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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン34 光の結社とアカデミアー3F-

 
前書き
タイトル考えなくていいってすごく楽です(真顔)。
そんなことを考える今日この頃。 

 
 1階で万丈目、2階で夢想と別れ、ついに僕らは3階に突入した。いまだ下にいる2人とは連絡が取れないけど、ここでいちいち戻って確認してたら何のためにあの場を任せてきたのかわけがわからない。それに、これまでのパターンから考えるとこの階もそろそろのはずだ。同じことを考えているらしく、隣を走る3人の表情も硬い。

「よう。久しぶりだな」
「……うわっ、お前かあ」
「ずいぶんひどい言いようじゃないの、オイ。なんならもっかいぶっとばしてやろうか?」

 ひょっこりと顔を見せたのは、やはりこの男、というべきか。実力的には確かにどこかで出番が来るだろうとは思っていたから、あまり驚きはない。ノース校四天王最強の男、鎧田(よろいだ)……ノース校が対抗試合前からすでに堕ちていたことを考えると、光の結社のなかでもかなり古株の幹部だ。

「さあ、早く構えろよ遊野清明。俺とお前の戦績はこれまでで1勝1敗、もう結果の見えた勝負には違いないが、このデュエルできっちり決着つけようぜ?」
「ああ、僕がお望みなわけね……」

 だからこの男には会いたくなかったのだ。葵ちゃんの時も正直危なかったけど、今のメンバーの中では僕としか接点のないこの男が出てくるとしたら、その狙いは僕以外にありえない。

「十代、翔、剣山!ここは僕が相手するから、3人とも早く先に!」

 少しは悩むだろうと踏んでいたのか、すぐに決断した僕を何か珍しい物でも見るような顔で覗き込む鎧田。確かに僕だってどうせなら斎王を相手にしたかったけど、ここに突入した時点で誰が相手だろうと覚悟はできている。誰からの挑戦も正面から受け止め、斎王に当たるまで片っ端から叩き潰していくまでだ。
 だけど、そこからの僕の友人たちの反応は予想と違った。

「いや、ここは俺に任せて先輩は先に行くドン」
「剣山君1人じゃ無理でしょ?僕だって、ここで戦う!」
「剣山、翔……なんで」

 ずい、と前に出た剣山と翔が、ほぼ同時にデュエルディスクを構える。だけど、それはおかしい。ここで戦うのは僕の役目だから、2人は十代と一緒に斎王のとこに行くのが筋というものだろうに。その思いを言葉にしようとした矢先、先手を打つようにして2人がそれぞれ親指を立てて笑いかけてきた。

「なーに言ってるドン、もともと俺たちを焚きつけてここまで来させたのは清明先輩ザウルス。その先輩がここで勝手に離脱されたら、それこそおかしな話だドン」
「悔しいけど、それに関してはその通りだからね。さあ、早く!」

 鎧田はとても強い。正直なところ、僕が1人で戦っても勝てるかどうかはわからない。確かにそんな僕がタイマン張るよりも、この2人で変則デュエルに持ち込む方が勝つ可能性は高いだろう。
 だけど、それはつまり僕を斎王のところまでたどり着かせるためにこの2人が……いや、この2人だけじゃない。万丈目も夢想も、僕を斎王のところに送るために足止めを引き受けてくれたことになる。僕なんかがそんな役で、本当にいいんだろうか。あまりにも僕では力不足ではないだろうか。今更といえば、あまりにも今更な話だろう。自覚はある。だけど、本当にこれまではがむしゃらに走ってきただけで何も考えていなかったのだ。せかす剣山と翔を見ながらそれでもまだ迷っていた僕の肩が、ポンと優しくたたかれる。見ると、その相手は十代だった。

「ほら、ここはあの2人に任せようぜ。俺とお前、どっちが先に斎王のところにつけるか競争だぜ?」

 どうやら、どんどん考えが暗い方に向かっていったのが顔に出ていたらしく、そんな十代なりの精いっぱいの励ましを聞いた。わざわざ気を遣わせて申し訳ないし、それに剣山の言う通り確かに僕には、ここまでみんなを引っ張ってきた責任がある。今日突入するなんて僕のわがままに付き合ってもらった以上、せめて最後まで僕が決めるしかないだろう。
 今はとにかく前に進むことが先決だと、ようやく覚悟を決め直した。

「う、うん……もし、もし負けたら、絶対承知しないからね!」





「なんだなんだ、俺の相手は雑魚2人か?考えようによっては、一石二鳥ともいえるのか」
「鳥がどうしたドン、恐竜さんの力を見せつけてやるザウルス!」
「けっ、鳥は恐竜が進化したんだぜ?時代遅れの化石は化石らしく、大人しく博物館にでも飾られときな!」
「なんだと!恐竜さんをバカにする奴は、このティラノ剣山が容赦しないドン!丸藤先輩も、早くデュエルの用意をするザウルス!……と、その前にこのカードをデッキに入れておくドン」
「わ、わかってるよ!」

 年の功の違いか、あっさりとやりこめられた剣山が怒りに身を震わせつつもデッキに1枚のカードを紛れ込ませてデュエルディスクを構える。次いで鎧田、最後に翔がデュエルの用意を済ます。
 今回適用されるルールは変則デュエル……3人対戦のバトルロイヤルルールではあるが、翔と剣山が戦いあう理由がない以上実質1対2のデュエルとなる。ドローできないのは最初の1人のみだが、ターンプレイヤーは3人目からしか攻撃宣言ができない。今回は翔、剣山、そして鎧田の順にターンが回ってくるようだ。そして自分のターン以降は2人がかりの連続攻撃に耐えなければいけないという圧倒的に不利な状況にありながら、鎧田の表情に不安の色はない。それほどまでに彼にはノース校トップとしての、そして光の結社幹部としての自信と誇りがあるのだ。

「「「デュエル!」」」

「僕のターン!スチームロイドを守備表示で召喚、カードを1枚伏せてターンエンド」

 スチームロイド 守1800 攻1800

 下級ロイド随一の守備力を持つ機関車型ロイドを使い守備を固める。先攻1ターン目としては、まあまあ堅実な立ち上がりといえるだろう。

「俺のターン、ドローだドン。魔法カード、手札抹殺!全プレイヤーは手札をすべて捨てて、その枚数ぶんだけドローするザウルス。丸藤先輩、受け取ってくれドン!手札から俊足のギラザウルスを自身の効果で特殊召喚し、その効果を発ドン。このカードはノーコストで特殊召喚できる代わりに、自身の効果で場に出した時に相手はモンスター1体を墓地から蘇生できるザウルス」
「わかったよ!僕は俊足のギラザウルスの効果で、レスキューロイドを蘇生!」

 足の筋肉が発達した太古の狩人が駆けてきたのを発見し、緑の車体に白い線の入ったレスキュー車のロイドが赤ランプをつけて走ってきた。

 俊足のギラザウルス 攻1400
 レスキューロイド 守1800

「まだ俺はこのターン、通常召喚をしていないドン。ギラザウルスをリリースしてアドバンス召喚、暗黒(ダーク)ドリケラトプス!」

 くちばしを持ち羽毛のようなものまで生えた恐竜とも鳥ともつかぬ巨体が、これまた何とも名状しがたい鳴き声を響かせる。今一つ恐竜には見えにくい姿だが、れっきとした剣山のエースの1体である。

 暗黒ドリケラトプス 攻2400

「これでターンエンドだドン」
「おっと、ならこのエンドフェイズに墓地に落ちた上弦のピナーカの効果を発動。デッキからBFモンスター、黒槍のブラストをサーチするぜ。さて、覚悟はいいんだな?俺のターン、ドロー!フィールド魔法、アンデットワールド発動!」

 ホワイト寮の白い廊下が、一瞬にして何かおぞましい、血のように赤い液体で満たされた沼地に変わる。あるいはそれは、本当に血なのかもしれないが。奇妙にねじれた枯れ木の下には無数の部位の骨がいたるところに散らばっており、明かりを浴びて不気味に白い光を反射している。

「どうだ、お前ら?俺の得意の場所はお気に召したか?」
「気味の悪いフィールドだドン……お、俺のドリケラトプスが!」
「ああ、僕のビークロイドも!」

 彼らの叫びも無理はない。ドリケラトプスはその大きなくちばしが途中から無残に折れ曲がっており、腹にも穴が開いてそこから白い肋骨が覗いて見える状態に。翔のスチームロイドも煙突が折れて車輪も右の前輪が完全になくなっており、レスキューロイドもレスキュー車というより霊柩車といった雰囲気の車になっていた。だが共通しているのはどのモンスターも先ほどより目の輝きがおかしくなっており、真っ赤に光る眼を不気味に見開いていた。

 スチームロイド 機械族→アンデット族
 レスキューロイド 機械族→アンデット族
 暗黒ドリケラトプス 恐竜族→アンデット族

「言い忘れてたな……アンデットワールドは死者たちの楽園、そこに入るものは当然死者でなければならない。つまりだ、俺たち全員の墓地及びフィールドのモンスターは全てアンデット族になり、さらに種族がアンデット以外のモンスターはアドバンス召喚が行えない。そこの恐竜使い、下級モンスターだけでどう戦う気だ?」
「くっ……恐竜さんは決してあきらめないザウルス!」
「今はゾンビだけどな。さらにご丁寧なことに、さっきお前は手札抹殺をしてくれたよなあ?ありがとうよ、俺の墓地を肥やしてくれてよ!魔法カード、生者の書-禁断の呪術を発動!俺の墓地のアンデット族になったモンスター、暁のシロッコを特殊召喚。そしてそこのメガネ、お前の墓地からサブマリンロイドのカードを除外するぜ。ダイレクトアタッカーはどかすに越したことはないからな」

 BF(ブラックフェザー)-暁のシロッコ 攻2000 鳥獣族→アンデット族

「さあ、今こそ俺のUF……アンデットフェザーの力を見せてやる!自分フィールドにBFモンスターが存在することで、漆黒のエルフェンはリリースなしで通常召喚できるぜ。さらにエルフェンは場に出た時、相手モンスター1体の表示形式を変更できる。まずは恐竜野郎、お前からだ!そのデカブツには守備表示になってもらう!」

 エルフェンが漆黒の翼を振るうと無数のボロボロになった羽が渦を巻き、ドリケラトプスを混乱させる。

 BF-漆黒のエルフェン 攻2200 鳥獣族→アンデット族
 暗黒ドリケラトプス 攻2400→守1500

「まだだ!自分フィールドにBFが存在するとき、黒槍のブラストは特殊召喚できる!さらにシロッコは俺が選ぶBFモンスター以外の攻撃を放棄することで、場のBF1体に全ての力を集結させる!ブラストに全攻撃力を集中だ!」

 BF-黒槍のブラスト 攻1700→5900 鳥獣族→アンデット族

「1ターン目でもうこんな攻撃力……なるほど、清明先輩が負けるはずザウルス」
「だけど、僕らのモンスターは全部守備表示。少なくともこのターンは……」
「甘いぜ!言っただろう、まずは恐竜野郎からだってよ。貫通能力を持つブラストで、ドリケラトプスに攻撃!ブラック・スパイラル!」

 全身に黒いオーラを纏わせた鴉天狗のゾンビが、腐りきった肉が取れて骨の一部が見える腕で自分の身長ほどもある大槍を抱えながら空高く舞い上がり、猛烈な勢いで回転しながらドリケラトプスめがけて突っ込んでゆく。
 剣山の場に伏せカードはなく、本人も自らの迂闊さを悔いたが、時すでに遅し。圧倒的な質量で迫りくる黒い竜巻のような一撃に思わず剣山が目をつむった時、自分の隣から声がした。

「リバースカードオープン、進入禁止!No Entry(ノーエントリー)!!フィールド上の攻撃表示モンスターを、全て守備表示にする!」
「何!?」
「丸藤先輩!?」

 黒い竜巻がドリケラトプスに突き刺さる寸前にぴたりと止まり、華麗な宙返りをしてブラストが鎧田の場に帰ってゆく。その場で、3体の鴉天狗が片膝をついた。

 BF-暁のシロッコ 攻2000→守900
 BF-漆黒のエルフェン 攻2200→守1200
 BF-黒槍のブラスト 攻1700→守800

「助かったドン、丸藤先輩」
「まったく、次はないから気を付けてよね?でも、これでレスキューロイドの借りは返したよ」
「もちろん、わかってるザウルス」

 この2人は普段から喧嘩ばかりしているが、その分いざという時の結束力は強い。お互いがお互いを補うことを知っているため、本人たちが認めるかどうかはともかくとしてタッグとなればかなり強力なチームとなるのだ。

「けっ、まあいいさ。あっさり1人減ったところでつまんねーだけだからな。いいぜ、俺はカードを2枚セットして、これでターンエンドだ」

 翔 LP4000 手札:3
モンスター:スチームロイド(守)
      レスキューロイド(守)
魔法・罠:なし
 剣山 LP4000 手札:3
モンスター:暗黒ドリケラトプス(守)
魔法・罠:なし
 鎧田 LP4000 手札:2
モンスター:BF-暁のシロッコ(守)
      BF-漆黒のエルフェン(守)
      BF-黒槍のブラスト(守)
魔法・罠:2(伏せ)
場:アンデットワールド

「僕のターン、ドロー!」

 長かった一巡目のターンが終わり、続いて翔の第2ターンが訪れる。カードを引き、フィールドと手札の限られたそれから最善手を導き出す。

「魔法カード、融合を発動!手札のキューキューロイドと場のレスキューロイドで融合召喚、レスキューキューロイド!」

 レスキュー車と救急車が混じり合い、赤い車体の消防車型ロイドが赤サイレンを光らせて走ってくる。だがその車体は全体的に錆びついており、よく見るとランプもカバーが割れていた。

 レスキューキューロイド 攻2300 機械族→アンデット族

「そんな融合モンスター1体で何ができる!さあ来い、そこのメガネ!」
「やってやる!スチームロイドを攻撃表示にして、まずはレスキューキューロイドで漆黒のエルフェンに攻撃!」

 ところどころ破けたホースを伸ばしたレスキューキューロイドが、そこから勢いよく腐った水を放つ。だがその水流は漆黒のエルフェンを押し流す前に、突然上空に現れた竜巻に吸い込まれていった。次いで水を放つホースが、それどころかレスキューキューロイド本体と共にその横にいたスチームロイドの車体までもがその竜巻に巻き上げられていく。

「残念だったな、俺のフィールドにBFモンスターのみが3体以上いて相手がBFに攻撃してきたとき、通常トラップのブラック・ソニックは手札から発動できる。お前のフィールドの攻撃表示モンスター、全部まとめて除外してやるぜ!」

 鎧田の言葉通り、2体のロイドの姿が徐々に竜巻に引きずられていく。これを通せば翔の場が空になるというピンチに、剣山が思わず叫んだ。

「丸藤先輩!」
「大丈夫!速攻魔法、皆既日蝕の書を発動!フィールド上に存在するモンスターは、全て裏側守備表示となる!」

 ブラック・ソニックによる除外を紙一重でかわす翔。だが、皆既日蝕の書は効果の強力さと引き換えに高いリスクを負うカードである。

「エンドフェイズ、裏側守備表示の相手モンスターは全部表側表示になり、その数ぶんコントローラーはカードをドローする……」
「おお?なんだなんだ、3枚もドローさせてくれんのか?」
「俺も、ドリケラトプスの1枚をドローするドン」

 あまりにも遺体、3枚ものドロー加速。唯一救いなのは、1枚とはいえ剣山のもとにもカードが回ったことか。歯がゆさを胸に、最後にカードを1枚だけ伏せて翔がそのターンを終えた。

「俺のターン、ドローだドン!このカードは……ちゃんと引けてよかったドン。まず化石調査を発ドン、このカードはデッキからレベル6以下の恐竜族をサーチするドン。俊足のギラザウルスを手札に加え、そのまま先ほどの手順で特殊召喚するザウルス。丸藤先輩!」
「うん!もう一度ギラザウルスの効果で、今度も墓地のレスキューロイドを特殊召喚するよ」

 先ほどと同じ、変則バトルロイヤルだからこそ成り立つタクティクス。少し迷った末に翔は、効果が決まれば強力なキューキューロイドよりも単純にステータスの高いレスキューロイドを選択した。

 俊足のギラザウルス 攻1400 恐竜族→アンデット族
 レスキューロイド 守1800 機械族→アンデット族

「それがどうした?さっきも言った通り、いくら下級モンスターを並べてもこのフィールドがある限りアンデット以外はアドバンス召喚が許されないんだぜ?」
「慌てるなドン。ここで速攻魔法、禁じられた聖槍を発ドン!ギラザウルスの攻撃力が800ポイントダウンする代わりにこのターンこのカードはアンデットワールドの効果を受け付けない、つまり1ターンだけ元の恐竜さんに戻るザウルス」

 半ば骨が露出して、目玉も片方潰れていたギラザウルスの皮膚がみるみるうちに血色が戻り、肉付きがよくなっていく。

 俊足のギラザウルス 攻1400→600 アンデット族→恐竜族

「ああ……?」
「アンデットワールドはフィールドと墓地のモンスターをゾンビ化させるカード、つまり手札にあるうちは恐竜さんのままというところに突破法が隠されているドン。そして、これが俺の切り札!魔法カード、大進化薬!自分フィールドの恐竜族モンスターをリリースすることでこのカードは相手ターンで数えて3ターンの間場に残り、そしてこのカードがある限り俺はレベル5以上の恐竜さんをリリースなしで召喚できるドン!」
「何!?」
「さあ吠えるドン、レベル8!究極恐獣(アルティメットティラノ)!」

 体中に生えた棘のような鱗は、より敵の体を切り裂き深く傷つけるために。大きく鋭い鉤爪は、たとえ鉄板ほど分厚い装甲を持つ敵でさえも一瞬で引き裂きその中の肉体に致命的なダメージを与えるために。太い足は自身の大きな体を支えると同時に、自身から逃げようとする臆病者を捕らえるために。体中の全ての箇所が目の前の敵すべてを殲滅するためだけに異常な進化を遂げた、戦闘特化型の恐竜の進化の頂点ともいえる姿である。

 究極恐獣 攻3000 恐竜族→アンデット族

「バトル!究極恐獣は俺のどのモンスターよりも先に、必ず全ての相手モンスターに攻撃しなければならないドン。だけどこのデメリットも、恐竜さんのパワーの前ではメリットザウルス。アブソリュート・バイト!縁起の悪い鳥どもを一網打尽だドン!」

 恐獣が一声吠え、その尾でブラストを叩き伏せながらシロッコの腐れ肉をためらいなく自らの骨がむき出しになった大顎で噛み砕き、余った両腕でエルフェンの翼を力任せに引き裂く。ただの一瞬で、3体の鴉天狗は腐った肉塊とボロボロの羽の塊に変化していた。

 究極恐獣 攻3000→BF-黒槍のブラスト 守800(破壊)
 究極恐獣 攻3000→BF-暁のシロッコ 守900(破壊)
 究極恐獣 攻3000→BF-漆黒のエルフェン 守1200(破壊)

「俺のアンデットフェザー軍団が……だがな、恐竜野郎。このデュエルは1対2の変則デュエルじゃねえ、ルール的にはただのバトルロイヤルルールだ。つまりだ、次にお前ご自慢の恐竜は必ず味方のメガネ野郎のモンスターを攻撃しなけりゃならないのさ!」
「し、しまったドン!」

 もはや持ち主の剣山ですら止められないほどの破壊衝動を腐りきってまともな思考のできなくなった脳に秘め、恐獣は次なる標的を自分の隣にある伏せモンスターに定める。その突撃を前に、呆然と立ち尽くす翔。
 剣山にとっては体の一部でもあり、彼にとっては一番大切である恐竜。口の端から泡とも腐れ汁ともつかない液体をまき散らしながら暴走の歩みを続ける恐獣を見て、剣山はもう一度その向こう側にいる翔を見る。ほんの一瞬ためらった後、彼はついに覚悟を決めた。

「……恐竜さん、ごめんなさいだドン!速攻魔法、ハーフ・シャットを発ドン!究極恐獣の攻撃力を半分にする代わりに、このターン戦闘で破壊されなくなるザウルス!」

 急に全身の力が抜けた恐獣が、それでも本能のままにむなしい突撃を繰り返す。腐っても鋼鉄製であるロイドモンスターの車体はその攻撃を受けてもびくともせずに、自分の攻撃が通じないことを悟った恐獣がほとんど半狂乱になって体当たりを繰り返した。

 究極恐獣 攻3000→1500→???(レスキューキューロイド) 守1800
 剣山 LP4000→3700
 究極恐獣 攻1500→???(スチームロイド) 守1800
 剣山 LP3700→3400
 究極恐獣 攻1500→???(レスキューロイド) 守1800
 剣山 LP3400→3100

「大丈夫!?」
「この程度、俺の恐竜さんの痛みに比べたらどうということはないザウルス……暗黒ドリケラトプス、追撃のダイレクトアタックだドン!怪鳥(けちょう)!」

 折れたくちばしを大儀そうに開き、口から謎の音波を連射するドリケラトプス。それが鴉天狗たちの物言わぬ死体を粉みじんに吹き飛ばし、そのまま鎧田の体を突き抜けた。

 暗黒ドリケラトプス 攻2400→鎧田(直接攻撃)
 鎧田 LP4000→1600

「へへっ、どんなもんザウルス!」
「思ったよりやるじゃねえか……だが、調子に乗ってられるのもここまでだ!俺が2000ポイント以上の戦闘ダメージを受けたことで、墓地から天狗風のヒレンの効果を発動!このカードとレベル3以下のBFを選択し、効果を無効にして特殊召喚する!甦れヒレン!そして白夜のグラディウス!」

 BF-天狗風のヒレン 守2300 鳥獣族→アンデット族
 BF-白夜のグラディウス 守1500 鳥獣族→アンデット族

 たった今全体攻撃により全モンスターを倒したはずなのに、またもや2体のモンスターがすぐさま場に揃う。おまけに既にドリケラトプスで攻撃を行ってしまっているため、究極恐獣でせめてスチームだけでも追撃して破壊することすらできない。

「俺の手札は残り1枚……このカードをセットして、ターン終了だドン」
「残念だったな、俺の手札はそこのメガネのおかげで随分と増えた、まだまだ戦えるぜ!まずはドローだ!」

 その瞬間、鎧田のデッキトップが白い光を放つ。剣山も翔も、あれこそが鎧田の洗脳の鍵となっているカードであり、あれを破壊しなければならないのだと認識できた。

「そしてここで2枚のリバースカード、無謀な欲張りを発動!今すぐカードを2枚ドローできる代わりに、俺のドローフェイズが2回スキップされるぜ。そしてフィールド上にBFが存在することにより、残夜のクリスを特殊召喚!同じ手順により、疾風のゲイルと突風のオロシを特殊召喚するぜ」

 BF-残夜のクリス 攻1900
 BF-疾風のゲイル 攻1300
 BF-突風のオロシ 攻400

「これで仕掛けは整った!BFチューナーのヒレン、非チューナーモンスターのグラディウスの2体をゲームから除外!さあ来い、これぞ斎王様より頂いた俺の新たなBF、極光のアウロラ!」

 ヒレンとエテジアの姿が煙か幻のようにふっと掻き消え、アンデットワールドの上空にかかる分厚く暗い雲を突き抜けて七色の閃光が一筋すっと走った。その光の正体は、1羽の鳥……オーロラのごとくつかみどころのない、見るたびに色が変わって見える不可思議な羽根を持つ異端のBFである。

 BF-極光のアウロラ 守0 鳥獣族→アンデット族

「な、なんだドンあのカード……?」
「まだだ!同じくチューナーのオロシと非チューナーのクリスを除外して、2体目のアウロラを特殊召喚!」

 再び重苦しい魔界の空に走る七色の光。光を放つ2羽の鳥が、空中を自由に飛び交い螺旋を描いた。

 BF-極光のアウロラ 守0 鳥獣族→アンデット族

「次の手順は、と。だが、まずはコイツの効果からだ!疾風のゲイルは1ターンに1度、相手モンスターの攻守を半減できる!これでレスキューキューロイドの攻守は半減するぜ」

 レスキューキューロイド 守1800→900 攻2300→1150

「そして墓地に眠る、精鋭のゼピュロスの効果発動!俺のフィールドのゲイルを手札に戻してこのカードを蘇生し、俺は400のダメージを受ける……だがこれで、再び手札のゲイルを特殊召喚して効果を使うことができる!次の目標は究極恐獣、お前だ!」

 BF-精鋭のゼピュロス 攻1600 鳥獣族→アンデット族
 鎧田 LP1600→1200
 BF-疾風のゲイル 攻1300 鳥獣族→アンデット族
 究極恐獣 攻3000→1500 守2200→1100

「BFチューナーのゲイル、非チューナーのゼピュロスを除外!現れろ、これが最後のアウロラだ!」

 3筋目の閃光が、またもや空を彩る。3羽の鳥が放つ光が、徐々に辺りの闇を晴らしてきた。

 BF-極光のアウロラ 守0

「さて、と。なあ、なんで俺がここまでして攻撃力0のモンスターを3体も並べたか、お前らにわかるか?」

 2人とも何も答えない。正確には答えないのではなく、答えられないのだ。まさに2人とも、それと同じ疑問を抱いていたのだから。

「見ていてください、斎王様。今すぐこの者らに光の裁きを食らわせて見せましょう!通常召喚、レベル2!ザ・カリキュレーター!」

 電卓に手足が付いたような小さなモンスターが、無数のドクロを押しのけてアンデットワールドに立つ。その表示板にノイズが走ったかと思うと、次の瞬間32、と表示された。

「いいかよく聞けよ、このモンスターの攻撃力は、自分フィールドのモンスターのレベル合計分の300倍になる!つまりだ、レベル10のアウロラが3体とレベル2のカリキュレーター自身が並んだことで合計レベルは32、9600の大火力を得ることができる!」
「攻撃力、9600!?そんなバカなドン!」
「あ、あわわ……」

 ザ・カリキュレーター 攻9600 機械族→アンデット族

「さて、まずは恐竜野郎、お前からだ!カリキュレーターで究極恐獣に攻撃、ノース・トップ・カノン!」
「ぐっ……最後のリバースカード、オープンだドン!」
「無駄だぁ!消え去れ!」

 ザ・カリキュレーター 攻9600→究極恐獣 攻1500(破壊)
 剣山 LP3100→0

「はっはっは!ざまあねえなあ、そんなデカいなりしてよお!………あん?」

 圧倒的な一撃でライフが0になった剣山だが、まだ彼は倒れない。最後に彼のもとに残った1枚のリバースカード、それはデュエルが始まる前にこの変則マッチ用に彼がデッキに1枚入れておいたカードだった。その効果を処理するまで、彼はまだ倒れられない。今にも意識が飛びそうな中、気力だけで辛うじてこらえて言葉を放つ。

「強欲な……贈り物、だドン。この、カードは……相手プレイヤーに、無条件でカードを、2枚ドローさせることができる……トラップ、ザウルス。丸藤、先輩………これで、あとは頼んだ、ドン………必ず、そいつを…………」

 翔に対して文字通り最後の贈り物を終えた剣山の体が、その場に崩れ落ちる。プレイヤーがリタイヤしたことにより、フィールドに残り続けていたドリケラトプスの姿も最後にひとつ不服そうな鳴き声を上げつつ消えていった。

「そんな、剣山君!」
「おーっと、待ちなよ」

 意識を失い倒れた相棒に慌てて駆け寄ろうとした翔を、鎧田が制止する。

「まだデュエルは終わってねえ、俺かお前のどちらかが倒れるまで続く。それぐらいわかってるよな?」
「う……」

 その表情と声の調子から、せめて剣山を布団に寝かせるほどのひますら与えてくれないことを悟る。仕方なく、翔は再び鎧田に向かい合った。
 昔の翔だったら、下手をするとこの時点でプレッシャーに耐えかねてサレンダーしていただろう。だが、この戦場に立っているのはアカデミア入学前の、自分に自信が持てない弱虫だった癖にすぐ調子に乗る悪癖を持ったころの彼ではない。確実にデュエリストとして成長しつつある戦士、丸藤翔なのだ。だから、彼はもう目の前の相手を必要以上に恐れない。自分のデッキを、そして何より自分自身を信じて戦い抜く強さを知っている。

「まずは、あの恐竜野郎の強欲な贈り物の処理があったな。さあ、カードを2枚引きな!それが終わったら俺はメイン2に装備魔法、レアゴールド・アーマーをカリキュレーターに発動。これでカリキュレーター以外のモンスターに相手は攻撃ができなくなり、カードを伏せてターンエンドするぜ」
「勝つまで通してくれないなら、このターンで終わらせるまでだ!強欲な贈り物のカードをドローして……僕のターン、ドロー!よし、これなら……リバースカード、融合準備(フュージョン・リザーブ)を発動!エクストラデッキの融合モンスター、スーパービークロイド-ジャンボドリルを見せることで、その融合素材であるドリルロイドをサーチして、さらに墓地からさっき使った融合のカードを手札に戻す!」
「ああ……?」

 ここで初めて、翔が何かをしようとしていることに気づいた鎧田。だが、もう遅い。

「魔法カード、融合を発動!手札のトラックロイド、エクスプレスロイド、ドリルロイド、ステルスロイドの4体を素材として、融合召喚!これが僕の切り札、スーパービークロイド-ステルス・ユニオン!」

 戦闘機型のステルスロイドとトラックロイドが胴体部分となり、そこから伸びた手足にそれぞれ2つに分かれたエクスプレスロイド、ドリルロイドが新たなパーツとして装着される。両手両足が揃った体に最後に頭がせり上がってきて、ついに数あるロイドモンスターの中でもトップクラスのサイズを誇る4体合体の巨大ロボがその全貌を露わにした。

 スーパービークロイド-ステルス・ユニオン 攻3600 機械族→アンデット族

「何をしたところで、カリキュレーターの攻撃力のほうが圧倒的!惜しかったな、レアゴールド・アーマーさえなければアウロラに攻撃で俺の負けだったかもしれないのによ」
「いいや、このターンで僕の勝ちだ!ステルス・ユニオンは1ターンに1度、フィールドの機械族以外のモンスター1体を選んで装備カードにすることができる!僕が選ぶのはアンデット族モンスター、ザ・カリキュレーターだ!」
「しまった、アンデットワールドの効果が……ふ、ふざけんな、斎王様からも認められたデュエリストのこの俺が、俺がこんな奴らに!こ、ここは3体のアウロラで凌ぐしかねえ!」

 鎧田の叫びもむなしくステルス・ユニオンの胸にあるトラックの荷台部分が開き、その中にカリキュレーターが吸い込まれていく。

「バトル、ステルス・ユニオンで極光のアウロラに攻撃!この瞬間にステルス・ユニオンの強制効果により攻撃力が半減するけど、それでもアウロラを攻撃すれば貫通能力で1800のダメージが通る!」
「なに、攻撃力半減だと?そいつはいいことを聞かせてもらったぜ、だったらまだ俺にもツキがある!リバースカードオープン、ダメージ・ダイエット!これで俺の受けるダメージはさらに半減、900だ!」

 スーパービークロイド-ステルス・ユニオン 攻3600→1800→BF-極光のアウロラ 守0(破壊)
 鎧田 LP1200→300

「残念だったなあ、このターン中にケリをつけられなくてよ!」
「いいや、勝負はもう終わっている!ステルス・ユニオンは相手モンスター全てに攻撃することができ、さらに守備モンスターを攻撃した場合に貫通ダメージを与える!」
「何!?」

 蒼白から一転して満面の笑み、そしてまた自らの敗北を悟った顔に。二転三転する表情の鎧田に、巨大ロボの拳が唸りをつけて振るわれた。

「ステルス・ユニオンで、残り2体のアウロラに攻撃!」

 スーパービークロイド-ステルス・ユニオン 攻1800→BF-極光のアウロラ 守0(破壊)
 スーパービークロイド-ステルス・ユニオン 攻1800→BF-極光のアウロラ 守0(破壊)
 鎧田 LP300→0





「ぐはっ!」
「か、勝った!アニキたちも心配だけど、まずはこっちを!」

 倒れたままの剣山の体をどうにか起こし、近くの壁に寄りかからせる。すぐにその閉じられていたまぶたがピクリと動き、弱々しく目が開かれた。

「う、うう……丸藤先輩、デュエルはどうなったドン……」
「大丈夫。僕の……いや、僕たちの勝ちだ!」
「どうか、それはよかったザウルス。じゃあ早く、アニキたちのところに……」

 いつもなら翔も、剣山が十代をアニキ呼ばわりしたことをいつもの調子で咎めただろう。だが、そんなことをしている余裕は翔にはなかった。なぜなら、彼は見てしまったのだ。廊下の向こう側、今自分たちが来た道から何人かのホワイト生がこちらにデュエルディスクを構えて歩いてくるのを。
 剣山も翔の視線の先を追い、こちらに近づいてくる彼らに気づく。そんな彼を守るように、翔が立ち上がった。

「さあ来い、お前たち!ぼ、僕が1人で相手になってやる!」
「丸藤先輩……お気遣いはありがたいけど、いくらなんでもそりゃなしだドン。俺だって、まだ戦うことはできるザウルス!」

 どうにか立ち上がった剣山を翔は一瞬止めようともしたが、どうせ言ったところで聞きはしないだろうと判断してそれを諦める。返事代わりに、自分のデュエルディスクを構えた。

「「「「デュエル!!」」」」 
 

 
後書き
書きだす前「唯一の光属性なんだから絶対アウロラ出す!ここで出す!」
書いてる途中「とはいえ、アウロラってエクストラBFコピー以外に何か効果あったっけ?(Wiki確認)うわ、鎧田じゃシンクロ出せないから利用法がない!……ええい、レベル高くて出しやすいんだからもう電卓でいいや」

妙な出番の多さから察してる人もいるかもしれませんが、漆黒のエルフェン大好きです。あと出番はうまく作れないけど鉄鎖のフェーン、極光のアウロラ、流離いのコガラシ、天狗風のヒレン、孤高のシルバー・ウインドあたり。だけどBF使いの友人にそれを言ったら、お前それマイナーすぎてそいつらにヘイト溜まってないだけだろって言われました。一理あるかもしれん。 
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