃霧は、完全に自分の存在さえも消すことができる二重のコンボ。
(自分ではなく、シルバーブルーメを隠すために…この濃霧を…!)
シルバーブルーメの触手だけでなく、先ほどの意趣返しのつもりかサドラも両腕を伸ばして、自慢のハサミでレオの首や肩をつかんで彼の自由を奪い去った。真っ黄色に染まる体液で汚されながらも、レオは自分を食らおうと口を開いてきたシルバーブルーメを引きはがそうと必死になった。


しかし、ネクサスは一人だけ違和感を覚えた。このダークフィールドに入ってから、自分の体に変な違和感が…いや、違う。ゼロとレオと違い、逆に違和感がないことが逆に奇妙だった。
考えていると、ノスフェルがネクサスに向けてかぎ爪を振り下ろしてきた。食らうまいと、ノスフェルが振り上げてきたその腕をつかみ、腹に蹴りを叩き込んで押し出す。さらに光刃〈パーティクルフェザー〉を連射、火花の中へノスフェルを包み込ませた。が、ファウストが背後から首を締め上げてきた。一瞬息が詰まりかけたが、その腕をつかみ返し、ネクサスはファウストを背負い投げる。
「ディアア!!」「ヌゥウウ!!?」
投げ飛ばされたものの、とっさに着地に成功したファウストは特にダメージを受けることはなかった。掴み掛ろうとしたが、ファウストもネクサスの両肩に掴み掛り、二体は再び距離を置く。飛び蹴りでファウストに攻撃を加えると、ファウストはそれを両腕で防ぎ、一撃…三撃とネクサスにジャブを放つ。三度すべてを受け流し、ファウストの顔面を狙ってハイキックを仕掛けるも、ファウストは後転して回避。光線で形成逆転を狙い、十字に両腕を組もうとしたが、隙をついてノスフェルが再びネクサスに奇襲、かぎ爪の一撃がネクサスの背中に火花を散らす。
「グワ!!?」
怯んで膝をついたところで、ファウストはネクサスを無理やり立ち上がらせ、腹にこぶしを叩き込む。それを数度行い、最後の一撃の際は光弾〈ダークフェザー〉もおまけに付け、パンチと光弾の爆風によってネクサスは吹っ飛ばされた。
「デエエアアアア!!!」「ヌアアアア!!グウ!!!」
地面に激突し、ふら付きながらも立ち上がろうとするネクサス。不利に立たされている彼に、容赦することなくファウストは突進してきた。何とか一撃目のジャブを、姿勢を低くすることで回避したものの、それを見越して放ってきた膝蹴りを顔に受け、顔を抑えるネクサス。さらにもう一撃、ノスフェルのかぎ爪攻撃が襲う。ファウストとも距離が置かれたところで、ファウストは空に向けて一発の光球を発射する。光球は空高くまで舞い上がったところで分裂。空からネクサスを…いや、ネクサスだけではなかった。ジャンボットとケルビム相手に苦戦するゼロと、シルバーブルーメとサドラの呪縛から抜け出そうとしているレオさえも、その光弾の雨〈ダーククラスター〉の餌食になった。
「ウアアアア!!」「グアアアア!!」「ヌワアアア!!」
ピコン、ピコン、ピコン、ピコン…!!
ネクサスのコアゲージと、レオのカラータイマーがついに点滅を開始した。
ウルトラ戦士たちは、それぞれ窮地に立たされた。
「ウルトラマンを援護しろ!!」
アンリエッタの命令を受け、トリステイン軍のグリフォン隊がそれぞれさん部隊に分かれ、三人のウルトラ戦士たちの援護に回る。
「行け、エア・ハンマー!!」「ファイヤーボール!」
グリフォンに乗ったトリステイン騎士たちの数々の魔法が、ケルビムやサドラ、シルバーブルーメの体に直撃するが、怪獣たちは傷こそ負っても、それはちょいとかすり傷がまだ入った程度で、魔法を単純に撃っただけでは意味がない。援護もままならない現状に、アンリエッタは歯噛みした。




ルイズたちも戦いを見届ける中、タバサはダークフィールドの景色を、そして交戦するウルトラマンたちと怪獣の戦いを観察していた。
「…あの黒いウルトラマンがこの空間を作り上げたことには理由があるはず」
「わかるの?タバサ」
キュルケが尋ねると、タバサは頷く。彼女の予測について、コルベールも納得する。
「なるほど、自分の熟知した縄張りの中ならば、狩る側の野生動物は獲物を襲い、食らうことが容易になる…」
「では、この空間の中では、彼らは不利ということなのか!?」
ギーシュが危機感を覚えて悲鳴を上げる。頭数が敵のほうが多いうえに、地の利を得ているファウストたち敵側に比べ、ゼロたちは圧倒的に不利な状況に立たされていたということに、絶望感さえ覚える。
「なんとか援護しないといけないのでは!?」
ギーシュが援護を提案するが、生徒を危険にさらすことだけは避けたいコルベールから反対される。
「だめだ!危険すぎる!」
「だったらミスタ・コルベールはここで指をくわえてみていればいいわ。タバサ、行きましょ」
キュルケはいまだに、弱腰にしか見えないコルベールを、さめきった眼で睨んで黙らせた。こんな弱気な男がよく教師をやっていけるものだ、と軽蔑した。聞いていると優しい人間のようにも聞こえるが、この状況に置かれてなお生徒の身の安全にかこつけて命を惜しんでいるようにも見えて、キュルケの情熱の心を冷ましてしまう。
「言い争ってる場合じゃない。でも、逃げ場なんてないから…私も行く」
タバサもまた戦う意思を抱き、指笛を吹く。呼びかけに答えてシルフィードが彼女らのもとに飛来、キュルケ・タバサ・ギーシュを乗せて空を飛んで行ってしまった。たとえ何の結果を出せなくても何もしないよりはましだと信じているのだから。
「…」
コルベールの心に、キュルケの辛辣な言葉が突き刺さった。指をくわえてみていればいい。きっと彼女は自分のことを弱い男と蔑んだことだろう。でも…。どうしても自分には許せないことなのだ。まだ若い人間が、危険に身をさらすことが。
「ミスタ…」
ルイズとシエスタは、俯くコルベールを憂い顔で見つめるばかり。
しかし、トリステイン軍の援護もままならない。軍には彼女たちよりもずっとすぐれたメイジたちが集まっているのだ。たとえおまけつきでキュルケたちが援護しても同じだろう。
このままでは、あのウルトラ戦士たちも敗れ去ってしまう。
また、こうして自分は何もできないままなのか?幼い頃から魔法が使えない、学院に入学してからも変わらず、『ゼロ』と馬鹿にされ続けて、それは今も変わらず。それと引き換え、自分が召喚した使い魔の、間抜けさが目立ちながらもなんと有能なことか。平民なのにギーシュを圧倒し、異世界の武器を軽々とつかって怪獣さえも相手にし、幾度も自分たちに危機を救った、異世界の少年。彼と比べても何もできない自分が嫌だった。ただこの闇の空間と、ファウストをはじめとした人類の敵に恐怖を覚えることしかできない自分が嫌だった。

嫌だ、このまま…本当に何もない『ゼロ』のまま終わりたくはない!


私だって…サイトがそうしたように、みんなのために戦いたいんだから!



―――――その時だった。



彼女の持っている水のルビーと、手に持っていた古書が青く光り始めた。まるで、彼女の思いに何かが応えたように。
ルイズは古書を開く。そこには、真っ白だったはずの古書の中に、古代のルーン文字の文章が光り輝く文字で書かれていたのだ。古代文字の授業もトップだったルイズには面白いほど買い得ができた。




『序文
これより我が知りし心理をこの書に記す。
神は我に四系統にも属さぬ強大な力を与えられた。
四にあらざれば零。我は神が与えられし零を「虚無」と名づけん。
この祈祷書を読める者は我の行いと理想と目標を受け継ぐ選ばれし者…虚無の力を担いし者なり。
詠唱者は注意せよ。強力な虚無は時として命を削る。
以下に我が扱いし虚無の呪文を記す。

ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ

以下に我が扱いし“虚無”の呪文を記す

初歩の初歩の初歩
エクスプロージョン』




ルイズは茫然となった。白紙だったはずの古書に刻まれた古代ルーン文字。そして自分この文の通りなら、自分はもしや…?これまで自分の魔法が、詠唱するたびに爆発するだけだったのを思い出す。なぜ、思った通りの魔法が発動せず、爆発しか起こらなかったのだろうか。両親も姉たちも、誰も疑問に思わなかった。失敗と笑うなり叱るなり、それだけでずっと片付けられていた。
今、わかった。自分がこれまで四系統魔法もコモンマジックもろくに使えなかったのは。



私が、虚無の担い手だったから…!



そう思った瞬間、ルイズの目から光が消えた。古書から光の文字が飛び込んでいき、まるで何かに憑依されたように、彼女は頭の中に流れ込んでいく呪文を口に出していった。

―――エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ

「ミス・ヴァリエール?どうしたんです?」
「いったいどうしたのだ?ミス・ヴァリエール」
二人がルイズの異変に気付いたが、二人のことがまるで見えてないのか、ルイズは詠唱を続けていった。ふと、コルベールはルイズの詠唱を聞いて気が付く。彼女の詠唱…これまで一度たりとも聞いたことのないものだった。どの系統にも属さない…。
(…系統に属さない?…まさか!?)

―――オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド

「グウ…!!」
サドラとシルバーブルーメの呪縛から逃げ切れないレオ。彼の呪縛を解こうと、グリフォン隊が必死にシルバーブルーメの触手とサドラの伸びきった腕を切り落とそうとしたが、傷がほんのちょいと入るだけで効果がない。
「くそ、だめだ!全く効かない!!」
考えてみればこれはこれで当然かもしれない。もし自分たちの魔法でどうにかできる程度なら、彼らウルトラマンは苦労などしていないはず。でも、何もしないままなのは貴族として誇りが許せなかった。
しかし、ルイズの詠唱は…ゼロとネクサス、二人のウルトラマンにある影響を与えた。彼女の詠唱が、距離を置いているはずなのにはっきりと聞こえてくるのだ。
(な、なんだ…ルイズの声なのか?)
ゼロは息を弾ませながら、ジャンボットの〈必殺・風車〉で予想以上の傷が出来上がったテクターギアの胸部を押さえながら遠くを見つめた。
(なんでだろう…)
ゼロとともに、彼の中で詠唱を聞いていたサイトも、ルイズの詠唱を聞いて懐かしさを覚えていた。
(まるで、ティファニアがあの時歌っていた、歌のようだ)
ネクサス…シュウはルイズの詠唱を聞き、ウエストウッド村でティファニアが以前自分の前で歌ってくれたあの歌のことを思い出す。歌い手の声と姿もそうだが、ハープの心洗われる旋律と歌そのものにも独特の美しさを感じずにはいられなかった。
ふと、ネクサスは自分の胸の、エナジーコアの上に刻み込まれていたルーンを見る。ゼロもそれに気が付くと、自分の左手の甲にガンダールヴのルーンが浮かび上がり、これまでにないほど自分たちのルーンが赤く、青く輝いていた。
(俺たちのルーンが、光っている…!)
「何をよそ見している!」
ファウストの声が聞こえてきた。空中飛び蹴りを放ってきたファウストに対し、ネクサスとゼロは直ちに反対方向へ回避した。
その時、ゼロのテクターギアからプシューッと煙が吹いた。
「そろそろ、楽にしてやる!」
ファウストの両腕が重なり、スパークする。ファウストの最強の技必殺光線の構えだ。ネクサスもそれを見て、両腕をスパークさせると、十字型に両腕を組む。今のダメージの残る体で、果たして奴の光線を跳ね返せるだろうか?

―――ベオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ

感じる。自分の体の中で波が生まれ、リズムがめぐっているのを感じた。初体験のことなのに、不思議と懐かしい気持ちが沸き起こる。あたりで誰かの声が聞こえてくるのだが、神経が研ぎ澄まされている今は何も聞こえていない。
歯体の中で何かが生まれ、行き先を求めて回転していく。自分の系統を唱えるとそんな感じがすると、誰かが言っていた。
それが、今のこの感覚なのだろうか。

―――ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル……

光の文字が頭に飛び込み、一種のトランス状態に陥っていたルイズの脳裏に、誰が倒すべき敵で誰が味方かが浮かび上がる。



サドラ。
ケルビム。
シルバーブルーメ。
ノスフェル。
ジャンボット。
そして…ファウスト。


その時…。
詠唱は、完成した。




「…爆発〈エクスプロージョン〉…」




ルイズは心のままに、杖を振った。杖から、一発の白い光の玉が、ダークフィールドの上空へと舞い上がった。白い光は、太陽よりも強く輝きながら破裂し、ダークフィールドの闇を食らう様に、白い輝きで真っ白に景色を塗り替えた。
『…エラー…エラー……』
白い光を浴びる中、ジャンボットはゼロと交戦していたにもかかわらず、バトルアックスを背中に仕舞い込んだ。悪の意思に取りつかれていたかのように真っ赤に染まっていたその赤い瞳が、輝かしい金色の色に変わっていた。
『……こ…の…魔法……ブリ…ミ…ル…様……?』
不思議なことに、彼の眼からエメラルド色の光の雫が…涙としか言いようがない光があふれ出ていた。呟いた途端、彼の眼の輝きが消滅し、ジャンボットはその場で機能を停止、ジャンバードの形態に自動で戻った。
「グウウウオオオオオオオ!!!!」
「グゲエエエエエ!!!」
すべての者たちから視界が奪われた最中、怪獣やファウストたちの悲鳴が轟いた。
白い光を浴びて、ノスフェル・サドラが体中から火花を起こしてダウン、そのまま絶命した。
「グ…」
その光の影響は、怪獣だけではない。この場において、皆の命運を背負う若き戦士の身にも強い影響を及ぼしていた。



白き光。それはまるで、プラズマスパークコアの輝きのように強く感じ取れた。真っ白な光にすべてが呑み込まれたとき、ゼロの脳裏にある光景が浮かぶ。
水晶のように美しい街並みと、数多くのウルトラマンたちが空を飛び交う星、光の国。今から、ウルトラマンにとって人間でいう数十年の時の長さではあるが、人間の年月とはるか昔の出来事だった。
一人の、小さな子供ウルトラマンがいた。彼は物心がついたころから、一人ぼっちだった。ずっと前に母親が殺されしまい、父親は誰なのかさえもわからないし、生きているのか死んでいるのかもわからない。誰も彼のことを褒めてくれなかった。その孤独感が、彼をいらだたせた。しかし彼には夢があった。自分の境遇に不満がのあったその少年は、自分のように親を亡くして悲しい思いをする人が一人でも減るように、宇宙警備隊で立派なウルトラ戦士になることを目標としていた。
それを聞いた、ある赤いウルトラ戦士がゼロに優しく、期待を込めた言葉を贈った。
『君のその優しさが、きっとみんなを守り、救ってくれることだろう』、と。
だが、どんなに努力をしても、…ゼロにとって一番ほめてほしい者の言葉はなかった。傍に当たり前のようにいるはずの親がいない。むなしさを覚え、いら立ちを覚え、次第にその憤りが同胞たちへの絡みにもつながり、彼は人間でいう不良になり、周囲から認められるどころか評価が落ちて行った。実力について素質はあるが、人格に問題がある問題児として。誰かに認めてもらうには、強くならなくては。すでに、本当に願っていたことから大きくずれた目的にすり替わっていたことに気付かず、彼はついにプラズマスパークコア…禁忌に手を出してしまう。結果、彼は追放されてしまった。
真っ白な空間の中で、テクターギア・ゼロとサイトは目をあけた。不思議だった。同じ体を共有し合っている者同士が、こうして同じ場所に立っている。他に変わったことは、ゼロの体を包むテクターギアが、驚くほどにひび割れていたことだった。
「俺、バカみたいだな。ずっと見てくれていた人がいたってのに、気づきもしなかった…」
「ゼロ…」
過去の自分を振り返り、ゼロは自身のことを嘲笑した。
『自分がお前の父であることを明かさなかったのは、自身も恒点観測員から宇宙警備隊へ転職するまで知らなかったからだ。だが、真実を知ったその矢先にお前がエネルギーコアに手を出し、簡単に明そうにも明かすことができなくなったし、父親である自分ではなく、俺に預けざるを得なかった。
あの時のお前はまだまだ未熟だった。彼が止めなければ、エネルギーコアの巨大な力によって身を滅ぼし、ベリアルと同様に悪に落ちたかもしれない』
父親のことを尋ねたとき、レオはそう言っていた。ゼロの父親のことを聞いたときは、サイトも驚いていた。まさか、光の国や地球どころか、宇宙の広範囲にわたって名を上げた『彼』が、ゼロの父親だったとは。
「けどさ、俺はお前が羨ましいよ、ゼロ」
逆にサイトはゼロに羨望の言葉を露頭する。
「父親が、すごく有名で立派な人だったじゃないか。それに、追放を下してもなお、自分の弟子に息子を託していたなんて、ちゃんとお前のことを見ていてくれたってことだろ?ちょっとした自慢になるじゃないか!『親父は俺の誇りなんだ』って!
デルフだってそう思わないか?」
「俺っちに聞かれてもなあ…なんたって、俺ぁ錆びついた剣だぜ?」
急に人間臭い問いを投げつけられ、デルフは戸惑う。いくら約6000年も生きてるからって、人間じゃない自分にそのような問いは困らせるだけだ。
白い光。この光は不思議だった。ずっと昔から知っていたように、奇妙な懐かしさを皆に感じさせた。懐かしいと感じると、二人は思い出した。
「この光を浴びてると、思い出さないか?」
最初に出会った時のことを。
「ああ…最初に会ったときは、散々だったな」
自分が急にテクターギア・ゼロに変身して互いの存在を認識しあい、でも怪獣退治か人命救助、どちらを優先するかで意見が分かれ、失敗を繰り返してきた。
でも、もうそんな失敗を繰り返すわけにはいかない。今の自分たちには、いがみ合うことなんかよりも大切な、守りたい人たちがこの世界にいるのだから。

――――ときには、自分の背後を振り返って、守るべき者たちの姿を見てみるといい

――――そこにはきっといるはずだ

――――頼もしい『仲間』たちがな

最後の特訓後に送られたレオの言葉が、さらに浮かぶ。
義母の戦友のひ孫にして、優しくてかわいく料理・家事が上手なメイドのシエスタ。一見その美貌ゆえにそれを利用し男趣味が悪く見えるようで、実際は面倒見がよく自分たちのことを見守ってくれたキュルケ。何を考えているか読めず・静かに本を読んでいるだけのようでさりげなく自分たちを手助けしてくれたタバサ。キザなセリフを言うがいまいち決まらないくせに、気持ちばかりは本気なギーシュ。
そして、わがままで高慢ちきなお嬢様、サイトとゼロのご主人様、ルイズ。
いつか地球に帰る前に、彼らがこれまでの平和な暮らしができるようになるためにも、戦わなくてはならない!肩を並べるに足りる、仲間たちと共に。
すると、サイトとゼロの間に一筋の金色の光が、雫のように落ちてきた。それがはじけ飛び、一瞬だけ強い輝きを示し、サイトとゼロはとっさに顔を覆った。光がやむと、二人の間に、金色のゴーグル型のアイテムがふよふよと浮いていた。
「これって…!」
ふと、サイトは数年前、自分がツルギ=ウルトラマンヒカリへの恨みを募らせ、それをバルタン星人に一度利用された事件の後のことを思い出す。


『すみません、コノミさん。眼鏡を貸してもらえます?』
『え?いいけど…何に使うの?』
あのあと、メビウスことヒビノミライが、GUYSの仲間たちから迎えに来てもらった時のことだ。彼は仲間の一人の女性、アマガイ・コノミから眼鏡を借りると、サイトの前に歩いてきた。
『サイト君、ちょっと見ててね』
いったい何をするつもりなのだろう。不思議に思ってとりあえず見てみると、ミライはコノミから借りた眼鏡を右手の親指と人差し指で掴み前に突き出すと、それを変わった掛け声を上げながら自分の目の上に重ねた。
『デュワ!』
はたから見たら、ミライには申し訳ないが奇妙に見えたそのポーズに、サイトはミライが何をしたかったのかよくわからず首をかしげた。
『…あ、あの…今のは?』
『勇気の出るおまじないだよ』



(…勇気の出るおまじない、か)
ミライとコノミとの、ちょっとした出来事を思い出して笑みをこぼしながら、サイトはそのゴーグル型アイテムを手に取る。
サイトがゼロに視線を向けると、ゼロはサイトに対して頷き、サイトもまたゼロに頷いて見せた。その白き空間の中で、ゼロの体がすう…っと再びサイトの体の中へと吸い込まれる。その時、ゼロの姿に変化が起こっていた。彼の体を包むテクターギアが、サイトの左手首のリング型のテクターギアがひび割れ、二人の姿が重なった途端に、ついに砕け散ったのだ。二人は今一度一つとなったのだ。
まだ、戦いは終わっていない。なにせ、ファウストをはじめとした敵の気配はいまだに感じられるからだ。
大切なものを守るために…。
「よし…行こうぜゼロ、デルフ!!」
「『おう!!』」
サイトがこれまでにないほどの笑みを浮かべ、ゴーグル型アイテム『ウルトラゼロアイ』を右手の指先でつまみながら、自身の顔に装着した。ミライたちが教えてくれた、あの『勇気の出るおまじない』と同じ方法で。



『「デュワ!!」』



ウルトラゼロアイが装備された瞬間、ゴーグルの両目のレンズが、金色の光の渦を巻き起こす。サイトの体の周囲を、光から精製された二本のブーメランが回り、赤と青の光のラインを描く。やがてサイトの顔は、頭上から変化を見せ始めた。頭から六角形で黄金色の眼を持つ銀のマスクが顔を覆い、胸と肩・二の腕にはプロテクターが装備される。胸にカラータイマーが埋め込まれ、その下は胸から足先が青く、内股と肘が赤く染まった肌に変色する。最後に、二本のブーメランが彼の頭に装着され、再び世界は白く染まっていった。今度は二人の姿を、完全に覆い尽くすように。



「…う…今のは…?」
アンリエッタは恐る恐る目を開いた。今のはいったい何なのだ。上空に光の玉が現れ、太陽のように光を放り、すべてを飲み込んだ。皆はいったいどうなったのだろう。辺りを見渡すと、そこには自分と同じように驚いた反応のトリステインの兵たちやタルブの村人たちがそこにいた。すぐそばに控えているマザリーニもいる。ほっと安心するアンリエッタだが、次に空を見た途端、彼女は再び驚愕する。
ファウストが自分たちを包み込んでいた闇の空間…ダークフィールドが初めからなかったかのように消滅し、昼下がりの空の下の、元のタルブの景色に戻っていたのだ。
「見たか、今の光を!あれは、始祖が悪に決してくじけまいと応え、救いの光をもたらしてくださったものだ!各々方、始祖の祝福は我らにあり!」
茫然としている皆を見て、われに返ったマザリーニが叫ぶ。すると、あちこちのトリステイン軍の兵たちから歓声があふれ出した。
「うおおおおおお!!トリステイン万歳!!」
「枢機卿…今の発言は?」
アンリエッタがそっとマザリーニに耳打ちする。
「とっさに浮かんだ、真っ赤な嘘です。ですが、今はだれもが判断力を失っています。私もそうですし、誰もが目にした光景を信じられずにいるのです。しかし、これで彼らに、我々に勝機が見えた。根拠はありませんが、それは確かだと思います。何せ、あの黒い巨人が張った邪悪な空間は、あの光に滅されたのですから。
殿下、いずれ王となる身ですからしっかり覚えておいてくだされ。使えるものは何でも使う。これこそ政治と戦の基本ですぞ」
勝機が見えた…そうかもしれない。アンリエッタはあの白き光が、最後まであきらめずにいた自分たちに光明をもたらしてくれた始祖ブリミルが祝福を与えてくれたものかもしれない。本当にそうかどうかはわからないが、あの光のおかげで、自分たちのさっきまでの絶望感さえ吹き飛んでいた。
「今の光は…いったいなんだったの?」
シルフィードに乗っていたキュルケ・タバサ・ギーシュも何が起こったのかまるで理解できずにいた。いざウルトラマンたちの援護に回ろうと思っていた矢先に起こったこの事態に、空に浮いたまま三人とも戸惑いを見せたが、すぐ我に返って、一度体勢を整えようと地上に降りることにした。



ルイズの解き放った白い光は、タルブ村だけではなかった。トリステインの各地でも、タルブ地方に突如煌めいた光として、注目を集めていた。さらに、トリステインどころか他国にさえその輝きに気付いたものが数名ほどいた。


(今の光、前にも…)
アルビオンのウエストウッド村。トリステインのラ・ロシェールの方角から白い光が立ち上ったことにティファニアは気づく。胸の中に不安を抱きつつも遠い目で眺めていた。
あの白い光を見ていると、思い出させられた。母を殺した王軍の魔の手から逃れようとしたとき、風のルビーを身に着け、オルゴールから流れた旋律に合わせて魔法を詠唱した時のことを。
(シュウ…)


タバサの出身国である、ガリア王国。その首都『リュティス』の宮殿のバルコニーから、トリステインの方角を見る、端正な顔に青い髪と顎鬚をはやした男が、どこか面白げに笑って、ルイズの起こした白い光を見ていた。


さらに、ロマリア連合皇国。ここはブリミル教の総本山ともいえる国で、教皇がこの国の頂点となっている。その国のある教会で、ステンドガラスから差し込む光に照らされた美男子が二人、一方はステンドガラスの前で祈りをささげている長い金髪の男、もう一人はその男を迎えにやってきた、オッドアイの瞳を持つ神官服の男だった。
「…『聖下』。どうやら、きたようです」
オッドアイの男が、祈りを捧げる男に報告した。
「…ええ、たった今私も感じましたよ。間違いない、あれが目覚めたようですね。『虚無』がまた…もう一人」



「ぬ、ヌグウウ…!!」
今の白い光は、ファウストに深いダメージを負わせたようだ。まさか、自分の作り出した無限の闇が破壊されるとは思いもしなかったに違いない。
ジャンボットはジャンバードに戻って機能停止、ノスフェルとサドラが今ので跡形もなく消滅した。傍らで生き延びていたのはケルビムとシルバーブルーメだけ。
「今の白い光は、いったい…?」
レオでさえ驚いていた。今の白い光の影響か、シルバーブルーメとサドラから受けた呪縛は解け、自由の身となっている。
「ん?君のカラータイマー…元の青い輝きになっているな」
「!」
カラータイマー、という単語自体は聞いたことないが、ネクサスはそれが自分のコアゲージのことを指しているいると察知し、自分の胸元を見る。確かにレオの言うとおり、青い輝きに戻っているではないか。ただ、もう一つ気になったのは、ルイズの詠唱を聞いていた時と同様に、コアゲージ付近の胸元に刻まれたルーンが、いまだに赤い輝きを放っていることだ。
(このルーンが、あの白い光をエネルギーに変換したというのか?)
彼はさっきの白い光を思い出した。すさまじい爆発だった。ウルトラマンの光線技でもあれほどの威力を放つことはできない。しかも、あれだけの攻撃範囲だったにもかかわらず、自分たちウルトラマンはおろか、地上の人間たちに一切の被害がなかった。まるでRPGの魔法のように、正確に敵だけにダメージを与えることができたのだ。まさに、魔法らしい魔法だった。
ふと、ネクサスとレオ…そして地上の人間たちはあることに気が付く。
ゼロの姿が…変わっていた。この世界でのゼロの姿は、本来の姿の上に、訓練用の分厚い鎧『テクターギア』を装備した姿だ。
しかし…今は…。
「鎧が、ない…」
そう呟いたのは、シルフィードの上から見下ろしていたキュルケだった。無論彼女だけじゃない。誰もが、今の彼の姿に注目を集めた。ゼロの周囲には、テクターギアの残骸と思われる鉄くずの山が出来上がり、彼自身は本来の姿を現していた。
「貴様は…!」
ファウストがうろたえた様子でゼロに問う。



「俺の名は…」



『いいか、ゼロ。お前の父の名前は…』
彼の脳裏に、レオが先日語ってくれた真実の言葉が走馬灯のように浮かぶ。


金色の瞳を研ぎ澄ませ、自身の引き締まった青と赤の体を確かめ、ファウストの方を振り返りながら彼は名乗った。





「ゼロ!ウルトラマンゼロ!『セブン』の息子だ!」





今ここに…真の意味で、ウルトラ兄弟三番目の弟の息子にして、七番目の兄弟の弟子。



新たなウルトラ戦士、『ウルトラマンゼロ』が誕生した。 
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