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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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幻影-イリュージョン-

 
前書き
来月分の投稿にする予定でしたが、改訂記念として早めの投稿とさせていただきます。

サイト&ゼロ「俺の出番は!?」

もう少しお待ちください。

 

 
(結局、あの男は何者だったんだ)
ゼットンとウルトラマンたちの戦いが終わってから、サウスゴータの街は酷い有様になっていた。よって駐留していた軍は復興作業に勤しむこととなり、ヘンリーも生き残った、または合流した別働隊の仲間たちと共に、復興作業に必要な資材を手に入れるためにこのロサイスを訪れていた。
サウスゴータでのウルトラマンの戦いの直前に、見知らぬあの男に返してもらったペンダントを見つめるヘンリー。
…これは、戦場に立つ自分にとって、心の支えとなる大切なもの。それは、婚約者の肖像画を収めていたロケットペンダントだった。
(…何を感傷に浸っている)
しかしヘンリーはこのペンダントに、その中に収めている肖像画の少女に対して複雑な感情を抱いていた。
このペンダントは、考えてみれば自分の未練の証だ。
一度自ら断ちきってしまっておきながら、後生大事に持ち続けていた。国を守る誇り高き戦士の癖になんとも女々しい。
いっそのこと失くしていたほうが正解だったかもしれない。あのペンダントのことも、ペンダントの中に収めた肖像画の彼女のことも。その方が、惰弱な精神を断ち切れると言うものだ。仲間たちも、きっと女々しいとなじるだろう。
たとえウルトラマンがいようといまいと、僕らは戦わなければならない。国のために戦って、死ぬ運命…遅かれ早かれ、トリステインとの戦争でどうせ死ぬ。だから僕は、『彼女』との未来を捨てたんだ。

ロケットペンダントに刻まれていた、彼女との未来を…

ヘンリーは、仲間たちの下へ合流することにした。


「………」
薄暗い部屋、机の上は機械の部品や書類で山済みになっていた。
少年は機械の内部に当たりの前のように内蔵されている、金属製の基盤に触れ、設計図らしき図面と見比べている。
基盤にパーツを組み込んでコードを刺し、スイッチを押す。すると、基盤が取りつけたパーツのおかげか、わずかに宙に浮き始める。
彼はその状況を見て鉛筆を手に取り、メモを取っていく。
長時間長くそのくらい空間での作業を続けてきたためか、彼は目が疲れてきたのか目元を抑え始める。うとうとしてきたのか、頭もぐらっと来ている。
「もう寝たらどう?」
後ろから少年の肩に触れてきた女性が声をかけてきた。
その女性は自分と同じくらいの年齢のようだった。姉弟のようでもあり、またはもっと違う形の関係のようにも見える間柄。
懐かしくて、温かい……。
「もうちょっとしたらね。まだ起きていた方がこいつを飛躍させるアイデアが浮かぶかもしれないしな」
少年はそう言って小さな笑みを見せ、作業を続けようとする。
「何言ってるの。どんなに頭がよくたってさ、休まなくちゃ体に毒だぞ?」
「おわ!?」
いきなり後ろから抱きつかれ、少年はびっくりして握っていた鉛筆を落としてしまう。驚く少年をよそに、女性は言葉をつづけた。
「あなたはさ、もうちょっとさ………」
「な、なんだよ…『○○』」
「………したほうがいいって思うんだよね」
後ろ目で女性を見ながら少年は、彼女が何を言いたがっているのかを聞いてみるが、どうしてだろう。彼女の声が聞こえなくなった。

彼女は何を言いたかったのだろうか。

なぁ、何を言いたかったんだ?

教えてくれ…



――――知る必要はない



…?誰だ…?



――――お前が知ったところで、どうにもならない



なんで…?




――――なぜなら、お前は…




?…俺が、なんだって?




――――お前は、■■だからだ




俺が……■■………!?




――――そう、お前は■■…



――――ただの…
























――――■■だ…!!


























「はッ…!!」
シュウはそこで目を覚ました。嫌な汗を流したのか、べたつきを感じる。
「あ!」
眼前で自分の顔を覗き込む顔があった。エマだ。
「マチルダ姉ちゃん!テファ姉ちゃん!シュウ兄が起きたよ!」
満面の笑みを浮かべて皆に呼びかけると、テファたちが一斉に彼の顔を覗き込んだ。同時にシュウは起き上がる。
「…ここは…?」
起きたのは、テント屋根付き馬車の荷台の上。ガタガタと揺れている。マチルダが馬車を運転しているのだ。
と、急にぎゅっと体が引き寄せられた。
華のような香りが鼻をつき、やわらかい感触がシュウの上半身を覆った。気が付いたら、テファが自分に抱きついていた。
驚きはあった。でも、暖かな抱擁と目覚めたばかりで頭がボーっとしていた。
「よかった…無事で」
抱きしめていたテファの方はと言うと、彼をギュッと離さずに震えていた。どこまでも優しい彼女のことだ。凄まじく不安だったに違いない。
「…シュウ、もういいの。あなたは十分頑張ったわ。だから…」
やはりというべきか、彼女はシュウから戦うことを放棄することを勧めてきた。ついさっきの戦いで彼の戦いが、いかに苛烈で過酷で、時に残酷すぎるものなのかを大いに理解できてしまったのだ。
「お願い、もう…戦わないで。このまま戦ったら…本当に」
その青く澄んだ瞳は揺れていた。今にも、涙が溢れかえりそうだった。
その瞬間彼の脳裏に、よぎった。

たくさんの人たちが死ぬ姿が。
雨の中、自分の腕の中で冷たくなっていく少女の最期が。

言ったはずだぞ。俺が戦わなかったら…。
シュウは戦いを放棄できるはずがなかった。戦いで死ぬことよりも、こうして戦い続けるせいでテファたちの心を傷つけることになるとしても…。
戦いを止めたら、今以上に自分が許せなくなる。
「…それより、そろそろ離れてくれないか?暑いんだが…」
「へ?あ、ああ!!」
そこでようやく気付いたテファは悲鳴のような声をあげ、顔を真っ赤にしてシュウからそそくさに離れた。
(そんな顔は止めてくれ。俺まで奇妙な気恥ずかしさを覚える)
そんな彼女の反応に、自分でも不思議なくらいシュウも直視ができなかった。なんか気まずくて口がきけなかった。なら違うことを考えて…。
と、ここでシュウは自分たち気が付いた。
自分がたまに着こむ隊員服とはまた違う模様の軍服を着た男が馬車に搭乗している。
嫌なところを見られたものだ、男の微笑ましげな笑みがどこかニヤついていて憎い。
「あなたは…」
見知らぬ男への警戒心を抱き、誰だ?と尋ねようとしたが、すぐに男が何者なのかを悟った。
「俺はアスカ・シン。君は…シュウ、だったな。俺と同じ…」
「同じ…?…ッ!」
それを聞いて、彼は即座に気づく。この男が自分と『同じ』であることに。同時に、警戒を露にし、目つきを研ぎ澄ませた。
「お、おいおい!何でそんなに睨むんだよ!俺たちは…」
「…『同じウルトラマンだろ?』…か?」
焦るアスカの台詞を先んじてシュウが言う。
一瞬、根拠はないがある悪い予感がよぎった。あのアスカという、サイトや自分と同じくウルトラマンの力を手にした男だ。
「し、シュウ…この人は私たちを、あなたも助けてくれたのよ?」
アスカがシュウを助けてくれた。なのに、彼が助けたはずのアスカに警戒心を露にしていることに、テファはおろおろする。
「…一度は助けられた、そのことについては感謝すべきだろう。だが…俺がこの男を信用する理由にするべきじゃない。ついさっきの戦闘がいい証拠だ」
サムの一件もあるし、サイトのように新たに見つけたウルトラマンが自分たちの味方であるとは限らない。彼の故郷ではウルトラマンもまたネクサスを除いた個体全てが敵だったがための警戒だった。現に、既にファウストにメフィストといった奴らと飽きるほど戦った。メフィストとの戦いにいたっては、アンリエッタを利用した姑息な手口を使われたことだってある。場合によってはサイトにも連絡しなければならない。
その警戒については、マチルダも内心では納得していた。裏の世界で生きてきた身だ。裏切りや腹の探り合いなど慣れっこだ。シュウの警戒も妥当の判断だと信じて疑わなかった。
「困ったな……」
とはいえ、それはアスカにとって困惑の種でしかない。彼は頭を掻きながらぼやいた。どうも、あの黒いウルトラマンと同じ様な奴の可能性を危惧されているようだ。
「アスカとかいったね。あんた、シュウとよく似た名前と服を着込んでるけど、何者なんだい?」
アスカに背を向けたまま、馬の手綱を握るマチルダが尋ねた。
「ああ、俺は…スーパーGUTSって組織で隊員やってたんだ。それで仲間たちと一緒に怪獣とか異星人とかと戦ってたんだ」
格好のおかげもあって、マチルダの予想は的中した。
「で、まあ正式入隊する前の訓練中の日に、ポカやらかしてさ…でもそんな時に、俺は光と遭遇してウルトラマンになったんだ」
それから聞いたアスカの話は、初対面時のシュウとよく似ていた。怪獣や異星の侵略者と戦い、平和を勝ち取る。その戦いの日々での苦悩の日、逆に奇妙な冒険物語のような事件、そして激しい激闘を経た果てに、彼は世界をも超えてここにいるのだという。
だが、シュウの話とは違うものがあった。
彼の話だと、彼の世界で人類に味方したウルトラマンはただ一人だけだったはずだ。それにスーパーGUTSなんて名前の組織も聞いていない。
「最後に戦ったスフィアの親玉がとんでもないやつでな。星なんか簡単に呑み込めるほどのとんでもなくでかい奴で、俺一人じゃ流石に倒せる相手じゃなかった。でも、仲間が…守りたい人たちがいたから俺は勝てた。
まあ、勝った代償なのかどこなのかもわからない場所に飛ばされちゃって今に至るってわけなんだが」
「はあ…」
シュウのときもそうだが、この男の話も宇宙進出など何年先なのかもわからない世界の人間であるマチルダたちには完全な理解はできなかった。
(平賀から聞いていた話ともまるで違う…となると…)
アスカの話を聞いて、シュウは一つの確信的な仮説にたどり着く。アスカの話が真実ならば、サイトのいたM78世界とも、自分の故郷であるネクサス世界とも全く違う世界の人間、ということだ。
「まあ、ある意味じゃあんたは迷子ってことか」
「ま、迷子…なんか地味に傷つくなぁ…否定はできないけどさ」
年齢的に既にいい大人のアスカにとって迷子扱いは精神にちょっとしたダメージを与える。この世界の仲間がこれを聞いたらなんやかんや言ってきそうだ。
「まあ、今は適当に宇宙を飛び回ってて、万が一これまで俺が戦ってきた敵と同じような奴がいたら懲らしめてる。んでそんな時に…」
この星で戦う彼を見つけた、ということだ。


あの後、シュウとアスカは互いのことを話した。
同じ地球人で、防衛チーム出身者、そしてウルトラマン。二人には共通点が多かったが、二人が高いに知らないこともまた多かった。
シュウの世界には、先ほども戦った黒いウルトラマンが現れ人類に甚大な被害をもたらした。それを聞いて、アスカはシュウが自分に対して警戒を抱いた理由を理解した。
アスカの世界では超古代の時代にもウルトラマンがいて、彼の先代のウルトラマンがまさにその力を継ぐ者、そしてアスカもまたそれとよく似た正体不明の光との遭遇で光の力に目覚めた。
サイトの地球ともまた違った、互いの世界の違いにシュウは興味を抱いた。
サイトにもいずれこの男のことを話すべきだろう。まだ会ったばかり相手だからすぐに喋る訳にもいかないが。
アスカも、ある意味では自分たちよりも厳しい条件下で戦うシュウやナイトレイダーの話を、黒い巨人の話に興味を沸かした。
まだこの世界に来たばかり、これまでアスカはあらゆる世界を飛び回り続けてきた。訪れた世界のことを聞くことも彼にとっては旅の醍醐味で、今後の戦いなどにおいても大事なことだから、その世界の話を聞くことがいつの間にか癖になっていた。
案の定だが、子供たちの質問攻めにもあった。以下のように。
「アスカってどこから来たの?」
「シュウ兄とお洋服がそっくりだけど、どうして?」
「何歳なの?」
「彼女いるの?」
他愛のない質問の中に、色々返答に困るものもあった。自分の世界『ネオフロンティアスペース』がこの世界やシュウのいた世界とどう違うのかも説明するのはこの子たちには難しいだろうし、年齢に関してはネオフロンティアスペースを去ってからもう何年も数えてない。実はおじさんじゃないのか?そうエマから悪意のない言葉の刃が突き刺さり、ちょっとアスカは心が折れかけた。彼女…と言われて、同じチームで戦った女性の姿が浮かんだが、恋愛感情に関してはアスカ自身まだそれが愛情なのかどうかよくわかっていなかった。確かに大切な仲間であったことに変わりないが、その鈍さのせいで、二人の内片方の女性隊員からのデートの話を投げかけられたときに怒らせてしまったほど。
「まあまあ。そんな連続して尋ねられたら答えにくいって。じゃあまずは、俺の武勇伝でも聞かせるから。んじゃ…聞いて驚け!俺の伝説BEST10!」
適当にやんわりかわしながら、アスカは自分の戦いや、その中で経験した体験を口にした。
先ほど例に挙げた女性隊員の乙女心を踏みにじった宇宙人を懲らしめたり、地上に描かれた怪獣の絵が本物の怪獣となった話、風邪を引いた怪獣のせいで冬場なのに基地全体が夏場以上の猛暑に見舞われた話など様々だった。
子供たちにとって、アスカの話はまるで魅力あふれる物語だった。街の景色を盗み出す宇宙怪盗。巨大な三つの変な顔を持つゴーレムの話、そして自分たちが保護していた小さな珍獣の話が特に人気だった。


これが、異次元の英雄ダイナとの出会いだった。
この出会いは、シュウにとって大きなものとしての意味を成すこととなる。


青年、アスカがテファたちと遭遇してから数時間後の夕方。
シェフィールドは宮殿にてメンヌヴィルを出迎えた。
「注文通りの怪獣、回収してきたぞ」
「お疲れ様。こちらでも受信したわ」
シェフィールドは、す…と手に四角い白い箱のようなものを見せる。機械の携帯端末のように見えるが、そんな一般的なものでも、ハルケギニアにはないオーバーテクノロジーで作られたものでもない。
彼女がそれを開くと、三つの小さいモニターが箱に埋め込まれていた。そのうちの一つの中に、シュウを敗北に追い込んだ強敵、ゼットンの姿があった。
「さて、俺はここで…」
ゼットンを、シェフィールドがどう使うつもりなのかどうかについて、メンヌヴィルは興味はなかったから尋ねようともしなかった。立ち去ろうとしたが、シェフィールドから「待ちなさい」と声を掛けられた。
「どうだったかしら?」
「どう、とは?」
「例の、突然あなたの前に現れたとかいうウルトラマンよ」
シェフィールドからの問いに対し、メンヌヴィルは振り返りながら答えた。
「せっかくの獲物を横取りした、と言う点では腹正しいがな。だが、奴もまた…燃やし甲斐のありそうな男だったな」
「気に召したみたいだけど、あのウルトラマンは完全なイレギュラーよ。
我々がターゲットとしている虚無の少女とその使い魔の傍にそんな強力なガードを敷いたままでいる訳にはいかない。
最近はこの星を狙う屑な異星人共も、トリステインを襲ったクール星人に続いて続々と飛来しているわ。
すでに、私たちの目を盗んで侵入している個体もいるでしょうね」
「…」
すでにこの星には、サイトの地球と同様に侵略目的で活動する宇宙人が侵入していることを察しているようだ。この星に来る前に始末しようにも、シェフィールドには地上でやるべきことがあるので、無限の空の外にまで戦力を割く余裕はなかったようだ。
「我が主の危険になるような存在は、即刻排除することが原則。
今度会った時には、確実に殺しておきなさい」
「…ふむ」
ふと、メンヌヴィルが物静かに、それもいつものような残虐な笑みを浮かべ流ことなく思考し、そして落ち着いた態度のまま言った。
「ハイエナのような星人共はともかく、例の奴の場合は迂闊に仕掛けても、あの男に手痛い反撃を喰らうとしか思えんがな」
「あら、あなたにしては弱気なコメントね」
「弱気?違うな…冷静と言ってもらおうか。
そのゼットンとかいう奴はネクサスに変身した小僧では手も足も出なかったが、あのダイナとかいうウルトラマンはその逆だった。ゼットンを軽くねじ伏せる勢いだった。奴は強敵だ。それも、俺より長い期間といくつもの修羅場を潜り抜けてきた戦士だ」
「そう…だとしたらますます放っておくわけにいかないわね」
狂っているとはいえ、メンヌヴィルはダークメフィストであることを除いても一流の傭兵だった男。その分現場の空気の理解度と培ってきたキャリアがある。それほどの男がここまで言うのだ。
シェフィールドは顔を不快感で歪ませた。ようやく虚無の少女が手に入るところで邪魔が入るとは。ジョセフは今のところはそんなに強い執着心はないが、いずれ必要とするだろうし、早いうちに手に入れておけば、手に入れた後で、虚無の少女にあらゆる仕込みをすることで、こちらの意思に従いやすくさせることも可能だったかもしれない。
「こうなったら、少し強引な手を使ってでも…」
手遅れになる前に、早急にそのダイナとかいうふざけたイレギュラーを排除しておかなければ。
その時だった。キラッと、夜空に一瞬何かが流れ落ちた。
自分たちのいる部屋さえも一瞬真っ白に染めた光に、二人は咄嗟に窓の外を見る。
落ちてきたのは、一筋の流れ星のようなものだった。
「…早速みたいね。全く、こういう手合いは前触れを知らないんだから」
シェフィールドは目を細め、メンヌヴィルに向けて手に持っていた物を投げ渡す。
「その『バトルナイザー』、使っていいわよ。誰でも使えるように調整しておいたから。
どんな手を使ってもいいわ。最低でも虚無の少女を生きたまま回収して頂戴」
「…いいだろう。乗ってやる」
メンヌヴィルは口を曲げ、歪んだ笑みを浮かべた。
「奴の苦しむ顔は、さぞ愉快なものだろうからな」
画面には、シュウやテファにとっても見覚えのある一体の怪獣の姿が映っていた。
その姿を二人が見たら違和感を強く感じることに違いない。
様子からして大人しすぎる上に、目に一点の光も灯っていなかったのだから。



夜に差し掛かり、ロサイスに駐在していたアルビオン兵たちに、シェフィールドからの、一つの指令が下される。
昨夜、この大陸の上空にて飛来し、砕け散った隕石の被害状況調査。
直ちにアルビオン軍は手の空いているものから率先して、手始めに隕石の痕跡探しに入る。
隕石が砕かれた地点にクレーターの一つもなかった。そもそも、何の前触れもなく隕石が砕かれると言う不自然な現象のせいで、隕石の欠片と言うものもただの石ころに成り果てていることも否定できない。
最も、任務の最大の目的は隕石の破壊された地点の被害調査が主な目的だった。被害状況さえ分かりさえすればいい。怪我人が出ていなければそれが一番いいのだ。
しかし、調査中にある異常事態が起きる…。
「う、うわああああああ!!」
現場で調査中の兵たちの前に、巨大な影が差しかかった。
もうわかるだろう。そう、怪獣だ。
それも現れたのは先日ウルトラマンを圧倒した、ゼットンだった。
「た、助けてええええ!!」
「ええい落ち着かんか貴様!」
いきなり怪獣が現れたことで混乱が起きる。遥かに強大すぎる敵の出現で兵たちは命の危機のあまり平静さを失った。
しかし、ゼットンだけではない。
ノスフェル、ケルビム、シルバーブルーメ…タルブの戦いでウルトラマンやトリステイン軍を苦しめた悪魔たちが次々と蘇っていたのだ。
「ど、どうなってるんだ!!」
ウルトラマンに倒されたはずの巨獣たちの復活に全員が戸惑いを見せ、恐怖を抱く。
「こ、この…!エア・ニードル!!」
このままや垂れるのをよしとできなかった兵の一人が、風の魔法をケルビムにぶつける。この程度で奴らが倒れるとは到底思ってはいないが、無抵抗のままやられるのだけはあってはならない。
しかし、奇妙な現象が、魔法がケルビムに直撃した途端に起こる。
エア・ニードルがケルビムの体を確かに貫いた。いや…貫いたといえるのだろうか?というよりも、『すり抜けた』といった方が正しかった。そもそも、魔法が通じないほどの頑丈な体を誇る怪獣を魔法で貫くことなどできないはずだ。
さらに奇妙な現象が起きた。魔法で貫かれたケルビムの姿が崩れ落ちたのだ。まるで黒く染まった泥が解けていくかのように。
「え…」
しかもケルビムだけでなく、他の怪獣たちもまた同じエフェクトで消え去ってしまった。
あっけなく奇妙すぎる結末に、アルビオンの兵たちは呆気に取られていた。
「一体…なんだったんだ」
訳がわからず、呟いたものが一人いた。アルビオンの兵、ヘンリーである。彼もまたこの調査部隊に配属されていた。起きたことが何だったのか理解できずにいたが、彼はそのときあるものを見つけ出した。
(これは…花?)
そう、花だ。欲見ると周囲に花が咲いている。だが、花とは本来夜は咲いておらず、花びらを閉じているはず。それに何より気になったのは…花の『色』だった。
「こんな黒い花、あったのか?」
気になって、上官に報告したのだが、上官からは厳しい言葉をぶつけられた。
「誇りあるアルビオンの兵とあろうものが花を愛でている場合か!」
「滅相もありません、自分はただ!」
危険な任務中に花などに見とれるなと叱り飛ばされてしまった。弁明しようとしても、上官は態度を崩さない。
「ふん、そういえばスタッフォードよ。貴様、確か…婚約者がいたか?」
「な、なぜそれを…!」
「たびたび貴様が後生大事にロケットの中の肖像画を見ていることが報告されていてな」
「ッ!」
それを聞いてヘンリーは息を詰まらせた。なるべく人前では見られないようにするつもりだったのだが、仲間たちにはばれてしまっていたらしい。
「女への情を残すあまり、作戦行動に支障が出るのなら即刻部隊から除隊させてもらうぞ。女にうつつを抜かして作戦を疎かにするようでは…「関係…ございません…!」……」
女のことで頭が持っていかれるようでは。上官の言葉に対し、ヘンリーはそれを遮るように言い返した。
「もう、彼女とは、婚約を破棄しました。だから関係ありません。
…任務に戻ります」
そこで抱かれているのは怒りか、悲しみか。握る拳を作るヘンリーの体は震えていた。




同時刻。
ウエストウッド村を出て、街道を南下したはてに、シュウたちはアルビオンの南の港町『ロサイス』に到着した。
後はここから船に乗せてもらい、トリステインに逃げ込む。それが今の彼らの方針だった。
マチルダはトリステイン行の船がないか、せめて別の船着き場へと向かっている。できれば全員乗せていけるだけの便を願うばかりだ。
ロサイスを出ようとシュウたち一行は桟橋に向かった。
レコンキスタのせいでアルビオンとトリステインの仲は過去最悪なもので、当然自国からの脱走者の中に重要人物や弱みを握っている人物の逃亡を阻止しようとする者、トリステインとしてはスパイが紛れ込んでくることがないように厳重な検閲体制をとっているはずだ。
しかし、だからといってそれぞれの国から脱出することが完全にできなくなったわけではない。商人たちはまだ商売のために互いの国を行き来している。中には王党派とレコンキスタの戦争で怪獣が用いられたこともあって、難民たちが船でアルビオンを抜けることもある。また、他国からの諜報員がまぎれていることなんてこともあるだろう。
まだアルビオンとトリステインのタルブ村で激突してから日が浅い。港が完全に封鎖される前に、商売人か難民のための船、せめてトリステイン以外でも、どこか地上に降りていける船がないかと思っていたのだが…。
「船が出せない?」
「悪いな、実は軍の連中が『アルビオン大陸上空に異常を感知、住民の安全のため船の出港を明日以降にするように』とか言ってきてよ。混乱をこの街の中だけに収めるためにこの日の便は出さないことにしたんだ」
「まずいわね。ただでさえあたしたち…」
怪獣を差し向けてきた怪しい奴に村を襲われたばかりだ。出港した船と乗員の安全のために船を出さないという船乗りの意見はわかるが、一刻も早くこの国から脱出しておきたい。
「この先はさらに警戒が厳重になるだろうな」
シュウも表情にわずかな険しさを露にする。この状況が続けば、いずれ港そのものがは現在のアルビオン政府であるレコンキスタによって完全に封殺されてしまう。
「それに、私はハーフエルフ…」
「そればかりは仕方がないさ」
自分がハーフエルフであることは、エルフを疎ましく思うこの大陸において皆を人種・宗教的観点から危険に晒してしまうこともある。検閲がヤワな内に通りたかったが…テファが申し訳ない気持ちを口にすると、すでに慣れていたマチルダは気にしないようにいった。
最後の手段として、ウルトラマンに変身しみんなを手のひらに乗せていくという手もあるが、その手口は目立ちすぎる。シェフィールドが見逃すはずもないだろう。人の身のまま、なるべく隠密に脱出しておきたい。幸い奴のガーゴイルも追ってきていないようなので、船さえ出してもらえさえすればよかったのだが、船を出してもらえないのではまずい。
「ハイジャックするわけにもいかねえしな」
村でのいきさつは先日までの間に聞き及んでいたアスカも冗談を混じらせながら頭を悩ませる。最もハイジャックなど、彼の元の職業を考えると間違ってもできないのだが。
「しばらくはこの街にご滞在かもしれないね。ったく、旅費がかさんじまうよ」
マチルダはケチくさくぼやいた。子供たちを育てるためにため続けてきたお金を旅費などという本来使わないはずの用途で使っているのだから、できれば節約しておきたかったことが伺える。
「…しょうがないね、一度出直すとしようか」
ここで留まってもここを職場とする人たちの邪魔にしかならない。マチルダの提案で、一行は一度港から離れることにした。
どうしたものかと、シュウも困った。テファたちの安全を極力安全に確保するためにも、この国を脱出しておきたい。
(平賀に連絡を入れてみるか?アスカのことも知らせておくべきだろうし…)
いや、だめだ。シュウはサイトへの連絡を考えてみたがすぐに首を横に振った。
(連絡を入れたとして、あいつのウルトラホークとやらをわざわざこちらによこしてもらっても、ウルトラマンへの変身による脱出を図ることと危険度は変わらない。かえって奴に迷惑をかけるし、いらない心配をかけることにもなる)
だったら、相当の局面にならない限りは自分たちで解決しなければならないということだ。
しかし、そうなるとアルビオン脱出の手立ては完全に封じられたも同然だ。どうしたものか…。
「…やむを得ないな。この日はどこかで宿を取るしかない」
シュウは苦い顔を浮かべながらも、ここは一度船が出向可能になるまで留まることを選択した。
「かえってちょうどいいのかもな。みんな馬車で揺られて疲れてるかもしれないし」
「兄ちゃん~僕疲れたよ…」
「眠い~…」
そういってアスカは子供たちの方を見やる。見ての通り、子供たちは馬車に揺られて疲れていたようで、ひとまずここで休息をはさむことになった。
「うん…?」
ふと、テファは港の下に、巨大な船があるのを見つける。
その船の様式は、連絡船や、今船着場に繋げられている船とは様式が大きく異なる。船の外観に刻まれた彫刻が、あたかも炎を象徴としているようだ。
「あの船はなんですか?」
「ああ、王党派と一緒にレコンキスタに反逆していたって噂の『炎の空賊』の船だそうだ。『アバンギャルド』って言ってたか。アルビオンがタルブに侵攻する前に空賊から接収したとか」
「炎の空賊…」
その空賊たちとは縁がない…いや、たった一つだけあった。シュウは、恐らく今頃、ラグドリアン湖で身分を越えた友の眠りを守っている炎の用心棒を思い出す。ウエストウッドにサイトたちが突然来訪した時、炎の空賊たちがアルビオンの王党派と結託していたことは聞き及んでいたが、やはりウェールズが一度誘拐されたことがきっかけで空賊団も解散に追い込まれたのだ。
「シュウ、あの船に興味があるの?」
「…さてな」
彼の視線がかの空賊線『アバンギャルド号』に向けられていることに興味を抱いたテファがシュウに問いかけてきたが、はぐらかすように答えた。そのはっきりとしない返答の仕方は、テファには少し不満だった。
「ん?」
ふと、子供たちの中からサマンサが輪の中から飛び出て、船着場の傍らに駆け寄り、身をかがめてじっとそれを見た。
「おいサマンサ、一人で勝手に…」
「ねえマチルダお姉ちゃん。このお花、何?」
サマンサがマチルダのほうを振り向きながら、見つけた花を指差す。マチルダと、それに続いてシュウやテファたちもまた花を見る。
その花は、外見はチューリップに近い。だが、不気味さを孕んでいた。なぜなら、花弁が暗雲のような真っ黒な色に染まっていたのだ。
「この花…」
アスカはその花を見て目を細める。なんとなく、なんとなくだが…その黒い花には見覚えがあるような気がするのだ。それもずいぶん昔だが。
(どっかで見たことあんだよな~。でも、なんか思い出せねぇ…)
もう自分の知る『ネオフロンティアスペース』の地球から離れたせいか、アスカは当時の戦いや敵のことを一部忘れているところがあった。宇宙を旅している身となると、どうししても時間がどれほど経過したのかさえもわからなくなっている。最近のアスカ個人の悩みだった。帰る頃にはもう、自分たちを待っているかもしれない仲間たちがお墓の下に…などとか考えたくないものだ。
「まるで黒い絵の具で塗ったみたい。こっちのお花は綺麗なのに…」
エマは黒い花の傍らにも咲いている紫色の花を見る。以前シュウと二人で買い物に出かけたとき、花屋でも見かけたことがある。
「『紫苑』の花か」
「知ってるの?この花」
以外にも花の名前を言い当てたシュウにテファは目を丸くした。
「いや…昔、地球で見た花に似ている気がしてな」
シュウは、その紫色の花を見て目を細めた。似ている気がする…とは言ったが、だからといって有り得るだろうか?
地球に存在していた花と言う自然の存在が、自分が知る限り『完全にそのままの姿で』異世界に存在していることが。
(……いや、たかが花相手に、考えすぎか)
似たようなものなんて、きっとこの世界にもいくらでもあるかもしれないのに。
「不気味だよな…いっそ引っこ抜くか?」
「ダメだよサム兄。お花さんかわいそうだよ」
サムの言い分にエマがびしゃりと突っかかる。サムの年頃の少年というものは、花に対して遠慮がないことが多く、逆に女の子は基本的に花を大切にする。そういった点は地球と共通しているようだ。
「さて、一端宿を取りに行こうか。ここで留まっても仕方ない」
マチルダの提案に全員が乗り、一向が港を去ろうとした時だった。

――――!

一人の少女がシュウの前をちょうど横切ったとき、彼は目を見開いた。少女は、後ろを振り返ることがないまま歩き去っていく。その姿を彼は見ていたが、その目つきは異様だった。一目惚れだなんてくだらないレベルの話じゃない。
信じられないものを見るあまり、驚愕を隠しきれずにいた。
「シュウ…?」
気になって顔を覗き込んできたテファにも気づかない。彼は目を擦って自分が見たものを確かめる。
目を擦っているシュウは再び目を開けた時には、すでに彼が見つけた少女の姿はどこにも見当たらなかった。
「何か気になるものでも見てたの?」
「…いや、別に…」
そういって気にしてない振りをした。
(…今通りかかった女の姿……いや、まさか…そんなはずない)
でもその一方で、先ほど自分が見たものに対する奇妙な感覚が、まるで拭えなかった。
「なんだよシュウ、まさか…近くにこんな地の果てを巡っても巡り会えないほどの可憐な美少女がいるのに、街の女に目移りしてたのか?」
からかい半分呆れ半分でアスカがやけにニヤニヤ面を露わにし、こいつがいることを忘れるなとい言いたげに言った。
「あ、アスカさん!」
いきなり何を言い出すのだと、明らかにわざとからかってきているアスカにテファは顔を赤らめた。
「人の妹にいらんことふかなくていいんだよ!」
「痛ッ!」
マチルダは目くじらをあからさまに立てて、アスカの頭を小突いた。自分がからかう分は許容できても、他人の場合となると話が違った。
「からかわないでくれ」
一方のシュウはというと、さらりとかわして少女の去っていった方に視線を向けたときだった。
「うあああああ!!」
突然悲鳴が轟き、テファや子供たちが身をこわばらせる。シュウとアスカ、マチルダは視線を悲鳴の聞こえた方へと泳がせる。
街の人が、いつぞや…何度も見た時のごとく逃げ惑っている。彼らが逃げてきた元の方角をたどりながら見ていく。
「か、怪獣が…!?」
その先にいた巨大な影を見て、テファは思わず声を漏らした。
「…!!」
子供たちは互いに、またはシュウたちの中ですぐ近くに立つ大人たちの影に隠れたり服を掴んだりして少しでも恐怖を紛らわそうとした。
現れた怪獣は、ノスフェルだった。
「性懲りもなく…」
もう3度以上もあのおぞましい顔を見た気がする。なおかつしつこくて腹も立つほどだ。あんな怪物の前に子供たちを立たせるわけに行かない。早速彼はエボルトラスターを取り出した。それを見てテファが青ざめ、引き止めるかのように彼の手を掴んだ。
「また…行くの…?」
危なっかしすぎるシュウの戦いと先日の敗北が重なり、彼女の心を不安が支配した。
「仕方ないだろ。客人であるアスカの手を煩わせるわけにも行かないし、だからといって俺が出なかったら誰がやるんだ?」
「それは、そうだけど…」
不安がまったく消えてくれない。こうして1秒が過ぎるだけで不安ばかりが募る。
「おいおい、俺にそんな気遣いは無用だぜ。俺はいつでも準備OKだ」
自分もやる気十分であることアピールするアスカが言うと、ノスフェルが街のほうに入り込んでいく。
しかし、妙なことが起きた。
ノスフェルの姿が、消えた。そして次の瞬間、別の怪獣が姿を現した。
(何…?)
ノスフェルに変わって出現したのは、村を襲った怪獣ムカデンダーだった。
これは一体どういうことだ?怪獣が、全く異なる生物に変化…いや、入れ替わっているようなこの現象に違和感が募る。
「ムカデの化け物が…どういうことだ」
「ムカデ?俺には、ネオダランビアに見えるぜ」
「は?」
だがそれだけではなかった。シュウの目からは明らかにムカデンダーの姿をしているのに、アスカの目には全く異なる姿の怪物が映っていたのだ。
「あたしには、足の方に頭がついて、頭に尾が二つ生えた化け物に見えるけどね」
一方でマチルダはというと、かつて魔法学院から破壊の杖を盗み出そうとしたときに遭遇した怪獣ツインテールに見えていた。その怪獣にはシュウも当事者だったから見覚えはあるが、同時に奇怪に思う。
(どういうことだ。人によって、ビーストの姿が異なって見えている…?)
そうとしか思えない。自分たちの見えている怪獣の姿がそれぞれ異なっているとは。
本当に、何が起こっている?
疑問に思っている間に、彼らがそれぞれ違う姿に見えていた怪獣は、突如その身を黒く染め、崩れ落ちた果てに跡形もなく消えた。
「き、消えた…」
ただ人を怯えさせるだけ怯えさせ、そのまま消えてしまった怪獣。自分たちにはそれぞれ違う怪獣同士に見えていたという奇妙な現象。
今度は一体何が起ろうとしているのだ?

募るばかりの疑問を、シュウは抱くばかりだった。

シュウやテファと年齢が近しく見える一人の少女が、そんな彼をじっと見ていた。

その少女を起点に、また新たな事件が起きることを、知る由も無かった。

風に吹かれ、ゆらゆら揺れながら、一輪の白い花が少女の傍に咲いていた。
 
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