RSリベリオン・セイヴァ―
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序章
前書き
序章だけあってかなり長いです。
10年前
夏、猛暑の日々が続くがそれでも学生たちは与えられた夏休みを自由気ままに楽しんでいた。
大会に向けて練習や合宿に専念する学生もいれば、進学に向けて受験に励む者たち、中には友人たちと海水浴や愛人を連れてデートなど、プライベートとして楽しむ学生もいる。こうして、学生たちはそれぞれの時間を夏休みで過ごし続けていった。
そして、俺もそんな学生の一人であった。
*
「ったく……千冬のやつ、おせぇな?」
俺は、待ち合せの校門前で幼馴染が現れるのをジッと待ち続けていた。約束の時間は、かれこれ十分も遅れ、熱い炎天下の中で待たされるとイライラしてしまう。ほかにこの日差しを凌げる日陰は見当たらないし、こうして彼女が来るのを待つしかない。こういうことになるんなら、帽子ぐらい被っていくべきだったな……
「やれやれ……」
俺は蝉が鬱陶しく鳴き続ける声を聞きながら、昨日の放課後のことを思いだした。
何しろ、昨日は夏休みに向けて行われた閉会式だったからクラス中は大盛り上がりだった。
「そ、蒼真……!」
閉会式終了後、俺は夏休みの宿題と大量の荷物を抱えて下駄箱で靴を履き替えようとしていたところを、背後から馴染みある女子の声が呼び止めてきた。
「あ?」
振り返ると、そこにはムッツリした少女が顔を赤くして仁王立ちしながらこちらに立っていた。
俺の幼馴染の一人で名を織斑千冬という。彼女はお隣同士で、幼稚園のころから一緒だったことから、今では最も古い面識を持つ数少ない存在となっている。
「話がある! そのままでいいから聞いてくれ!」
「あ、ああ……」
怖い顔をして怒鳴るようにいうものだから、俺は少しビクッとしてその場で固まって聞いていた。
「あ、あ……明日! その……そのだな?」
何やら言いにくいようだな? 何が言いたのか俺は首を傾げた。と、いうよりも早く要件を言ってもらわないと、このまま立った状態では疲れる。何せ、両手には大量の荷物を持っているのだ。右腕には体操服と全教科の教科書、そしてもう片方は美術で作った作品集と大量の夏休みのワークだ。俺は、昔から夏休みになると周囲とは違ってこまめに持って帰ろうとはせず、結局面倒臭さがでて、最後は大荷物で家に変えることになってしまう……
「……」イライラ……
俺は、彼女が要件を言ってくれるま待ち続けた。そして、ようやく彼女の口が開こうとしたところで、思わぬ邪魔が入ってしまった。
「ちーちゃーん!!」
その気楽な声と共に千冬の背後からもう一人の女子が抱き付いてきた。
「……!」
千冬は、またかと嫌々な顔をしてため息をついた。
千冬を「ちーちゃん」と、愛称で呼ぶ女子生徒は篠ノ之束。クラスからは変人扱いされる最も浮いた人物であり、周囲には全く興味を示さない変わった奴だ。しかし、唯一親しくできるのは千冬だけである。ちなみにこいつも数少ない古い幼馴染だ。
「ちーちゃん! 一緒に帰ろうよ?」
「ま、待て! 束? 今は邪魔をしないでくれ!?」
「え~……だって、束さんはちーちゃんと……あ?」
束は俺と目線があった。すると、先ほどの親しげな態度はやめて俺に敵意をむき出しにしてきた。
「何でコイツがいんのよ?」
「居ちゃわりぃかよ……」
俺は面倒な顔をして言い返した。
束は、こうみえて千冬以外の周囲にはこういう態度だ。特に俺とは仲が悪すぎるらしい。それは、今から始まったことじゃないのは言うまでもない。
「ちーちゃんに近寄る黴菌はこっち来んな」
「束っ!」
起こった千冬は勢いよく束へ拳骨をくらわした。
「いったあぁ~い! 何すんのぉ?」
「いい加減に、蒼真を悪く言うのはやめろ! 私たちは昔からの顔なじみだろ?」
「だってだってぇ~……」
「……一緒に帰ってやるから、外で待っててくれ?」
「は~い……」
大人しく束は先に外へ向かうが、俺と通り過ぎた時に一瞬殺意ある目を向けて下駄箱へ向かった。
「……」
昔っから面倒な奴と顔なじみなってしまったと、俺はため息をつく。
「すまない……私がもう少し束へ指導していれば、お前にも不愉快な思いをさせずに済んだのに……」
「気にすんなよ? それに、束がああいう態度なのは今から始まったわけじゃないだろ? 俺はもう慣れっこだし、気にしてねぇよ?」
「そう言ってもらうと、助かる……」
千冬は緊張がほぐれて、ようやく笑んでくれた。笑ってさえいれば可愛いんだけどな……
いつもムッツリしているから話しかけても起こっているのかどうなのかもわからない。
まぁ、彼女は俺とは違ってクラスの人気者だから友達はたくさんいるだろう? 何せ彼女は文武両道というパーフェクトな存在だ。
それに比べて俺と来たら……束とまではいかないが、俺って人づきあいが大の苦手なのだ。おまけに成績も最下位で運動神経ゼロ、モヤシ、ワカメなどと言われているクラスの嫌われ者だ。
「……で、何か話があるんじゃないか?」
俺はようやく彼女の要件を尋ねることができた。
「あ、ああ……そうだったな? その……」
また、顔を赤くして言葉を詰まらせている。このままではらちが合い赤いから、俺は等辺僕ながらも、思い当たるようなことを考えて口にしてみた。
「……手伝ってほしいこととかあるのか?」
「え?」
千冬は、俺を見た。すると、俺はこう言い続ける。
「力仕事なら多少は手伝えるぞ? それとも、夏休みの宿題を教えてくれるのか?」
もし、俺の質問が正しければ、後者であってほしい。 こいつは先ほども言ったように成績優秀だからこんな程度の宿題なんて朝飯前だろ?
「そ、そうだ! お前に頼りたいことがあるのだ!」
――ああ、そういうことか?
何だ、手伝いだったのか? 俺は、ようやく理解して頷いた。
「明日の朝9時に校門の前に来てくれ!」
「え、別に家が隣なんだし、わざわざ学校までくること……」
「いいから! では、明日9時だぞ? 朝の午前9時だからな!?」
と、だけ言って彼女は一目散に外靴に履き替えて出て行ってしまった。俺が呼び止めるも、彼女はさらに足を速くさせて外で待たせている束のもとへ行ってしまった。
「……?」
結局、彼女は何がしたいのか? わからないまま俺はそのまま明日に備えた。
*
そして、今に至る。
「ったく! 千冬のやつ、言っておきながら遅刻してんじゃねぇか?」
腕時計を見れば、既に15分を経過していた。俺は痺れを切らして携帯を取り出すと、彼女に連絡を取ろうとした、が。
「す、すまない!」
息を切らして汗だくになった千冬がこちらへ走ってきた。
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
「き、気にするな! 少し、準備に手間がかかっただけだ……」
「そうか、ところで学校に来たってことは校内で何かしなくちゃいけないのか? 私服のままだと汚れるぞ?」
千冬は、学校へ来るといったからワイシャツの夏服を着てきた俺とは違ってオシャレな私服を来てやってきた。
「そ、それは……別に待ち合わせが学校にしたまでだ! さ、行くぞ?」
「え、ちょっと!」
グイッと俺の手を握って引く千冬に、俺は連れまわされるはめとなった。
「どこへ行くんだ?」
俺は呆れた顔で千冬に尋ねた。それは、さっきから人通りの多い商店街へと向かっているからだ。
「ま、まずは! いろいろと揃えるぞ? ついて来い!」
そう言って、彼女は俺と共に大型ショッピングセンターへと向かった。手伝うのに必要な道具を買いに来たのか? なら、わざわざ大型店舗へ行くよりも近場のホームセンターかコンビニに行けばいいのに……
しかし、俺と千冬がたどり着いたところは、大型ショッピングセンターの洋服売り場であった。そこで、俺は試着室前に待たされる羽目になる。
「作業着でも着るのか?」
って、違う! 違う! これってもしかして……
「ど、どうだ!?」
カーテンを開けて試着した服を俺に見せる千冬に俺は、彼女の言った本当のことをようやく理解した。つまり、これって……
「な、なぁ……? 千冬」
「これはどうだ!?」
本音を聞き出そうとしても、千冬の怒鳴りに驚き、つい従ってしまう。
「う、うん……きれいだと思うぞ?」
「何か適当な口調だ……駄目だ、よし次!」
「トホホ……」
それから次々と店舗を回りながら千冬はご機嫌に俺の前を歩いている。何だ、案外楽しんでいるじゃないか? やっぱり、俺と遊びに出掛けたかったんだな?
ならよかった。最初は学校へ来いっていうものだから、てっきり校庭で除草作業か何かをさせられるのかと思った。
それなら、こっちも負けないほど楽しまないとな?
「千冬!」
「な、何だ?」
買い物袋を持った千冬がビクッと俺に振り向いた。
「休憩しようぜ? いい場所を知ってんだ」
俺はそう言うと彼女の手を引いてその休憩地点へ向かった。
「こ、こら蒼真!?」
千冬は、そんな俺に手を握られて赤くなっていた。
*
そこは、東京湾の見える綺麗な臨海公園だった。
「綺麗なところだな?」
「そうだろ? 俺のお気に入りの場所さ。ほら、ベンチに座ろうぜ?」
「あ、ああ……」
俺たちはベンチに座って湾を宥めた。そこには遊覧船やらいろんな船が行き交い、活気があふれていた。
「今日は、俺と遊びに行きたかったんだろ?」
「へぇ……?」
一息ついたところで、俺はようやく本音を聞き出した。
「最初は学校で疲れるようなことをさせられるかと思ったけど、まんざらでもないな? 遊びに行くって言ってくれたなら、俺も制服じゃなしに私服で出かけたのに」
「す、すまない……誤解をさせてしまったようだな?」
「でも、遊びに行きたかったのは本当だろ?」
「あ、遊びではない!」
急に千冬はベンチから立ちあがった。え? もしかして違うのか?
「え、違うの?」
「あ、遊びではなくて……その、あれだ……で、デー……」
「で?」
「デートだ!」
思いっきり告白した千冬を目に、俺は目が点になった。
「……え?」
デート? デートって、あのデートか? いや、しかし! 彼女が俺と!? こうして遊びに出掛けるのなら友達としてならいざしらず、デート?
「い、いいのかよ……?」
「何がだ?」
「俺みたいなので、いいのかよ……?」
何もかもダメな男と、何もかもが完璧な女が、こうしてデートだなんて……
「お、お前じゃなくては……駄目だ! だから……」
さらに顔を赤くしてもじもじさせている。俺だって同じだ。
「で、でも……デートって、どうすりゃあ?」
「私に聞くな! 初めてなんだ……」
「こっちだって……ああ、もう!」
俺はついやけになって立ち上がると、ガシっと千冬の手を掴んだ。
「要は、楽しめばいいんだろ? 一緒にいっぱい遊んで、いっぱい思い出つくればいいだけじゃないか? そんな無理して漫画やドラマみたいな展開にしようとしなくたっていいじゃないか? お互い素人なんだし、最初は遊ぼうぜ?」
俺の言葉に、固くなっていた千冬も徐々に肩の力が緩み、だんだんと落ち着きを取り戻していった。
「そうだな……最初はそのほうがいいのかもしれないな?」
「よし! そうと決まれば……ごめん、今日は何日だっけ?」
俺は彼女に日にちを尋ねた。
「八日だが?」
「よし! それなら近場に空自の航空祭がやってるんだ。最近この辺りに空自の基地が新しくできたんだ。今日はその記念で航空祭をするんだぜ? もしよかったら行ってみるか?」
「ああ、行こう!」
俺は千冬を連れて近くにある航空祭へ足を運んだ。実は、その基地には親父が働いている。厳密に言うと、その基地に配属されている航空機のパイロットなんだ。そう、親父は航空機のパイロット。
「凄い人盛りだな?」
「そうだな? 離れないよう、しっかり手を握ってろよ?」
「う、うむ……」
俺はしっかりと千冬の手を握りしめ、彼女も俺の手を絶対はなさなかった。
しばらくして航空ショーが始まり、上空を舞うブルーインパルスや実戦の機体による演技飛行を観賞し存分に堪能した。
そして、ある航空ショーにて、俺は戦闘機に搭乗する親父を見つけた。
「あれ! あのパイロット、俺の親父だよ?」
「そういえば、お前の父親は空自のパイロットといっていたな?」
「ああ、俺の憧れさ……」
俺は親父が飛ぶところを見つめて、ふとこう呟いた。
「……俺もいつか、あんなふうに空を飛びたい」
「フフ、お前なら出来る……」
「無理だよ。何をやってもダメな俺じゃあ……」
「悲観的になるな? 努力さえすれば、夢は叶う」
「叶うと、いいな……」
「叶うさ? あ、なぁ! あれは何だ?」
ふと、千冬が音楽隊の演奏へ指を向けた。
「音楽隊だな? 自衛隊にはああやって演奏する部隊もあるって聞いた」
「見てきてもいいか?」
「ああ、行こう!」
*
一日中はしゃぎ回り、それは航空祭が終わるまで止まらなかった。気付いたころには夕暮れで、俺たちは夕日に照らされて基地の正門から出てきた。
「今日は楽しかったな?」
千冬がそう言ってくれた。彼女が楽しんでくれれば、俺も航空祭へ連れていった甲斐があり、うれしかった。
「そうだな。また、遊びに行こうぜ? 今度は遊園地とかどうだ?」
「ああ、いいぞ?」
自宅へ帰るまで俺たちのおしゃべりは止まらない。
俺は、今まで以上に千冬と親密な関係へと近づいた。ただの幼馴染から、徐々に……彼女っていうのに近づいてくるんだろうか? そう思うと、いつもの厳格でやかましい千冬が、とても可愛く見えた。
それから何度か俺は千冬と会っては共に出かけたり、一緒に学校へ行って頼まれた作業を手伝ったり、時折彼女の家に出向いて共に宿題をしながら、たまに彼女の弟と遊んでやったりもした。何をするにも彼女と過ごす時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。本当に楽しい日々を送り、内気で後ろ向きな俺の心は徐々に変わっていくような気がした。
……しかし、突如起こったあの「事件」で全てを失い、全てを引き裂かれてしまった。
夏休みが終わり、秋に変わった。徐々に寒くなる一方で俺と千冬の中には未だ春が続いていたのだった。
しかし、遊園地へ行く約束の日の前日に千冬は、親友の束と共に転向してしまった。それも、別れを告げずに……
俺は、酷く心を病んだ。この酷い失恋に俺は心を酷く痛め、またいつものダメな男子高生へと逆戻りになった。そう、千冬との思い出は幻のように薄れ、俺は徐々に彼女のことを忘れ去っていった。
そして、今日も俺はなにも変わらない平凡な日常を送っている。
一時俺と千冬がつき合っているという時期には学園中が大騒ぎになり、特に束は大暴れしたこともあった。今となってはそれも無かったかのように平凡な日々に身を投じている。
「……」
近くで手をつなぐ男女の学生を見た。嘗ての俺と千冬のようだった。けど、オレは舌打ちして嫌な目で睨みながら通学路を歩いた。あの時の思い出が忌々しい過去に思えたからだ。
そのとき、ふと俺の頭上から強い風が一瞬起こった。俺の髪をなで、風は一瞬でおさまったかと思った。しかし、違った。
「……っ!?」
突如凄まじい強風が一瞬で俺に襲い掛かると、再び頭上に轟音と共に何かが高速で通過した。
その姿は一瞬であったが、シルエットを見るなり俺は呟いた。
「み、ミサイル……!?」
そう、それは紛れもなくミサイルであった。ミサイルはそのまま上空へと急上昇して上空に浮遊する目標へ突っ込もうとするが、そのミサイルは到達寸前で真っ二つにされて爆発した。
「あ、あれは……!?」
ミサイルを切り裂いたその影、それは……人?
さらに上空からミサイルが降り注いでくるが。そのミサイルの雨は上空の人らしきシルエットによって次々と花火のように上空で爆発していく。
「何が……いったい、何が起こってんだ!?」
すると、背後から急上昇するミサイルがこちらへ襲い掛かった。ミサイルはそのまま一直線に着弾し、逃げ惑う先ほどの学生カップルを吹き飛ばした。
「!?」
俺もその爆風に呑まれて風に飛ばされる。
ビルのガラスが一斉に粉々になって地上へ降り注ぎ下の人達へ降りかかってくる。あちらこちらから悲鳴や助け声が聞こえてくる。倒れた俺は額から血を流しながらよろよろと立ち上がると、そのままとにかく我武者羅に走った。どこか、この恐怖から凌げる場所を探さなくてはならない。
シェルターはどこも満員で、パニックに陥った人々が押し合いを続けている。これじゃあ当然シェルターには入れないな……
「どこへ行けば……」
どこへ行けばいいのかわからずに走り続けた結果、親父のいる航空基地を囲む金網のフェンスまでたどり着いた。
そこで、俺はフェンスに片手を引っかけて息を整えていた。
隣には轟音と共に人のシルエットの迎撃に向かうため戦闘機が発信準備をしているところだった。
そんな中で、ある男の声がフェンス越しに俺へ呼びかけてくる、
「蒼真か!?」
それは、耐Gスーツを身に纏った親父の姿であった。
「父さん!」
「どうしてこんなところに……!?」
「それよりも何がどうなってんだよ!?」
「詳しいことは私にもわからん。だが、ここは危険だ! 早くシェルターへ非難しなさい!?」
親父はそう言って背後の戦闘機に振り返って駆け出していった。
「と、父さん!」
しかし、親父は既に機体に搭乗し、滑走路を移動している。親父の言う通り、俺も空いているシェルターを探さなければ……
基地から離れて俺は再び街中へ出る。その上空には一機の、あの人のシルエットが迫り来るミサイルを撃ち落としている。
そして、そのシルエットに向けて先ほどの基地からスクランブルした戦闘機の数機がシルエットへ戦いを挑む。しかし、シルエットの小回りな動きに戦闘機は次々と撃ち落されていく。
「や、やめろ……」
俺は呟いた。そして戦闘機が撃ち落されるたびにその感情は高まる。
「やめてくれ!」
そして最後に残った一機が人のシルエットとドッグファイトを続けていた。
「もう、やめてくれぇーッ!!」
そのとき、戦闘機は低空で飛行した。その姿を俺ははっきりと見た。機体の尾翼に描かれたエンブレム、それは紛れもなく父さんの機体だった……
そして、その機体はシルエットに翼を切り落とされ、コントロールを失って地上へと急降下する。
父さんがパラシュートで脱出するところは見えなかった。そのまま、父さんの機体は墜落して爆発した……
「そ、そんな……!」
膝が落ち、父さんが死んだことを確信した。そして、そんな俺の頭上へ巨大な瓦礫が落ちてくる。
「!?」
気付いたころには遅く、俺は目をつぶる。だが、その瓦礫は一瞬で粉々になった。落下してこないことに俺はゆっくりと目を開けて、目の前を見た。そこには、あの人のシルエットが……
「だ、誰だ……?」
人のシルエットは全身を白いアーマーに身を包み、頭部も黒いバイザーをして顔が良く見えない。だが、こちらへ顔を向けてきた瞬間、俺はとっさに彼女の名を口にした。
「……千冬?」
「……」
すると、相手はゆっくりと片手でバイザーを上げた。その素顔は、千冬であった……
「そ、そんな!?」
俺は問う。
「千冬? 千冬なのか!?」
「……」
しかし、千冬は俺から目を背けて何も答えない。
「どうして! どうしてこんなことをしたんだ!? さっきからミサイルを撃ち落としていたのはお前なのか? さっきの戦闘機を撃ち落としたのも……?」
しかし、彼女は答えない。ただ、俺から背を向けると、そのまま上空へと飛び立っていった。
*
その後、この事件は後に「白騎士事件」と呼ばれ、人のシルエットことIS「インフィニット・ストラトス」の存在により世界は絶叫した。日本政府はこれらの存在を自分たちの物とするために、事件当時に起こった被害件数をすべて「ゼロ」へと塗り替え、被害者遺族へ口止めを行った
俺の家も当然口止めをされた。しかし、母さんはそのことに対し父の無念が浮かばれないと、数日後に自殺した。俺は、祖父母の元へ預けられた。
ISは女性でしか扱えないことを知り、世界は徐々に「女尊男卑」と呼ばれる性差別の世界へと成り果てていった。各地ではテロやデモが相次ぎ、世界は徐々に平和が薄れていく。
深夜ロシアの軍事極秘施設にて
「RS展開、セイヴァ―状況良好、これより任務を開始する」
太刀を肩に担ぐ俺の足元には、巡回していたISの二機の死体が転がっていた。それぞれ太刀によって真二つに切り裂かれている。
「作戦内容、ロシア空軍基地を奇襲し、試作ISの撃破とそのコアの奪取、あるいは破壊」
白騎士事件での無念を晴らすため、俺は新たな力を手にした。それで、この世界を変えるために。
後書き
次回から本編です。
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