カニさんとザリガニさん
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2部分:第二章
第二章
「せめてどっちかがいなかったら喧嘩になりませんよね」
「ああ、それはそうだね」
蛙のおじさんは鮎ちゃんの言葉にその通りだと頷きました。
「せめてどっちかいないとね。喧嘩は二匹でするもんだからね」
「けれどだよ」
ヤゴ君がまた言ってきました。
「カニさんもザリガニさんも。どっちもいないと物凄く寂しいよ」
「そうなんだよなあ」
蛙のおじさんもヤゴ君の言葉に頷きました。
「カニさんもザリガニさんも悪い人じゃないから」
「誰かが困った時にはすぐに助けに来てくれるし」
「悪い奴等もそのハサミでやっつけてくれるし」
「そういう人達だからね」
皆カニさんもザリガニさんも好きなのです。だから二匹がいなくなるのも嫌なのでした。それでさらにどうするべきか悩んでいるとでした。
「やはりこれしかないのう」
山椒魚さんがここで言うのでした。
「やはりじゃ。二人を離れさせよう」
「離れさせるんですか」
「うむ、やはり顔を見合わせると喧嘩をするじゃろ」
これはどうしても起こってしまうことでした。二匹は顔を合わせるといつも喧嘩をします。それを考えて遂に決断を下したのでした。
「だからじゃよ。もう家を離れさせよう」
「それじゃあどちらかを引越しさせるんですか?」
「いや、両方じゃよ」
こううぐいさんに答えます。
「両方をな。川のそれぞれ端っこに引越ししてもらうのじゃよ」
「そうなんですか。端っこにそれぞれですか」
「どうじゃ?これならいいじゃろ」
「そうだよね。それなら」
「顔を見合わせないから。喧嘩することもないですし」
「いいんじゃないかな」
皆それで賛成するのでした。こうして二匹に対して引越ししてくれるよう御願いするのでした。それがどうしてなのかも言うことも忘れずに。
「そうか。わし等の喧嘩をなくす為にか」
「それでか」
「言いにくいことじゃがな」
山椒魚さんはこう二匹に対して述べます。長老である山椒魚さんが説得役なのです。
「どうじゃろ。その方があんた達にとってもいいと思うんじゃがのう」
「喧嘩をしないで済むからか」
「嫌な奴と会わずに」
「まあそういうことじゃ」
「そういうことか」
「ううむ」
カニさんもザリガニさんも山椒魚さんの言葉にまずは難しい顔になりました。そうしてそのうえでまた言うのでした。
「わしにしてもこいつの顔が見ることが減るのは有り難い」
「わしもじゃ」
二匹はこのことでは完全に一致していました。
「それに住む場所もここでなくともよい」
「それもいいかのう」
「では決まりじゃな」
二人が納得したと見てまた言う山椒魚さんでした。
「それでよいな」
「うむ。そうじゃな」
「それでのう」
こうして二匹はそれぞれ川の両端に住むことになりました。するとどうでしょう。川は忽ちのうちに平和になりました。やはり二匹が顔を見合わせないと喧嘩はなくなったのです。
「うわあ、こんなに変わるなんて」
「思いも寄らなかったわね」
「うんうん」
皆で頷き合います。本当に予想以上の効果がありました。しかもそれだけではなかったのです。
「ふむ。何か最近のう」
「川に悪いものが入ってくるのが減りましたね」
「そうじゃな」
今度はそのころに気付いたのです。皆またしても驚きでした。
それでどういうことかと思っていますと。カニさんとザリガニさんのおかげだったのです。二匹が何をしていたのかというとそれぞれ川の端にいて川に入って来ようとする悪いもの、悪い生き物やゴミを退けていたからです。だからだったのです。
それで川に悪いものが入って来なくなったのです。これはとても有り難いことでした。しかもです。話はこれに留まりませんでした。
カニさんとザリガニさんはそれぞれ顔を合わせることが極端に減りました。それでたまに顔を見合わせても。至って穏やかになったのです。
「おう、久し振りだな」
「そうだな」
こんな調子です。全く何の剣呑さもありません。皆それを見てさらに驚きでした。
これがどうしてなのはどうしてもわからないで皆また話をしました。タニシのお婆さんが貝殻の中であれこれと考えながらそのうえで皆に言うのでした。
「これってどういうことかしら」
「わからないわよね」
「うん、全然ね」
うぐいさんにも鮎ちゃんにもそれがどうしてかわかりません。
「何で急に仲がよくなったんだろ」
「わからないのよね、そこが」
「わしもだよ」
蛙のおじさんにもわかりませんでした。
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