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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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飛鳥-ダイナ-

シュウやテファたちの身に事件が起きている間、サイトたちは魔法学院にて夏季休暇期間の時間を潰していた。
だがサイトもゼロも、無論ルイズもこの一時の平穏が近いうちに崩れ落ちることを勘付いていた。
だからこそなのか、この一時の平穏を少しでも安らかにすごして、次の危機に備えておこうと思っていたのだが…。

「…………」
ルイズは不機嫌だった。学院に戻ってきてからずっとのこ様子だった。
「大丈夫かハルナ?まだ熱下がってないって言ってたもんな」
「だ、大丈夫…だんだん楽になってきているし」
ハルナは未だに体調不良で体が弱っているというのだ。慣れない環境下だから体調を崩してしまった彼女だが、病気だからとはいえ知り合いが一人もいない街に残したままではかわいそうなので、一度学院に戻ることが決まった二人と共に連れて帰ることになったのだ。
そのハルナを連れて帰ってからと言うもの、未だに病状が改善しないハルナは学院勤務の平民用宿舎のベッドで泊めてもらっている。ハルナにとってもサイトにとっても、二人はこの世界でただ一人の故郷以来の知り合いなのだ。周りの環境が自分の暮らしていた頃とはまるで違いすぎると、互いに依存したくなるのは当然のことだ。
しかしそれでも、ルイズには面白くないことだ。なにせ、自分の使い魔が他の女といちゃいちゃ(少なくともルイズとシエスタにはそう見える)しているのが気に食わないのだから。
「ちゃんとご飯は食べてる?そういや、もう昼飯食った?」
「まだだけど…平賀君は?」
「俺もまだ食ってなくってさ。なんかルイズの奴、いきなりごはん抜きとか言ってきてさ」
「ええ!?なんでですか!?」
ハルナが納得できないと言わんばかりにルイズを見ると、そのルイズはというと不機嫌さを募らせているままだ。
「な、なんでって…それは、そう!サイトが他の女の子にいちいち色目を使っているせいよ!」
「なんでそうなるんだよ!俺いつも通りちゃんと仕事こなしてたし、別に何もなかったじゃねえか!」
「ふーん、どうかしらね…」
必死に正当な弁明を繰り返すサイトだがルイズは怪しんだままだ。事実サイトは戻ってきてからルイズからの雑用をちゃんとこなしている。なのになぜかルイズはというとご機嫌斜めなままだ。
まあ別に飯抜きについては気にしない。シエスタがおいしい賄いをくれるからだ。納得できないのは、なぜか恨まれる理由がないのに恨まれていると言う理不尽さに、だ。
ハルナにはルイズの機嫌がここ数日損なわれている理由を理解している。そしてそれは鈍感なサイトにはわからないことだ。
要は…相変わらずの嫉妬。学院に戻ってきてからは、ルイズからの雑用の合間に、サイトはちょくちょくハルナの様子を見に来ていたのだ。自分を気遣って見舞いに来てくれるサイトの存在が、ハルナにとってどれほど嬉しいことか。だから余計に甘えたくなる。
「平賀君、お願いがあるけど…いい?そろそろシエスタさんがご飯持ってくるんだけど…一緒に食べよ?」
「あ、まだ?」
驚きだった。これまでサイトは地球にいた頃から別段モテたことがなかったし、まして女子と一緒にご飯を食べようと言われることはなかった。ルイズとは食堂で一緒に食事をとったことはあるが、あれは床の上にパンと不味いスープだったのでノーカウント。シエスタの場合はご飯を恵んでもらっただけで一緒に食べてまではいない。妖精亭で働いていた時も一人で食べていた。一度はあそこでさらにモテモテぶりに拍車がかかったと思われたが、直後のスカロンからの熱い接吻地獄のせいでしばらく精神的に追い詰められ、ふさぎ込んでいたため…サイトを狙った妖精さんたちはタイミングを逃したとか。
「体調崩してて食欲なかったけど、平賀君も一緒だともっとおいしく食べられそうだけど…いや?」
「そ、そんなことないって!寧ろ光栄であります!」
あからさまにサイトに甘えているハルナに、ルイズはさらにいらだちを募らせる。一方で美少女からのお誘いには断れないサイトは思わず敬礼してしまう。我慢ならず、一言彼女に言った。すると、シエスタが台車にスープとサラダなどの料理を運んで部屋を訪ねてきた。
「サイトさん、ハルナさん、ご飯をお持ちしました」
「お、いつもありがとなシエスタ」
「いえいえ」
愛嬌溢れる笑顔でサイトと接してくるシエスタだが、この時の彼女の心中は、渦を巻いていた。その原因はというと、言わずともわかるかもしれないが、やはりハルナの存在である。いくら昔馴染み同士の関係とはいえ、惚れた男が別の女にうつつを抜かしている姿は面白いものではない。
それに、ルイズとシエスタはあることに気が付いていた。
皆は疑問に思わないだろうか。ハルナが熱を出してから、だいぶ日数が経過している。重い病気ならまだしも、環境の変化程度での発熱が数日も続くものなのか。
(顔色が発熱した時と比べて俄然いい。やっぱりハルナさんは…)
実をいうと…結論から言って、ハルナの熱はすでにおさまっていたのだ。
要は、『仮病』である。
ならなぜサイトからの看病を受け続けているのか。理由などたやすい。サイトに甘えたいのだ。その根源にある思いに関しては共感を覚えるが、だからといっていつまでもいちゃつかれるとたまったもんじゃない。
この危機を脱するため、密かにルイズとシエスタは同盟を結んでいた。ルイズが一度サイトのハルナへの甘やかしに近い看病と対応に、ついにルイズが怒ってしまい、それを見かねたシエスタがサイトたちには内緒で同盟を持ちかけたのである。
(なんとか手を打たなければなりませんね、ミス・ヴァリエール)
(ええ…)
自分たちをよそに、シエスタが運んできた食事を食べている二人は、傍から見たらまさに彼氏彼女の関係。それ以外に何と見るべきかなんて思いつかない。
(何よあの馬鹿犬…またご主人様以外の女の子にデレデレしちゃって…)
まぁ、一応ハルナとの間に約束こそ交わした。サイトをいつか故郷に帰す、と。けどあくまで約束の時までは自分の使い魔なのだから、自分の言うことを優先してほしいところ。
嫉妬の念を抑えるのに必死だった。
「…おいしい」
「シエスタの料理って何度食っても飽きないよな。また頼むよ」
「は、はい…お任せください」
いつも通り飯を恵んでくれたシエスタに礼を言うと、サイトは窓の外をじっと眺め始めた。
「それにしても、あいつ今どうしてんだろうな…」
「あいつ?あ…」
ハルナが誰の事かと思って首を傾げていたが、それが誰なのかすぐに察した。
あの事件以来、シュウからの連絡は来ていない。一応いつでも連絡が取れるよう、ジャンバードを介した回線がシュウの手で作られたのだが、肝心の彼からの連絡がない。迂闊にテファたちの前で通信などできないとでも思っているのだろうか。
こちらから連絡を入れようか。そう思っていると、サイトの腕に巻かれているビデオシーバーからの着信が鳴り出した。
「平賀君、なんか鳴ってる」
「は、はい!こちらサイト!」
サイトは蓋を開き、早速相手にあいさつする。
『サイトさん、ルイズ。お元気ですか?』
相手はシュウではなく、アンリエッタだった。画面の向こうの景色からすると、彼女はジャンバードからこちらに連絡してきているのがわかる。
「姫様!?どうしたんですか」
「すごい…本当に動いてる」
名前を呼ばれ、ルイズは身を乗り出すようにビデオシーバーの画面を覗き込む。シエスタも作られた時期から何年も経ちながら動いているビデオシーバーに驚いている。
「サイトさん、ひいおじいちゃんの形見、ちゃんと使ってくれてるんですね」
「フルハシさんが遺してくれた大切なものだからね。大事に使うよ」
『よかった…そちらでも私の顔と声が届いてるようですね』
あの事件の後、女王即位式を経てアンリエッタは正式なトリステインの女王となった。
シュウの正体については、事件後のサイトからの進言もあって誰にも明かしていない。アンリエッタも、今回の事件で事件の当事者でもあるサイトたちだけじゃない。トリステイン国民全員に対して多大すぎる迷惑をかけるところだった。その罪を償うと言うこともあり、サイトからの…シュウがウルトラマンであるということを内密にすること、そしてもう一つ、もしウルトラマンゼロが人間の姿で潜伏していたとしても、決して彼を捜索・調査させないことを約束したのだった。
ちなみに、ジャンバードにサイトのビデオシーバー、シュウのパルスブレイガーへの通信の仕方も、そのシステム回線を仕込んだシュウから事件後に教えてもらっていたのだ。
「ところで、なにかあったんですか?」
『いえ、何かが起こった、というわけではありません。今後の我が国の、怪獣などに対する対応の仕方についてお話したいことがあります』
真剣な面構え。あの事件で見せた、現実失望し失ったものにただ縋るだけの弱い少女の姿はなかった。
『現在の我が国の貴族たちは、開戦を求める声が高まっております。それは悪いことに、国民にも広まりつつあるのです。狙いはやはり、不可侵条約を結んでおきながら怪獣や超兵器を用いて我が国を侵略したアルビオンへの報復でしょう。降伏か講和を勧める声もありましたが、以前レコンキスタが不可侵条約を破ったこと、私があの事件後に女王に即位した影響で平和的解決への道を閉ざしてしまったのです』
一度お互いに攻め込まないでおきましょうと言っておきながら、トリステインを攻めてきたレコンキスタ。当然他国からの信頼などあるはずもないし、寧ろこれまでの所業からして共通の敵として認識されがちに違いない。貴族たちも戦えと訴えないほうがおかしいだろう。
『しかし、皆もご存知のように、レコンキスタが従えていた怪獣の力は一個体だけでも強大です。しかもこれまでの怪獣災害の影響で、魔法衛士隊の戦力はもう皆無に等しいでしょう。今も軍の編成に奔走しておりますが、開戦をしたところで、我が国は返り討ちに合い、今度こそ滅亡の危機に陥り、多大な犠牲が出ることは必至です。
そこで、私はある一つのアイデアを考えました』
「あるアイデア?」
一体なんだろう、ルイズがそう呟くと、アンリエッタは画面の向こうにいるサイトに向けて一つの問いかけをする。
『サイトさんとハルナさんの故郷では、対怪獣防衛組織がございましたね?』
「あ、はい。そうです」
『私たちも、それに習って少数精鋭の対怪獣防衛組織の新設を決定したのです。そのメンバーにはサイトさん、あなたに参加をしてほしいのです』



サイトのいたM78 世界とも、シュウのいたネクサスワールドともまた違う宇宙。
その世界には、二度にわたる危機にさらされていた。
一度目は、超古代より蘇りし怪獣の復活が発端となった。世界全体で怪獣が呼び覚まされ、時には宇宙から凶悪な侵略者が現れ、世界はパニックに陥った。人類はその状況を打破すべく対抗手段を練り、対応していったが、彼らだけではそれらを打破することは難しかった。しかし、そんな時だった。
その世界にもまた、光の救世主が…超古代の時代より蘇ったのだ。
戦いは救世主と、超古代の邪悪な化身たちの激しい戦いを最後に、幕を閉じた…はずだった。
今度は二度目…人類の宇宙進出期からだ。宇宙より不気味な水晶体が飛来し、人類の宇宙への夢をことごとく阻んできた。それに続き、再び地球から怪獣が現れ、水晶体とは別の宇宙からの侵略者たちが地球を狙ってきた。またしても危機に陥り始める地球。
だが、地球側も負けていなかった。さらに強化された防衛組織、そしてもう一人…彼らと心と力を合わせ立ち向かった…光を掴んだ新たな英雄がいた。
だが彼には問題があった。才能はあったにもかかわらず、最初は無鉄砲でがさつが過ぎて、仲間たちとの衝突が絶えなかった男だった。しかし彼はどんな時も諦めず、決して逃げようともしなかった。だが、その心にある強い信念と…『夢』、そして戦いや時間を重ねるごとに培ってきた仲間との絆が世界を照らし続けてきた。
しかし…。

―――――負けるかああああああああああ!!!

地球の平和と引き換えに、英雄は最後の戦いで…宇宙の闇の中へと消えて行った…。

しかし英雄は死ななかった。

光の中で、彼は幼き日に別れた父と再会を果たした後、輝きの向こうへと旅立った。
長い長い旅だった。宇宙の闇の中に点在する星々の光を目印に、彼は宛ての無い旅を続けてきた。

そして数年の時を経て、彼は今、一人の若き戦士を救うべく彼の元に降り立った。

その英雄の名は…






『ダイナミックヒーロー・ウルトラマンダイナ』!!






「新しい、ウルトラマン…」
「わああ、かっこいい!!」
「頑張って、ウルトラマーーーーン!!」
テファは、ネクサスの危機を救いに来た、新たなウルトラマンの姿を凝視していた。子供たちはその雄々しい姿を見て興奮し、歓喜に満ちた声援を送った。
テファとマチルダは、あらたに現れたウルトラマン…ダイナを見てどこかほっとしていた。彼と同じウルトラマンが、彼を助けに来てくれたのか?そう思えてならなかった。というか、そうでなくては困る。
(…お願い…彼を、シュウを助けて!!)
テファは手を握り、強く祈った。
「…」
しかし一方で、メンヌヴィルは面白くなさそうに、真顔を浮かべていた。ダイナの姿に気を取られているテファやマチルダに気づかれることなく、彼はその場から去っていった。




シュウに気絶させられたヘンリーは目を覚ました。目覚めた場所は壊れてしまった一件の民家。そして自分の下には、一匹の竜が…今まで自分と共に生きてきた相棒が事切れた状態で横たわっていた。
「……」
こいつがクッション代わりになってくれなかったら、今頃自分が激突の衝撃で死んでいたかもしれない。
なぜ自分はここで眠っていた?と想うと、すぐにそのわけを思い出す。突然現れたあの男が行き成り自分を殴ったからだ。
「くそ…思い切り殴りやがって」
無理やり気絶させて自分の命を助けたつもりか?余計なことを…!
どうせ生き延びても、今のアルビオンの情勢は最悪だ。あんな得体の知れない怪物を使って国を蹂躙して王権を剥奪した連中が上を占めている。そんな野心の塊のような連中ほど諦めが悪く、いつかまたトリステインを攻めるに違いない。
それを考えれば、たかが一の兵が運よく生き延びても、次以降の戦いで死ぬ。
こんな狂った国であろうとも、自分は祖国のために戦う貴族だ。国のために戦って死ぬのなら寧ろ栄誉あること。逆に、命惜しさにのうのうと生き延びることは生き恥を晒すことで、白い目で見られることなど当たり前だ。
ヘンリーにとって、シュウの行いはたとえ善意であっても余計なお世話そのものだった。
それにしてもあの男は一体誰だった?
それに気絶する前に戦ったあの巨大な黒い化け物は一体何なのだ?魔法が一切通さないあの結界は?もしやエルフたちが使う先住魔法なのか?
そういえば、奴はどうなった?ヘンリーは急いで外に出る。
外に出た途端、やはりと言うべきか、黒い怪物…ゼットンがいまだに健在だった。だがそれだけじゃない。
噂で何度も耳にした銀色の巨人の姿もあった。そして、その巨人を庇うかのように、ゼットンに立ちふさがる形で、銀色の巨人の彼の前に、もう一人の巨人が立っていた。


「purorororororo…」
「デア!!」
ゼットンが新たに現れた巨人に向けて光弾を連発すると、ダイナは蠅を叩き落とすようにそれらを有らぬ方角へと弾き飛ばした。
弾き飛ばすと、彼はゼットンに向かって突進する。
しかし、流石はネクサスを圧倒した怪獣というべきか。ダイナの繰り出したパンチやキックに、一切怯む様子を見せなかった。
ゼットンからもダイナに向けてパンチが飛んできた。その手を掴んで防ぎ、ダイナはゼットンの腹を前蹴りで蹴飛ばした。
一定の距離が開き、次の瞬間ゼットンの足払いが襲ってきた。ダイナは途端にジャンプ、その際にゼットンの顔に回し蹴りを叩き込む。
この程度の攻撃、バリアで防ぐまでもないということか。
強烈に入った一撃だが、それでもゼットンには堪えなかった。お返しといわんばかりに、みぞおちを食らい、さらに顔面をぶん殴られ、回転しながら倒れたダイナ。
(っち…この怪獣、なかなかいいパンチしてくるぜ)
口を拭いながら立ち上がるダイナは、素直に今回の強敵の千器量を心の中で評価する。なら…。
ダイナは一発たち状態からの回し蹴りを叩き込み、流れるようにゼットンの背後に回りこむと、十字型に両腕を組んで必殺光線の構えを取った。
「!」
起き上がろうとしたネクサスがそれを見て止せ!と叫ぼうとした其の時には既に遅く、ダイナによって必殺の構成が放たれた。
〈ソルジェント光線!〉
「ジュア!」
光線はまっすぐ飛び、ゼットンに直撃した。が、ネクサスの想像通りだった。ゼットンはダイナの光線を容易く吸収してしまった。飛び入りと言うこともあり、ネクサスを苦しめたゼットンの光線吸収まで読んでいなかったらしい。
ゼットンが両手を前に突き出した。まずい、光線が返って来る!
「避けろ…!」
ネクサスが声を絞り出しながらダイナに向けて言い放つ。だが、ダイナは避けなかった。ゼットンの正面に立ったまま、両腕を顔の前で組む。
すると、額のクリスタルが赤く輝き、まばゆいその光がダイナを包み込むと、光が消えたその時には、ダイナの体の模様が赤く染まった。
これが力の戦士、『ウルトラマンダイナ・ストロングタイプ』!
(姿が変わった…!奴も俺と同じ能力を…?)
ネクサスが驚いているわずかな間で、すでにダイナに跳ね返されたソルジェント光線が迫っていた。
それを真っ向から受ければ、ダイナもただでは済まされない…はずだった。
「ハァァ…ジェア!!」
ダイナは、跳ね返ってきた光線に対して豪胆にも両腕を突き出した。そして驚く結果が現実となる。
跳ね返された光線が、ダイナの二つの拳によって受け止められ、彼が両腕をバッ!と振り下ろした途端にかき消されたのだ。なんて強引な力技を出したのだろう。
「へ、見たか!俺の超ファインプレー!!」
ゼットンに向けて指を差して見せ得意げになるダイナ。その声には強い自信が満ち溢れていた。
「デア!!」
力強いポーズを決めながら、ダイナをゼットンに向けて突進する。ゴッ!!と鈍器をぶつけたような音が響き、ゼットンは今の一撃で大きくのけぞった。赤き力の戦士、ストロングタイプとなったダイナは、通常の何倍もの体力と筋力を手にしているのである。
ダウンしたゼットンを無理やり起き上がらせると、ダイナはさらに追撃として腹に一発拳を叩き込んで怯ませ、頭上に持ち上げ地面に投げ倒した。ダイナは高く飛び上がり、拳を振り上げながらゼットンに飛び掛る。
(さっきよりも動きが鈍くなっている…)
ネクサスはそれを見て疑問を抱く、てっきり自分がジュネッスにチェンジするのと同じ、スピードとパワーの両方が上がる単純なパワーアップ化と思っていた。だが、そうではない。力が上がっている分動きが鈍くなっていた。
その鈍さ故のタイムラグの間、ゼットンはパッと姿を消した。
「!」
ダイナの上空からの攻撃は、ゼットンのいた場所に拳が突き刺さる形で空振りに終わった。腕を引き抜いたダイナは周囲を見渡す。ゼットンの姿が見当たらない。一体どこへ消えた?
「後ろだ!」
ネクサスが叫んだ。その声を迷うことなく聞き入れたダイナがいち早く振り向くと、彼の後方に姿を現したゼットンが顔のランプから火球を5発ほど連射する。
「フン!ハッ!ディア!!」
早い段階で振り向くことができたおかげで、ダイナはその不意打ちの火球に対応することができた。筋力の上がったその自慢の手刀で、ゼットンの火球を弾き飛ばしていった。跳ね返した火球の中で一発だけゼットンに直撃する。
其の火球の一発もまたゼットンには堪えたらしく、後ろに一歩下がるように仰け反った。
一気に決めてやる。
「ウオォォ…」
ダイナは両拳をカラータイマーの前にあわせると、円を描くように両腕を回した後、胸の前に一発の赤い炎のような光球を形成し、右拳で殴る形でゼットンにそれを撃ち放った。
それはダイナが数々の強敵を討ち下してきた必殺の光線技の一つ…。
〈ガルネイトボンバー!!〉
「デヤアアアアア!!!」
凝縮された光エネルギーのボールが、ゼットンに向かっていく。
ゼットンは球体状の光線だからか、それとも威力が高すぎて吸収しきれないのか、どちらかは不明だが直接吸収はせず、自慢のバリアを展開してダイナの光球の防御に掛かる。
確かに防御すること=直撃すること事態は免れた。だが、光球がバリアにぶつかった途端、激しい爆発が起こり、ゼットンのバリアは粉々に吹き飛んでしまった。
バリアを砕いた。今なら…!とダイナはゼットンに向かって走りこむ。再びラッシュに持ち込み、そして止めを刺す。
それで、この戦いは終わると想っていた。
確かに、戦いは終わった。

ダイナにとって思わぬ横槍が入ったことで。

「ウア!!?」
突然ゼットンとダイナの間に、数発の黒い光弾が降り注ぎ、ダイナは足を止めた。
煙が立ち込め、ズシンと何かが落ちてきたような振動が走る。何かが煙にまぎれて降りてきたようだ。ひゅう、と風が吹いて煙がかき消され、ダイナとネクサスはゼットンの立っていた場所を見る。
「…」「!?」
ネクサスはやはりといった感じの沈黙を保っていたが、一方でダイナは驚きを隠しきれていなかった。。
ダイナの記憶には、こんな奴はいなかった。いや、似たような奴は一人か二人程度はいたかもしれない。
だが、それらとは根本的に違う。自分が『純粋な光』ならば、相手はまさに『純粋な闇』そのもの。
その巨人の姿は、間違いなく『ウルトラマン』としての姿をしていた。だが、どす黒くて不気味なオーラを放つ黒い模様と漆黒の目があまりに異様だった。
「だ、誰だ…お前は!?」
ダイナが思わず黒い巨人に向けて叫んだ。しかし一方で黒い巨人もまたダイナに問い返した。
「それはこっちの台詞だ。貴様、何者だ?」
「質問に質問で返してんじゃねえよ!お前は何者だ!ウルトラマンなのか!?」
回答に不満を覚えダイナは声を荒げた。
「俺は……そいつを狩る者だ」
黒い巨人…ダークメフィストは自信のことを直接多く語ろうとはせず、敢えて意味深に聞こえる言い回しで返答した。
答えになってない、と言いたかった。だが、考えてみればこの巨人が自分の望む回答をしてくれるなんて保証はない。
「ではこっちの質問だ。貴様は?」
何者だと聞かれ、逆にダイナは嘘偽りなく答えた。
「…『アスカ・シン』。『ウルトラマンダイナ』だ」
「ダイナ…か。貴様も獲物候補に数えてやる。だが、今は貴様の後ろにいるその男が俺の獲物だ。邪魔をすれば…」
それ以上は言わずともわかる。でもそれを、ウルトラマンとして…それ以前に一人の人間として許容できるはずがない。
「言ってろ!そんときは倍に返しててめえをぶちのめす!」
「…ふ、威勢のいい奴は嫌いじゃないぞ」
不敵に笑うメフィストの姿が、ゼットンと共にだんだんうっすらと霞み始めて行く。
「じゃあな。そいつを焼いたら、今度はお前を狩りに行ってやるとしよう」
「待て!」
ダイナが無理にでも引き留めようと手を伸ばした時には、メフィストとゼットンの姿はなかった。
ダイナと、ただ見ていることしかできなくなったネクサスもまた、姿を消した。





「……」
全く敵わなかった初遭遇の怪獣。敗北。
そして、見たこともない新たなウルトラマンから助け出された。
変身を解いた直後のシュウが認識した事実だ。
ゼロにレオに続く、あの新たに現れたウルトラマンが気にならないわけじゃない。
だが、それ以上に…シュウは自分が情けないと思った。
あの黒い怪物相手に、全く手も足も出なかったのだ。自分が無敵だと言う自負も傲慢さもあったわけじゃない。ただ、状況からして自分は勝たなければならなかった。だが完膚なきまでに叩きのめされてしまった。
(なんて情けないんだ…)
ダメージの蓄積もあっただろう。シュウはその場に両手と膝を着いて、悔しさを露わにしていた。

いつもだ…いつもこうなる!!

どんな才能があっても、どんな力があっても!

いつも俺は失敗し続ける!!

失敗の度に、俺の周りの人たちがいつも傷ついていく!

「なんなんだ…俺は…!!」
ぎぎぎ、と歯ぎしりし、握り拳を作る。
「何が…何が『プロメテの子』だ!何がナイトレイダーだ!!何がウルトラマンだ!!」
握り締めた拳を叩きつけた。地面がひび割れるほどに、彼は何度も何度も殴りつけた。
「誰かを守るどころか…何にも守れちゃいない!!
何一つ罪を贖えてもいない!くそぉ!!」
拳を地面に叩きつける度に、拳に血が滲み始めている。
「一体俺は…何のために…生き…て………」
その時、視界がグラッと揺らいだ。
(ダメージが、ぶり返したか…ッ!)
まだここで倒れるわけにはいかない。巨人と怪獣の戦闘区域にいる謎の男。恰好の餌にされかねない以上ここから離れなければならない。が、それでも彼の体は休まなければならないほど限界を迎えていた。
シュウは微睡に抗おうとしたが、結局抗うことはできず、その場に倒れ意識を手放した。
意識が飛ぶ寸前、自分の元に駆け寄る人影が見えた。それはテファではなかったことだけはわかった。体格からして長身の男だった。ならメンヌヴィルか?と思ったが、それを確認する前にシュウの意識は途切れた。
どさっと倒れた時、男は苦々しげにシュウを見下ろしていた。彼の体は傷だらけだった。すぐ医者に診てもらわないと。
男はシュウを担ぎ、歩き出した。
彼の服装は、カラーリングは大きく違うが、シュウがたまに着こむナイトレイダーの隊員服と質がよく似ていた。
胸のエンブレムには『GUTS』と刻まれていた。


「シュウーーー!!」
戦いが終わると同時に、テファたちは直ちにシュウを探した。シュウが無理な意識を持ったまま戦いに挑んでいたことは知っていたが…
(だからといってあんなにこてんぱんにされるとは思いもしなかったね…)
マチルダは嫌な汗が流れるのを感じる。
あの、もう一人のウルトラマンが現れなかったらどうなっていたことだろう。想像したくもない未来を浮かんでしまう。あの黒い巨人が見逃してくれたのか、戦いを挑まずに去ってくれたのは運がよかった。でも、アルビオン軍もここの調査に乗り出してくるに違いない。
軍の連中が来る前に今のうちに彼を見つけここから直ちに退散せねば。
「はあ、はあ…」
だが、子供たちを連れての強行軍はきつく、着いてきた子供たちはシュウのいるやもしれない地点に着く前に息を切らしてしまった。
「心配だからって無理しちゃって…テファ、悪いけどあんたはここでチビたちと待ってな。あたしがすぐにあいつを見つけ出してくる」
「で、でも…」
いくら口論したとはいえ、心配にならないはずがない。テファもシュウの様子をすぐにでも確認しておきたかったのだが、体力的に劣る子供たちを一緒に連れてきたのでは難しかった。
「いいから、あたしに任せ…」
「その必要はねえぜ」
マチルダの言葉を遮る形で声が聞こえてきた。
とっさに振り向くマチルダたち。すると、振り向いた方角から男がこちらに向かって歩いてきていた。背中には、自分たちが探していたシュウが担がれている。
「あんたは!?」
マチルダは警戒し、杖を抜く。
「安心してくれ。俺は敵じゃない」
男は温和に話しかけてきたが、彼女はすぐに信用することはなかった。
「信用ならないね…。その子を人質に何かよからぬことを企んでるってこともあるからね」
裏の世界で生きてきたからこそ、その恐ろしさがわかる。いい人キャラを演じて自分を追いと仕入れようとした輩と何度も遭遇してきた。テファという自分の守るべき人がいなかったら、きっと自分もそいつらと完全に同じ色に染まっていたことだろう。
「じゃあ…」
男はシュウを背中から下ろして自分の目の前に下ろして一歩下がった。マチルダはディテクトマジックで魔法を使った罠がないかを確かめる。反応はない。ならもっと別の罠は仕掛けられていないか?恐る恐る近づき、意識のないシュウの体に指先で触れてみる。何も起こらない。抱き起して何か怪しいものが張り付いていないか確かめてみるが、そう言ったこともなかった。
「どうやら嘘じゃないみたいだね」
「最初からそう言ってるだろ?って…考えてみたらすぐに信じる方が妙か」
「あの…あなたは?」
テファがついに口を開き、男が誰なのかを問うと、男は一転の曇りなき笑みを浮かべ自己紹介した。
「俺は、アスカ・シン。彼と同じ…ウルトラマンだ」
ふと、遠くから声が聞こえてきた。アルビオン兵たちが生存した仲間を探し回っているのだ。ここから離れた方がいいと思い、彼らは直ちにその場から立ち去った。
 
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