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古城

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5部分:第五章


第五章

「そう。だったらさ」
 その陰気な顔のまま語ってきた。
「見て」
「!?何をだ」
「これをだよ」
 少年が言うと。不意に卿の頭の中に何かが流れ込んできた。それは。
「なっ、これは」
「わかるね。これが何か」
「馬鹿な、こんなことが」
「馬鹿なことじゃないよ」
 頭の中に流れ込んでくるそれを否定しようとするができない。少年はそれを笑って見ている。
「これは本当のことだったんだ」
「本当のことか。これが」
「僕は。二週間閉じ込められたんだよ」
 スタンフィールド卿も述べたそのことだった。
「どうして生き残ったか。理由はこれだったんだよ」
「や、止めろ」
 卿は頭を押さえて呻いていた。今脳裏に入って来ているものを否定したかったのだ。どうしても。しかし少年はその彼に対してまた言うのだった。
「こんなことは。有り得ない」
「有り得るよ。家族が家族を」
 少年は表情を変えずに言う。それがかえって不気味だった。
「あるんだよ。それに生き残った僕は人ではなくなったけれど」
「・・・・・・そうだったのか」
「わかったね。どうして僕がこうなったか」
「う、うむ」
「わかってくれたらいいよ。それじゃあ」
 ここまで言うと。少年は足先から消えていった。まるで煙の様に。
「消える・・・・・・」
「僕はずっとここにいるよ」
 消えながらもこう告げてきた。
「ずっとね。ただ」
「ただ。そうか」
「そう。これを伝えたかったんだ。何があったのか」
「・・・・・・わかった」
「おじさん、強いんだね」
 少年はもう腰まで消えていた。消えていく中で卿に言ってきた。
「これを知って耐えられなくておかしくなる人もいるのに」
「わしは貴族だ」
 彼の誇りだ。イギリス貴族としての。
「何があろうとも取り乱すつもりはない」
「そうなの」
「そう。だからわしは耐えているのだ」
 実は彼も気が狂いそうになっていた。それに耐えていたのだ。それは彼の誇りと精神力で耐えていたのだ。必死にであるが。
「何とかな」
「そう。じゃあもうこれで」
「消えるのか」
「もう会うことはないだろうけれど」
 それはわかっていた。わかってはいたがであった。
「僕のこと。言わなくていいから知っていてね」
「・・・・・うむ」
「何があったのか。それだけを知って欲しいんだ」
 こう言い残して少年は姿を消した。後には卿だけが残った。一人になった卿は暫くそこで呆然としていたがすぐに普段の落ち着きを取り戻した。そのうえで呟くのだった。
「戻るか」
 こう呟いて自分の部屋に戻った。部屋に戻りそのまま眠りにまた入る。次の日の朝。彼は城の使用人に起こされ着替え等を済ませた後で食堂に入った。既にスタンッフィールド卿がにこやかな笑みを浮かべて白いテーブルかけをかけた大きなテーブルに座っていた。
「お早うございます」
「はい、お早うございます」
「昨日はよく眠られましたか」
 まずは朝の挨拶からはじまった。
「如何でしょうか」
「はい」
 昨日のことを隠して主に答える。
「実にいい夜でした」
「そうでした。それは何よりです」
「ええ。ところで」
 スタンフィールド卿とは向かい側の席につく。そのうえで話をはじめるおだった。
「この城のことですが」
「何か」
 向かい合って座った二人のところにまずは紅茶が置かれた。イギリスらしくミルクティーである。それを前にしてまずはそれを飲むのだった。
「貴方は会われたことがありますか」
「その化け物にですか」
「ええ」
 主の言葉に頷く。
「それはどうなのでしょうか」
「私は別に」
 スタンフィールド卿は彼のその言葉には首を横に振った。
「会ったことはないです」
「左様ですか」
「それが何か」
「いえ」
 ここで少年の言葉を思い出した。それでこれ以上はあえて言わなかったのだ。
「それならばいいです」
「左様ですか」
「はい。それにしても」
 オズワルド卿はここでまたふと思った。このことは話してもいいとわかっていたので言うことにした。それは表面上はありきたりの言葉だった。
 
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