SAO〜裏と 表と 猟犬と 鼠
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第6話 1年後
第1層、ボス攻略から早くも1年。
現在の最前線は第28層であり、その28層ももう突破するのも時間の問題だ、と言われている。
実際、最近頭角を表し始めたギルドやソロプレイヤー達、そして徐々に現れ始めたオレンジプレイヤー達。
1年、と言う長い年月、もう一つの現実となったここ、ソードアート・オンラインに適応したプレイヤー達は、様々なことをしている。
それが、犯罪であれ、人助けであれ、商いであれ…。
「…来タカ…。」
物思いに耽っていると、横にいる頭一つ分、小さい少女が声を上げる。
彼女は、《鼠のアルゴ》と、世間では…と言ってもゲーム内だが、ここ、SAOの世界ではそう呼ばれている。
曰く、彼女と話せば五分で100コル分のネタを抜かれるやら、彼女に手を出そうものなら黒ローブの死神が現れる…やら。
彼女は、俺のパートナーであり、ギルド、表裏商会の副商長でもある。
ちなみに、その黒ローブと言うのは、何時何処にいるかも分からん口癖が、(○○っす!)の馬鹿だが。
「……の居場所を知りたい…。」
「その情報ナラ…仕入れてアルゾ。こっちもそれなりに命張った情報ダ…。これくらい…ダナ…」
《第11層 タフト 主街区》
あまり印象に残る事はない、街並み。
その路地裏で情報屋と顧客の取り引きが行われている。
今回のお相手は、とあるオレンジギルドの情報を買いたい…と言い、仕方なくアリーを置いて俺一人で約3日間、裏取りと確証を得て、収集した情報をメモに纏め上げ、それをアリーが売る、と言う事であまり表沙汰にならないよう、裏路地で…と言う事でこんな所で取り引きしている。
表裏商会…と言えば大抵は通じる。
何せ、このソードアート・オンライン最大規模の商人ギルドとなったからだ。
構成人数、全246名。
これは事務的な事でスカウトした者も合わせて…の数だが。
幹部はギルドマスターとサブマスターの俺、アリーを抜き8人。カルテル、シルバ、ネミリャ、ハスキ、トウツキ、メイラ、事務責任者のケビンと、傭兵総長の女。
そこから現在ギルドホームとなっている第8層、フリーベンの事務員達や、その他情報屋、商人、傭兵などの人物らが集まった結果だ。
ギルドの入団基準は、一つ、秀でた点がある事。それが駆け引きであれ、戦いの腕であれ、事務作業であれ。
それぞれの能力に対して、一番活かせるであろう場所に配置する。
それが表裏商会の特徴であり、前線に出なくとも、レベルが1でも、それなりに稼げる様なシステムにしてある。つまり技術があればある程、どんなプレイヤーでも結構な額を稼げるのである。
「ありがとう。これが情報料だ。」
「確カニ…。これはもう一つ…オマケダ…そのギルドには手を出さない方がイイ…。」
「何故だ…。」
その理由は、その後、明らかになる。
取り引きの帰り道、俺は、一つ気になる点を相棒に尋ねる。
「いいのか。あの情報、まだ攻略組の連中にも売ってねぇぞ。」
「分かってイル。ケド、ミネの報告書を見た限り、あんまり特筆すべき点はなかッタ…。ケド…」
「俺が潜入するまでは、構成人数不明、リーダー不明、幹部不明の全く表に出ていないギルドだったからな。だが…」
「未だ構成人数は不明とは言え、相当イカれた連中なのは確かダ。」
「あまり表沙汰になってないとは言え、あれは要注意、いや、厳戒態勢くらいいっとかにゃな。うちの連中にも、忠告はしておかねば。」
「アレは、これから先…確実に障害にナル。オレっちの感だケドナ。」
未だに名前は分かっていない…が、あの奇妙なギルドマークだけははっきり覚えている。
「まぁ、あれは俺も個人的に情報収集しとくとして、帰るか。」
「ダナ。オレっち腹減っタ。なんか奢ってクレヨ。」
「ストレージのパンでも齧ってろ」
「「転移、フリーベン」」
だが、その後ろからこちらを見つめていた人物がいたのに、二人は気付いていなかった。
カツン…カツン…カツン。
「Hey…首尾は?」
「はい…どうやら最近ボスの周りを嗅ぎ回ってた奴らなんですが…少しばかり厄介かと…」
「What?どう言う意味だ。」
「それなんですけど…連中…どうやら例の連中なんです…。」
例の…と言うことはあまり当たって欲しくない感が当たった…と言うわけか。Shit…。
だが、こっちも、打つ手は打ってある。
「hey、あいつらは警戒しとけ。あの商会の連中は…」
「???」
「armyの連中より厄介だぜ。」
その右手には、不気味に笑う、棺桶のエンブレムが鈍く、光っていた。
「奴の…持つ…武器…」
「あんな奴ら!すぐやってしまいやしょーやヘッド!」
「気を待て、××××、××」
喰う時は…空腹じゃなきゃあな。
ククク…すぐに気は…訪れる…。
partyを楽しもう…表裏商会…。
「ククッ…」
《第8層 フリーベン 主街区》
「オレっちは今から少し寄る所がアル。先に帰っててクレ。」
「お前って、本当意外と多忙よな。あまり遅くなりすぎるなよ。」
「ナーニ。何時ものダゾ。」
「キリトか。あいつもよくここを贔屓にしてくれるよな。」
「2割り増しだけどな。」
「夜間taxiか馬鹿野郎。割引したれ。」
「キー坊が欲しがる情報は基本高いんダゾ。」
「別にいいさ。」
あいつには、色々と借りがあるからな。
「お前がそう言うナラ。仕方なくダゾ。どうせしょうもない借りでも作ったんだロウ?」
「俺の心を読むな馬鹿。」
全く、油断も隙もない奴だ。
アリーと別れ、ギルドがある本部に向かう。
本部に着くと、相変わらず煩い喧騒の声が聞こえる。
二階建ての大きな宿っぽい建物。
その屋根にはギルドマーク、羽を閉じた白い鳥と、対になる様、逆に描かれた羽ばたく黒い鳥。
正面の両開きの扉を開けると、様々なレベル帯のプレイヤー達が、ボードに貼ってある情報紙を見つめ、欲しい情報があれば、受付でナンバーを指定し、奥の個室に向かっていく。
このギルドの特徴、情報ボード。
情報屋達が集めた情報を、ここではボードに貼り出し情報を商品として売り出している。
買った情報を他人に売ろうが、その先の事は基本的に自由。
何故なら、3日間で全ての情報が入れ替わるからだ。
指定され、それに見合う情報があれば、ナンバーを言う必要はない。
情報はS〜Eランクに分けられ、それぞれの金額も違う。
だからまるで人気スイーツ店の様に、客が集まるのだ。
これは商売の初歩の初歩、情報と言う物は時が経てば売れなくなる。だから常に新しい物を…と言うわけだ。
ここはプロの情報屋が集まる。
情報屋として、ここを目指す者も少なくはない。
そして、商人ギルドに対しては、傭兵、つまり、フィールドでの護衛を目的として1パーティーを料金を貰い、護衛に向かわせる傭兵業もしている。
それはモンスターから、そして盗賊行為を目的としたオレンジギルド達から守る為である。
攻略組に対しては、12人、2パーティーによるポーションや結晶などの出張売買もしている。
そして、最後は捕縛屋。
依頼により、オレンジプレイヤーや、PK(プレイヤーキラー)を捕縛し、依頼主に引き合わせる。投獄や私刑は依頼主の自由、と言うわけだ。
これは対人スキルが必須な為、人数は一番少ないが、稼ぎは一回が危険で、でかい分多い。
これが何でも屋のこのギルドの特徴だ。
「リーダー。すみませんが少しばかりお話ししたい事が…」
「なんだ?」
特に特徴のない細身の男が、俺に話しかける。事務的な事はなんでもこい、の事務の責任者ケビン。
情報の売買を一手に担う、のは良いんだが…人前に出るとキョドリすぎてな。
こうやって個人的に話す事はあるんだが。
「それが…これを見てください…」
ん?これは…。
「似たような依頼ばっかりだな。正体不明のギルドを探して欲しい…。妙なギルドが最近出没しているので調査を頼む。…最近物騒なギルドが徘徊しているので…調査を…。俺これらなら昨日情報持って帰ってきたろ?」
「それなんですが…。どうも奇妙な事が起きてまして…。」
奇妙な?なんだ?キリトとアリーがとうとうくっ付いたか。っなんて馬鹿な事考えてる場合じゃない事になり始めたな…。
俺は答えを聞く前に、ギルドのメンバー表を確認する。
「連絡不能…が5人…。商人パーティーの連中だな…。」
「そうなんです…。一人だけ帰還者がいたんですが…何故かギルドから脱退しておりまして…。」
「そいつか…。OK。ありがとう。少し、連中を呼び出して意見を仰ぐ。これは恐らく、俺一人じゃ解決出来んからな。」
何せ、規模も、能力も、頭脳も、他の連中とは比べものにならん…。
おかしい…。何故うちの連中を…大抵の奴らは報復を恐れてあまり手を出してこない…。実際被害が出たのも10層が最後だった…。何故に今…まさか…。
「俺もしかしたらヘマしたか…」
「どうかされましたか?」
いや…何でもない…。
メニューを呼び出し各地に散りじりになっている初期メンバーにメッセージを送る。
《from oomine
緊急幹部会を開く。至急本部へ来い。》
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