戦国異伝
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第二百二十二話 耳川の戦いその十八
「ですから」
「ここは、です」
「籠城しましょう」
「守りそして」
「織田家の兵を全て引き付け」
「我等の戦の要となりましょう」
「わかっておる、まあ今は飲もうぞ」
茶をというのだ。
「それをな」
「茶をですか」
「それを、ですか」
「今はこうしてですか」
「飲み、ですな」
「意気を上げるのですな」
「そうじゃ、たらふく飲むのじゃ」
松永は自ら言いながら茶を飲む、理に適った実に見事な奇麗でさえある動きだ。
「よいな」
「はい、では」
「茶を飲み」
「そして戦をしましょう」
「織田家と」
「そうしようぞ、ただな」
こうしたこともだった、松永は話した。
「一つ言うことがある」
「と、いいますと」
「戦においてですか」
「あるのですか」
「そうじゃ、何かあれば御主達は逃げよ」
松永は彼等を見据えて告げた。
「よいな、いざという時はな」
「逃げよとですか」
「我等に言われますか」
「この戦で」
「その様に」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「御主達は生きるのじゃ」
「この戦で負ければ」
「落ち延びよと」
「そう言われますか」
「うむ」
その通りという返事だった。
「そうせよ、よいな」
「そこまで仰るのなら、殿が」
「では」
「このことは強く頼む」
有無を言わさぬ口調だった。
「その後は戦には入ることのなきようにな」
「しかしそれでは」
「我等の務めが果たせませぬが」
「まつろわぬ者としてのそれが」
「それでもですか」
「御主達は生きるのじゃ」
あくまでこう言うのだった。
「よいな、この戦の後はな」
「闇の者でもですか」
「生きよと」
「そう仰いますか」
「その様に」
「そういうことで頼む、この戦で生きれば逃げ延び何処かで静かに暮らすのじゃ」
腹心の者達にだ、松永は何度も頼んだ。
「松永家がここで終わろうともな」
「またその様な不吉なことを」
「松永家が終わるなどと」
「十二家の一つではござらぬか」
「それが終わるなどと」
「ははは、ただ言ってみただけじゃ」
実によく聞けば空虚な笑い声でだ、松永は家臣達にまた言った。
「とにかく、生きることは約束してくれるか」
「殿がそう仰るのなら」
「我等は松永家の家臣です」
「それならばです」
「殿のお言葉に従いまする」
「ではな」
松永は己の家臣達に何度も念押しをしてそうして約束させた、そうしてだった。彼は戦の前に彼等に茶を馳走してだった。迫り来る織田家の大軍を待っていた。
第二百二十二話 完
2015・3・1
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