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魔界転生(幕末編)

作者:焼肉定食
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第18話 決戦前

武市は未だ長州に潜んでいた。
出来れば、京に急ぎ足を運びたかったのだが、いまだ機が熟してはいないために居座るしか方法がなったのだ。
(以蔵め、京でうまくやっているのだろうか?)
武市も以蔵も神出鬼没であるために連絡を取り合おうにもとることは出来ない。
武市は以蔵だけでは不安を拭い去ることはできなかった。
以蔵は確かに剣の腕は立つ。が、何せ考えることはしない。
命令されればいくらでも人を斬るだろう。
(さて、どうしたものか)
武市が思案に暮れていたとき、あの男が現れた。
「武市殿、私が京へ参りましょう」
武市が死ぬ前に夢であった男。自分を現世に転生させた男。
そう、天草四朗時貞。
具現化してみたのは初めてだった。
「天草殿、行ってくださるか?」
武市は天草に願い出た。
「京の岡田殿の様子を探ればよろしいか?」
天草はにやりと微笑んだ。
「それもありますが、以蔵に渡した薬はどうしたのか。また、渡したのなら出来れば、その者を転生させて戴きたい」
「心得ました。では」
天草は武市の前から忽然と姿を消したのだった。

以蔵が天草にあったのは、斉藤隊をこっぴどく痛めつけた後だった。
全身を返り血で真っ赤に染め上げ、京に来たとき皆殺しにしておいた寺に潜伏し、井戸水で体を洗っていたときに、天草に遭遇したのだった。
「岡田殿」
と呼びかけられた時に黒い宣教師の服を着た男だった。最初は武市かと思って振り向いたのだったが、全く知らない男が立っていた。
「誰じゃ、おまんは?」
以蔵は臨戦態勢を整えて身構えた。
「武市殿の使いで参った者にござる」
その男は笑顔は人懐こく少年のようであった。
「武市先生の使いじゃと?」
以蔵はなおも臨戦態勢を崩すことはしなかった。
「岡田殿、武市殿は薬のことを気にしておりました」
以蔵の体制を見てもなお笑顔を崩さず天草は以蔵へと近づいていった。
「薬じゃと?」
以蔵は龍馬に渡した薬のことを思い出した。まして、その薬の事を知っているのは自分と武市しか知らない事だった。
「なるほど、先生の使いって言うのも偽りではなさそうじゃのぉ」
以蔵は警戒を解いて天草をみつめた。
「ありゃ、龍馬に渡したぜよ」
「龍馬?」
天草はこの時代の人間を知る由もない。自分が思念体になって何十年も起った時代なのだから。
「坂本龍馬っていう男ぜよ」
「その坂本殿はいずれに?」
「さてな、九州に行ったとも、ここに帰って来てるとも聞いてはいるが、わからんちゃ」
以蔵は首をかしげて言った。
「わかりました。坂本殿は私が探します。では」
天草は以蔵に一礼すると歩き出した。
「おい、おまん。探すちゅても、どがいするぜよ」
「心配無用。岡田殿は武市殿の命をはたされよ」
天草はそう言い残すとまたしても忽然と以蔵の前から消え失せた。

ついに伊東の提案した磁石が幕府の科学者の推移を結集させて作りだされ、新撰組頓所へと運びこまれていた。
「こんなのが武器になるのか?」
土方は目を丸くして噴き出しそうになった。
それはまさに棒に何やら鉄線が絡みついているようなものだった。

 
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