ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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王都-トリスタニア-part2/傲慢なる戦士
ところ変わって、トリステインから北西の方角にある国。
そこに『アルビオン』と呼ばれる王国が存在している。その大陸はすごいことに浮遊大陸で、その通り空の上に浮いている。白い雲がその国を覆っていることから『白の国』の異名を持つ。トリステイン王家とは深い親戚関係にあり、二国は二つに分けられておきながら一つのまとまった固い絆が結ばれている。
しかし、その国では内乱が起こっていた。
アルビオン王家を中心に動く王党派と、新たに優れた貴族による統治を望み共和制を掲げる貴族派こと『レコンキスタ』の二派に別れて戦争をしていたのだ。どんな理由があるにせよ、反乱を起こし民を脅かすような不届きな輩に王党派の貴族たちは反乱軍に負けるわけはない。そもそも乱を起こすようなことは当然の罪だ。その認識が当初は王党派の圧倒的有利な状況を作っていた。
しかし、その日を境に王党派は大逆転を許すことになってしまう…。
「行方不明者が続出?」
「はい、特に夜間中に何か奇妙な鳴き声を聞いて、それを突き止めようとした者は誰も帰ってこなかったと、前線に赴いた兵士たちから報告がありました。最近家族が帰ってこないと地元の平民たちからも…」
双方の戦争に、突如次々と、前線に赴いた王党派軍の主力の原因不明の失踪事件が相次いだ。何者かが連れ去ったのか、それとも暗殺したのか、消えた人間の居所は掴めていない。
このときの王党派は弱小だったはずのレコンキスタに負けるほどではなかったが、アルビオン王が国の法を乱した弟である大公と、主にサウスゴータ太守等大公に従っていた一派を処断したことで軍事力・政治力ともに低下させていたのだ。それがレコンキスタという賊軍を生み出す結果を招いてしまったのだ。
アルビオン王家の城にして本拠地、『ニューカッスル城』の会議室にて、この失踪事件をどう解決するかの討論が執り行われていた。この戦時中に発生した失踪事件は乱を鎮圧するためにも早期に解決しなくてはならない。
「もしかしたら、レコンキスタ共の奇襲によるものかもしれないぞ」
「このまま勢い着けば、奴らはいずれここを攻めてくるでしょうな」
「狙いは我らが主の命と、王家が始祖より受け継ぎし秘宝ですな。これは間違いないだろう。奴らはエルフに奪われた『聖地』を奪還することを最終目的としている」
「秘宝…皇太子がお持ちの『風のルビー』、『始祖のオルゴール』、そして…我らだけしか知らないはずの『始祖の箱舟』…か」
ざわつく王党派貴族の重臣たち。
「ならば調査部隊を編制、直ちに失踪事件の現場へ向かうべきです」
「ですが、敵がそう簡単にしっぽを出すのか?連中は叛徒といっても馬鹿ではないはず」
すると、その調査部隊のメンバーに加わろうと、ある青年が我こそはと杖を掲げ名乗り出た。
「ならばここは、僕自身が囮となって奴らをおびき寄せます!」
その青年の名は『ウェールズ・テューダー』。教養と知性・仁徳にあふれた、17歳のアルビオン王国の皇太子。王族としての誇りも崇高なものがあり、誰の目から見ても次代の王に相応しい人物だった。しかしこの日の彼は、落ち着きというものを感じさせない。その立場でありながら、彼は自ら調査部隊を率いると申し出て、王党派貴族たちを驚かせた。
「なりませぬぞ皇太子さま!あなた様は次期国王!ここでたかが賊共による失踪事件の解決に御身を危険にさらすなどいけませぬ!」
国王の側近の老貴族『パリー』が異を唱えた。王族に身を置く者たちを支える立場として、彼の発言を許容することはできない。
「だが、このまま味方が消えていくのを黙って見過ごすことは、このアルビオンを奴らの手に落とすことにつながる!人手が一人でも多く必要だ!」
このままじっとしていることなどできない。ウェールズは自分が出ることに何のためらいも抱いていなかった。
「そうだな…ウェールズ。お前の言うことももっともだ。だが、ならん」
「父上!」
息子の、国のために戦いたいと言う思いは理解できる。だが、アルビオン王『ジェームス一世』は国のためにも我が子を危険にさらすことについて乗り気になれなかった。
「ウェールズ。お前は我がアルビオン王家の大切な跡取りじゃ。無謀な状況下へ身をさらすことなど許さん」
「私はもう子供ではありませぬ!この国の時代を担う者である以上、なおさら表舞台に立って国の皆のために戦うことが我が役目だと考えます!それに私の風魔法もすでにトライアングルクラス!必ずお役にたってみせます!」
「ならぬ!…ゴホ!ゴホッ!!」
大声を出しすぎたためか、アルビオン王はひどくせき込んだ。彼はもう父というにはかなり年老いている方だ。ここ最近病気も患い始め、体調は決していいものではない。こんな状況ならむしろまだ若くて健康な息子にあらゆるものを託したいと思ってもいいはずなのに、アルビオン王はまだ玉座を下りようとしない。ここ最近はその病状故に家臣たちをハラハラさせている。
「陛下、ご無理をなされないでくだされ」
側近たちが咳き込んだアルビオン王の背中をさすりながら忠告を入れる。
「ごふ…すまぬ、皆の者。…して、ウェールズよ。お前は何のために戦おうとしているのだ?」
咳き込んだ姿を見せたことを謝った王は、息子の方へ視線を向けて尋ねてきた。
「それは、我ら真の貴族の誇りを、あの痴れ者軍に思い知らせ、始祖の名のもとに我らの正義を示すためです!」
「…あれを見るがいい」
わかりきったことだ。自分たちはあの叛徒たちとは違って、始祖の血と才を受け継ぎし栄誉ある王家。それに恥じない人間であることを示さなくてはならない。それは父も理解しているはずだ。すると、アルビオン王は重臣たちに支えられながら席から立ち上がると、会議室の壁に掛けられた、十字架の光を刻み込んだマークを描いた旗を指さし、ウェールズに向かって言い放つ。
「…ウェールズよ、我らは国以上に、この世界すべてのことを考えて行動せねばならん。我が国アルビオンは、始祖のお与えくださった血と力だけではない。もう一つ同じようにこの世界のために守っておかなければならないものがあるのだ。
これ位の事件で自らの命を危険にさらすような真似をするでない」
「…!!これくらいとか、そんな言葉で、民の命を量るとは…父上!それでも誇りあるこのアルビオンの王ですか!」
その言い方が、まるで大を生かすために小を斬り捨てることをいとわない。そう言わんばかりの言葉に聞こえた。ウェールズは父の言い方に憤慨した。彼の剣幕は、その気迫のあまり会議室を一気に静まり返らせた。
「…申し訳ない。しばらく席を外します」
自分一人、興奮したことに気づいた彼は、この場から一度立ち去ることにした。
「皇太子様…」
心配そうに、重臣たちはウェールズが去って行った扉をじっと見つめていた。
「…私とて民の命が脅かされるのを黙って見過ごせるわけはないが…言い方が不味かったか。あやつには、もっと大きな役目があるとはいえ…」
自分の言い方が息子には失言に聞こえたことにアルビオン王は、自分の本当の思いをどうやればうまく我が子に伝えられることができるのだろうかと悩んでいた。
アルビオン王がかたくなにウェールズの調査部隊への加入を拒んだことには、彼が大切な世継ぎであり息子でもあるからだけではない。
実は、このアルビオン王家には、あるもう一つの大きな秘密が隠されていたのだ。
ハルケギニアの城というものは王族という存在にとっては政治を執り行うための仕事場でもあるが、たくさんの家臣にとってもそうであり、同時に政を行う者とそれを支える家臣たちにとっての家のようなものでもあるから、気が遠くなるような広さを誇る。会議室から離れた場所にある、城のバルコニーにたどり着くのも時間数としては少々だが、家の中をうろつく時間としては多少時間がかかる。
そこに出たウェールズは、いつになく熱くなりすぎた自分を落ち着かせるためにふう…と息を吐いた。ここで働く者たちは仕事優先傾向にあるため、この辺りはあまり家臣たちも来ない。ウェールズが一人で落ち着きたい場所としてはちょうどいい場所だった。
アルビオンは、四代系統の中でも存在そのものが主に風に因んだものがある。その証拠のごとく、風はどこの国よりも優しく、遥か彼方まで流れていく。
自分は一体どうすればいいのだろう。ただいつか訪れるかもしれない即位式のためにのうのうと生きていればそれで皇太子としての務めが果たされるというのだろうか?いや、そんなわけがない。自分も何か成さねばならないことを見極め、やり遂げなくてはならない。
でも、父上たちの言いたいことも彼は理解していないわけではない。自分は曲がりなりにも皇太子だ。もう打つ手がないほどの危機的状況でもない限り、自分の身を危険にさらすことは基本的に許されない。いちいち国の危機にかかわる程かどうかもまだはっきりとわかっていない問題にウェールズを巻き込むわけにはいかなかった。
しかし影に隠れているだけの王族に着いて行く者がいるはずもなく、時に戦場に出る場合もある。自分だって戦の経験が全くないわけではないし、この国と民のために一つでも多く何かを成し遂げておきたいのだ。
「…」
ウェールズは自身の右掌を見ると、その手をぎゅっと握った。
(僕、我らアルビオン王家の体に流れる…伝説の『鏡の騎士』の力さえあれば…!!)
「キシャアアアアアア!!」
「な!?」
その時、突然ウェールズの目に奇怪な鳴き声と、不気味な姿をした怪物の姿が飛び込んできた。
一方で、トリスタニアの街にもまずい事態が起こったのだ。ルイズとサイトの先ほどのもめごとが起きた直後のことである。
「キシャアアアアアアアア!!!」
天を切り裂くような鳴き声がトリスタニアの空に響いた。そしてズシンと重い音が鳴ると上空から巨大な影が降り立った。
ウルトラマンメビウスが地球で最初に戦った敵、『宇宙斬鉄怪獣ディノゾール』。
降り立つや否や、ディノゾールは鋭い雄叫びを上げて口から細く目に見えない何かを吐きだした。すると、それに当たった建物が、次々と屋根の角の部分などを中心に切り落とされていった。
「な、なんだありゃ…」
サイトの背中から、デルフがあんぐりとした声を漏らす。自分の切れ味なんかかわいいものに思えるほどの切断力。なんという脅威か。
ディノゾールの口から放たれた鋭い鞭状の舌『断層スクープテイザー』。それは、目に見えないほどの速さで振り回すことであらゆる物体を瞬時に切断する。舌の総延長は1万メートルだが、直径は1オングストロームという異常な細さで、視認は非常に困難な凶器だ。
「う、うわああああああ!!!」
その悍ましく恐ろしい姿と、その攻撃を見たトリスタニアの住人達は恐れおののいて、ディノゾールから離れようと逃げ出していく。
「ディ、ディノゾール!?」
サイトは見覚えがある。何せこの目で最初に見た恐るべき怪獣だったのだから、その当時の光景を色濃く覚えていたのだ。
「サイト、あのモンスターを見たことがあるの!?」
「ああ…俺の知ってる対怪獣防衛隊を、全滅に追い込んだほどの怪獣…でも、どうしてこの世界にディノゾールがいやがる!?」
当時の光景を思い出すと、足が震える。また、あの恐ろしい悪夢を生み出した奴をまたこうしてみることになるなんて思っても見なかった。サイトが震えている。地球の存在について半信半疑なルイズも彼の言うことが真実味があることを悟った。でも、だったらなおさら!
「あの怪獣を倒さないといけないってことじゃない!」
ルイズはこれ以上、自分の誇りある国の柱たる街を壊されてなるものかと、杖を手に取ってディノゾールに無謀にも立ち向かおうとした。無論これをサイトたちが止めないわけがない。相手が悪すぎる。
「何考えてるのルイズ!やめなさい!」
「止めろルイズ!お前ひとりでかないっこないだろ!」
正直言ってディノゾールは愚か、先日のクール星人も含めて敵う要素なんかこの世界には皆無だとサイトは思った。よほどのファンタジックなチート能力でもなければ、あの怪獣に対抗することなどできはしない。ましてルイズ一人で倒せる相手なら地球人は誰一人苦労することなんかなかったはずだ。地球にディノゾールが現れたあの日、GUYSの現隊長であるリュウを除いたクルーたちが戦死することだってなかった。
「離して二人とも!あんたたちは自分に馴染みのある街が教われて黙ってられるの!?」
「確かに嫌だってのはわかるさ…でも相手が悪すぎる!大人しく逃げるんだ!」
「でも!!」
ルイズが抗議しようとした途端、彼女たちの傍らにある店がディノゾールに切り裂かれて崩れ落ちた。一同はそれを目の当たりにして恐怖を覚える。さすがにルイズも黙らされた。
「ここは危険。いったん安全な場所に避難したほうがいい」
タバサは指笛を吹いてシルフィードを呼び出し、ルイズたちを全員乗せた。ルイズたちの隙を見たサイトは、シルフィードが街の郊外に飛び立とうとした寸でのところで降り、街の中に走り出した。ルイズたちは一秒でも早くこの場を離れることに気を取られていたためかそれに気づかず、シルフィードに乗ったまま街の郊外へ飛び立ってしまった。
その頃、トリスタニア城から出撃した魔法の先頭エリート部隊『魔法衛士隊』が、竜に乗って街を蹂躙するディノゾールに立ち向かって行く。
「トリステインの平和を汚す化け物め!裁きを下してやる!」
すでにトリスタニア城にはウルトラマンとクール星人の戦闘情報が行き届いている。だが
王宮の貴族たちにとって、放っておくことは、無謀だとわかっていてもできなかった。
次々とディノゾールの、目に見えにくい切り裂き攻撃によって倒されていった。
「わ、ワルド隊長!もう勝てません!逃げましょう!」
傷ついた兵士の一人が、巨大な鳥グリフォンに乗っている銀髪の貴族の男性に言った。『ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド』。魔法衛士隊のグリフォン隊の隊長。外見は老けて見えるのだが、若干26歳のスクウェアクラスの優秀なメイジだ。
「馬鹿者!我々が民を守らなくて誰が守るのだ!?」
レイピア型の杖を振りながら、ワルドは部下に怒鳴る。
「しかし、勝てないのはワルド隊長もご承知のはず…」
「ぬう…」
ワルドだって、ここで死ぬことはできなかった。彼には死ぬに死ねない大きな理由があった。それを果たすまでは、彼も死ねない身だった。
「せめて民や怪我人を待避させろ!まず王宮にいる姫様たちを最優先だ!」
ワルドの決断は犬死にではなく、救出だった。しかし、民より王宮の者たちを優先、どこか微妙なものに聞こえるかもしれない。だが民よりも貴族の方が政治の手腕に富んでいる。事後のことは彼らでなければ解決できないことが多いのだ。兵士たちは城の貴族たちをまず安全の場所に避難させた。
「サイトは!?サイトはどこに行ったの!?」
シルフィードに乗っていたルイズたちだが、シルフィードが空を飛び始めたときにはサイトの姿がなかったことに気づく。
「ダーリンがいないですって!?なんでこんな時に…?タバサ、もう一度降りて探したら…」
「だめ、危険」
キュルケがサイトの捜索をすべしと提案したが、タバサはそれに反対した。ディノゾールの攻撃がいつこちらに向くかわからない。その状況下でサイトの救出は困難だった。探している間にこちらがやられてしまう。
「でも、使い魔を見捨てるなんてできない!」
「それでもダメ、あなたが死ぬだけ」
それでも下ろすようにルイズがタバサにいうが、タバサは聞き入れてくれない。
彼女たちがもめている間にも、ディノゾールの攻撃によって町が荒れていく。神聖な始祖より与えられたと言ってもいい美しかった町並みが、醜い怪物によって打ち壊されていく。
その魔の手は、トリスタニアの城の方面にまで及ぼうとしていた。城から出撃した竜騎士のメイジたちがディノゾールに向かってありとあらゆる魔法を使って攻撃を仕掛けるが、ディノゾールは全くものともしない。風の魔法で切り裂かれても、炎の魔法で体を焼かれても全く持って動じなかった。お返しにディノゾールは逆に彼らに斬鉄を放って切り落としてしまう。斬鉄は、城の周りの地面さえも抉った。
「城が!姫様!」
城の付近まで攻撃され、ルイズの冷静さを奪い去る。
「ルイズ落ち着きなさい!」
キュルケがルイズに落ち着くように言った。
「だけど…!!!」
「あなたが一人熱くなったって状況は変わらないわ!ここはタバサの言う通り、避難しておきましょう」
「………………っ」
シルフィードによって避難先の街郊外へ向かうルイズたち。ルイズは悔しかった。使い魔であるサイトを見つけてあげられない上に、この国の手腕たちを助けられない無力な『ゼロ』の自分を、酷く恨んだ。
「逃げろおおお!!」「ママああああ!!」
民たちは一目散に逃げ出した。しかし、中にはディノゾールの斬撃により、無残に命を落とした者もいれば、命の惜しさのあまり他人を見捨ててしまう者もいた。
「あ!」
ディノゾールの攻撃から逃げる小さな男の子が、躓いて転んでしまう。ちょうどその時、子供だろうがお構いなしにディノゾールの口から斬鉄が飛ぶ。少年はもうだめだ!そう思って目を閉じた。しかし、自分が誰かに持ち上げられ、運ばれていくのを感じた。
青い模様の、変わった服を着た青年…サイトだった。街の人たちの避難を少しでもと、そして何より戦うために一人ここに残っていたのだ。
「大丈夫!?」
「う、うん!」
怪我がないか、サイトは尋ねると少年は頷く。
「さ、早く逃げて!」
背中を押すように少年の背を軽く叩くと、少年は「ありがとう!」とサイトに礼を言って駆け出して行った。
「…」
自分にとってディノゾールは、自分に地獄を始めて見せた恐るべき怪獣。見逃せば、あの時の自分と同じ痛みを味わう人が増えていくばかりだ。
『サイト、覚悟はできてるよな』
覚悟を問うゼロの声が聞こえてくる。
「ああ、ゼロ。力、もう一度貸してくれ」
そう、今ディノゾールに立ち向かえるのは自分たちだけだ。意を決したサイトは、左手を胸に当てると、天を仰ぐように掲げた。すると、あの時と同じように左腕のブレスレットの形をとっていたテクターギアが本来の形へ変形しながらサイトの体を包み込んでいった。
「私は、この城を離れることはできません!あなたたちから先に城を離れなさい!」
トリスタニア城。アンリエッタは自室のバルコニーから、火の手の回る城下町を見つめ、自分だけ安全な場所に移動することはできなかった。
「しかし、姫様はこの国になくてはならぬ存在なのです!ここに残るなど、危険極まりな
い行為ですぞ!」
マザリーニは必死の説得を試みるも彼女は頑として、バルコニーを離れようとはしなかった。その時、目映い光が突然現れ、一瞬彼らの視界を奪い去る。
「え?」
恐る恐る目を開くと、光の柱の中に城を背に立つ鎧を着こんだ巨大な背中が目に入った。光の柱はたちまち、テクターギアをまとったウルトラ戦士『テクターギア・ゼロ』の姿となって城の前にその雄々しい姿を現した。
「もしや、あの巨人が…魔法学院を救ったと言う巨人…!」
「デュ!」
ガッチリと、左拳を左脇腹にひっこめ、人差し指と中指を突き立てた右手を突き出す形でファイティングポーズをとる。
「キシャアアアアアア!!!!」
ディノゾールは突如現れこちらを見るゼロを敵と判断し、先手を打つと言わんばかりに舌による斬鉄攻撃でゼロを切り裂こうとした。スパッ!とものを斬る音が鳴り、ゼロはとっさに避けた。
間一髪か。ゼロに傷はなかった。しかし、ゼロの背後に建っていた城のバルコニーが、ポトリと落ちて砕けた。これは城にお勤め中の貴族にとって冷や汗をかかされるものだった。
「な、なんと…この国の象徴たる城に傷が…!!」
「城の石はスクウェアクラスのメイジを何人も動員させて作り上げたもの。その一部分を切り落とすとは…!!」
しかも危ないことに、姫君であるアンリエッタがそのバルコニーの近くでゼロとディノゾールの戦いを見ていたものだから、危うく命を落としかけたとも言えた。
再び、ディノゾールの舌を使った切り裂き攻撃が炸裂する。前転して避けたり、バック転しつつ避けたり、時に飛び上がったりしながら回避していくゼロ。だが、それを続けていくうちに街が瓦礫の山になっていく。
『ちょ!ゼロ!街のことも気に掛けろよ!』
サイトがゼロの中からダメ押しする。
「仕方ねえだろ!第一ぶっ壊れたんならまた直せば済む話じゃねえか!」
そんなあっさりと言い捨てていいことでもない。サイトは抗議しようとしたが、ゼロは話を聞かず、反撃の機会をうかがうためにディノゾールの斬鉄攻撃を避け続けていく。
「ちょと!少しは街に気を遣いなさいよ!」
ルイズがキュルケ・タバサと共にシルフィードの上で戦いを見ていたが、ゼロの荒い戦い方で街が壊れていくのを見て憤慨した。
街の人々は巨人と怪獣の戦いにハラハラしながらこの戦いが早く終わることを願い続けた。
『待ってくれゼロ!まだ逃げ遅れた子供がいる!』
サイトがそう言った時、ゼロの戦いの場のど真ん中にまだ幼い少女が恐怖のあまりその場に膝をついて泣き続けていた姿が目に入った。必死こいて逃げることさえも、足がすくんで動けず、しかも一人ぼっちの状態。無視してはならない…と普通なら思うだろう。
「今はそれどころじゃねえ!後にしろ!」
なんとゼロは、その少女の存在を無視しようとしたのだ。
『何言ってんだ!あの子たちの命がかかってるんだぞ!』
サイトが信じられないと声を上げたその時だった。ディノゾールの攻撃が、その動けない少女にまで及ぼうとしたのだ。もう放っておくことはできない。
『間に合えええええええ!!』
「な!?」
サイトはゼロの中で、その手を伸ばそうとした。すると、彼と同化していたゼロの体が、ゼロ本人の意思と関係なく動き出した。超特急で走り込み、地面を転がりながら少女をその手の中に放り込んだ。
「デュ!?」
予想通りゼロは子供を庇ったことで、肩に切り傷を負ってダメージを受けてしまう。偶然、アンリエッタは城からその光景を目にした。
「たった一人の子供のために自分が傷つくなんて……」
アンリエッタはこの光景に対して、巨人が敵ではないと言う確信を抱いた。国の次代を担う者としてはいささか軽率かもしれない。それでも彼女はそう思ってしまったのだ。
n傷の痛みをこらえながらも、サイトの意思で動くゼロは、その子供を手に乗せ、避難していた人々の前へ飛び降りて、その少女を地面の上に下ろした。
「ママ!!」
その子供は、母親の胸の中へ一目散に飛び込んだ。
「たかが平民のガキのために…」
幾人かの貴族たちは驚きを隠せなかった。得体の知れない巨人が、たった一人の子供のために命を張って守ってくれたなど、にわかに信じがたい現実だった。
「ち…くうしょうが…痛てえ」
傷ついた肩を抑えながらゼロはディノゾールの方を振り返る。ディノゾールは暴れることしか能がないのか、吠え続けてこちらに殺意をむき出しにしている。
このまま避け続けても埒が明かない。一気に止めを刺そう。
ディノゾールが再び細く見えない舌を振い、切り裂き攻撃をゼロに仕掛ける。それをかいくぐって行ったゼロは鎧で重くなった体をものともせずに、助走をつけながら駆け出し、空中回転しながらディノゾールに向かって炎を守った右足を突き出しながら急降下した。
〈ウルトラゼロキック!〉
「デアアアアアアアアアア!!!!」
ロケットのように降ってきたゼロの必殺の蹴り技は、ディノゾールの背中をボカッ!!と抉るように深く陥没させた。ゼロは後ろ向きに回転しながら地面に着地したと同時に、ディノゾールは力尽きてその場に倒れ伏したと同時に、体内の起爆物がはじけたかのごとく大爆発した。
「や、やった…!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
街を蹂躙した悪魔が、謎の鎧の戦士によって打ち破られた。トリスタニアの街の人々は飛び上がるほど大いに喜んだ。悪夢のような時間は、もう終わったのだ。
「ありがとう!ウルトラマーーーーン!!!!」
ゼロへの感謝の言葉が飛び交う。ゼロ自身、この声は決して嫌いではない。自分をよく思ってくれる奴がいるというのは心地よいものだと知っているから。
だが、彼はそれ以上に不機嫌だった。
「サイト、てめえなんで邪魔しやがった!?お前が余計なことしなけりゃ、もっと早くあの怪獣を倒せたってのに!」
自分の中にいるサイトに向かって、彼は不平を吐き飛ばした。余計なこと…それはさっき彼と同化していたサイトの意思がゼロよりも強く働いたせいで、ゼロはさっき逃げ遅れた子をかばって傷を負ってしまった時のことだ。大概のウルトラマンは身を挺してまで小さな目の前の命を助けるのが必然的に思えるだろう。だがゼロはそうではなかった。それが、サイトには許せなかった。同化しているゼロを巻き込み、迷惑をかけてしまったと言う罪悪感は確かにある、だがそれ以上にゼロへの不満が募っていた。
それは、地上からゼロの勝利に大喜びを示したキュルケと、そんな彼女に抱きつかれるタバサとは打って変わって、ルイズもどこか不満げな表情だった。
『バカヤロー!!!』
「あ?」
脳内に我慢ならなくなったサイトの怒鳴り声が響く。
『ゼロ、お前なんて下手くそな戦い方だ!!周りを見てみやがれ!!』
サイトに言われた通り、ゼロはトリスタニアの一帯を見て回った。
街は、ゼロとディノゾールの激闘の影響で酷く荒れていた。しかも、その爪痕の大半は、ディノゾールが町の建物を壊したこと以上に、ゼロが建物を踏み壊すことを全く躊躇しなかったことが最大の原因であった。
『それでもウルトラマンかよ!!何も…なんも守れてないじゃないか!』
悲痛な叫び声をあげるサイト。過去の怪獣災害で彼をはじめとした地球人は心に傷を負い、それでもその痛みを背負いながら生きてきた。その気持ちを、ゼロのような怪獣と戦う者はくみ取らなければならないはず。
しかし…。
「…は!お前の知ってるウルトラマンなんざ自分から人の道具に成り下がろうとする奴らばっかじゃねえか。だから周りに被害が及ぼうが、そんなの俺の知ったことじゃねえんだよ」
『!?』
人の…道具、だと…?こいつは、自分の同胞を…尊敬すべき先輩たちのことを『人の道具』だと?
「俺は俺の意思で戦う!俺の実力を認めさせるためにな!人間の道具なんかじゃねえ…俺こそが真のウルトラマンだって証明してやるぜ!!」
信じられなかった。ウルトラマンが…自分たち地球人にとって英雄たる存在である種族の戦士が、こんな非情なことを平気で言い放つなんて…。
『―――なんて野郎だ…!!』
こいつは地球を守ってきた英雄たちを平気な顔で見下している。
信じていたのに、見事に裏切られた気分だった。サイトは、ゼロに対して凄まじい失望感を抱いた。
―――こいつは、『ウルトラマン』なんかじゃない、と。
―――俺は、こんな最低な宇宙人と合体したと言うのか、と…。
一方でアルビオンのニューカッスル城。気分転換のためにバルコニーに出ていたウェールズだったが、突如見たこともない巨大なナメクジの怪物に襲われていた。
なんだ、この不気味怪物は!?これまでオーク鬼やトロル鬼などのような怪物がいることは聞いたことがあるのだが、こんな巨大なナメクジのような姿をした悍ましい怪物は見たことも聞いたこともない。杖を構えフライの魔法で地面に降り、彼は得意の風魔法で応戦する。
「く、エア・ハンマー!!!」
風の鉄槌が、ナメクジ型の怪物…『ブロブタイプビースト・ペドレオン』に炸裂する。
「ギエエエエエエ!!」
ウェールズの魔法を食らってのけ反るペドレオン。だが、致命傷に至るほどのダメージは負わなかった。寧ろまだ全然平気なくらいだ。魔法が全く通じないわけではない。しかし、これでもそれなりに精神力を振り絞って攻撃したと言うのに、この奇怪な化け物は平気そうだ。嫌にやわらかそうな体の割になんと頑丈なのか。
ふと、ウェールズの脳裏に先ほどの失踪事件対策の会議の光景が浮かぶ。レコンキスタとの戦いにおいて前線に赴いた王党派軍の者たちが次々行方をくらます…。
(まさか、最近我が軍から失踪者は多発していたのは…)
この怪物が原因だったのか!?突然現れ、人を食らおうとする。その習性をもつこの怪物ならあり得ない話ではない。
とにかく、こいつを早く倒さなくては。見たところこの化け 物は軟体動物。ならば切り裂く魔法で攻撃すればさすがに深いダメージを与えられるかもしれない。ウェールズは直ちに『エア・カッター』の詠唱に入ったのだが、その時ペドレオンの体から気色の悪い触手が伸び、ウェールズの腰に巻きつき、彼を引っ張り出した。
「キィイイイイイ!!」
「うああああ!!!」
ウェールズは近くの木にとっさに右手でつかまった。このまま食われてたまるか。力を振り絞ってペドレオンの拘束から逃れようとするが、ペドレオンはあまりにも力強く引っ張ってきている。悪いことに杖は今の拍子で落としてしまった。しかもこの辺りは人があまり来ない。助けを求めようにも、皆のいる場所から遠すぎる。それでも諦めきれない…否、諦めるわけにはいかない。だが、木に捕まっている腕にしびれが走り、木を掴む力が弱まっていく。もう限界だ。
杖を失い、ここに助けに現れる者が来るには時間がかかる。今の状況で応援が来ても、自分が助かる確率は低い。
(もう、だめなのか…!!)
――――諦めるな
何かがきらめいたような音が聞こえてきた直後、爆発音と衝撃が走り、ウェールズはペドレオンの触手から解放される。はじき出される形でバルコニーを転がった彼は、一体何が起こったのか確かめるべく、少し痛む体を起こした。
立ち上がったウェールズは、これまでの人生で最も驚くべきものとも取れる光景を目の当たりにした。
「………………………!」
ペドレオンがいたと思われる場所に、装飾の施された腕輪を身に着けた銀色の巨大な拳がバチバチと静電気を放ちながら突き刺さっていた。拳が引き抜かれ、ウェールズはその腕の主の姿を見上げる。
なんと雄々しく巨大な姿なのだろう。50メイル(ハルケギニア単位で、地球の単位で1メイルにつき1m)近くだろうか?美しい銀色のボディに、赤いY字型のクリスタル。そして白く光る眼差し。その目は、どこか暖かみを感じた。
「銀色の………巨人…」
これは夢かと思った。だが、目を擦っても消えない。銀色の巨人が自分を助けてくれたのだろうか?そう思っていると、巨人はスウッ…と霧のように消えていった。
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