MÄR - メルヘヴン - 竜殺しの騎士
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023話
「………良いじゃろう、竜の血を浴びし騎士よ。ドロシーを手伝ってくれ」
「ああ、元よりこの身はドロシーと共にある」
了承を得たジークはディアナを討つ事を許可されたが未だに肝心のドロシーは妄想に耽っており自分の世界に入り浸っている。そんな彼女に話をしようとするが全く反応しない、呆れながら溜息を漏らしながら軽くドロシーの頭を小突く」
「いたっ!ってあれっ?ジ、ジーくん私達のお家は?朝食は?」
「君は一体何を見ていたというのだ………妄想に耽るのは結構だが場を弁えた方が良いと思うぞ」
「ほえ?」
完全に何があったのか理解していないドロシーに頭を抱える、彼女が素敵な女性であることは重々承知してはいるのだがこのような姿を見せられては少し不安になってしまう。
「他の皆は?」
「ARMを貰いに行った、俺は大爺に聞きたい事があるから残った」
「わしに聞きたい事とはなんじゃ」
「ああ。このカルデアの人達についてだ、門兵を含め彼らは俺を見た時に驚き次の瞬間には膝を突いていた。それは何故だ」
それはドロシーやこの場に残っているギンタやバッボも疑問に思っていた事。彼らはジークを見た瞬間明らかにジークを敬っているような体勢になって彼に頭を下げた。臣下の礼をとっているのかように。
「ふむ、それは当然といえるじゃろう。ドロシーほどのレベルの者となると感じぬじゃろうがお主のような清らかな魔力を持った者は幻想の種族とされる竜の他ならない」
「竜……」
「そう、竜は我ら魔法使いや魔女にとっては格上の存在であり王のような存在に近い。それ故に彼らは無意識の内におぬしに敬意を示したのじゃろう」
竜。このメルヘヴンに生息する幻想種、それは人間や動物たちとは違う存在で魔力を有し操る存在。その中でもその頂点に君臨するのが竜、魔法を使うものにとって竜は崇めるもの、その為ジークは敬意を示されたのだろう。疑問が解消された所で城に凄まじい轟音と衝撃が響いた。
「なんだっ!?」
「外からだっ!」
「ドロシー急ぐぞ、嫌な予感がする!!」
真っ先に駆け出すジーク、彼の直感が良くない事を告げている。それに続くドロシーとギンタ、城から入った門を潜り崖下に広がるカルデアを見るがいたるところで爆発が発生し爆炎と煙が上がっている、これは明らかな第三者、しかも侵攻の物。
「ディアナッ!!!遂に、自分の生まれた国まで………!!」
怒りを滲ませるドロシー、欲望に染まりきった姉の行動に激怒し握り締めた拳。それはギンタやジークも同様であった。3人はディメンションARMで村へと降りるが其処は既に、火の手がそこら中に上がっていた。まるで襲撃されたヴェストリと全く同じだった。
「む、村が……!!」
「ひでぇ………」
「一体誰がこんな事を……」
「くっ!ウィング!!」
ウィングを発動したジーク、その翼で強風を巻き起こし一瞬で炎を飲み込み鎮火させる。それでも炎の勢いを一時的に食い止めているだけに過ぎない、自分の力の不甲斐無さを嘆くがその前にとある家に突撃した。
「ジーくん!?」
「ドロシーあれ!!」
ジークが飛び込んだ家の二階からは逃げ遅れた子供が二人おり炎によって逃げ場を失っていた、だがそこへウィングを使い空を疾走するジークが到着する。
「無事か!?俺につかまれ!!」
「ジーくん急いでまた火が!!」
「確り掴まれ!」
二人の子供を抱え翼を羽ばたかせて家から離れると再び業火に包まれる、本当にタッチの差だった。地面へと降ろすと子供はドロシーに泣きつく。
「チェスの仕業か………目的は解るか」
「恐らく、西の塔と東の塔、そして北の塔。そこには特殊能力を持ったARMの保管庫があるの、それが狙いの筈」
「なんて欲に忠実な奴らじゃ!ギンタ、ジーク、これ以上チェスの蛮行を許しては置けんぞ!」
「勿論だミスター」
「ああ!ドロシー!」
子供たちが落ち着いた所でドロシーも立ち上がりアンダータを発動した。ドロシーは東、ギンタは西、そしてジークは北へと転送される。
「………北か」
目を開けると後ろには巨大な塔、ARMの保管庫がある北の塔が鎮座している。此処ですべき事は敵軍、チェスの駒を迎撃する事。バルムンクを握り締め視界の奥から向かってくるチェスを迎え撃つ。
「おいみろよぉジークがいるぜぇ?」
「ああ、ラプンツェルをぶったおした野郎か」
「なら此処で倒して名を上げろぉおおお!!!」
50名以上のチェスの駒の先兵、全員がルーククラスの敵。今まで戦ってきたナイトやビショップよりは弱いが数で強さを埋めてくる。厄介な敵たちだが戦わないという選択種など存在しない。
「我はジーク、ジークフリード!竜殺しの騎士なり!!行くぞォ!!」
迫り来る敵をバルムンクで切り裂き、叩き切り、両断していく。
「ひ、怯むなぁ!奴とて人間!限界は来る!数で持ちこたえろォ!」
「デミ・サーヴァントを、なめるなぁあああああ!!!!」
怒りを露にしながら剣を握り締めるジークは鎧を、盾を粉砕しながら敵を討ち取っていく。拳は兜ごと相手の頭蓋骨を粉砕し、脚は盾を割りながら命を折り、剣は全てを切り裂き死へと誘う。彼にあるのは愛しい人の国を壊そうとする者達へとの怒り、彼に慈悲など掛ける必要性など無い。
「天を治める魔の邪悪なる竜は失墜し、世界は今、洛陽に至る―――打ち落とす!!
―――幻想大剣・ 天魔失墜!!!!!!」
宝具の発動、一瞬の内に放たれた最強の一撃は数十人のチェスの者達を飲み込み無へと還した。だがそれでも増援が止まらない、それほどまでにARMが欲しいのか。そこまでディアナの欲は深いのか、何故其処まで全てを欲するのか解らない。だが今やるべきは
「此処を、守る事だっ!!幻想大剣・ 天魔失墜!!!」
二度目の発動、尋常ならざる敵を打ち倒していくがそれでも敵は止まらない。三度、四度、五度。それほどまでに宝具を連射した所で漸くチェスの姿は見えなくなっていた。周囲の地形は抉れ、草一本さも生えていない。
「ハァハァハァハァ………」
思わず膝を付く、疲労が一気に体を襲ってくる。視界がぐらつきぼやけて行く、多量の魔力を消費した事で身体に著しい負担がかかり一気に精神を食い破ってしまった。目を開けている事さえ困難になっていくジーク、なんとか塔に寄り掛かったその時、時が止まった。
―――世界の時が止まった、空が、大地が灰色に染まって動きを止めている。その世界の中ジークは普通に思考し行動が出来ていた、この異常な世界の中で。
「(何だ、何だこれはっ!!?何が………っ!!!!)」
―――その時ほど、彼は血の気が引いた事は無いだろう。目の前に突如として出現した女に恐怖を覚えた。何の前触れも無く一瞬のうちに現れたそれはただ不適に此方を見つめていた。妖艶な笑みを浮かべながら己の中の欲望を隠す事無く放出しているその女を。
「欲しい……お前が……欲しい………!!」
「(お前、お前は………)一体何なんだ!!?」
漸く言葉を出したとき、世界は元通りに動いていた。目を凝らし周囲を探すが人の気配も姿も無い。
「(さっきのは一体………な、だったん、だ………)」
その思考を最後に、ジークの意識は、途切れた。
後書き
次回は遂にジークの新しいARMが来るぞ~!
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