カニさんとザリガニさん
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1部分:第一章
第一章
カニさんとザリガニさん
ある川にカニさんがいました。そのカニさんの自慢はハサミでした。二つの大きなハサミを持っているのです。カニさんはその二つのハサミのおかげでとても強くて川の中の大将でした。けれど川にはもう一匹二つのハサミを持っている人がいました。
それはザリガニさんです。ザリガニさんもとても大きな二つのハサミを持っていました。ザリガニさんもまたそのハサミをとても自慢していました。
そんなカニさんとザリガニさんですけれどお互いハサミがとても自慢でそのうえ自分こそが川の対象だと思っていました。そのせいでとても仲が悪かったのです。
今日も喧嘩をしています。ハサミで挟み合い殴り合い。そのうえでお互い言い合います。
「御前がどけ!」
「いいや、御前だ!」
喧嘩をしながら川の中の道をどけだのよけるだの言い合っています。
「御前がどけばそれで済むんだよ!」
「それは御前だろ!」
川の中で喧嘩を続けます。川の中の動物達はそんなカニさんとザリガニさんをまたかという目で見ています。動物達は二匹の喧嘩にとても困っています。
「毎日だからねえ」
「そうそう」
困った顔で言い合います。
「もう今日もだったし」
「昨日もね」
「多分明日もだよ」
これもわかっていることなのでした。
「あの二人。絶対に喧嘩止めないと」
「困ったなあ、本当に」
「そうだよね、本当に」
「どうしたものかのう」
川の長老の山椒魚さんも弱った顔をしています。
「あの二匹の喧嘩をのう。何とか収めないとのう」
「それでどうするの?」
ヤゴ君が山椒魚さんに尋ねます。
「山椒魚さん、あの二匹顔を見合わせたらすぐに喧嘩するし」
「しかもよ」
今度は川の中で美人さんで通っているうぐいさんが言います。
「あの二匹お家も近いし」
「そうなのよね」
同じ位の美人の鮎ちゃんも言います。
「それですぐに会うし」
「困ったことにね」
「しかし性格だってね」
「そっくりそっくり」
ヤゴ君が蛙のおじさんの言葉に頷きます。
「もうね、鏡を合わせたみたいにね」
「本当にそっくりだからなあ」
「それで何で仲が悪いの?」
ヤゴ君は性格が似ているのに仲が悪いということに首を傾げました。
「性格が同じなら仲良くなるんじゃないの?」
「残念じゃがそうともばかり限らないのじゃよ」
山椒魚さんがその首を傾げるヤゴ君に述べます。
「これがのう」
「どうしてなの?」
「自分と似ていると嫌な部分も見えるのじゃよ」
こう説明するのでした。
「それでじゃ。どうしても喧嘩をしてしまうのじゃよ」
「そうだったんだ」
「左様。さて、本当にのう」
山椒魚さんは困り果てた顔で大きく息を吐き出しました。
「どうしたものじゃろうな。あの二匹をのう」
「顔を合わせないようにって決める?」
タニシのお婆さんがこう提案してきました。
「あの二匹に」
「けれどお家近くなんですよ」
うぐいさんがこのことを言います。
「ですから。何かあったらすぐに」
「そうだったわね。本当に向かい通しだからね」
「だからですよ。それはどうしても」
「無理よねえ」
「残念ですけれど」
タニシのお婆さんもうぐいさんもこれは駄目だとわかり溜息でした。それで今度は鮎ちゃんが言うのでした。
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