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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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羨望-エンヴィ-part3/羨む少年、羨まれる青年

「俺自身にはゼロやヒカリみたいな、ウルトラマンの力はないんだ!ルイズからもらったガンダールヴの力だって俺には宝の持ち腐れで、俺自身はそれにおんぶにだっこなド素人だ!口先だけで思い込んでばっかの、ただのどこにでもいるガキンチョなんだよ!」
自棄になり、サイトはまるで駄々っ子のように喚き散らした。
「俺なんかじゃルイズ達も、誰も…何も守れないんだ…。もう…たくさんだ…こんなにみじめな自分を思い知るばっかりなままなら、地球に…帰りてえよ…」


……笑えるわけねえじゃねえか。


第一、故郷に帰りたいのはお前だけじゃないってのに…。
ゼロはサイトの泣き声を聞きながらそう呟いていたが、サイトの耳に届かなかった。
ふと、ザッザッ…と誰かの足音が聞こえてきた。誰かがここに来たのか?サイトが泣きじゃくる中、ゼロが代わりにその足音の正体を音で探る。このこそこそ感のない足取りからすると、かくれてこちらの寝首を掻こうとする輩ではないようだ。
サイトがようやく顔を上げた。黒い髪と端正な容姿…見覚えるある顔が、彼を見下ろしていた。
「ヤケにうるさい声が聞こえると思ったら…お前か」
「シュウ…!?どうして…!」
自分と同じ…ウルトラの力を持つ男が急に現れ、サイトは驚く。
「それはこちらのセリフだ。なぜお前がここにいる?」
ああそうだった。こいつはテファの使い魔だったんだよな。テファの話を思い出してサイトは納得した。
シュウはサイトを放ってティファニアたちのいるウエストウッド村の方へ向かおうとした。
彼から見ればサイトは不測の来訪者。不審人物だ。以前あった時には仲間もいた。理由がわからなくとも、この世界には媚びる蟠りのためにエルフの血を引くティファニアに危害を加えないとは限らない。使い魔としてティファニアを守るという立場にある彼として、不審な存在に対して用心に越したことはなかった。とはいえ、今のサイトからは敵意どころか闘争心のかけらも感じられないので気に止めなかった。
「おいおい、落ち込んだ同胞をほっぽり出してどこ行くんだよ?」
あまりにもシュウがサイトに対してなんとも思っていないようなそっけない態度を取るものだから、見過ごせなかったデルフが鞘から顔を出してシュウに言った。
「俺には俺の事情がある。そいつ個人の面倒事にいちいち首を突っ込んでやる気はない」
「相棒と同じウルトラマンだろ?」
「今の俺はティファニアの使い魔だ。奴の安全を最優先する義務がある」
使い魔だから主を守る。ガッチリとした仕事人だった。尚且つなんてクールな奴…。デルフは冷たい態度に呆れる。
「まあ…主の安全面については問題ねえぜ。別に相棒たちはこの村を襲ってきたわけじゃねえし、お前さんの主なら貴族の娘っ子たちと仲良く話してることじゃねえの?そっから見えるじゃねえか」
「……」
そう言われてシュウは村の方角を見る。明かりのついたティファニアの小屋には、彼の主であるティファニアの他に、キュルケとタバサ、そして皆から一歩離れた位置で座り込んでいるルイズの姿が見えた。ああ、やっぱしさっきの相棒との会話が応えてやがるのか…とデルフは思った。今のルイズからは正直負のオーラばかりが漂っている。
ギーシュについてはマチルダから適当な鉄槌を食らっている。大方また、テファか自分が口説かれて怒ったのだろう。
ふう…とシュウはため息を漏らし、サイトのそばに生えていた気に背中をあずけて両腕を組んだ。そしてジロッとティファニアたちをしゃべっているキュルケたちを遠くから見る。まだキュルケたちの人となりを知らない以上、彼は念のため自分の目で彼女たちがどのような人物なのかを確かめようとしていた。
「で、例の彼ってどんな人かしら?」
「き、キュルケさん!だから私と彼はそんなんじゃなくて!!」
顔を真っ赤にして、昼間同様にからかってくるキュルケの言動を否定するテファのあの顔はあまり見ない。それもそうだろう、シュウはあのような不健全な話を話題にあげようともしない口だから。だが、それでも話、妙に楽しそうに話しているな。さっきは話の話題のせいか恥ずかしそうにしていたが、違う話に切り替わってからは楽しそうに話している。
「何もそこまで用心せんでも…娘っ子たちは悪い子たちじゃねえぞ」
「それは俺が判断することだ」
「だからって女子同士の会話に耳を傾けるなんざ、傍から見たらお前さん変質者だぞ。色男のくせに残念だねぇ」
きっとデルフに人間の顔があったら、ははは…と苦笑いを浮かべているに違いない。こいつはかなり真面目でストイックで、さらに融通がきかない一面があるようだ。相棒と果たしてそりが合うだろうか心配だ。
「人聞きの悪い事を言うな。そもそも、どうしてお前たちがここにいるのかをまだ聞いていない」
「ああ…そいつはな…」
デルフはサイトを見る。泣き止んでくれたのだが、今は木陰に背中をあずけその場に俯いたまま座り込んでいる。コイツの口から説明できる余裕はない。代わりに彼がアンリエッタ姫からの任務を受理してからこれまでの旅の経緯を一通り話すことにした。
「……ってなわけなんだよ」
「そうか…」
デルフからの説明を聞き、シュウは座り込むサイトを見下ろす。以前ラグドリアン湖で会った時の彼の姿を手は覚えている。まっすぐで、一本木であからさまに暑苦しそうな直情馬鹿タイプだ。それは同時に、自分にはない、どこか羨ましくも思えるものを持っている証だとも捉えていた。
確か、姫からの任務でこの国の王子から、同盟の障害となる手紙を引き取ろうとしたが、仲間の一人が裏切って手紙を強奪され、さらには王軍側の連中が殺された上に王子を誘拐された。王子…シュウにも覚えがある。この世界で初めて変身したとき、自分が助けたあの青年だ。ちょうど自分やコイツくらいの外見年齢だった。
とはいっても、所詮シュウからすればかなり大きな問題といっても他人事だ。むしろこんな大役を仰せつかったこいつらには敬意さえ払える。
だが、今のこいつはなんだ。今のお喋りマシンガンな剣の説明でこうなってしまった理由を聞いたのだが、なんてしょぼくれた姿をしているのだろうか。以前会った時の果敢な姿はそこにはなかった。
(まるで、上手く出来上がったくせに最後まで売れ残った果てに賞味期限が切れたクマさんカステラのようだな)
心の中でかなり奇妙な例えでサイトをそう評価した。正直こっちまでしょぼくれそうで目も当てられない。
「…さっさと立て。ここで乞食みたいに座り込まれても、ガキどもにとっても目障りだ」
立ち上がるように言う。冷たい言い草にデルフは「お前な…!」と苛立ちを募らせるが、サイトが気力のない言葉を吐いて口を挟んできた。
「なあ…」




…次の日の夜。
ずっと長く留まるわけにも行かず、サイトたちはウエストウッド村から出発した。失敗してしまったとは言え、任務の結果を報告しなければならない。なぜ夜に出発することにしたかというと、レコンキスタによってすでにアルビオンの各要所はすでに占領されてしまっていることは間違いない、ここは夜の闇に紛れてアルビオンからそのままトリスタニアへの直行脱出を図ろうというタバサの判断によるものだった。
村の広場…もとい中庭にて待っていたシルフィードの前に、サイトたちは集まった。
「ティファニア、世話になったわね」
「ううん、私たちの方こそありがとう。ここって何もないから、お客さんが来てくれる乗ってとても嬉しいの。しかも私がエルフの血を引いてることを知っても、皆さんはよくしてくれたから」
キュルケからのお礼に、テファは満面の笑みで返した。なんて純粋な子なのだろう。こんな子は今まで見たことがなかった。しかもあのプロポーション…細い体に自分以上の豊満な胸。正直女としてこの百戦錬磨のキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・ツェルプストーは自信を危うく失いかけたほどだ。
「料理、もっと食べたかった」
一方でタバサはちょっとだけ残念そうな表情を浮かべていた。この村は無尽蔵に食料があるわけではなく、元々はこの村の子供たちのために備蓄されたものなので、見た目以上に食欲旺盛で大食らいの彼女はいつもどおりたくさんのご飯を平らげることができなかったのである。…できれば、自分の希望のない幼い胸に比べて、夢と希望が溢れすぎたテファの胸を忘れるべく、やけ食いしたかったとは内緒。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。また遊びに来てね?」
「ええ。また機会があればだけど」
サマンサがキュルケたちに対してまた来て欲しいと言うと、彼女に続いて次々と子供達が「私とも遊んで!」「僕ともお話してよ!」と口々に言った。子供たちに対して特に分け隔てなく対応したキュルケは快く笑みを見せた。
「タバサおねえちゃんも、次に会うときは面白い本を読んで!」
「…約束」
普段は笑みを見せなかったタバサも、ジムからそう頼まれ、僅かに笑みをこぼした。
「それにしても…彼があなたの使い魔なのね」
この日、昨晩にはシュウが戻ってきていたので彼もテファの隣に立ってこの場に同席していた。容姿端麗にして、サイトとは逆方向に沿ったサラサラな黒髪と、無愛想なその顔がかえって彼のストイックかつクールさを押し出している。すぐに恋を患ってしまうほど熱しやすいキュルケが黙って見ているはずがない。
「ねえ、あなた…微熱に興味はないかしら?」
やはり思ったとおり、キュルケはシュウの右手に手を回して口説き落とそうとした。もしかしたらワルドに一度口説きを断られ、自分に磨きがなくなっているのではと内心では疑ってもいたりしたのである。
「!?」
いきなりシュウが口説かれたという現実に、テファは顔を真っ赤にして動転し言葉を失ってしまう。…が、キュルケにとって今度の相手も悪すぎた。
「興味ないな」
「な…」
ワルドの時とほぼ同じ反応。シュウはキュルケの腕を振りほどいた。しかも、ワルド以上にグサリとくる物言いで止めを刺された。
「俺はあんたみたいにすぐ男を乗り換えるような尻軽女に惚れる気は全くない」
ドスッ!!!
どこからか剣がぶっ刺さる音が聞こえてきたような気がした。あのワルドでさえ冷たくあしらってきたとは言え、まだ紳士的な態度を崩さなかったのだが、この男は真っ向から全面的に言葉からも否定してきた。
「し、シュウ…何もそこまで言わなくても」
せっかくのお客さんに対して失礼ではないかと言うテファ。しかし彼は態度を変えずに言う。
「言われたくなければ矯正するばいいだけの話だ」
「…いいさテファ。別に好きに言わせていいの」
そう言ってきたのはマチルダだった。学院にいた頃からキュルケの悪い癖を何度も聞いたことがあるから、これくらい言ってしまっても大した問題じゃないと断定していた。
「姉さんまで…」
「…ふん、上等じゃない」
むしろ燃えてきたわ。そういった時のキュルケは、余裕有りげな笑みのようではあるが、こめかみに青筋を立ててわなわなと震えていた。昨日は自分が年増呼ばわりした女にまでこうも言われ、さらに機嫌が悪くなっているのが見え見えだった。
ああ、やっぱり怒ってらっしゃる!大丈夫かな…とテファは感情の高ぶりのあまり背後で業火の炎を燃え上がらせている(もちろん幻覚だが)キュルケに戦慄した。
一方で、ギーシュは気がかりなことを口にした。
「それにしても…二人共ヤケに言葉を交わし合わないね」
そう、サイトとルイズのことだ。この場にいるものたちの大半は知る由はなかったのだが、昨晩からサイトとルイズは一言も言葉を交わし合っていない。使い魔と主人のあるべき姿とは大きくかけ離れたものだった。
「…別にいいだろ。ほら、さっさと帰るぞ」
「あんたが仕切ってんじゃないわよ…」
互いにそっぽを向いたまま二人はみんなに言った。見るからに険悪さを思い知らせる空気に、皆が息苦しさを覚える。
「サイトお兄ちゃんとルイズお姉ちゃん、一体どうしたのかな?」
「昨日の昼間ではまだ元気だったのに、夜からあまり元気がなくなってた。何があったの?」
「…さあな」
あまりに不穏で重い空気が流れ、気になってシュウの服の裾を引っ張ってきたエマとテファが訪ねたが、シュウには答えようがない。
「大丈夫よテファ。これはこの子の問題だから」
これは本人たちにしか解決できないことだから、気にすることはないとキュルケは言った。
「これ以上時間をかけないほうがいい。早く乗って」
タバサがすぐにシルフィードに乗るように皆に促し、サイトたちは直ちにシルフィードの背中に乗った。しかし、サイトは最後尾、ルイズは先頭のタバサのすぐ後ろで、互いにキュルケとギーシュを間に入れているという、完全に互いを避けているのが見え見えのポジションだった。
大丈夫だろうか、仲間たちは不安を口にはあえて出さず、今は胸の内にしまい込むことにした。
シルフィードは飛び立とうとしたところで、サイトたちはテファたちと手を振り合いながら、しばしの別れを告げた。別れを告げ終え、シルフィードは双月の輝く夜空へ飛び立っていった。
「…行っちゃったな。もっとゆっくりしてったらいいのに」
シルフィードに乗って飛び立っていったサイトたちを見送り、テファは名残惜しそうに言った。シュウとはまた別の、同年代の人たちと話ができて、いつもとはまた違う充実感を覚えたテファとしては、サイトたちとのふれあいはかけがえのない思い出の一ページとなった。
「奴らにも奴らの事情がある。ずっと留まれだなんて無理な話だ」
「そうね…」
シュウがそう言うと、現実に回帰してテファは寂しそうに納得した。
「さ、いつまでもここにいたら夜風で風邪をひいちまう。そろそろ家に入りな」
マチルダはテファや子供たちに家に入るように言うと、テファを率先にみんなは小屋の中に入っていった。しかし、シュウは子供達が小屋の中に入っても、すぐに入ろうとはしなかった。
「どうしたんだい、シュウ」
マチルダに名前を呼ばれ、シュウは彼女の方を向く。彼の手には、すでにエボルトラスターが握られ、埋め込まれたクリスタルが生々しい心臓の鼓動音を鳴らしながら光っていた。
「…」
その意味を理解して、マチルダは彼に真剣な眼差しで見る。
「行くんだね」
「最近、レコンキスタとやらが怪獣を操っているという話をよく耳にする。おそらく、あいつらを狙う刺客が放ったものだろう。だったら、俺が選ぶべき選択は…」
輝くエボルトラスターを見て、シュウは頷いた。
「…いいさ、行っといで。けど、あんたがあの子の使いまである以上、最優先事項はわかってるよね?」
マチルダからそう問われると、シュウは無言のままサイトたちが飛び去った方角を振り返り、エボルトラスターを鞘から引き抜いた。




シルフィードに乗って空を飛び立ってからも、やはりルイズとサイトは互を避け、一度も言葉を交わさなかった。あまりにキリキリとした空気だった。特にこの空気はまっさきに耐え切れなくなったギーシュは声を漏らした。
「そ、それにしてもみんな無事で…よかったんじゃないかな〜」
なんとかこの空気を軽くしようと思ってギーシュがわざとらしい笑みを浮かべて皆の無事を喜んでみたのだが、サイトがドスの入った声で言った。
「誰かさんはそう思ってねえみたいだけどな…」
う、と息を詰まらせるギーシュ。その誰かさんとは、紛れもなく彼のご主人様なのだろう。
「そ、そんなことはないだろ?なあルイズ」
「…知らないわよ」
ルイズはトゲのある物言いで話を切ってしまった。余計に空気が張り詰めてしまったようにしか思えない。とはいえ、キュルケ自身もこの空気にずっといても平気と言えるほど図太くはない。まったく、どうせいつものように痴話喧嘩したのだろうと思っているのだが、いい加減同じ空気の中にいる自分たちのみにもなって欲しいものだ。どの道ギーシュではなんの解決も導き出せないだろうから、自分が一言言ってやろうとサイトとルイズに声をかけてみることにした。
「ねえルイ…」
すると、タバサが急にシッ!と唇の前で人差し指を突き立てた。
「何か聞こえる」
そう言われてキュルケが、そしてみんなが周囲に耳を傾ける。聴こえてくるのは、夜風が吹く音だけだ。何も聞こえないじゃないか。
「…いや、タバサの言うとおりだ。何か聞こえる」
サイトも、なにか聞こえていたらしく、夜の闇の中へ耳を澄ませていた。この聴力も、皮肉にも彼と同化を果たしているゼロのおかげなのだが。
「…!タバサ!右へよけろ!」
「シルフィード!」
サイトから怒鳴られたタバサは反射的にシルフィードの名を呼び、直ちに右方向へ避けさせた。瞬間、シルフィードのすぐ左方向を巨大な何かが、まるでジェット機のような勢いで通り過ぎた。その風圧の余波が、シルフィードと彼女の背中に乗るサイトたちをも襲った。
「きゅい…!!」
シルフィードは誰も振り落とさないようすぐに持ち直そうと翼を羽ばたかせ、かろうじて体制を整えた。
「な、何!?」
何が起こったのか理解できず、ルイズが声を上げる。
「やばい!!怪獣が、俺たちを追ってるんだ!!」
目を凝らし、サイトは闇の中を覗き見る。ゼロと体を共有しているためか、ウルトラ戦士特有の能力『透視』を扱うことができる。そのためか、この闇の中に潜む怪物の姿や位置をある程度把握することができた。
「な、なんだってえええ!!?どうして僕らなんかを襲って来るんだ!」
ギーシュがそれを聞いてギーシュがビビって悲鳴を上げた。こっちは別に彼らを怒らせるようなことは何一つしていないのに、襲って来るなど理不尽だと思っているのだろう。
いや、理由なんかどうだっていい。
ルイズは緊急事態になったせいか、さっきまでで蟠り関係なしにサイトに尋ねてきた。
「ど、どうして私たちのいる方向がわかるの!?今は夜だから、あいつだって私たちのことがそんなに見えていないんじゃないの!?」
「あいつは、アリゲラは目を持っていないんだ!だからその代わりコウモリみたいに超音波を発して俺たちの位置を探知できるんだ!」
サイトは、今自分達を襲っている怪獣のことを知っている。
『宇宙有翼怪獣アリゲラ』。目を持たず、両肩の発光するパルス孔から発する超音波で辺りを確認でき、水中、空中を天馬の如き速さで駆け抜ける、疾風のごとき怪獣だ。確かに目を持たない状態でも獲物を襲うことができる器官があれば、一生をある意味暗闇の中で生きるアリゲラに夜の闇など無意味だ。この音速の速さを生かした戦い方に、あのメビウスも苦戦を強いられた。
「シルフィード!」
あいつの方が体が大きい分小回りが利かないはず。シルフィードに命じて全速力で逃げるしかない。
しかし、サイトたちは次に目の前を向いた時には、絶望感に満ちた表情を浮かべていた。すでに、自分たちの目の前にアリゲラが待ち構えていたのだ。
(は、速すぎる…!)
シルフィードも確かに早く小回りが効く優れた機動力の持ち主。しかし、圧倒的な巨体を持つがゆえにこまわりのきかないアリゲラが追いつけない理由にならない。もしスピードを出しすぎてシルフィードを通り過ぎてしまうことがあっても、通り過ぎた先でUターンし、正面から回り込んでしまえばいい。その結果が、たった今の現状だった。
自分でも、このシルフィードの、子供の竜ながらも通常の使い魔と比べて圧倒的な速さと体力を誇る。だが、相手が相手とは言え、こうしてあっさりと追いつかれてしまった。これが怪獣…常識を逸脱したその驚異の前にして、タバサはその驚異の大きさを改めて実感した。
もうすでにハルケギニア大陸の上空。トリステインに到着するのも時間の問題となったところで、追っ手の怪獣をなんの前触れもなく差し向けられ、そして絶体絶命の危機に立たされてしまったサイトたち。
 (…きっと何も守れなかった…何もなせなかった俺たちへの罰なのかな…)
サイトは戦意を失っていた。もう変身する間も与えられずに自分たちは止めを刺され、コイツの餌としか食われることとなるのだろう。
ああ、俺の人生て…結局なんだったのだろうか。全然笑えもしない形の不幸ばかりが降りかかり続け、たまにいいことがあったと思ったら一気に絶望のそこへと叩き落とす。
こんな残酷な世界で、俺は何のために…。

「きゃああああああ!!」

仲間たちが悲鳴を上げ、残された両腕で己の身を覆って見せた一方で、サイトは自分のこれまでの人生を振り返った。自分はこの世界に来て、かつての辛い過去を清算できるほどの力を手に入れた。だが…結局大したこともできず、こうして仲間たち共々食われていくのをまっているだけしかできなくなるだなんて…。


アリゲラの鋭い牙の生えた口が開かれルイズたちを食らいつこうとした、その時だった。


アリゲラとサイトたちの間に紅き光の弾が飛来し、サイトたちを食らおうとするアリゲラの前に、人の形を象りながら立ちふさがった。
「グギギ…!?」
人の形から、やがて赤いオーラを纏った銀色の体の巨人が、手から放たれる念力でアリゲラの動きを封じ、指一つ触れないまま押し出していく。
「オオオオオオオオ…!!!」
眩い光で一度目を閉じたルイズたちだが、目を開いてその光の正体を確かめた。
「ウルトラマン…!」
「た、助かった…はあ…」
光り輝くその背中を見てキュルケは安心の笑みをこぼし、ギーシュは深いため息をついた。
紅きオーラ〈オーラミラージュ〉を身にまとったウルトラマンネクサス・アンファンスは己の身を包むオーラを解くと同時に、手刀を叩き込んでアリゲラを地上へと叩きとおした。
「フン、デアア!!」
「ゲアアアアアア!!?」
脳天に重い一撃をくらい、くるくると回転しながらアリゲラは地上へと落ちていき、激しい土しぶきをあげながら地上へと落下した。それを追って、ネクサス自身も地上へと降り立ち、ちょっとよろめきながらも立ち上ってきたアリゲラの方を向いた途端、ただちにジュネッスブラッドにスタイルチェンジし身構えた。
せっかくの得物を目の前に邪魔をされたアリゲラはひどく怒り、ネクサスを次の標的と定める。
「…」
サイトはシルフィードの背から、仲間たちと共にアリゲラと対峙するネクサスを見守った。
そして、昨日シュウと会話した時のことを思い出す。




昨日みんなが寝静まる前、仲間たちがテファたちと村の小屋で話している一方で、サイトは隣に立つシュウに対して、まるで気力を亡くして死にかけたような様子でシュウにこう告げていた。
「なあ…俺は、どうしたらあんたみたいになれるんだ?」
サイトにとって、シュウは男としてもウルトラマンとしても理想的な姿をしていたところが多々あった。禁欲的で、特に自分と違って要らないこだわりをいだくことなく、自分以外のために己が身が傷つくことをいとわなかった。失敗らしい失敗をしているようなところだなんて何一つ見当たらなかったから、羨ましかったのだ。
一人の人間としても、男としても、ウルトラマンとしても。
それを聞いて、シュウは目を細めていた。
「……俺のように…だと?」
言っている意味がわからない。耳を疑うかのようにサイトを凝視すると、サイトはこう呟いたのだった。




――――教えてくれ。俺は…いったいどうやったら…あんたみたいになれるんだ? 
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