RSリベリオン・セイヴァ―
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第五話「女子高なんてナンボのもんじゃ!!」
前書き
原作通り、セシリアの喧嘩を買うところまで。
前回までのシリアスな展開はポツリと切れました。暗いような話は全くありません。
日本時間午後3時、リベリオンズ日本支部にて
高度数万メートルの地点に浮かぶ、日本支部の要塞に位置する訓練場では、毎日のように零の訓練を行っていた。
あれ以来、零の展開ができるようになったのはいいが、まだRSとしての機能は完全に整ってはいなかった。
RSは、IS同様に飛行も可能である。しかし、今の零には飛行機能がロックされていた。
魁人は、さらに零の解明に熱中し、蒼真は引き続き俺の稽古をしてくれる。
弥生は、普段は玄那神社に居るときが多いが、周に2回ぐらいはこっちに来てくれて家事を一緒に手伝ってくれる。ちなみに俺は住居ができるまで蒼真の自宅で世話になることになった。よって、かわりに家事全般をこなすようになる。と、いうよりは、蒼真は俺同様に不器用ゆえ、代わりに慣れないことばかり押し付けてくる。
一様、居候という身でもあるため慣れない作業を不器用な手でこなしていくことになる
苦労ばかりするが、今では徐々に慣れてきて、少しずつここの暮らしにも慣れてきた。
それにしても……蒼真の不衛生な私生活はどうにかならないものか? 彼が帰ってくれば目の前には散乱したゴミが広がる部屋が目に飛び込んでくる。
*
「やれやれ……どうして、蒼真さんは片づけとかしてくれないんだ? ビールの空き缶ぐらい自分で捨てろっつうの! せめてゴミ出しぐらいは自分でやってほしいよ……」
俺は、そう愚痴りながらゴミ袋を片手に散らかった部屋を片付けていた。もちろん、蒼真が散らかした部屋だ。
「よう! 狼、今帰ったぜ?」
そうご機嫌よく玄関から蒼真の声が聞こえた。ちなみに今の時間は夜の10時だ。
「おかえりなさい、蒼真さん……」
俺はため息をついて玄関へ向かった。どうせ、今日も飲んできたんだろうな……ま、いつものことだけど。
「水持ってきてくれねぇか? 狼……」
鎖火狼、それが今の俺の名前だ。指名手配犯になってしまった以上、正体を偽って九条飛鳥という旧名を捨てたのだ。
本当は、こういう派手な名前にするつもりはなかったのだが、蒼真が「どうせ名前を変えるならカッコいいのにしろよ?」と、言って彼が考えてくれた名前だ。それに、自分でもこの名前は結構気にっているから別に嫌ではない。
「蒼真さん、言いたくはないですけど……少しは、自分で片づけたらどうですか?」
「えぇ~!?」
ソファーに座る蒼真はさらに酔いがエスカレートする。
「だって、いいじゃないのよぉ? 狼君が居てくれるんだしぃ~」
酔った蒼真は、お姉言葉になるのが癖だ。
「……つうか俺、もうじき隣にできる家に移り住むんで、いずれはここ出てくんすけど?」
「……」
途端、蒼真は顔を真っ青にした。つまり、今まで自慢していた私生活が総崩れになって、またあの散らかし放題の部屋へ戻ってしまう。ちなみに、俺は蒼真の自宅の隣に魁人が新しい住宅を建ててくれるらしい。おそらく、魁人は蒼真の不衛生な生活に苦しめられている俺を思ってしてくれたのだろう?
「狼君! 行っちゃいやぁ~!!」
蒼真が勢いよく抱き付いて泣いてきた。
「うわぁ! は、離せぇ!?」
「いがないでぇ~! 蒼真お兄さんはね!? 狼君が居ないと死んじゃうの~!!」
「だったら、俺と会う前はどうやって生きてきたんだよ!?」
激闘の末、俺は蒼真を離して息を整えた。
「ったく! 蒼真さんは酒癖が悪いんだから困るよ……」
「あぁ……今の俺じゃ一人じゃ生きていけない~……家事したくない、仕事もしたくない、誰か蒼君の面倒みてぇ~?」
「このダメ人間っ!!」
とりあえず蒼真に水を与えて酔いを覚ませた。数時間経てば、お姉言葉もしなくなり、いつものチャランポランな青年に戻った。
「気分はどうですか?」
「あぁ……なんとなく覚めたかな?」
蒼真は、ソファーに座りつつ懐から一枚の紙を取り出して俺につきだしてきた。
「ほら、土産だ」
「なんスか、これ?」
俺は、その紙を見た。それは……入学届?
「どうしたんですか? 入学届なんて」
「話すと長くなるんだけど……て、いうよりもその書類をよーく見ろ?」
「よーくって……えっ?」
俺は何処の入学届かを確かめて、一瞬目が点になる。
「え、え、ええぇー!?」
紙を握る手をプルプル振るわせて俺は、蒼真へ尋ねた。
「ど、どういうことです。これ……?」
「まぁ……その、何だ? お前には、女子高へ行ってもらおうと思って?」
「俺、男ですけど?」
「すまない、お前にはどうしても行ってもらいたいんだ」
「いや、具体的にどうしてこうなったのか説明してくださいよ!? どうして俺が「IS学園」なんかに入学しなくちゃいけないんですか!? っていうか、俺は今年で二十歳ですよ!? 良い年した若いのが今更学校に行けだなんて恥ずかしくて嫌ですよ!?」
「それもこれも、零の模擬試験のためにやることだ。裏政府の要請でIS学園での対IS戦術を行い、そのデータを取るように言われたんだよ?」
「だったら、こっちにISが動かせる女性を模擬相手にすればいいでしょう?」
「そうしたいんだが……この基地には敵の襲撃を防ぐために特殊な対IS用電磁波を流している。もしIS操縦者が、この基地に潜入してISを展開しようとしても、その電磁波によってISはエラーを起こして展開されなくなる。それにド素人が相手でも練習にならないだろ? 裏政府は、零をISの代表選手や代表候補生などの強者らと戦わせたいらしい……」
「そんな……! 俺だってド素人ですよ!? いきなりISの代表レベルとか……」
「仕方ないだろ? 何時も俺との稽古で培った成果で対応するしか他ねぇぜ?」
「でも、まだ零にはISみたいに飛行機能なんてありませんよ!?」
「それに関しては魁人を信じるよりほかない。大丈夫だ、お前の後から仲間を少しずつ派遣させていくから。当然、俺や弥生も様子を見に来るからそう心配すんなって?」
「……」
どれだけ言われ様とも、やはり不安なものは不安だ。だが、それが裏政府直々の命令とあらば、こちらとて断ることはできない。ましてや、上司なのだから……
「……わかりました。何とかします」
「すまないな? もし、何かあったら連絡しろ?」
「でも……俺って、指名手配されてんでしょ?」
「ああ、その心配はいらない。各国の裏政府が多額の賄賂を回して日本の警察を黙らしておいたらしい。確か……数十億やるから九条飛鳥(鎖火狼)を無罪にしろって言ってたっけ?」
「す、数十億!?」
俺は目を丸くした。たかだか、一人の人間のために数億円もの大金をかけるとは、スケールがデカすぎる。
「じゃあ……もう俺は、本名を偽る必要はないんですか?」
「必要はないが……お前はどうしたい?」
「……」
もちろん、九条飛鳥という忌々しい名前は好きになれない。やはり、この鎖火狼という名をこれからも使い続けるとしよう。それに、俺はもう勘当された身なのだ。
「鎖火でいいです」
「九条家が許せないか?」
「九条家って言うよりも、その家族から勘当された身ですから、逆に本名を使ったら迷惑ですしね?」
「ったく、どこまでお人好しなんだか……」
「……で、いつ俺は行くんですか?」
「明日の8時30分までに来いと?」
「え?」
俺はふと時計を見た。短い針が、2のところを指していた。
「ゲっ! もう夜中の2時じゃん!? こうしちゃいられねぇ……早く準備しないと!」
すぐさま蒼真に持参品を聞き出そうとするが、
「むっふっふ! こういうこともあろうかと、準備は全部俺がしておいてやったぞ? それと、制服もだ!!」
そういうと、なにやら学ランのように真黒な制服を俺によこしてきた。
「これ……何ですか?」
「IS学園の制服を見たことがあるか?」
「ええ……まぁ、ありますけど?」
時折、街中でIS学園の生徒達を見ることがある。しかし、彼女たちの着る制服はこれとは対蹠的に「白」がベースの制服だ。
「男性用として俺が、改造しておいてやったぞ?」
「い、いいんですか? 学園が指定したのじゃないと……」
「んじゃあ、お前もミニスカートを履くか?」
「そう言うことじゃなくて、男子用でも色は白いはずですよ?」
俺は何度も抗議するが、蒼真はどうしても自分が改造したこの真黒な制服を着てほしいといわんばかりに進めてくる。
「……どうしても着ろと?」
「と、いうよりも貰った制服は全部同じように色を塗ったりして改造した」
「そんな……」
「これぞ、男子専用の制服ぞ?」
「着ていく度胸がないな……あ、でも案外カッコいいかも?」
「だろ!?」
制服を広げてみた。一面黒いとなんだかクールでいい。さらに、肩には肩章モールなどもつけられており、まるで軍服であった。
「でも……まるっきし軍服ですね?」
しかし、すこしコスプレっぽい。これを着て街中を歩くのは少し勇気がいりそうだ……
「男子専用IS学園の制服と偽って、リベリオンズの制服として改造したからな?」
「あまり、目立たない方がいいですよ?」
「なに、裏政府がバックにつけばIS学園で何しようが知ったことじゃない。裏政府=政府だからな?」
「まぁ……責任はそちらが取ってくれるならいいですけど……」
どうにも抵抗があるが、蒼真がどうにかしてくれるのなら、彼を信じて俺はこの学ランを纏うことにした。
「それにしても……蒼真さん以外のリベリオンズって、まだ会ったこともありませんね?」
ふと、俺は蒼真に言う。この基地に来てから同業者とは話をしたこともない。たまに歩いているとこで軽く会釈をし合うぐらいだった。
「連中にも、いろいろとやることがあるのさ? 運悪く紹介する機会がないだけだよ? そいつらも学園へ向かわせることになる。その時には自己紹介するよう俺から話を付けといてやる。何しろ、新しいダチが入ったってことで、皆お前と話したがっているぞ?」
「ほ、本当ですか……?」
どうも、ボッチの俺としては苦手な展開である。
「そんじゃあ、明日に備えて今日は早く寝ろ? 準備する荷物は玄関に置いてある」
「ありがとうざいます。それじゃ、おやすみなさい」
「おう……じゃあ、明日は懐かしの学園生活でも満喫してきな?」
「は、はい……」
――学園とか、本当は苦手なんだよな?
俺はそう心に呟いた。学生時代はロクなことしかなく、友達と呼べる人間もいなかった。どちらかといえば、暗い学園生活を全うしたものだ。
*
翌朝、俺は蒼真に叩き起こされた。不覚にも寝坊をしてしまったのである。
「狼、早くテレポートルームへ行って来い! 8時半十五分前だぜ?」
「は、はい!」
せっせと忘れ物がないかを確認しながら、俺は黒い改造制服を着て血相をかきながら蒼真の家を出た。
この基地は、地上へ向かう時にはテレポートルームを使用して地上へ降りるのだ。扱い方はとっても簡単だ。目的地を言うだけで音声入力として起動し、使用者を目的地へ一瞬でテレポートしてくれる便利な代物だ。
――やっべぇ! 遅刻するぅ!!
学生時代、寝坊してドタバタしたていた頃の朝が妙に懐かしく思いだした。
「急げ、俺ー!」
居住エリアの歩道を突っ走り、テレポートルームの建物に押しかけてさらに通路を一直線に激走した。そして、目の前の角を曲がろうとしたときだ。
ドンッ……!
「うあ!?」
突然目の前に人が出てきて俺はぶつかってしまった。
「い、いてて……あ、すみません! 大丈夫ですか!?」
俺はとっさにぶつかった相手に歩み寄って詫びを入れた。
「あ、ああ……俺の方こそ悪いな?」
ぶつかった相手は、俺よりも大柄で太った青年だった。しかし、温厚で優しそうな顔をしていて俺はホッとした。相手がチンピラみたいな奴だったらどうしようって思ったぜ……
「大丈夫か? 清二」
すると、清二と呼ばれるこの太った青年の後ろからまたもう一人彼と同い年に近い青年が来た。
大柄な体系の青年とは違って、ヒョロッとした細い体をした青年だ。
「ああ、俺は大丈夫だけど……」
「ん、アンタ……確か、練習場で蒼真の兄貴と一緒に居た……?」
すると、細い青年は俺を見てジロジロと宥めた。
「ああ、零を展開することができたっていうあの!?」
思いだしたかのように手を叩いて細い青年は当てて見せた。
「まぁ……はい」
俺は苦笑いして細い青年に頷いた。
「へぇ? 新しいダチっが来たって蒼真の兄貴は言ってたけど、やっぱりコイツがそうか!」
と、細い青年は俺に手を差し伸べた。握手だ。
「俺、等幻太智。RS楼幻の装着者だ」
「……鎖火狼だ。こちらこそ」
俺は、彼の握手を握り返した。すると、隣に立つ太った青年も俺に歩み寄り握手を求めた。
「俺は、飛電清二。RS雷豪の装着者をやってるんだ」
「そうか、よろしく!」
清二の大きく温かい手も握りしめたが、俺はとっさに今の状況を思いだした。
「……あ! やべぇ!! 遅刻だぁ!?」
俺はすぐさま目の前のテレポートルームへ走りだす。
「じゃあ、また後で!」
後ろの二人に言って、俺はすぐさまテレポート装置のフィールドに入って音声入力を早口言葉で言い始める。
「あ、``Iエツ学園``! あ、舌噛んだ……」
「了解、音声入力『アイエツガクエン』ヲ認識シマシタ。コレヨリ、目的地ヘ転送シマス」
そして、フィールド周辺から光の枠が俺を囲み、光と共に俺は転送された。
藍越学園にて
「……あれ?」
――あれ、IS学園って普通の校舎の形をしてんですけど……
――あれ、IS学園って男子とかも大勢登校してんですけど……
――あれ、ここってIS学園……?
正門を見ると、「藍越学園」と書かれていた。そして、周囲の学生たちは自分たちとは全然違う変わった制服を着る俺に怪訝な視線を向けていた。
「……」
俺は一旦黙ってから、大空に向かって叫んだ。
「ここどこおぉ~!!??」
早い話、行く学校を間違てしまったのである……
*
IS学園、そこは各国から選び抜かれた若者たちが最先端技術を結集し建造されたIS育成高等学校である。
しかし、ISというのは女性でしか扱えることのできないパワードスーツ、つまりIS学園は我々から言う「女子高」というものであった。
しかし、そんなIS学園に一人イレギュラーとなる人物が現れる。
「これは……さすがに、キツイ!」
女子に囲まれた教室のど真ん中の席に座る一人の男子生徒。
織斑一夏、その人だ。彼は、藍越学園の試験会場を間違えてウッカリIS学園の試験会場へ入ってしまい、そこに置かれていたISに触れた途端、突如起動してしまったのが発端となり、今こういう状況に至るのだ。
背後の席から女子たちが彼を疑う目線でジロ~っと見つめてくる。やはり、IS学園は女子高ゆえに男子禁制なのだろう?
「皆さん、入学おめでとうございます! 私は副担任の山田真耶です。この三年間充実した楽しい学園生活を送りましょう?」
教室から眼鏡をかけ、黄色いワンピースをきた副担任が、教卓から浮かび上がるホログラム映像の名札と共に自己紹介を述べる真耶だが。彼女の紹介は織斑一夏の影響で生徒たちは視線を彼に向けており、彼女の自己紹介はスルーされたも同然となった。
「あ、あれ……?」
何気にスルーされて気まずい雰囲気に包まれていた。
しかし、次に教室へ現れた女性教員は真耶のとは違ってクラス全員の注目を浴びることとなる。
「諸君、私がこのクラスの担任を務めることとなった織斑千冬だ。君たちをこの一年間でISの基礎知識を徹底的に教えつける。時に歯向かってもいいが、私の言うことには従え! いいな?」
この、暴君的宣言をする彼女は一夏の姉であり、過去にISの世界大会で優勝を手にした世界最強のIS操縦者でもある。よって、クラスがこのように盛り上がるのは無理がない。
周囲の女子から黄色い歓声がわんさかと聞こえた。
――キャー! 千冬様よ? 本物の千冬様だわ!?
――私、千冬様に憧れてこの学校に入ったんです。北九州から……
「全く、こんな馬鹿どもをどうして私の組に押し付けるのだろうか……?」
――やれやれ、あんな姉貴の何処がいいんだかね……?
しかし、周囲とは対照的に一夏だけは自分の``姉``がこんなに人気者だとは理解に苦しんだ。
この千冬こと、織斑千冬は一夏の実の姉だ。しかし、ISの世界大会後に突如行方を絶ったので一時期は心配していたが、IS学園の脅威をやっていたのかと思うと、呆れてため息が出た。
彼、織斑一夏は姉の千冬を嫌って避けていた。彼女とは不器用な自分とは大きな劣等感があったからだ。それは、また次の機会に話すとして、一夏は何度も姉を見るたびにため息をついていた……
「……ところで、山田先生? 織斑一夏以外にもう一人男子生徒が来るはずだが?」
「ああ……そのことですけど、何だか場所を間違えてしまって、少し遅れてくるそうです。おそらく、藍越学園と間違えたのでしょう?」
「まったく、どっかの誰かと同じようなミスをする奴もいたもんだな?」
と、千冬は一夏をチラッと見てからそう呟いた。
――このバカ姉貴、テメェ教員なら連絡ぐらいしろよ?
教師なら遅れてくる生徒に連絡するのが筋だというのに、それもしないとは……心底、教員の器とは言い難いことに一夏は再びため息をつく。
「すんません! 遅くなりました!!」
だが、唐突にも遅れてきた例の男子生徒が現れた。
自分たちとは、ましてや一夏の着ている制服とは違って、黒く彩られた制服にモールの付いた肩章、左右に分けられた六つのボタン。それはまさにコスプレに近い軍服を思わせるかのようなデザインである。
「遅れてすみません! こちらに入学することになった鎖火狼です……」
「遅いぞ? はやく空いた席に座れ……」
千冬の冷たい口調に一瞬ビクッとするも、狼は大人しく空いた席に座った。しかし、彼が来ても周囲の女子たちは一夏のように興味深い目で見ることはなかった。
何故なら、彼は一夏のような「美少年」ではないからだ。彼のようにクールな顔立ちでもなければ、そこまで顔が整っているわけでもない。
どこにでも、一人はいそうな冴えない、やや幼さの残る青年であった。逆に周囲から怪訝な視線が向けられるはめになったは言うまでもない。
全員が集まった後、クラス一人一人が自己紹介を始めていく。
――はぁ~早く帰りたい……
そんな俺はボンヤリと席に座り続けていると。
「……君! 鎖火君!?」
「……え? あ、はい!」
副担任が何度も俺を呼び続けていることに気付いた。
「ごめんね? 今、「あ」から始まって丁度「く」の鎖火君の番なの。自己紹介してくれるかな?」
「あ、はい……」
席から立ちあがり適当に自己紹介を始めた。
「鎖火狼です。わけあってISを動かせました。皆さんよりも年上で成人ですが、そこは遠慮なく親しく接してくだされば結構です……」
と、俺はそれだけ言って席に座った。なんとも面白みのない自己紹介だと、生徒たちはつまらなそうな顔を俺に向けた。
「あの、以上ですか?」
と、副担任。
「え? ああ……じゃあ、三年間よろしくお願いします」
これを最後に俺は自己紹介を終えた。
その後、俺は朝のホームルームを終えて一息ついた。しかし、廊下からは一夏という世界初の男性操縦者に向けて女子体の黄色い歓声が飛び交う。
「ねぇ? あの子がそうよ? 世界初の男性操縦士って?」
「私、声かけてみようかな……?」
「ところで……あの人誰? 見るからに年上って感じだけど?」
「織斑君と違ってフツーって感じだよね?」
「なんだか胡散くさー?」
同でいもいいようなことまで聞こえてきて、俺は心身ともに辛くなってきた。しかし、そんな俺の席に彼が歩み寄って来たのだ。
「あの……少しいいですか?」
「ん?」
織斑一夏であった。彼は、俺を年上として敬語を使って話しかけてくれた。
「ああ……確か、織斑君だったね?」
「はい! 男子は俺一人だけかと思ったけど、他にも鎖火さんが居てくれて心強いです! あ、俺のことは一夏って気楽に呼んでください」
「じゃあ、俺も狼でいいよ?」
「じゃあ、狼さん。やっぱ、一人でも男がいると安心できます」
「そ、そんなでもないよ……俺はそんなシッカリ者じゃないし……」
「でも、俺より人生長いですし、頼りにしています! あの……失礼ですけど、おいくつですか?」
と、彼は恐る恐る尋ねてくるが、俺は別に気にしない様子で堂々と年齢を答えた。
「ああ……確か、最近になって二十歳になったっな?」
「あ、タバコとか吸われてます?」
「いや、興味ないな? 知り合いは吸ってるけど……」
「じゃあ、お酒は?」
「ああ……それなら十六のころからコッソリね?」
「へぇ~? 俺も、コッソリやってみようかな?」
その後も一夏と雑談を続けた。最初はイケメン男子だからナルシか何かかと思っていたが、別にどこにでもいる好奇心旺盛な普通の青少年であった。
「初めての飲酒デビューは、缶チューハイから始めほうがいい。いきなりビールから始めても味がわかるのは時間がかかる」
以前、社会に出ていた頃の経験を一夏に話していた。それと飲酒デビューのことも。
ま、彼なら俺よりもいい仕事に着けそうだから、俺みたいなニート人生は歩まないとは思う。
もちろん、お互いの紹介も話した。流石にリベリオンに入っていることは言わなかったが。
「……でも、俺って結構頼りないよ? 仕事も続かないわ、就活野郎になるわで……」
「俺だって、狼さんと同じ不器用な性格ですよ? いろいろとドジ踏むし、等辺僕だし……」
「学生のころから自覚があるなら社会へ出ても逞しくやっていけるよ?」
「まぁ……何はともあれ、三年間よろしくお願いします!」
こうして、入学早々俺に良き弟分ができた。
一時間目、その授業はISに関しての基礎知識に関する授業である。
「やっべぇ……!」
まさか、ISの参考書がこんなに分厚い書物になっていたとは思いを寄らなんだ。ちなみに一夏も俺と同じ境遇にあるらしい。
「……で、ここで何かわからないところはありませんか?」
副担任の真耶がそういうと、真っ先に手を上げたのは一夏だ。
「はい、織斑君?」
「全部わかりません!」
「え!?」
真耶は当然驚く。
「織斑、貴様入学前に読むようにといって渡されていた参考書はどうした?」
見かねた千冬が一夏へ歩み寄る。
「参考書……ああ、あの分厚いやつ? それなら捨てたかも……」
刹那。バシン! と風を切る音と共に一夏の頭上へ出席簿が振り落とされた。
「もう一度再発行させる。一週間で覚えろ?」
「え!? あんな分厚いのを一週間で!?」
「覚えろ」
千冬の眼力に負けて一夏は大人しく頷いた。
「ほ、ほかにわからないところはありませんか?」
「はい」
と、俺。
「はい、鎖火君?」
「全部わかりません!」
「鎖火……貴様にも参考書を渡しているはずだが?」
「ああ、それなら古い電話帳と間違えてチリ紙交換に出しちゃいました……」
途端、出席簿がブーメランのように飛んできて、俺の額へ直撃した。
「いってぇ~!!」
「鎖火も、一週間で覚えろ! いいな!?」
「はい……(くそ! このキチク教師が!!)」
入学して早々に嫌な奴をつくっちまったものだ……この先が思いやられるな?
*
「はぁ~……どうして、こんな目に会うんだろう?」
「仕方がないですよ? それよりも、ここの説明わかります?」
「チンプンカンプンだ……」
「ですよね……?」
俺と一夏は、昼休みに分厚い教科書を開いて、お互い教え合っていた。と、いうよりも、問い合うといった方がいいのかもしれない……
「この様子だと、この先が思いやられますわね?」
そう俺たちの間に割って入って来たのは、金髪の……それ以前に顔つきは欧州系統の顔つきを持つ、白人の少女であった。
「あんたは?」
俺は頬杖をつきながら尋ねた。すると、少女は非常識な人間を見る目つきで驚きながら俺に問い返す。
「私を知らないのですか? イギリス代表候補生のセシリア・オルコットを!?」
そう迫ってくるも、俺たちは全然知らない。当然だ、だって日本の選手ならまだしも、海外までの選手なんて覚える必要はないのだから。
ただ単に彼女が威張っているだけだと知った俺はため息をつきながら軽くスルーした。
「一夏、お前ここの問題を……」
「ちょ、ちょっと! 人の話をちゃんと聞いていらして!? この私、代表候補生であるセシリア・オルコットが……」
「なぁ? 代表候補生ってなんだ?」
何気なく一夏が尋ねた。すると、その非常識のあまりに周りに居た生徒もそれを聞いてズッコケてしまった。
「狼さん、知ってます?」
「いや……知らないな? 代表選手なら聞いたことあるけど?」
「あ、俺もそれ聞いたことあります!」
「代表選手って凄いよな? やっぱ、国家を代表して海外と戦うんだからプレッシャーとか半端ないと思うよ?」
「ですよね~? やっぱ、代表選手っていえば国家の名誉を担う重大な使命を帯びているって感じで……」
「ちょっと! 私の話を聞いておりますの!?」
余計にスルーされたことに腹を立てる。
「ごめん、ごめん、で? 代表何たらがどうかしたのか?」
半分しか聞いていない俺の態度に彼女は益々機嫌を悪くした。
「ま、まぁ……その代表選手になるために選び抜かれたエリート中のエリートということですの! それ故に、私は誰にでも関係なく優しく接しますわよ? もちろん「男」である貴方達にも微笑んで答えてあげますわ? 何かわからないことがあれば……そうね、泣いて頼めば教えてあげてもよくてよ?」
――何だ、コイツ……
俺は、そんな高慢ちきな彼女にムッとした。もちろん、一夏もだ。
「いいよ、自分たちでわからないところは頑張るから」
と、俺はキッパリと言い返した。
「ああ、勿論。俺たちは忙しいから、邪魔しないでくれ?」
一夏もキッパリと言い返した。
「な、何ですって!? 貴方達、身の程を知った方が……」
そのとき、ちょうど彼女との喧嘩を仲裁するかのように次の授業を告げるチャイムが鳴りだした。
「ま、また来ますわ!?」
と、プンスカ怒って彼女は自分の席へ戻っていった。
2時間目、これも同じISに関する授業だった。やはり、山田先生が何を言っているのかはわからないにせよ、一様ノートだけは取っておこう。
……しかし、さきほどから一夏は窓際に座るポニテ女子の方ばかりを見ている。まさか、一目惚れしたのか? 確かに、可愛い女の子だが……目つきが怖くて性格がきつそうだな?
睡魔に苦しめられたが、ようやく2時間目の授業も終えて俺はまた一夏の元へ向かおうとした。しかし、彼は先ほど見つめていた女子と話しており、彼女が一夏をどこかへ連れだしてしまった。
もしや、知り合なのか?
「あーあー……一夏行っちまったし、一人で休み時間は長く感じるしな? それに……」
先ほどから俺に対して、一夏を見る目とは違う目つきで女子たちが見てくる……やはり、IS学園はイケメンでなければダメみたいだ……
「……早く帰りたい」
俺は、そう愚痴った。それよりも……さっきからあのセシリアという娘がこちらを凄い眼力で睨んできている。これは、相当嫌われたものだ。
それから三時間目。次はなにやらクラス代表という、いわゆる学級委員を決める話をすることになった。
「……と、自薦他薦は問わない。自分はと思う者は手を上げろ?」
千冬が説明し終えると、真っ先に端っこの席に座る女子がビシッと手を上げた。説明早々に希望するのかと思ったが。
「はい、織斑君を推薦します!」
「えっ?」
当然驚く一夏は祖の女子へ振り向く。彼女だけではない。周囲の生徒達も次々と一夏の名を上げていった。
「ま、待ってくれ? 俺は……」
一夏は辞退したい感じであったが、そんな中で不服を抱えて一人席から立ちあがる生徒が居た。
先ほどのセシリアという少女だ。
「納得がいきませんわ!?」
ドン! と、机を叩いて周囲の視線を自分へ向けださせる。
「男子がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! このイギリスの代表候補生である私、セシリア・オルコットに一年間もこの屈辱を味わえと!?」
いきなり立ち上がると、俺たちを批判することばかりだ。これだから女というモンは……
さらに、セシリアはこの後も何食わぬ顔で俺と一夏に指をさして見下すように言い続ける。
「大体、文化共に後進的な島国でISを操縦すること自体屈辱で……こんな極東の猿と一緒にされたくはありませんことよ!?」
「イギリスにだって大したお国自慢はないだろ? 不味い料理で何年の覇者だよ?」
そう言い返したのは一夏だった。俺は、咄嗟に止める。
「よせ、一夏……!」
「けど、狼さん!?」
「相手にするな……」
しかし、一夏が言った言葉はセシリアにとって挑発として言い返された。
「い、イギリスにだって美味しい料理はたくさんありますわ! あなた、私の祖国を侮辱しましたわね!?」
すると、彼女はビシッと一夏へ指をさしてこう叫んだ。
「決闘ですわ! もし、貴方が負けたら私の奴隷、小間使いにして差し上げます!!」
「いいぜ? 四の五の言うよりわかりやすい」
「一夏……俺は、知らんぞ?」
一夏は、完全にセシリアの喧嘩を買ってしまった。それを見て俺はため息をついた。
「ところで……あなたは、どうしますの?」
すると、セシリアは俺の方を見た。俺は当然、こんなくだらない喧嘩に参加するつもりはない。
「いや、俺はいい……」
「あら、男だから逃げますの? やはり、男という人種は女より臆病で軟弱ゆえに非力ですわね? まぁ、男性なんて女性と戦ったらすぐに降参するんですものねぇ?」
「……!」
しかし、俺はそんな高慢ちきなクソガキの言葉に、堪忍袋が切れかかりそうになった。男が臆病、俺はつい席から立ち上がった。
「アンタ……」
俺は静かに立ちあがる。
「そんなに、女が『強い』のか?」
「当り前ですわ! 大体、女性と戦って勝てる男性なんていませんわよ!?」
「じゃあ……」
俺は立ち上がると、彼女の元まで歩み寄って激しく睨み付けた。
「そこまで言うなら……この俺とタイマンしろ? ISを使わずに俺とタイマンしろ!」
「な、何を言っておりますの!? 行っていることが無茶苦茶ですわ!?」
「何だ? 女は男よりも強いんだろ? それとも、ISがなければ何もできないのか?」
「な、何ですって……」
「オラッ!」
大きな叫びと共に、俺は拳を握ってセシリアへ勢いよく殴る……フリをした。当然、セシリアは怖がりながら目をつぶって両手で顔を防ごうとする仕草をしていた。
「何だ? 女は強いんだろ? だったら、俺のヘナチョコパンチぐらい華麗にかわすか、その綺麗なお手てで弾くなりしろよ? それとも、ビビってんの?」
「あ、あなた! 女性に対してなんてことを……」
「女性に対し? 女は男と戦えば女が勝つって言ったのはテメェだろ? 女性は強い割には、案外か弱い人種なんだな?」
「な、何ですって!?」
「それに、ISの発展国はこの日本だ。同じ島国だし、威張る立場じゃないぞ?」
「あ、あなた……」
セシリアは完全に顔を真っ赤にして恥じらいながら怒っている。
「そんなことも知らないネンネの嬢ちゃんは、とっとと祖国のお家に帰って……糞して寝ろ?」
最後の言葉を、ハッキリと口で言ってやった。
「なっ……!?」
もう返す言葉もないほどセシリアは、白い肌が赤くなっている。
「一夏、俺が代わりにコイツと戦う……」
「……はい」
俺は一夏が買った喧嘩を譲ってもらい、彼に代わってセシリアと戦うことになった。
「良い度胸ですわね? ところで、ハンデはどれくらいがよろしくて?」
既に勝ち誇っている彼女は、そう上から目線で尋ねた。しかし、俺は断る。やはり、男の意地ってものだ。
「いや、そんなものは要らない。そもそも、それはこっちのセリフだ」
俺がそう言い返したのだが、それが原因でクラス中はどっと笑いだした。
「あはは! 何言っている? 鎖火さん、男が強かったのって昔の話だよ?」
「そうだよ? 今からでも遅くはないよ、セシリアさんに謝りなよ?」
笑う生徒もいれば、そう心配する生徒もいる。しかし、俺の考えは変わらない。
「本当に、世の中女が最強だって言えるのかよ?」
俺は、今一度クラスの皆にそう尋ねた。
「当り前だよ! だって、男の女が戦争したら三日も持たないって書いてあるのよ?」
「じゃあ、お前ら! 今ここでIS使わないで俺と喧嘩しろ!!」
その一言に、辺りはしんまりと静まり返った。
「このぐらいにしておけ、鎖火……」
もういいだろう? と、千冬が止めに入る。
「……それでは、一週間後にセシリアと鎖火は第三アリーナでの決闘を許可する。各自はそれぞれ準備を済ませておけ?」
「……」
俺は、無理にでも強がって言い張ってしまい、今となっては徐々に自信が失せていく。
「フフフ……」
しかし、逆にセシリアは余裕の笑みを浮かべていた。
今、俺のRSの腕は蒼真から基本動作と基礎的な戦闘技能しか教わっていない。
俺は、勇敢にも内面には冷や汗をかき始めていた。
――やべ、自身がなくなってきた……
いつもの悪い癖を引き出して、俺は静かに席に座った。
時を同じくして、隣の一年二組では鎖火狼の存在を絶対的に認めない一人の少女がいた。
「何よ……どうして、あんな奴がここにいるわけ!?」
――追いだしてやる、絶対にいつか追いだしてやる!!
後書き
予告
ついにクラス代表決定戦が開始される……って、相手はイギリスの代表候補生らしい。そんな強者に果たして俺に勝機はあるのだろうか?
空中から容赦ない攻撃を続けるセシリアに俺は苦戦を強いられる。空を飛べない零を持つ俺は、アリーナの地面を走り回るだけしかできない。このままでは……
しかし、絶体絶命の中で零の封印された力が解き放たれる。
次回
「発動、絶対神速!」
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