DQ3 そして現実へ…~もう一人の転生者(別視点)
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ストロングなストマック
「あれがバラモス城………まだ距離があるのに、凄い威圧感ね…」
ネクロゴンドの洞窟を抜け、遠くに聳える重厚な城を見つめアルルさんが呟く。
大きく毒気を漂わす湖に囲まれ、禍々しい邪気を発するバラモス城。
中間管理職のクセに偉そうな佇まいだ!
「大丈夫…君なら勝てる、絶対に!だから今は、シルバーオーブの事を考えよう」
未だ手の届かぬ強敵に、多少なりともビクつく女勇者に優しい声で励ましを入れるお兄ちゃん。
ソッと肩を抱き寄せ、場違いな空気を溢れ出す。
う~ん…意外と女の扱いに慣れてきたみたい。
流石は息子さんですね…サラブレットだわよ!
そんな私の思考が気になったのか、チラリと此方を見て照れくさそうな顔をする。
だから私はサムズアップで受け入れた。
“遺伝子の所為なのだから気にする事はないのだよ”って!
私の心が伝わったのか、お兄ちゃんも後ろ手にサムズアップで返答する。
うん。良い感じ♡
私達はバラモス城を囲う大きな湖を迂回する様に北上する。
そこには小さな祠があり、荒れ果てた内部には1人の幽霊が佇んでいる。
「貴方はここの守護者ですか?」
牢獄の祠の時とは違い幽霊は既に現れていた為、お母さんも驚く事はなく普通に会話を持ちかける。
いきなり現れたサイモン幽霊に驚いたお母さんが可愛かったので、もう一度見る事を少しだけ期待していたのだが、平然とした態度に残念感を持つ私…
だから変わりに私がウルフに抱き付いた。
「きゃあユウレイこわいー!」
「え?……あぁ…うん…そうだね…」
だけどウルフの反応は私の期待と違ってたわ…
「違うー!あの男の弟子だったら、この場は“押し倒す”べきでしょう!」
「あぁそうか!…いやぁ、あまりにもマリーの演技がわざとらしくて…萎えちゃったよ」
だって本当は怖くないんだもん…
周囲を見渡すと、皆呆れた様子で私達を無視する。
そしてサクサクとシルバーオーブを手に入れ、祠を出て行っちゃった。
まさかお父さんにまで無視されるとは思わなかったわ!
外へ出て祠から距離を取ると、皆自然にお父さんの側に集まる。
当初から帰りはルーラで帰ると決めていた。
船もモニカさんに指揮されアッサラームへ引き返している。
バラモスのお膝元なだけあり、ネクロゴンドはモンスターが強力だ。
そんな土地に船を接舷させたまま、主力が留守になるのは大変危険!
帰りはルーラってのはお父さんから言い出したくらいなのだから…
よくよく考えるとお父さんって、凄くみんなの事を考えてるわよね。
そうは見えない様に振る舞ってるけど…
恥ずかしがり屋さんなのかな………違うかぁ。
「リュカさん。ちょっとルーラを使うのは待ってくれますか?」
なぬ!?
何を仰ってらっしゃっておりまするの?
ウルフが一人、ルーラ使用を止めにはいる。
ルーラで帰ろうよぉ!
「何で?もう一回洞窟を逆送するの?僕は別に構わないけど…みんなは大丈夫?」
大丈夫じゃない!
疲れ切っちゃって、しんどいフェスティバル。
「違うよ!俺さ、今ルーラの勉強をしてるんだ!だから1度試してみたくって…」
あぁ…お勉強の成果を確認したいのね。
「ほう!ウルフもルーラを使える様になったか…便利だよねルーラって!」
「いや、まだだから!勉強してきたので試したいって言ってるじゃんか!」
出来ると決めつけるお父さん。
失敗するかもしれないので、ムキになって否定するウルフ。
「大丈夫だよウルフなら!バビュ~ンとルーラを使えるよ」
「そうよ!ウルフならルーラぐらい簡単に唱えられるわ!」
うん。凄く頑張って勉強してたもんね。
ウルフなら絶対に成功させるわよ!
私はウルフに抱き付き信頼を露わにする。
そんな彼は恥ずかしそうに赤面すると、そのまま目を閉じて目的地をイメージする。
そして力ある言葉を発する…『ルーラ』と!
私の体はウルフに抱き付いたまま、彼と共に重力に反する…
そして淡い光に包まれたまま、空を高速で移動する。
体中に重力の束縛が戻ると、そこはアッサラームの目の前だった。
「や、やった!成功した!やりましたよリュカさ…ん?」
目を開け、ルーラ成功を確認し、師匠に報告しようと振り返る…が、そこには誰も居ない。
私は知っている…術者のウルフと、抱き付いていた私しか移転できなかったことを…
身近な存在過ぎて気付かなかったが、お父さんもポピーお姉ちゃんも凄い人なのだ。
二人とも船ごと大人数をルーラで運ぶ事が出来る。
決してウルフが非力なのではない…先人が偉大すぎるのだ!
非常に迷惑な話だ…
暫くするとお父さん達がルーラで現れる。
「お前…マリーと2人きりでイチャ付きたい為だけにルーラを習得したんじゃね?」
到着早々呆れ口調でお父さんがウルフに呟く。
もう…ルーラ自体は成功なのだから、それを褒めてくれてもいいじゃないのよ!
「え!?………えぇ、まぁ…それ以外に用途はありませんから(笑)」
だがしかし、私の彼は私の父の弟子に相応しい受け答えをする。
「だよねー!僕もコレのお陰で、遠く離れた愛人の元へと楽に行ける!(笑)」
でも、まだ師匠を追い抜く事は出来ない様だ…
愛妻の前で爆笑しながら答える姿は流石としか言えない。
「彼女と2人きりになる為の魔法が…いいなぁ…僕もルーラを憶えたいのですが!?」
え!?今の…誰の台詞?
「え!?…本気で仰ってますティミー君?」
大爆笑していたお父さんが唖然と問いかける。
「今の環境は僕にとって難易度が高いんです。あなた達の様なデリカシーの欠片もない人達と常に行動を共にしていると、恥ずかしがり屋の僕はアルルとの親密度を上げる事が出来ない!…そこら辺を解ってもらいたいですねぇ…」
はぁ~…成長したとは思っていたが、ここまでとは…
ポストリュカの座は簡単に譲らないって事かしら?
さて、アッサラームの町へ入り、私達は宿屋へと…
モニカさん達と合流し、近くの食堂で夕食をする事に…
「しかし真面目な話しティミー…お前がルーラを憶えるには、かなりの苦労が必要になるぞ!僕等の住んでいる世界では、ルーラは失われた魔法だ…先ずは魔法特性を付けないと、ルーラを理解しても使用出来ない!僕等の世界で生まれつきルーラの魔法特性を持っていたのは、ポピーだけなんだ…ズルイよね」
食堂の席に着き注文をした料理が一通り揃うと、お父さんが徐に先程のお兄ちゃんの冗談(だと思われる発言)を話題にする。
「まぁポピーは性格はアレですけど、魔法の才能は素晴らしいですからね…性格は最悪なアレですけど!」
ぷっ…
ホントお兄ちゃんはポピーお姉ちゃんの事となるとキツイわよね(笑)
お母さんと顔を見合わせて料理を吹き出してしまった。
「「汚いな…2人とも」」
あれ、珍しくハモったわよ。
「では、父さんはどうやって魔法特性を得たのですか?…そう言えばリュリュも、ルーラを憶える事が出来たそうですよ」
「本当に!?…そうかぁ…ベネット爺さんの所へ行ったのか…可哀想に」
あぁ…そう言えば私達がこっちの世界に来る直前に、そんな話をしてたわね…でも『可哀想』ってどういう事よ?
「確か…ルラフェン…ですよね!ベネットさんが居るのは。…一体そこで何をするんですか?リュリュも喋りたく無かったようですし…まさか変な事をされたのでは…?」
彼女の前で他の女の心配をするのはどうかしら?…妹とはいえ、惚れてる女の心配って…
「変な事は無い!そんな変な事する奴の所に、大切な娘を行かせたいするものか!そんな事する奴なら、とっくの昔に僕がぶっ殺してる!」
そりゃそうよ、だってお父さんも体験した事でしょうから…
………でも、ルラムーン草を採取して、大鍋で混ぜ合わせてドッカン!で、終わりじゃなかったかしら?
ゲームではそうよね。
「じゃぁ、何されるんですの!?私もルーラを憶えたいので、是非とも教えて欲しいですわ」
あんな便利な魔法は私も憶えたいもの…
勿体ぶってないで教えてよ!
「うん…リュリュの料理を食べた事あるよね…?」
「「はい」」
「僕はアレを食べきる事が出来る…まぁ、不味いけど泡ふいて倒れる程じゃない…僕にとってはね」
きっとどこかおかしいんだと思う…アレを食べきれるなんて…
「アレを食べきれるお父さんは、凄いと言うより何処かがおかしいですわ!」
「あははははは…でもね、ルーラの特性を得る為に飲む薬は、僕ですら気絶する不味さなんだよ!…それでも耐えられるかい?」
「「……………」」
え~…………あれ以上なの!?
「わ、私はムリですぅ…アレですらムリですから!」
ないわぁ…あれ以上はないわぁ~…
「ティミーはどうだい?」
「………あれ以上ですか…正直考えちゃいますね…」
「まぁ、お前にはもう関係かもしれないが、ルーラの薬を飲んだ事があれば、リュリュの料理は苦痛じゃ無くなる。…勿論、不味い事に代わりはないが…」
思い出しただけで食欲がなくなる…
「なるほど…それであのクッキーを平らげる事が出来たのですね…」
お兄ちゃんも感心してはいるが、食事の手が止まる…
他の皆さんも、話の内容から想像出来たのだろう。
誰も食べ物を口へと運ばなくなった…ただ一人を除いて。
勿論それは私のお父さんです。
強靱な胃袋と、強靱な神経の持ち主…
少しだけ羨ましいわ…
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