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RSリベリオン・セイヴァ―

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第六話「絶対神速」

 
前書き
セシリア戦です! 上手くかけたかはわかりませんが…… 

 
『案外やるな? お前……』
昼休み、電話の向こうはリベリオンズの日本支部基地に属する蒼真である。
最初は、自分がしでかしたことについて深く詫びろうとしたのだが、蒼真は怒るどころか逆に俺を褒めていた。
「え?」
『最近じゃあ、あそこまでガツンと言う男がいないからな?』
確かに、今の時代じゃあ男は大きな口が出せない。しかし、俺はそれとは違った意味で答えた。
「俺……社会人のころ、よくキレて上司に歯向かうことばかりしていましたから……多分、それが癖になったんだと思います……」
『ま、威勢がいいって証拠さ? それじゃあ、頑張れよ……あー、そうそう? 後から弥生も向かわせるからな?』
「えっ! 天弓侍さんを!?」
俺は、嬉しくなって先ほどの嫌な出来事を少しだけ忘れることができた。
『何だ、やけに嬉しそうだな? やっぱ、彼女のことが好きなんだな?』
「ち、ち、ち……違います! 俺は、あの子のことを人として好きって感じで……」
『あ、「好き」って言った』
「だ、だ、だから、そういう意味で言ったんじゃ……」
『ははは、冗談だよ? ま、俺だけはしばらくそこに行けないから、というよりも行きたくないから、代わりといっちゃあ何だが、弥生と、もう二人ほどメンバーを連れていく』
「あ、そのメンバーって……確か、等幻さんと飛電さんでしたよね?」
『お、知ってんのか?』
「ええ、テレポートルームでバッタリ会いました」
『なら、あの二人にも説明がしやすい。じゃあ、すぐにとはいかねぇが、明日の朝には弥生を送くる。彼女の制服姿に見とれて練習の手を抜くんじゃねぇぞ?』
と、ニタニタした口調で蒼真は電話を切った。
――弥生の、制服姿か……
IS学園の制服って、個人がデザインを自在に変えているから個性豊かって言うか、激しいんだよな? さっきのセシリアだって、スカートが異状に長いし、裾とかいろんな箇所にヒラヒラを付けてんし、まるでワンピースだ。
こうしたように生徒達の制服のデザインがバラバラだから個性が強すぎる。ゆえに、自分勝手な連中があふれそうで生徒指導も困りそうだな? ま、俺の知ったことじゃないか……
でも、俺が今来ている蒼真が改造したこの黒い制服を見ていると、俺も人のことを言えない立場かもしれない……清二や太智も俺と同じ制服を着ると思うけど。

昼食は、一夏と一緒にすまし、そのまま午後の授業も終えてようやく夕暮れ時の放課後になってくれた。
IS学園は、ただ単にISのことだけを勉強するだけではなく、通常の高校と同じように普通かもしっかり加わえられている。大嫌いな数学や国語には苦戦したが、それでもどうにか耐え凌いでようやく授業を終えることができた。
「いやぁ、狼さんが来てくれて助かりましたよ? さっきまで女子達が群れをなして後ろをついてくるんですから……」
「あ、そうなの……」
――何だろ? なんだか、嫉妬する……
ちなみに、俺の後ろには誰一人として後ろを歩く女子は居なかった。居たとしたら、後ろから指をさして連れと共に陰口を叩くビッチ生徒達ぐらいだ。
「そういえば、今から行く寮の部屋は狼さんと一緒でしたね?」
「ああ、そりゃあそうだろ? 男と言ったら俺とお前ぐらいだからな? ま、一夏が居てくれてよかったよ? 俺一人だったら今頃どうなっていたのか……」
「お礼を言うのはコッチですよ? いやぁ……アイツと一緒じゃなくてよかったな?」
と、一夏は胸をなでおろしてホッとしていた。
「ん? 何かあったのか?」
俺は一安心する彼に尋ねた。
「何かあったってもんじゃないですよ……小さいころからの腐れ縁と会っちゃったんですから」
「腐れ縁?」

今から数時間前、二時間目が終わった休み時間のことだった。一夏は休み時間になって早速、狼の席へ向かおうと席を立つ途端。
「……?」
ふと、誰かの気配に気付くと、そこにはポニーテールをした、やや険しい目つきの女子生徒がこちらへ尋ねてきた。
「どういうつもりだ?」
「は、はぁ?」
行き成りの発言に一夏は首を傾げると、彼女はさらに強く言ってくる。
「どういうつもりだと聞いている!?」
「な、何だよ? いきなり……」
突然、喧嘩を売られるような口調で話しかけられた一夏はムッとした。
「いい加減にしろ! どういうつもりで此処に来たのかと聞いている!?」
「……IS動かしちまったら、こーなってた……って、いうよりもアンタ誰だよ?」
「お、覚えていないだと!?」
ドンッと、机を叩いてさらに機嫌を悪くする彼女に、一夏は何か怒らせるようなことをしてしまったのかと驚いてしまう。
「お、おい? 何か気に障るような事とかしたか? 俺……」
恐る恐る尋ねると、彼女は静かにこう言う。
「今から、少しつき合ってほしい。話があるんだ……」
「え、でも……」
「……!」
今から狼の元へ行きたいんだけど……と、言おうとしたら少女はキリッと睨んでくるため、仕方がなく一夏は溜息交じりに彼女と共に屋上へと向かった。
「……で、話って何だ?」
屋上まで呼び出して、いったい何がしたいんだと思う一夏であるが、そんな彼の前に立つ少女は、屋上からの風景を宥めながらこう口を開ける。
「……覚えているか? 神社の道場でお前と共に稽古に励んだ頃を……」
「神社? 稽古?」
「篠ノ之神社、その境内にある道場でよく剣道の稽古に出向いていて、そこで私とお前は出会ったのだぞ?」
「……」
しばらく一夏は、過去の記憶を穿り回した。どれもこれも嫌な思い出ばかりでいい思い出といったら休みの日に食堂が実家の友人と共に家でゲームしたことぐらいだ?
しかし、逆に嫌な思い出の方をほじくってみると……なんとなくだが、小学校の低学年に姉の紹介で剣道を習い始めた思い出がある。その時、何かあると竹刀で叩いてきたり、怒鳴ってきたりして、意地悪ばかりしてきた同い年の子がいたような……?
「……あ! あのときの虐めっ子!?」
と、思いだしたかのように一夏は、彼女に向けてビシッと指を向けた。
「い、虐めっ子!? お前、女だったのか!?」
思わぬことを言われた少女は、目を丸くした。
「失礼な! 貴様は今まで男だと思っていたのか!?」
顔を真っ赤にして怒りだす彼女に、一夏は続けた。
「あの時……剣道で、先輩風吹かしながら俺だけを中心に虐めていたあの子か? お前」
「べ、別に、虐めていたわけではない!!」
「まぁ、別に過ぎたことはいいや? で、久しぶりだな? 何年ぶりだろ……」
何はともあれ、ようやく思いだしてくれたことに頬を赤くしながらニッコリ微笑む少女はホッと胸をなでおろす。
「それで……俺に何か用か?」
「べ、別に……久しぶりに再会したから……お、お前こそ! 何かしゃべったらどうだ? 一夏」
「え、ああ……そうだな? えっと……ゴメン、名前なんだっけ?」
「え?」
少女は、またもや目を丸くした。
「だってさ? もう随分昔なんだし……」
「篠ノ之箒だ!!」
またもや、彼女の怒号があがった。
「おっと、悪い……」
一夏は、この少女こと篠ノ之箒としばらくギクシャクした気まずい会話を続けた。
――早く終わらないか?
十分間の休憩が長く感じたのは初めてであった……

「……ま、そういうわけです」
「へぇ? そりゃあ災難だったね?」
そうですよ? だって、昔の虐めっ子と会っちゃったんですから……
――本当に、虐めっ子かな?
だったら、わざわざ二人きりになる必要はないんじゃないのか? そう思うが、一夏にとっては苦手な相手だったからそう思わなかったのだろう。
「まぁ、次からは絡まれても刺激させないようにしろ?」
「狼さん……これから三年間は、ずっと離れないで傍にいてくださいよ?」
「よ、よせよ?」
「とりあえず、今は狼さんだけが俺の希望なんですから、どんな時でも裏切らないでくださいね!?」
そうアップで真剣に言われると、流石に俺も頷くよりほかなかった。
「う、うん……」
IS学園の寮は、まるで高級ホテルのようだった。あちらこちらにオシャレな灯りが通路を照らし、さらには部屋にもパソコンやテレビなど、十分すぎるほどの設備が整えられていた。
「俺たち……どっかの高級ホテルと間違えたんじゃないんですか?」
一夏は想像以上の部屋を見渡して目を見開いた。
「なんだか……余分に金を使ってるって感じだな?」
近くのふんわりしたベッドに腰を下ろして、俺は贅沢すぎる設備に溜息を漏らした。
――俺たちの税金の半分は、大抵ここで使われているのかな?
そう思うと、苛立ちが隠せずにいる。
IS社会が到来してからというもの、日本を含む全世界の各地では貧富の差以外にも内乱や海外での問題に頭を抱えている。
お隣の中国と韓国では、貧富の差により各地で内乱やデモが後を絶たず、ヨーロッパでは女尊男卑に猛反発する中東の過激派による爆破テロで、逃げ込んできた難民が後を絶たない。さらにアメリカなどは、ISによるテロリストとの激戦の末、合衆国全域は富裕層らの大勢が住んでいる居住区域のインナーエリアと貧困層らが生活を余儀なくされる危険区域のアウターエリアとで分かれている。近々、ロシアとの関係も冷え切っているらしい。これらを踏まえて日本だけだろ? 今現在、最も平和な国といえば……
「……」
ベッドでしばらく横になって寛いでいると、再び携帯から電話がかかってきた。
「はい……」
俺は、携帯を開いた。
『狼、俺だ……』
相手は、蒼真だった。
「はい……」
『上層部からの伝達だ。一夏に、RSを使わせてみろっていう指令がきた』
「一夏に?」
『そうだ。ISを動かせた彼の体質にRSはどう反応を示すのかが知りたいらしい。とりあえず明日、弥生が彼専用のRSを持っていかせる。このことは、あらかじめ一夏に伝えておいてくれ?』
「あ、はい……」
『それと、RSでの訓練は弥生がマネージャーとして付き添ってくれるらしい。ラッキーだな? お前』
「べ、別に……! 俺は……」
『ま、とりあえず切るぞ? 明日はお楽しみがいっぱいで何よりだな?』
また、からかうように彼は電話を切った。

翌日、ホームルームで早々に転校生が来たとの報告があった。
クラス全員が騒めきだす中、俺だけはその転校生が何者かを知っていた。そして、彼女はお淑やかに教卓の前まで出ると、俺たちに向かって静かにお辞儀をした。
「今日から転向してきました天弓侍弥生と申します……」
――弥生だ!
当たり前だが、俺はやはり弥生の登場に驚いた。俺に取って、彼女はアイドルかマドンナのような存在である。それと……やはり、彼女特有の巨乳に目が釘付けに!
それと、身形は至って普通の制服であり、風紀に沿った純粋さが伝わってくる。やや、スカートが短いのに目が行ってしまう。さらに巨乳で、ムッチリした彼女の太ももに食い込む二ーハイソックスがまた何とも……

それからというもの、彼女はクラス中から注目の的になった。雰囲気からして弥生はおっとりした系のお姉さんタイプのようで、年上のような扱いを受けているらしい。
これもこれで羨ましいのだ。現に俺がクラスの中で一番最年長であるものの、やはりイケメンでもない男ゆえに一夏以上に目立たず、さらには孤立の一途を辿りつつある。
その後、弥生は昼休みでも引っ張りだこな状態で、俺に話しかける機会すらなかった。俺の元へ近づこうものなら、それより先に周囲の女子が遮るかのように弥生へ声をかけてくる。
一々、邪魔してくるかのようで舌打ちをしつつ、俺は放課後まで待ち続けた。

放課後、呆れた俺は我慢できずに自ら女子に囲まれている弥生の元へ向かおうとした。
――ビッチ共に何を言われようが知ったことか!
そう、俺は割り込む覚悟で弥生へ声をかけようとしたが、
「……あ! 鎖火さん!?」
俺が近づいてくるのに気付くと、弥生は周囲を囲む女子たちから抜け出して俺の元へ向かった。
「天弓侍さん?」
「お話する機会ができなくて、ごめんなさい」
「い、いいって……それよりも、大変そうだね?」
俺は、彼女の後ろを見た。そこには、まだ弥生と話足りない顔をしている女子たちがこちらを見ている。と、いうよりも彼女が俺の方へ向かったせいで睨んできているんですけど……
「何だが、視線がキツイな……?」
「御気になさらず。私も、あの子たちが苦手でして……ようやく鎖火さんがこちらへ来てくれたからよかったです」
「まぁ……アイツらが邪魔してくるようで何だかイライラしてさ?」
「う~ん……私もそう思いますね? なんだか落ち着きがなくて、想像していた以上に苦手な場所です」
やはり彼女自身も、ここが想像していたよりも嫌な場所だと思ったのだな。俺も、ここへ来たときは、吹っ切れそうになったことが何度かあった。
「さ、早く行きましょう? それと、一夏さんは……?」
「あ、一夏ね……」
すっかり忘れてた。しかし、運よく近くに居たようで、俺は彼を誘って弥生に会わせた……が。
「一夏は私と稽古を行う。邪魔はしないでくれ?」
一足早く、箒が一夏の手を掴んでいて彼を返してはくれずにいる。全く、こっちは大事な要件があるのに……
「ごめんなさい篠ノ之さん? でも、今とても大事なお話を一夏さんとしたいの……」
「い、一夏と大事な……!?」
途端に、顔を真っ赤にして勘違いをする箒に俺はため息をついた。
――ったく! 本当にムカつくな?
俺は、我慢できずに箒の前に出た。
「あのさ? 別に天空侍さんと一夏はそういう仲じゃないよ。ISに関する話だから、変な誤解はしないでくれ?」
俺はそう言うも、やはり彼女は未だに頬を赤く染めて一夏へ怒り狂っている。
「どうしてお前にこんな綺麗な人が居るんだ!? 私が居ない間に……!!」
しかし、そんな彼女を見兼ねた弥生は、懐から一枚の御札を取り出した。
「箒ちゃん?おいたは、めっ」
と、微笑みながら箒の額に御札を張り付けた。すると、彼女は石のように動かなくなり、表情もそのまま眉間にしわを寄せたままになって、ピクリともしなくなった。
「な、何を……?」
一夏は、箒の突然の異変に驚くも、弥生は落ち着いて彼に話す。
「大丈夫、ちょっと動きを止めただけだから。二時間ぐらいはこのままですよ? それにしても、ちょっと嫉妬深い娘なのね? 箒ちゃんって……」
苦笑いする弥生は、箒を宥めた。

「ま、お前に重大な話があるって言うのは嘘じゃない」
外で話すも、誰かに聞かれたら面倒だし寮の部屋で話が進められた。しかし、その前に弥生は部屋の周囲をキョロキョロ見渡し始めた。
そして、再びお札を取り出して何やらブツブツと唱え始めると、御札の力なのか、部屋のいたるところから何かの小さい影が浮かび上がってきた。その影は、壁や床を通り抜けて立体となり、最後には黒く小さな物体になった。その正体は……
「もしかして、監視カメラ?」
一夏が呟いた。
「……お二人とも、手伝ってください?」
と、彼女は俺たちと共に部屋中から浮かび上がったカメラをかき集める。すべて集めたころには、目の前に黒い山が出来ていた。
「やはり、IS委員会の仕業か?」
男性操縦者がこうも都合よく二人目が現れるなんて偶然とは思わなかったのだろう?
「しかし、俺たちを今日までこうした監視を続けていたと思うと、ムカつくぜ?」
「先ほど魁人さんが、IS学園の寮にハッキングしていたら、偶然見つけたという連絡がありましたので……」
ようやくすべて撤去したことで、弥生は落ち着いて一夏に重要な話を始めた。もちろん、RSのことと、リベリオンズのこともすべて話した。
もし、一夏がこちらへ従わない場合は、弥生の術によって一夏に話した記憶を消すまでだ。
「……RS?」
「外見は剣やら槍といった近術武器の形体をした武器のことだ。もちろん、それを装備しているとIS同様に飛行もできたり防御力も搭載される。また、稼働時間も存在しないため時間を気にせずに活動できる……と、いう代物らしい」
「本当に、そんなものがあったのか……でも、うれしいな! これで世の男性たちに希望が生まれる!!」
一夏は、歓喜なまでに喜んでくれた。当然、彼にもこの女尊男卑に関して反感は抱いているようで、常に空を飛びかうISを睨みながら日々を過ごしていた。
「それで……織斑さんに渡したいSRがございますが、受け取っていただけますか?」
と、弥生は両手に大事そうに持っている小さな真四角のケースを一夏へ指しだした。
「本当か? もちろん、受け取るよ!」
一夏は、悩むことなくケースを受け取った。早速開けてみると、中身はビー玉状の小さな球体が一つはいっている。
「一夏、ここで大事なことを言うが……RSは、人体と融合して一体化となる。仮にRSを捨てたいといっても二度とそれはできない。それでも、それを取る覚悟はあるか?」
俺は、そう一夏へ問う。
「つまり……体の一部になるってこと?」
「そうだ。あ、武器は常に球体になって体に溶け込んでいるから常日頃武器を手に握っているわけじゃないぞ? 取り出したいときに取りだせることができる。しかし……後悔のないよう選択してほしい。俺は、成り行きでこうなってしまったが……あと、RSを手にした以上、俺たちの仲間になって、共にテロ扱いされる恐れがある。もちろん、嘗ての友人にあえることも叶わない。それでも、本当にいいか?」
俺は、一夏に自分の境遇を簡単に話した。しかし、一夏の考えは変わらなかった。
「……構いません。俺、この世界が嫌いですから」
そういうと、一夏は制服の上着を脱ぐと、上半身の裸体を俺たちに見せた。彼の体には胸から背にかけて夥しい数の傷が刻まれていた。
「情けないことですが、女子数人に暴行されたんですよ?」
「え……!?」
弥生は、一夏の残酷な過去に穏やかな表情を変えた。
「女尊男卑の時代が訪れてからというもの、『織斑千冬の弟』、それだけの理由で俺を一個人として認めてもらえない日々が続きました。何か失敗したりカッコ悪いところを見られたりすれば、姉の熱狂的なファンの女子たちに激しい暴行や虐待を受けたりしました……」
――確か、一夏の姉は世界で有名なIS操縦者だ。後から聞いた話によれば、彼女はISの世界大会で優勝している。その大会の何回目かで、一夏は相手選手の手先に誘拐されて千冬は優勝を逃して一夏を救ったという。しかし、それが原因で一夏に対する女性らの反応は激変して、千冬とは対照的に虐待がさらにエスカレートしたらしい。
「こんな世界、バカげてます。だから、俺に「力」があれば、この世界を誰もが悲しまない平和な世界にしてみたいと何度思ったことか……」
「……」
俺は、無言のまま彼にRSの球体を握らせた。そして、強いまなざしで一夏を見つめる。
「狼さん……?」
「……お前には、これを受け取る資格がある。いや、義務だ……」
「……!」
一夏は、俺の手を強く握り返した。そして彼は、RS「白夜」を受け取ったのだ。

それからというもの、一夏は毎日空いた時間にRSの鍛錬を続けることになった。俺も負けてはいられまいと、来週に控えたセシリアとの決闘に備えて弥生と共にRSの練習を続けていた。
「……ッ!」
日曜日、ホログラムの映像を的に空いた時間にアリーナで稽古を続けているのだが……
「くそ! どうして空を飛べないんだ!?」
どんなに念じても、零は言うことを聞いてくれない。何か俺に足りない箇所があるというのか?
「どうすれば……!」
タオルを頭にかぶってドリンクのストローを加える俺の隣に弥生が座っていた。
「地上での戦闘技術は、ほぼマスターしたようですね? しかし……」
だが、一つ不安なことがあることは弥生も知っていた。
「どうやったら……飛行できるんだ?」
「とりあえず、零を信じてみましょう? 織斑先生には、『鎖火さんのISは、地上戦用の非飛行タイプ』と、伝えておいておりますので……」
「それじゃあ、ダメだ。俺は、セシリアと対等で戦いたいんだ」
俺は、そう自分の信念を弥生に言った。
「男として、ハンデは必要なく戦いに挑みたい……」
「鎖火さん……」
そんな俺を、弥生は見つめた。
「よし! まだまだやるぞ? 天空侍さん、もう少しつき合ってもらえますか?」
「はい、よろこんで!」
だが、結局その時間に飛行することはできずに終わった。
――結局、空を飛べることができずに終わった。俺に、いったい何が足りなんだ……?
悩みながら、俺は学園の廊下を歩いていた。しかし、そこで一人の生徒と違った途端、その生徒が振り向いて、叫ぶかのように声をかけた。
「ちょっと! アンタ!?」
「!?」
聞き覚えのある声に俺は振り向いた。そこには、懐かしみのある顔が俺を睨み付けている。妹の舞香だった。その様子だと、おそらく無事に学園生活をおくっているようだ……
「舞香?」
「随分と、偉そうにしているわね? IS学園で堂々と歩いていて、そんなに嬉しいの?」
何やら、馬鹿にしているようだが、いつものことだと俺は気にしない。
「……で、親父とお袋は元気にしているか?」
「はぁ? アンタ、勘当されたんだから家族もなにもないでしょ?」
「元気にしているのか? それともどうなんだ?」
俺はキッパリと問うと、舞香は溜息交じりに答えた。
「元気よ? IS委員会の人たちが、前もって保護してくれたから。どっかの犯罪者の元家族って言われながら生活するのだけは逃れられたわね?」
「……」
ムッとなるが、一様ニュースで報道されたんだ。否定はできない。
「そうか……皆、元気ならそれでよかった」
「アンタには関係ないでしょ!?」
「あー、そう?」
「フン……」
「じゃ」
そう言うと、俺は舞香を通りこした。しかし、
「待ちなさいよ?」
「ん?」
呼び止める舞香は、最後にこう言う。
「アンタ……イギリスの代表候補生とやるんでしょ?」
「それが?」
「今すぐ辞退して」
「やだ」
「辞退して!」
「お前にその権利があるのか?」
「ないにしろ、アンタの『元妹』って、知られたくないの!」
「……だったら、ひたすら誤魔化し続ければいいよ?」
「出来るわけないでしょ!? いずれは、バレちゃうんだから……」
「舞香」
俺は力強い口調で彼女に視線を向けさせる。
「……誰が何て言おうが、俺はやる」
「糞兄貴!!」
そういうと、舞香は駆け出していった。俺は追わなかったが、彼女の背を見えなくなるまで見つめ続けていた。
「俺の……せいか?」
――いや、違う。彼女が哀れなだけだ……
「家族も、哀れなのかな……」
――そうだ。家族もみな哀れな人間の集いだ。
「……勝って見せる!」
自信はない。けど、そう自分に言い聞かせるよりない。俺は、無理にでも強気になるしかなかった。
これだけは絶対に勝たなくてはいけない……

一週間後、検討当日。代サンアリーナでは一組のクラス全員が観戦のため出向いている。勿論、俺の戦いをみるよりも、代表候補生であるセシリアの戦い方を見るのが目当てだ。
アリーナは観戦客で大変盛り上がっている。
――結局、空を飛ぶことはできなかったな?
前日まで練習したが、結局飛行移動はできずに地上戦をメインで戦うことになる。千冬も、それを承知してセシリアへ事前にそう報告している。きっと、セシリアもそれを聞いて鼻で笑いながらこの条件を承認しただろう。
アリーナへの入り口で俺は制服を着たままRSを装着する。一様、あのIS専用のピチピチタイツなど恥ずかしすぎて着る気にもなれなかったから、裏政府に言って制服のまま装着を可能にするよう許可させてもらった。
「では、ご武を……」
最後まで弥生は俺に笑顔でいた。
「でも……」
飛行することがなく、ハンデはつけられて俺はシュンとしていた。
「大丈夫です。きっと何とかなりますよ!」
そう、彼女からガッツをもらいつつ、俺は無理にでも気を取り直してアリーナのフィールドへ足を踏み入れた。
一方のセシリアは、IS専用のカタパルトから離陸して静かに地面へ着地する。
「あら? よく逃げずに来ましたわね?」
上から目線でセシリアは見下した。しかし、そんな下らな挑発など今の俺は緊張のあまり無視した。
「当り前だ……」
「それにしても……その身形はなんですの?」
と、彼女は俺の身形を指摘した。制服に二刀の剣を持っただけの姿に、彼女はそれをISだとは認めなかった。勿論RSである。 
「そっちこそ、そんな『スクール水着』みたいなコスをしてよく恥ずかしくないな? 風邪ひくぞ?」
同じように俺が言い返すと、彼女は顔を赤くしてムッとするが、時期に落ち着いた様子を取り戻して、俺にこう返した。
「今なら、チャンスを上げますわ?」
「チャンス……?」
「今から私に跪いて忠誠を誓うのであれば……今までの無礼を許してあげてもよくてよ?」
「……いい」
俺は断った。
「そう? まぁ、ハンデはこちらにありますもの。手加減しながらゆっくりと可愛がって差し上げますわよ!?」
豹変した彼女は、俺から距離を置くと、遠方からのライフル射撃を行った。狙いは極めて正確だった。
「くぅ……!」
イギリスが開発した遠距離射撃級ISブルーティアーズ(蒼い雫)。その言葉とうり、遠距離射撃を主力としたISである。その恐ろしいほどの射撃の正確さに俺は苦戦を強いられる。
――このままでは……!
だが、俺は走りだした。RSを身に着けた人間の走る速さは時速500キロ、その走行速度でセシリアへ突っ込んでいく。さすがに地上用のISでもこの速度で移動することはできるはずもない。
射撃に当たるのを覚悟で俺は突っ込んだ。
「は、早い!?」
セシリアは、突然肉眼ではとらえにくくなった狼の姿に戸惑いながらもライフルで射撃する。しかし、彼女の射撃能力では彼に標準を捉えることはできずにいた。
後ろへ回り込みつつ徐々に距離を攻め続ける俺に、セシリアには焦りが見える。
流石に間合いを詰められたセシリアに反撃の手段などない。俺は攻撃を手を緩めずに零で斬り付ける。
しかし、いくらダメージから逃れるためだからとはいえ、彼女は非常にも上空へと飛び上がった。
「なにっ!?」
「こ、小癪な……!」
彼女は上空から射撃を続けて、地上にいる俺を狙い撃ちした。正確な射撃能力を加えた乱射に、俺は逃げ惑うことしかできなかった。
「卑怯だぞ! 上空での戦闘は禁止されているんじゃないのか!?」
「お黙りなさい! 女性に反論するなんて、生意気な……!!」

「鎖火さん!?」
突然、劣勢に立たされた俺を、弥生は必死に見守った。

「織斑先生! こんな試合、早く中断させてください!?」
一方の一夏も、この試合はセシリアの一方的な反則負けになるべきと、千冬と真耶のいる観戦室へと押しかけてきた。
「いや……しばらく、鎖火の対応を見てみたい。試合は継続させる」
「あんた……それでも、教師かよ!?」
一夏は、そんな千冬の非情さに見兼ねた。

「くそぉ……!」
――このままだと、間違いなくやられる。今はこうして防御を続けながら、どうにか耐え凌いでいるものの、この防御力も長くは持ちそうにない。
「こんなとき……!」
――こんな時、零の力で空を飛べたなら……
「どうしたのかしら? 怖気づいて声も出ないんですの!?」
いつのまにやら、高笑いするセシリアはすでに勝ち誇っていた。くそ! ルール違反している奴が勝者を気取りやがって……
俺は、不可能でも必死で零へ語り返た。
「零、頼む……!」
――頼む、飛んでくれ……!
「俺に……力をくれ!」
なおも攻撃は続く。防御力はあと数分も持ちこたえそうにない。
――飛んでくれ……零!
「零……!」
――飛んでくれ! 飛ぶんだ!!
「空ヘ……」
――舞い上がれ!
刹那、セシリアの放った一発が俺のいる地上へ直撃し、辺りは砂煙にまみれて視界が見えずらくなる。
しかし、煙がさっても、そこに俺の姿は消えていた。何故なら……
「ッ!?」
ふとセシリアは自分よりも一方上の蒼空を見上げた。そこには、俺が浮上していたのだ。
「零……!?」
――零が……飛んだ?
そう、零が飛んだのだ。奇跡にせよ、これで対等に戦える条件は成立した。

「鎖火さん……」
絶望的戦況から生まれた奇跡に、弥生は涙をこぼした。

「狼さん……」
観戦室から見る一夏も、俺の異変に目を見開いた。
「ほう……あれが、アイツの力か?」
千冬は、険しい表情で狼の姿を宥める。

「そ、そんな……! あなたのISは地上戦用ではなくて!?」
非常識だと、セシリアは非難するが、俺はそんな彼女を非難した。
「反則まで犯して相手をいたぶるお前に言われる筋合いはないな!?」
「馬鹿にして……!」
「こい、セシリア! 勝負だ!!」
いざ、第二ラウンド開始だ! もう、これ以上は好きにさせやしない!!
「これでも……!」
セシリアは、ライフルを放ちつつ、背後に装備されたミサイルもつかって弾幕を作る。しかし、俺はそんな攻撃をものともせずに一直線に突っ込んでいた。
――早く! もっと早く!!
誰よりも早く、誰にも追いつけない速さを……
――風よりも……光よりも早く!
風を斬る音もなく、光をも見えない速さで……
「いっけえぇ!!」
刹那、俺の姿はフッと消える。代わりにセシリアはダメージを受け続けていた。しかし、誰が彼女にダメージを与えているのかは定かではない。ただ、金属の甲高い音と、火花だけが散って見えるだけ。そしてそれに苦しむセシリアとブルーティアーズの姿だけしか上空には見えない。
そして、
「これで……!」
次の瞬間、セシリアの間合いに俺が現れた。零双方を振り下ろしてトドメを決める!
「どうだぁー!」
この攻撃で、セシリアはアリーナの地面へ叩き付けられた。勿論、彼女のシールド残量はゼロとなって、勝利は確定した。
(試合終了 勝者、鎖火狼!)
勝利の報告がアリーナに響き渡った。

「やった! 狼さんが勝ったぞ!?」
一夏は、観戦室で歓喜になって飛び上がった。

「鎖火さん……!」
奇跡とはいえ、勝利を掴んだ狼の勇姿に、弥生は見惚れていた。
「天弓侍さん、勝ったよ?」
そして、目の前に降りったった狼へに、弥生は嬉しさと共に、涙を散らして彼の胸へ飛び込んできた。
「て、天弓侍さん!?」
途端顔を真っ赤にする俺はパニック状態になった。
「よかった……本当に、よかった……!」
――弥生……
そうか、こんなにも喜んでくれたのは、彼女が必死で俺を応援してくれていたんだな?
静かに、俺は彼女の鮮やかで黒い髪を撫でた。
 
 

 
後書き
予告

突如現れた一夏の二人の目の幼馴染、しかしそんな彼女はわがままで勝気な性格。振り回されて俺はもうヘトヘトさ?
次回
「大陸の猛者」 
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