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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン33 光の結社とアカデミア-2F-

 
前書き
前回のあらすじ:万丈目サンダーWithヘル・バーナーVS洗脳明日香。
正直前回の明日香のデッキはいまだにちょっと反省してる。後半今まで通りのプリマデッキじゃんあれ。 

 
「万丈目、大丈夫かな。まだ連絡が来ないんだけど」
「ああ、アイツは強いからな。きっと大丈夫さ」

 階段を上がり、ホワイト寮2階。さすがに惜しみなく高級素材を使っているだけあって防音設備も完璧、階が1つ変わっただけなのに下にいるはずの万丈目のデュエルの音が全く聞こえてこない。それとも、もう万丈目が勝ってデュエルが終わっているのか。いや、だとしたら万丈目のことだ、すぐにドヤ顔で何か言ってくるだろう。なのに連絡がないということはまさか……?
 そこまで考えたところで頭を振り、それ以上のことを想像するのをやめる。仮定だとしても、そんなことを考えちゃいけない。十代の言うとおり、万丈目は強い。だから勝つし、大丈夫だ。それで間違いない。

「それよりも、1階に明日香さんがいたってことは多分この階にも誰かいるんじゃ」
「や、やめるドン丸藤先輩。そんなネガティブなことばっかり言ってたら、十代のアニキたちの士気だって下がるザウルス」
「あー、また間違えたね?十代のアニキは僕のアニキなんだってば!」
「ぐ………わかったわかったドン。今はそういうことにしておくザウルス」

 何の喧嘩をしてるのかはいまだによくわからないけど、とにかく十代の舎弟?は翔1人らしい。でもその話題は置いておくとしても、翔の言うことにも一理ある。むしろ明日香1人だけポンと配置しておいて、他の幹部クラスが出てこなかったらその方がびっくりだ。だからおそらく、その角を曲がったあたりで……。

「どうも先輩方、グッドナーイト」

 ほら来た。そこに立っていたのは、葵・クラディー……これまた厄介な実力者だ。

「さて、私の相手をしてくださるのはどなたですか?本当は私だって眠いんですから、せめて選出位は早くしてくださいね」

 これ見よがしにあくびをして見せる彼女だが、その目には最初からずっと一切の油断がない。こういうところ、ほんっとこの子は敵に回したくない。だけど、あえて誰か戦力を割くとしたら、長いことそばにいて彼女の細かい癖や思考パターンもある程度読めるようになった僕が適任だろう。

「だったら、僕が」
「ねえ葵ちゃん、私が相手してあげようか?ってさ」

 またしても前に出ようとした僕を遮って、夢想がすっと前に出る。それを見て一瞬思案気に目を細めたものの、すぐに頷いて葵ちゃんも純白のデュエルディスクを掲げる。

「学校一の無双の女王が相手ですか。最大戦力が私の相手に動くだなんて、それもまた一興でしょう」

 その言葉を聞いて、嫌でもわかった。葵ちゃんは今この場に、自分が捨て石になっても時間稼ぎができれば構わない、それぐらいの覚悟を持って立っている。無論、本人に負ける気はないだろう。だけど、いざという時には刺し違えることすら一切ためらうまい。
 根はまじめないい子なんだよね、葵ちゃん。今回はそれがおかしな方向に向いちゃってるだけで。

「夢想」
「大丈夫だよ清明、だって。あの子は私が元に戻すし、たとえどれだけ時間がかかっても、それが終わったら私はあなたの隣に行くから、って」
「え?今……」

 こんな時でも男というのは悲しい生き物、なかなか男心をくすぐる台詞についちょっと期待に胸を高鳴らせてしまう。だがさすがの夢想もあの内容は言ってて気恥ずかしくなったのか、プイと首を振って視線をそらしてしまう。綺麗な青い髪がサッと流れて、ふわりといい香りが舞った。

「ほ、ほら。早く行ってよ、ってば」
「お願い夢想、一生のお願い!今のもっかいだけ聞かせて!」

 割と本気のお願いだったけど、残念ながらこっちもそれほど時間があるわけでもないのであまり粘ることもできない。葵ちゃんの目がさっきとはまた別の意味でとてもとても冷たいのには気づかないふりをしつつ、さっさとその場を離れる。
 ……これ全部終わったらあとで夢想拝み倒してもういっぺん言ってもらおっと。ついでに録音でもできれば万々歳だ。





 多分清明のことだから、拝み倒してでもあとでもう1回同じこと言わせようとするんだろうなあ。さすがに恥ずかしいからやめて欲しいのに、などと考えてため息をつき、まずは目の前の相手に集中しようと改めて前を向き直る夢想。すぐにデュエルが始まるかと身構えるが、その動きを無視して葵の方がふと思いついたという風にすっと合掌する。

「……?」
「ドーモ、河風夢想=サン。葵・クラディー=デス………うーん、やっぱり反応薄いですね。先輩なら確実に乗ってきてくれたんでしょうが」
「え、清明が?どういうこと?ってさ」
「いえ、ちょっとしたネタですよ。私もニンジャ使いの端くれですから」

 まるで意味が分からなかったが、何も今聞くこともないだろうとそれ以上の追及を諦める。今度清明とお話するときの話題の1つにしてみようかな、そんなことも考えつつデュエルディスクを構えた。

「「デュエル!」」

 先攻を取ったのは、葵。相手モンスターを除去したうえで上級モンスターを繰り出す超変化の術は確かに厄介だが、主力(ワイトキング)がレベル1の夢想としては普通のデッキよりもその恐怖は小さい。とはいえ、気を付けるに越したことはないのだが。

「このカードで勝負します。出でませ、機甲忍者フレイム!このカードは場に出た時、忍者モンスターのレベルを1上げることができます。この効果で自身を選択!」

 赤い装束に金属製の片手片足を持つ忍者が、音も立てずに葵の前に片膝をつく。

 機甲忍者フレイム 攻1700 ☆4→5

「カードを1枚伏せ、ターンを終了します」
「私のターン、ドロー!精気を吸う骨の塔(ボーンタワー)を守備表示で召喚して、カードを1枚セット。ターンエンド、だってさ」

 とてもモンスターとは思えないような、まだ永続魔法と言った方がそれらしい文字通り様々な生物のあらゆる部位の骨のみで構成された塔がそびえ立つと、じわりじわりとその周りから人魂のような何かがにじみ出ては飛び回り、フレイムに対し威嚇するような動きをしてみせる。ふと葵が気が付いた時には、いつの間にか周りの風景がお互いの足元どころか視界の続く限り果てしなく広がる無数の骨の平野に様変わりしていた。

 精気を吸う骨の塔 守1500

「ターンエンドですか?……ならばエンドフェイズに永続トラップ発動、忍法 変化の術!忍者モンスター1体をリリースすることでそのレベル+3以下、この場合はフレイムのレベル5と足してレベル8以下の獣・鳥獣・昆虫族いずれかのモンスターを特殊召喚します。舞いなさい、日輪の不死鳥!炎王神獣 ガルドニクス!」

 フレイムの全身から突如噴き出た炎が燃え上がり、全身を包み込んでもなおその勢いは衰えずに炎の翼に炎の尾の形をとる。やがて炎が落ち着いてくるとそこに忍び装束の男の姿はなく、太陽のごとく輝く赤い不死鳥が一羽翼を広げていた。

 炎王神獣 ガルドニクス 攻2700

 葵 LP4000 手札:3
モンスター:炎王神獣 ガルドニクス(攻・変化)
魔法・罠:忍法 変化の(ガルドニクス)
 夢想 LP4000 手札:4
モンスター:精気を吸う骨の塔(守)
魔法・罠:1(伏せ)

「そしてそのまま私のターン、ドローします。では、()シノビを召喚!」

 暗い灰色の装束で全身を覆う他には特にこれといって目を引くところのない、逆に言えば極限まで隠密に特化したかのようなベーシックなスタイルの忍者がガルドニクスの尾羽に身を潜めるようにして片膝をつく。

 悪シノビ 攻400

「バトルです、ガルドニクスで攻撃!この業火羽輪、受けれるものなら受けてみなさい!」

 不死鳥が翼をはためかすと、無数の真っ赤に燃える羽が何本か渦を巻くように骨の塔めがけて飛んでいく。無数の羽が突き刺さった塔は一瞬の静寂の後に燃え上がり、その場にゆっくりと崩れ落ちていった。

 炎王神獣 ガルドニクス 攻2700→精気を吸う骨の塔 守1500(破壊)

「このまま悪シノビで攻撃を……あら?」
「残念だったね、ってさ。骨だけになってなお動く私のモンスターはまさに不死の象徴、そう簡単にフィールドは空かないよ、だって。トラップ発動、ブロークン・ブロッカー!守備力が攻撃力より高い守備表示モンスターが戦闘破壊された時、デッキから同名モンスターを2体特殊召喚できる!」

 精気を吸う骨の塔 守1500
 精気を吸う骨の塔 守1500

「これは……精気を吸う骨の塔の、他のアンデット族に攻撃をさせない効果2つぶんによる攻撃のロックですか。単純ながら厄介ですね。まあいいでしょう、カードを2枚伏せてターンエンドです」

 両脇にそびえ立つ骨の塔の間で、夢想がカードを引く。ちょうど人魂の1つが飛んできて、そのカードを照らし出した。

「ゴブリンゾンビを攻撃表示で召喚するよ、ってさ」

 骨と骨の隙間を縫うようにして、剣を持つ小鬼のゾンビが素早い動きで駆けてくる。

「バトル、ゴブリンゾンビで悪シノビに攻撃!」

 ゴブリンゾンビ 攻1100→悪シノビ 攻400

「悪シノビが攻撃表示で攻撃を受けるとき、私はカードを1枚ドローできます。さらにこのバトルフェイズにリバースカード、強化蘇生を発動!私の墓地に眠る機甲忍者フレイムをレベル1、攻守を100上げて特殊召喚します!」

 足元に広がる骨の平野の一部がいきなり爆ぜ、炎を纏った赤の忍者が骨をまき散らしながら飛びあがる。

 機甲忍者フレイム 攻1700→1800 守1000→1100 ☆4→5

「モンスターを蘇生しても……ああ、そういうこと、ってさ」
「さすがに察しがいいですね。その通り、バトルフェイズ中に私の場にモンスターが増えたことによって攻撃の巻き戻しが発生します。それでも攻撃をしますか?河風先輩」

 また攻撃宣言をすれば、その瞬間に悪シノビの効果によりさらなるドロー加速を許してしまう。それでも攻撃するのか、との問いに、ニコリと笑って答えて見せた。

「ゴブリンゾンビで悪シノビに改めて攻撃、ってさ」

 ゴブリンゾンビが剣を振り上げたところに、悪シノビが隠し持っていた短刀を振るいその軌道をそらす。しかしその動きはフェイク、剣を手放したゴブリンゾンビが側転で距離を取ろうとした悪シノビの体を担ぎ上げるとそのまま助走をつけ、勢いよく叩き付けようとする。これぞ、プロレス技で言うところのカリフォルニアクラッシュである。

「そのあくまでも前のめりな戦闘姿勢、さすがに迷いのない判断ですね。ですが、私もここで引くわけにはいきませんので。悪シノビの効果でドローしたのちに伏せておいた速攻魔法、巨影虚栄を発動!これで悪シノビの攻撃力は1000アップです」

 スピード、角度、共に完璧な攻撃。だがその体が骨に叩き付けられる寸前、2者の体が一瞬消えた。その次の瞬間、悪シノビがゴブリンゾンビをボディスラムの体勢に担いで走っていた。技を掛ける側と掛けられる側が反転したことに気づいて逃れようとするゴブリンゾンビのあがきもむなしく、その体が地面に叩き付けられた。

 ゴブリンゾンビ 攻1100(破壊)→悪シノビ 攻400→1400
 夢想 LP4000→3700

「ねえ河風先輩、順逆自在の術……って言葉、知ってますか?」
「………?」

 彼女には聞き覚えのない単語に黙って首を振ると、やれやれ、という風にため息を1つする。

「先輩ならこの話題にも嬉々として付き合ってくれたんでしょうけどね、まああの人と私の趣味がやや古いのはお互い自覚してますよ。それはともかくとしてこの術ですが、要するに今見せたように相手が技を掛けた次の瞬間、技を掛ける側と掛けられる側が入れ替わる術のことです。だいぶ効いたでしょう?」
「……ゴブリンゾンビが戦闘破壊された時、デッキから守備力1200以下のアンデット族を手札に加えられるんだって。守備力0のゾンビ・マスターを加えてカードを1枚セット。ターンエンドだってさ」

 葵 LP4000 手札:3
モンスター:炎王神獣 ガルドニクス(攻・変化)
      機甲忍者フレイム(攻・強化蘇生)
      悪シノビ(攻)
魔法・罠:忍法 変化の(ガルドニクス)
     強化蘇生(フレイム)
 夢想 LP3700 手札:4
モンスター:精気を吸う骨の塔(守)
      精気を吸う骨の塔(守)
魔法・罠:1(伏せ)

「さてと、私のターンですね。おや、面白いカードを引きました。せっかく順逆自在を見せたんですから、お次は当然これでしょう。転所自在の術……それはリングを自在に変えることのできる術。炎の海でも溶岩でも、果ては煮えたぎる火口にでもです。フィールド魔法、バーニングブラッド発動!炎属性の攻撃力は500ポイントアップし、守備力は400ポイントダウンします」

 フレイムが自身の装束を脱いで素早く広げると、なんとその布が明らかに人間サイズのフレイムが着ていたとは思えないほど遠くまで広がり、完全にフィールドを覆い尽くす。いかなる仕掛けが施されているのか布であったはずの装束は完全に地面の質感へと変わり、フィールドの中央には今にも噴火しそうな火山の火口がぽっかりと口を開いていた。

 炎王神獣 ガルドニクス 攻2700→3200 守1700→1300
 機甲忍者フレイム 攻1800→2300 守1100→700

「だけど、私の場にはもう骨の塔によるロックが完成してるよ、ってさ。攻撃力ばかりいくら上げたって私に攻撃は届かない、って」
「そんなことは百も承知です、ですが私のモンスターの攻撃力は確かに上がりました。いいんですよ、このカードを除去しても?私としては確かに痛手ではありますが、他のカードではなくこのカードのために除去を使わせたと思えば悪い結果ではありませんし。そして魔法カード、機甲忍法ゴールド・コンバージョンを発動!自分フィールドの忍法をすべて破壊することで、カードを2枚ドロー!そして変化の術によりその姿を保っていたガルドニクスは、術が切れると同時に破壊され墓地へ送られます」

 ガルドニクスの姿が元の炎に戻り、それすらもあるかなきかの風にちぎれて消えていく。自分の最上級モンスターが自分のカードで破壊されたにもかかわらず、葵はそれを満足げに見送っていた。

「魔法カード、おろかな埋葬を発動。デッキから機甲忍者アクアを墓地に送ります。さらにカードを2枚セットし、ターン終了です」
「私のターン、ドロー」
「ではこのスタンバイフェイズ、カードの効果で破壊されたガルドニクスの効果発動!不死鳥は墓地から蘇り、フィールドに存在する自分以外のモンスターをすべて破壊します!」

 火山の中で溶岩が盛り上がり、その中から圧倒的なまでの熱量をものともせずに不死鳥が再び舞い上がった。その動きが噴火寸前の火口を刺激し、限界を超えた溶岩の奔流が噴火となってフィールドのモンスターに敵味方関係なく一斉に襲い掛かった。先ほどの炎の羽とはわけが違う破壊力に、骨の塔の全てが呑み込まれて蒸発していく。

「きゃあっ!」
「当然私の忍者も破壊されますが……この瞬間にトラップカード、火霊術-「(くれない)」を発動!炎属性のフレイムをリリースすることでその元の攻撃力、1700のダメージを与えます!」

 溶岩に飲み込まれる寸前、フレイムが腰に差していた手裏剣を投げつける。回転しながら飛ぶそれは空中で火を放ち、燃えながら夢想の周りに着弾する。

 夢想 LP3700→2000

「私のせっかくのロックが……残念。ワイト夫人やピラミッド・タートルと共有できるブロークン・ブロッカーで精気を吸う骨の塔を召喚して攻撃ロック、悪くない手だと思ったんだけどなあ、だってさ。また改良は考えるとして、今はゾンビ・マスターを守備表示で召喚するんだって。さらにそのまま効果発動!手札のモンスターをコストに、自分か相手のレベル4以下のアンデット族を蘇生させるみたい。私はワイトプリンスを捨てて、今捨てたワイトプリンスをそのまま特殊召喚だってさ」

 ゾンビ・マスター 守0
 ワイトプリンス 守0

「ワイトプリンス、あのカードは……」
「気づいたとしてももう止められないよ、って。ワイトプリンスは墓地に送られた時、手札とデッキからワイト及びワイト夫人を墓地に送る効果があるからね、デッキから1枚ずつちゃんと墓地に送らせてもらうよ、だって。カードを1枚伏せて、ターンエンドだってさ」

 葵 LP4000 手札:1
モンスター:炎王神獣 ガルドニクス(攻)
魔法・罠:1(伏せ)
場:バーニングブラッド
 夢想 LP2000 手札:3
モンスター:ゾンビ・マスター(守)
      ワイトプリンス(守)
魔法・罠:1(伏せ)

「本当はHANZOあたりが欲しかったんですが、これはこれでいいでしょう。機甲忍者エアーを守備表示で召喚します」

 フレイムとは違い全身を若葉色の装束につつむ忍者が、金属製の片腕で防御姿勢を取る。

 機甲忍者エアー 守1400

「忍法 変化の術、2枚目を発動!レベル4忍者のエアーをリリースすることでデッキからレベル6鳥獣族、赤竜の忍者を特殊召喚します!」

 立膝をついていたエアーが華麗な空中回転をして火口に自ら飛び込み、赤い竜か鳥のような炎のオーラを纏う、忍者にしては珍しく自身の金髪碧眼を隠そうとしない忍者が飛び出してくる。そのまま空中でその外人忍者が指笛を吹くと、赤いオーラが夢想の伏せカードめがけて突っ込んでいった。

 赤竜の忍者 攻2400→2900 守1200→800

「朱雀忍法フェニックス・アイ……赤竜の忍者は場に出た時に墓地の忍者または忍法を除外し、相手の伏せカード1枚をチェーン不可の状態で確認したうえでデッキトップまたはボトムにバウンスすることができます。河風先輩の伏せカードは、なるほど次元幽閉ですか。こんな危ないカード、デッキボトムに帰っていただきましょう」
「ちぇっ、仕掛けるつもりだったのになー、だって」
「私は用心深いんですよ。では、バトルフェイズに入ります。ガルドニクスでゾンビ・マスターに攻撃!」

 炎の羽が宙を舞い、ゾンビ・マスターを一瞬で焼き尽くす。

 炎王神獣 ガルドニクス 攻3200→ゾンビ・マスター 守0(破壊)

「あえてワイトプリンスの墓地肥やしに協力する理由はありませんね。ターン終了です」

 ライフ差は2000、フィールドの差も歴然。だが、まだ葵は油断しない。このまま押し切れるほど、入学以来いまだ無敗記録を更新し続ける無双の女王が甘いわけがない……そんな思いを常に持っているからだ。皮肉なことに、夢想自身の普段の評判がこうして今の劣勢を生み出していることになる。

「私のターン、ドローするんだって。さすがに私もこれ以上押し切られるわけにはいかないかな、ってさ。ワイトプリンスをリリースして、龍骨鬼をアドバンス召喚!」

 溶岩の下に閉じ込められた無数の骨が地中で組み合わさり、新たな力を生み出す。冷えて固まった溶岩を力任せに叩き割って地中から骨の腕が伸び、ついで鬼の体がゆっくりと引きあがってくる。

 龍骨鬼 攻2400

「ワイトプリンスは墓地に送られた時、デッキと手札からワイトとワイト夫人を墓地に送ることができる、ってさ」
「ですが龍骨鬼の攻撃力は2400。バーニングブラッドの影響下では赤竜の忍者すら倒せませんよ?」
「慌てないでね。墓地のワイトプリンスのさらなる効果発動、墓地のワイト2体とこのカードを除外することでデッキからワイトキングのカードを場に出すことができる!」

 龍骨鬼のあけた穴から、もう1体の骸骨が身を乗り出す。紺色のぼろ布を着込んだワイトの王が、満を持して参戦した。

「ですが、ワイトキングの攻撃力は墓地のワイト及びワイトキングかける1000。3体ものリソースを削ってしまっては、その攻撃力も微々たるものです」
「だから言ったでしょう、慌てないでね、って。速攻魔法、異次元からの埋葬を発動!除外されたモンスターを3体まで墓地に送ることができる!当然私はワイト2体とワイトプリンスを、墓地へ!」

 ワイトキング 攻?→2000→5000

「攻撃力、5000!?」
「さらに装備魔法、光学迷彩アーマーをワイトキングに装備。このカードはレベル1モンスターのみに装備できて、装備モンスターは相手プレイヤーに直接攻撃できるんだってさ。これで最後のバトル、ワイトキングでダイレクトアタック!螺旋怪談!」

 骸骨の王の姿が闇に消え、次に現れた時にはすでに葵の目の前に立っていた。そのまま殴りつけようとぐっと拳を引き、自らの腕がもげかねないほどの勢いでストレートパンチを繰り出す。

 ワイトキング 攻5000→葵(直接攻撃)

「やはりあなたは恐ろしい人ですね、河風先輩。ですが、まだ甘いです!墓地から機甲忍者アクアの効果発動、墓地にこのカード以外の忍者が存在するならば、相手の直接攻撃1回を無効にできる!」

 ワイトキングの骨の拳が、見えない壁にぶつかったかのように寸前で止まった。葵のそばに装束を迷彩代わりにして潜んでいた青の機甲忍者が隠密を解き、自ら肉壁となってその一撃に割って入ったのだ。

「残念でしたね、今の攻撃さえ当たっていれば私の逆転負けでしたのに」
「ターンエンド、だってさ」

 葵 LP4000 手札:1
モンスター:炎王神獣 ガルドニクス(攻)
      赤竜の忍者(攻・変化)
魔法・罠:忍法 変化の術(赤竜)
場:バーニングブラッド
 夢想 LP2000 手札:1
モンスター:龍骨鬼(攻)
      ワイトキング(攻・光学迷彩)
魔法・罠:光学迷彩アーマー(ワイトキング)

「そろそろこのデュエルも終わらせましょう、私のターン!霞の谷(ミスト・バレー)のファルコンを召喚!」

 霞の谷のファルコン 攻2000

「このモンスターの効果は関係ありません、今関係あるのはこのカードが攻撃力2000という事実!自分フィールドの攻撃力2000以上のモンスター2体、赤竜の忍者とファルコンをリリースすることでこのカードは手札から特殊召喚できます!出でませ、葵流忍術最強のしもべ!銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)!」
「ついに来たね、銀河眼……だって!」

 銀河眼の光子竜 攻3000

 噴煙を裂いて空のかなたから地上に降り立った、銀河の力を持つドラゴン。そのカード自体が白く光を放っているのを確認し、洗脳の鍵はあのカードに間違いないと夢想は改めて確信する。彼女にとって、先ほどのワイトキングによる攻撃が届かないことは想定内であった。ただ一度ピンチに持っていけば、必ず彼女ほどのデュエリストなら自身のエースを引き当てるだろうと踏んで、あえて光学迷彩アーマーを装備させたのだ。

「そんなに銀河眼が嬉しいですか?バトル、ガルドニクスで龍骨鬼に攻撃!」

 炎王神獣 ガルドニクス 攻3200→龍骨鬼 攻2400(破壊)
 夢想 LP2000→1200

「そのまま銀河眼でワイトキングに攻撃、と同時に効果発動、銀河忍法コズミック・ワープ!お互いをバトルフェイズ終了時までゲームから除外します!」

 銀河眼の光子竜 攻3000→ワイトキング 攻5000

 骸骨の王と銀河のドラゴンの姿が同時に消えさり、主を失った鎧が地面に崩れ落ちる。次の瞬間、2体のモンスターはまたこの次元に戻ってきた。

「装備モンスターが消えたことにより、光学迷彩アーマーは装備対象がいなくなり破壊されました。これでもう直接攻撃はできませんね。これでターンエンドです」
「私のターン、ドローだって」

 光学迷彩アーマーは破壊されたが、もとより夢想にその効果を使う気はない。普段のデュエルならばいざ知らず、今回のデュエルは銀河眼のカードを破壊して洗脳を解いたうえで勝たなければならないからだ。

「バトル、まずはガルドニクスを攻撃するんだって。螺旋怪談!」

 高く高く飛び上がったワイトキングがガルドニクスの頭を掴むようにして体勢を整え、一拍のちにその頭を支点としての強烈な両足蹴りが不死鳥の顔面を捉えた。

 ワイトキング 攻5000→炎王神獣 ガルドニクス 攻3200(破壊)
 葵 LP4000→2200

「これで私も初ダメージ、ですか。ですが、不死鳥はただでは堕ちませんよ。ガルドニクスは戦闘破壊された時、デッキから同名モンスター以外の炎王を特殊召喚できます!舞い上がれ、炎王獣 ガルドニクス!」

 力を失った不死鳥が火山の中へ吸い込まれるように消えていき、溶岩の中に落下する音が辺りに響く。だがその直後に火口から火の玉が1つ吐き出され、その炎が再び、先ほどまでよりも小さいとはいえ同じような鳥の姿に変わっていく。

 炎王獣 ガルドニクス 攻700→1200 守1700→1300

「カードを1枚セットして、ターンエンドだってさ」

 葵 LP2200 手札:2
モンスター:炎王獣 ガルドニクス(攻)
      銀河眼の光子竜(攻)
魔法・罠:忍法 変化の術(対象無し)
場:バーニングブラッド
 夢想 LP1200 手札:1
モンスター:ワイトキング(攻)
魔法・罠:1(伏せ)

「ドロー!いいカードを引けましたが、もはやこれが役に立つことはなさそうですね。銀河眼の光子竜で攻撃、そのまま効果発動!銀河忍法コズミック・ワープ!」

 銀河眼の光子竜 攻3000→ワイトキング 攻5000

 再び銀河眼とワイトキングの姿がぼやけ、次元の壁を越えて消えていく。前のターンと違うのは、葵の場にはいまだ攻撃の権利を残したガルドニクスがいるということだ。

「これで終了ですよ、ガルドニクスによるダイレクトアタック!」

 炎の羽が乱舞し、夢想めがけて飛んでゆく。もはや身を守るもののないかに見えた夢想が、最後に彼女の場に残されたカードを表にした。

「リバースカードオープン、強化蘇生!効果は言わなくてもわかってると思うけど、このカードで私の墓地のゾンビ・マスターをレベル1、攻守を100ポイント上げて特殊召喚するよ、だってさ」

 炎の羽を手にした杖のようなもので蹴散らしつつ、ゾンビを操るゾンビが地中から湧き出てきた。受動的にしか効果を使えないガルドニクスはむざむざ墓地肥やしに付き合うするわけにもいかず、その攻撃を取りやめる。バトルフェイズが終了したことにより、また次元を越えた2体のモンスターが帰還した。

 ゾンビ・マスター 攻1800→1900 守0→100 ☆4→5

「ワイトキングでガルドニクスを狙われたら私の負けですが……そううまくいくと思わないでください。カードをセットして、ターンエンドです」
「私のターン、ドロー!」

 普段の彼女ならば迷わず攻撃するのだが、あの含みのある物言いには必ず何かあると見てしばし考える。だが、その迷いも一瞬だった。

「バトル!ワイトキングでガルドニクスに」
「だから甘いって言ってるんですよ。リバースカードオープン、ゴッドバードアタック!鳥獣族モンスターのガルドニクスをリリースすることで、河風先輩のワイトキングとワイトプリンスを破壊します!」

 ガルドニクスが文字通りの火の鳥となって、夢想のフィールドに着弾する。激しい爆発が巻き起こり、これで終わりかと葵が一瞬だけ肩の力を抜く。その直後、爆発の炎と煙をものともせずに巨大な竜の腕が伸びた。いまだ黒い煙に覆われて夢想の姿は見えないが、静かなその声が辺りに響いた。

「冥府の扉を破りし者よ、其には死すらも生温い……」
「これは!?」
「チェーンして速攻魔法、瞬間融合を発動させてもらったみたい。フィールドのアンデット族モンスター2体を素材にして、融合召喚……」

 徐々に煙が晴れてきて、夢想の姿があらわになってゆく。そして、その隣から葵を見下ろす巨大な竜も。

「冥界龍 ドラゴネクロ!」

 冥界龍 ドラゴネクロ 攻3000

「破壊対象にしたモンスターを融合素材にすることでゴッドバードアタックの回避、ですか。しかもこのまま攻撃してもしうっかり銀河眼に効果を使わせたら瞬間融合の自壊デメリットも回避できるおまけつき。ですが、ドラゴネクロは戦闘する相手モンスターの魂を引きずり出すために肉体を破壊することができないモンスター。その攻撃であえてドラゴネクロを破壊して、トークンの連撃時に効果を使えば完璧です!」

 葵の必死の反論に対し、もはや夢想はただ静かに微笑むのみ。それは、すでにこのデュエルの結末を悟った者の見せる安らかな笑みだった。

「改めてバトル、ドラゴネクロで銀河眼に攻撃!ソウル・クランチ!」
「無駄だと言っているでしょう!迎え撃ちなさい、銀河眼!破滅のフォトン・ストリー……」
「あなたが銀河眼を大切にする気持ちは立派。だけどごめんね、だって。今回、私は清明と約束したの。必ず元に戻すからって。私が清明の隣に行くから、って。速攻魔法、禁じられた聖杯を発動!銀河眼の攻撃力を400ポイントアップさせる代わりに、その効果をこのターンの間だけ無効にする!」

 冥界龍 ドラゴネクロ 攻3000(破壊)→銀河眼の光子竜 攻3000→3400
 夢想 LP1200→800

「ごめんねドラゴネクロ、ってさ。だけどドラゴネクロが戦闘を行ったモンスターは攻撃力が0の魂の抜け殻になって、自分フィールドに引き抜かれた魂がダークソウル・トークンとして特殊召喚される!」

 銀河眼ががくりとうなだれ、体から何かオーラのようなものが抜け出ると同時にその瞳から生気が失われる。そのオーラは夢想の場に移動し、銀河眼のシルエットのような姿になった。

 銀河眼の光子竜 攻3400→0
 ダークソウル・トークン(銀河眼の光子竜) 攻3000

「効果が無効になったなら、この攻撃は、回避手段が……」
「さあ、その闇の輝きで葵ちゃんを覆う光を吹き飛ばしてあげて、ってさ。ダークソウル・トークンで攻撃!破滅のダークフォトン・ストリーム!」

 銀河眼の魂が口らしき部分を開き、そこから黒い光の奔流が放たれる。力を失った光のドラゴンがその中に消えていった。

 ダークソウル・トークン(銀河眼の光子竜) 攻3000→銀河眼の光子竜 攻0(破壊)
 葵 LP2200→0





「うぅ……」
「あ、あれ?気絶しちゃったかな、ってさ」

 力が抜けたようにその場にへたり込む葵を見て、なにかおかしなことでもしてしまったかと若干慌てる夢想。その場に駆け寄ろうとするも、その足が途中でぴたりと止まった。

「私思うんだけど、ちょっとそういうのはずるいんじゃないのかな?って」
「おーっとっと、なんとでも言えーい!すべては斎王様のために、だぜ!」

 全く悪びれることなくそう返したのは、わらわらとどこからともなく集まってきた白服軍団の先頭に立つ、ノース校四天王の百こと酒田(さけだ)だ。知った顔だったので試しに話しかけてみた夢想も、まるで会話をする気のないその返事に深くため息をつく。

「……もう。どうせ聞いてたんでしょう?私が清明のところに行くって話。それなのにそういうことする人たちは、1回馬に蹴られちゃえばいいと思うの、なんだって」
「人の恋路を邪魔する奴は、ってやつか?なかなか手厳しいこと言ってくれるじゃねえか。おいお前ら!一斉にかかるぞ、デッキを出せ!」
「「「ヘイ!!」」」

 一糸乱れぬ動きで夢想を取り囲む十人ほどの集団がデュエルディスクを構えるのを見てどうやってもこのデュエルを制さない限りは先に進めないと悟り、彼女もまたその輪の中心でデュエルディスクを構えた。

「「「「「デュエル!」」」」」

 1階の万丈目に続き、2階でもまた変則の多人数デュエルが始まった。圧倒的に不利な状況の中で、それでも夢想はカードを引く。
 ………デュエルを続けている限り、彼女のデッキは彼女に負けを許さない。あらゆる状況だろうとも、彼女は勝ち続けることになっているのだから。 
 

 
後書き
我慢できなかった小ネタ増量120パーセント増し(当社比)……元ネタわかる人何人いるんだろう?清明と葵ちゃんの共通の趣味は昭和の少年漫画です。
今回の反省点:せっかく転所自在の術をやるならウォーターワールドも使わせるべきだった。あと適当な昆虫族とライヤー・ワイヤーあたりでクモ糸縛りもやるべきだった。無念。 
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