ランス ~another story~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第2.5章 出会いと再会は唐突に
第34話 赤と青の輝き
「さてっ! 我が祖国へと帰りましょう!」
「誰のせいでこんな所にまで来たと思ってんのよ!」
「ご、ごめんなさ~い……」
「あはは、よしよーし。アニスさんは良ーコ良ーコ!」
アニスは、拳を突き出しながらそう言うけれど……、ここに来た経緯を知っている千鶴子に一喝されまた沈んでしまっていた。こう言う光景が、ゼスでは 日常茶飯事なのだろう。
そして、アニスが項垂れた時が丁度頭を撫でるのに絶好の高さらしく、アニスの頭を撫でていた。
「やれやれ……ん?」
ユーリの腕に感触があった。いつの間にか、アニスが腕を組むように掴んでいたのだ。ヒトミもニコリと微笑んでいた。
「……なんだ? この手は」
「ユーリさんも一緒に帰りましょう!」
「なんで そんな流れになる?」
「アニスの初めての人だからです!」
「それ言ったらなんでも許されると思うなよ……」
アニスは、腕をぎゅっとつかんで中々離してくれないから、ユーリは、とりあえずチョップを1発かまして、腕を離させた。
「うぅ~、でも、ユーリさんだってアニスが初めてでしょう!」
「いや? 違うが」
「がが~~~んっっ!!」
「お、お兄ちゃんって意外と……」
ユーリの言葉を訊いて、アニスはまるでこの世の終わりの様な表情になり……崩れ落ちていた。
そして、ヒトミはヒトミで、顔を赤くさせてユーリを見ていた。
ヒトミは、今 一体ユーリの事どんな目で見ているのだろうか……? それは、ヒトミにしか判らないのである。
「そこまでか……?」
「ユーリさんが……。ユゥゥリさんがぁぁ……女誑しだったんですねっっ!! アニスの純情を弄んで!!「「ぽかっ!」」あうっ」
またまた、おかしな事を言いだしているアニスに今度は千鶴子を含めたダブルつっこみを炸裂させた。
「あんたの何処が純情だって言うのよ」
「……まぁ、その点については俺も同感だといいたい所、だが……。自我を持っていなかったとは言え、流石に悪い事をしたかな?」
ユーリは頭を一掻きするとそう呟いていた。不可抗力、と言えば間違いないだろう。だけど、男と女であれば、その認識は絶対に違うモノだと言う事は判るのだ。
それを訊いた、アニスは、蹲っていたのに、すくっ! っと立ち上がると、ユーリに顔を近づけながら否定の言葉をかけた。
「アニスはユーリさんの事が好きなのです! ……確かに、あの状況では、アニスに有利……じゃなく、ユーリさんの同意を得られたか? と訊かれれば、首を横に振らなければならない、その可能性が高いでしょう! ですがっ 悪かった、と思ってしまったとしても、アニスは、ユーリさんの口から言って欲しくないのです! アニスは何一つ後悔していないので!」
真剣な表情でそう答えるアニス。
それ程、自分の事を好いてくれている。ユーリは、そう思ったら少しばかり顔が赤くなりそうになっていた。幾ら、色んな意味で、滅茶苦茶なヤツだとしても、だ。
「(うーむ……。こんなに好かれた事これまでに無かったんだがな)」
ユーリは、そう思っていた。
……そのセリフを実際に他のメンバーに聞かれたら地獄を見るということを知らずに……、と言うか、袋叩きに合うユーリの姿が目に浮かぶようだったのだ。
その後、暫くは黙っていたユーリだったが、とりあえず頭を一回強く振ると、アニスに軽くチョップをした。
「あうっ!」
「なんで、『可能性が高い』なんだよ。オレに、100%同意なんか得られて無いだろう。アニスの魔法で、オレには自我がなかったんだからな」
ユーリはそう言うと、ため息をひとつして、今度は丁度頭を下げているアニスの頭を撫でた。
「でもま、そこまで思ってくれてるのは、言ってくれたのは、初めての経験だ。お前さんの場合は天然が入ってるとは思うんだが、とりあえず礼を言っておくよ」
「わわ、ユーリさんからお礼を!! 千鶴子様! アニスは もう、何も思い残すことなどありません!!」
「別に残さなくていいから、安全に帰るわよ!! 気を抜いて魔法なんか暴走させないでよ!」
千鶴子は、そう言うと帰り支度を本格的に始めていた。
そして、準備が整うにつれて、アニスは涙ぐんでいた。
「ぅぅ~ユーリさぁん……」
「んな悲しそうな目で見るなって。これは今生の別れか? もう二度と会えないのかっての……」
ユーリはそう言うと軽く笑う。
「また、仕事でゼスに行くかもしれないからな。その時は、時間が合ったら寄らせてもらうよ」
「ほ、本当ですかっ!」
「ああ、だから アニスはもうちょっと、周りの迷惑を考えて行動をしろよ? あまり、千鶴子さんにも迷惑を掛けない事。良いか?」
「はいです! アニス、今日から良いコになりますっ!!」
「いつまで続くか、わからんが、頑張れ」
敬礼をしながら、走り回るアニス。ユーリの言葉どおり、いつまで続くか判らないが、平和に過ごしていてもらいたいものだ。
ヒトミとも遊んでくれているようだ。……どちらかといえば、アニスが遊んでもらっているように見えるが。
「ああ……、本当にユーリさんがゼスへ来ていただければ、こんなに苦労しなくてすむんですが……」
「……良い性格してるな? 厄介をオレに全部押し付ける気かよ……。無茶言うな。過労死するわ!」
「大丈夫ですよ。私、生きてます」
「……スゴク説得力はあるが、勘弁してくれ!」
ユーリは千鶴子の強さも底がしれないと思えてきた。
何せ、アニスの監視・管理役なのだから。底知れぬ忍耐力があるんだろうと……既に思えてきたのだった。
「ユーリさんっ! 共に来てくれたら、また閨を共にしてm「却下」はうぅぅ……」
「女の子からそんな事を何度も言うんじゃ有りません! アニス。はしたない!」
千鶴子はとりあえず、アニスの暴走を止めていた。
……自分もシた事無いのに、アニスに何度もさせるなんて、と思っていたのは千鶴子だけのものだ。
「それでは、ユーリさん。名残惜しいですが、帰りの仕度が出きましたし、それに……」
千鶴子は、西の方角を見ていた。
地平線の向こうから向かってくる一台のうしバスが見えてきたのだ。
「迎えも着たみたいです」
「ああ、オレ達もアイスの町へと戻るよ」
「お兄ちゃんのお家だよね?うんっ!」
ヒトミはユーリの手をぎゅっと握っていた。すると。
「はい! お兄ちゃん! 一緒に行きましょう!」
「なんでお前がこっちに来てるんだよ。ほら、お前ん家はあっちだあっち」
「手間をこれ以上かけさせないで!」
「うぅ……騙されなかったです……」
「当たり前だろ……」
「あははっ!」
最後の最後まで楽しそうにしているアニスであった。千鶴子だけは頭を抱えてしまっていた。
そして改めてユーリの方を見た千鶴子。
最後にもう一度言いたかった。
「ユーリさん……、切に願いますので、どうか、熟慮していただければ……」
「ほんとに切実だな……。気持ちは判るが とりあえずノーコメントだ。……それにこれ以上あんたに何か言ったらいじめになりそうだし」
「ですよね……」
とりあえず、足元をしっかりと固めてからだと、千鶴子は改めて思った。
今は迎える事が出来る程の器は出来ていないのだから。そして、見た所……彼も魔法使いではないから、彼が言う膿に目をつけられるだろう。だからこそ、彼は自分自身が殺人鬼になってしまうと言ったのだろう。間違いのない未来だと。
殺人対象は、自身の国の膿達だろう。
「まずは、このコをさっさとゼスに連れて帰る事に専念しないと……、外交問題になりかねないから」
「それが最善策だ。動く天然破壊兵器を野放しにしておくのは、わんわんに 爆弾のスイッチを掃除させるより危険だ」
「ええ、同感だわ」
「ひ、ひどいですっ! お2人とも~! 幾らアニスでも、傷つきますよ!」
「「なら、少しは自重しろ!」」
「は、はい~……しょぼ~~ん……」
千鶴子が魔法使いでなく、そして、ゼスも魔法大国でなければ アニスを制御?する為にゴブリンを常に連れまわすくらいすれば良いのだが……、そう言う訳には行かないだろう。
「それでは、ありがとうございました。ユーリさん」
「また、また会いましょう~! ユーリさぁんっ! そして、ヒトミちゃ~んっ!」
ぶんぶんと、手を振るアニスとキチッと頭を下げる千鶴子。
……実に対照的な2人だった。
「ああ。道中は気をつけてな。アニス、千鶴子さん」
「はい! ユーリさんっ! なんでしょう?? あ、ひょっとして、アニスが恋しくなりましたか!?」
「道中、魔法の使用禁止。少なくともヘルマン内では特に禁止だ」
「あぅ……、最後までそれですか~」
「……心配だからな」
「わっ♪♪」
ユーリの最後の言葉の1つで一気に笑顔になるアニス。とりあえず、アニスは帰るまでは、約束を守りそうだ。ただ、その先がどうなるかは判らない。
千鶴子は、再び頭を下げていた。
《ゼス vs ヘルマン》
その二国間の戦争が勃発するのを未然に防いでくれたという見方が強いのだ。大なり小なり、町がある帰り道……、そんな所で無茶をされたら大変。そんな事にならない様に……と、ユーリもとりあえず、南無南無と交わし手を合わせ、千鶴子は盛大にため息を吐いていた。
そして、ゼスの一向を見送った後。
「あっ……!!」
「ん? どうしたのお兄ちゃん」
何かを思い出したかのようにユーリは慌てていた。その思い出したという事が……
「……あの連中にドロップキックするの忘れてた」
「へ??」
ヒトミは何を言っているのか判らないように首を傾げていた。ユーリが言っているのは、アニスがいる事を言わなかった連中の事だ
あの場で、アニスがいると言う事を言ってくれていれば……と、ユーリは思ったのだが。
「ま、良いか。会う事も出来たし、救う事だって出来たからな」
「え?え??わ、わぷっ……」
ユーリはそう言うと、ヒトミを頭を撫でていた。
そう、アニスがいる事、それを言っていたら……、ひょっとしたら行かなかった可能性だって否定できない。仕事だから行くだろ?……とも思えるが、それでも、以前大変な目にあった事があるから。
第1層では、クルックーを助ける事が出来た。そして、第2層へと進んでヒトミを救う事も出来たんだ。
「良かったということにしておくさ」
「え?? お兄ちゃん、さっきから何のこと、言ってるの?」
ヒトミは良く判って無いらしく、大きな目をぱちくりさせていた。
そして、2人はアイスの町へと帰る為にうしバス停へと向かっていた。
だが、どうしても気になってしまうのはヒトミの格好だろう。と言うか、下着のままな上に大きな耳がぴょこんと出ているのだ。……このまま連れまわしていたら、ヒトミが誰かに見つかった時に何度も説得をしなければならないのだ。それに、この格好で連れまわしていたら、変な趣味があるとも思われても嫌なのだ。
「さて……ヒトミ」
「ん? なーに?」
ユーリは、マルグリッド迷宮で手に入れた宝箱の中から、装備品が出てきたため、それを取り出した。
運がよく≪サイズS≫の服が入っていたのだ。
体格が大きくなく、子供用の装備らしくヒトミでも着る事が出来るだろう。ヒトミの装備……、と言うか下着だがそれでは、少し攻撃が当たっただけでも大変だ。基本的にモンスターが別の服を着ている事は滅多に無い。人間が故意的に着させない限りは無いと言っていいだろう。
「ほら、これを着な。もし見つかった場合、危険は少ない方が良いだろう?」
「え? お兄ちゃん、良いのっ? それって、お兄ちゃんが、がんばって手に入れたものなのに……」
「大丈夫だ。これはサイズだって小さいし、ヒトミにぴったりだろう? オレからのプレゼント、って思ってくれ」
「わぁ! 嬉しいっ! ありがとうお兄ちゃん!」
渡された服を胸に抱くヒトミ。
本当に嬉しいのだろう。その目には涙さえ浮かんでいるようだった。
「それと次はコレだ」
「え? わっ!」
頭にすっぽりとかぶらされたのは緑色の三角帽子。
「その大きな耳一応隠さないとな? 窮屈だと思うが、我慢してくれ。家に帰ったら外してもいいから」
「わぁ、わわっ! そんな事無いっ! これ、可愛いよっ! 私の髪と同じ色っ!」
帽子の鍔元を手でつかみ、くるくると回るヒトミ。
少し明るい緑の色の帽子。これも偶々宝箱から出てきた装備の一つだ。これも《運》が良かったからからだろうか?
「お兄ちゃん、ほんとにありがとうっ!」
ヒトミは、くるりと回った後、ユーリに向きなおして改めて礼を言っていた。
「喜んでくれたのなら、良かったよ。有り合わせになってしまったが、また何かを買いに行こうな」
「うんっ! あ……、お兄ちゃん、ちょっと屈んで!」
「ん? どうした?」
ユーリは屈んでヒトミの視線の高さにあわせていた。ヒトミはニコリと笑うと。
「お兄ちゃん、横、横だよ! あっち向いてみてっ!」
「ん?? 何があるんだ??」
ユーリは笑顔で右側を指しているヒトミの指示に従って、そちらの方向を見た。別に何かがあるわけでもなく、ただ荒野が続いている風景だけだった。何かあるのか?と再びヒトミに聞こうとしたその時。僅かな息が頬に吹きかかったかと思ったその時、柔らかな感触もあった。
ちゅっ……という音を立てて……。
「えへへ……、お礼、だよっ……//」
ヒトミは頬を赤く染めながらニコリと笑っていた。ユーリは突然の事だったから、少し驚いていたが 直ぐに笑顔になる。
「はは、高い代金を貰ったよ。そのくらいのプレゼントでこれはな」
ユーリはそう言って頭を掻いていた。妹からのお礼だから。きちんと受け取っておくべきだろう。
「あははっ! あ、なら私もお兄ちゃんの恋人候補のひとりに……“ぺしっ”あうっ」
ヒトミがそう言い切る前にユーリがデコピンをヒトミに喰らわせた。
「マセ過ぎだ。まだ早い」
「ぶ~」
ヒトミは頬を膨らませていたが……、直ぐに笑顔に戻っていた。ユーリと手を繋ぎ、そして開いた方の手で帽子や服をずっと触っていた。本当に嬉しかったのだろう。プレゼントしがいがあると言うものだった。
そして、うしバスを経由しボルゴZへと到着した。
ここから南の山道を越えれば、自由都市までもうほんの少しだ。ユーリ自身は全然問題ないのだが、ユーリはヒトミの事が心配だった。
「大丈夫か? これから山道だが……、少しここで休んでいくか」
「ん? あはは、お兄ちゃん何か気にしてる、って思ってたけど やっぱり私の事、考えてくれてたんだ?」
「そりゃそうだろう。これから険しくなっていくんだ。まぁ、向こう側につけば気候もこっちよりは遥かに落ち着いているが」
「あははは、お兄ちゃん。私、女の子モンスターだって事、忘れてない? これくらい大丈夫だよ! 私強いもん!」
握りこぶしを作る仕草をしているヒトミ。
ユーリは、正直、ヒトミの言う通り、彼女が女の子モンスターだって言う事を忘れてしまっていたのだ。
「そう……だったな。はは、そうだ。体力は常人に引けを取らないか」
「でも、嬉しいよ!」
「そっか。よし、ならさっさと山を越えるか?」
「うんっ! お兄ちゃんのお家に早く行ってみたいっ」
「そんなに期待してもらってアレだが、大した事無いんだぞ? 普通の家だ」
「お兄ちゃんと一緒なら何処だって良いんだ!」
「はいはい」
ユーリは手を伸ばしてきたヒトミの手を握って答えた。傍からみたら、本当の兄妹の様に見えてきた。それ程自然に手を結べていたのだから。
そのまま、2人は山道へと入っていき一先ずリッチの町を目指していった。
そして、その道中の事。
「ん……?」
決して広いわけではないが、それなりの幅はある山道。その道、いっぱいにうし車がいたのだ。ほんの少し、ずれてしまえば崖下に真っ逆さま。危険な山道だからこそ、うしバスや車を使わないように徒歩で帰っていたのだ。
「こんな道に何とまぁ……ま、多分慣れているからこそ出きる事だろうがな」
風貌からして、ヘルマンの軍人だろう。
うしの方が小さく見える程に大きな男が手綱を引いているのだ。そして、そのうし車を先導していた男が、うし車を残し、こちらへとやってきた。
「悪いな。お前さん達。当たらないように気をつけてくれよ。ここに落ちちまったら助からねえからな?」
「判ってる。それにしても随分と多い荷物を運んでるんだな?」
「ああ、軍の演習とやらで、使うんだってよ。鉱石類やら、武器やら、物騒なモンが沢山入ってるんだ」
「成程……と言いたいが、そんな情報オレ達に言って良かったのか?」
「別に、オレにゃ興味ねえし。ばれた所でオレは困らないからな。兎に角これを運んだから仕事終了なんだ。それ以外に興味ないってわけだ」
「………成程ね、狭い道が更に狭くなりそうだ。ヒトミ」
「………」
ユーリは、ヒトミを山側へと寄らせて、うし車をやり過ごそうとした時、ヒトミの表情は険しく、うし車を睨みつけていた。いや、見ているのは荷台。
「ん……? どうした……、む……」
ユーリはヒトミが見ている方を見て、悟った。
あの荷台……運んでいるもの。確か鉱石やら武器やらと言っていたが……。
「お兄ちゃん……、女の子の泣き声がしたよ。あのうし車から。それも1人や2人じゃないよ」
「……よく気づいたな」
ユーリはうし車の運転手に気づかれない程の大きさの声でヒトミに言っていた。
ヒトミは、うし車を見たその時から何かを察していたようなのだ。それが証拠に、ユーリがあの運転手と話している間、一言も話さず見ていたのだから。
「私の耳は見かけだけじゃないんだ……。大きいから。 お兄ちゃん……」
「判ってる」
ユーリはゆっくりと歩いて近づいてくるうし車へと自ら近づいていった。
そして、目と鼻の先にうしがいる位置にまで近づくと、ゆっくりと進んでいたうし車だったが、流石に低速した。
「おいおい、危ねえって言ったのに。落ちたりすんなよ?」
「ああ、大丈夫だ。それより気になってな?」
「ん? 何が……ッッ!!」
軍人の男が驚いた事がおきた。
突如、まるで鎌風が巻き起こったかのように、荷台を覆っていた布が裂け、中が露になったのだ。そこにいたのは、女の子。それも、ヒトミが言うとおり、1人や2人じゃない。この複数のうし車の荷台全部にいるとしたら、10~20人はいても可笑しくない数だ。
「ほう……物騒なモノ、ねえ。オレにはそうは見えないが?」
「てめえ……、一体何をしてるかわかってるって言うのか?」
「ああ、嘘をついてたから、それを暴いた。それだけの事だろう?」
そう言うと、奥にいる女の子達に目を向けた。
どうやら、普通の女の子では無いようだ。
鮮やかな薄くまるで輝いているような青色の髪に、額には真紅に光るクリスタル。どうやら、《カラー》の集団のようだ。皆が等しく猿轡を着けさせられ、喋る事も出来ない。すすり泣く事しか出来ない。
その僅かな泣き声を、ヒトミは聞き取ったようだ。
「ヘルマン軍の任務を邪魔するなんて、命知らずなヤツだな……? これは、王国に献上する為の≪モノ≫だ。見られたからには生かしておけねぇな」
「………」
ヒトミという存在を知った今、更に敏感になってしまっているも知れないが、カラーとて自分達と同じで生きている存在だ。それを踏みにじっている姿。それは見るに耐えないものだと強くユーリは思っていた。
「それはおかしいな。ここは《ボルゴZ》と《リッチ》を結ぶ山道だぞ? カラーの森からはまるで逆方向だ。……軍の、王国に献上するんなら、普通は《カラーの森》から《ラボリ》へ、そして、更に北上して《ラング・バウ》だろ? なぜ、こんな遠回りをする?」
「……ぐだぐだうるせえヤツだ! お前ら!!」
男がそう言うと、うし車に乗っていた軍人の風貌の男達が5~6人程が出てきた。
この数を攫ったメンバー?と疑問に思えた。カラーは呪いをはじめとした攻撃魔法や弓技を習得している者が多い。決して無抵抗の種族ではないのだ。
「たったこの数でカラー達を攫ったって言うのか?」
「へへへ、今から死ぬヤツに教えてやる必要はねえがな」
剣を引き抜きながらそう言うと、薄ら笑いを浮かべた。
「カラーの連中はアマアマなんだよ。仲間1人に剣をつきつけりゃ、直ぐに無力になっちまう。だから、1匹捕まえりゃあとは簡単、芋蔓式に集めていったってわけだ」
男がそう言うと、後ろの連中に向かって笑っていた。それに連動したかのように、全員が笑っていた。
……それは本当に聞くに堪えない下衆びた笑いだった
「ひひひ、少し賢くなって良かったな?さぁ、見られたから……に……わ……?」
先頭にいた男は違和感を感じていた。視界が突然変化したのだ。
どう言えば良いだろうか……、突然空中へ、回りながら跳躍したかのような感覚だった。
「な!!」
「ひぃっ!!」
男達は短く悲鳴を上げていた。先頭にいた男もその悲鳴も聞き取る事が出来ていた。
なぜ、悲鳴を上げているか、判らない。
でも……次に見た光景で全て判ったのだ。
「………ぁ」
視線が今度は足元付近になった。立っている場所。自分が立っていただろう場所に首なしの身体が立っていたのだ。
それを見て……斬られたのだと理解した。
その瞬間、首から上が無くなった身体は一気に血飛沫を上げていたのだった。
「……下衆は何処でも、どの国でも下衆だな」
ユーリは、軽く剣を振るい 付着した血を吹き飛ばした。
「てめええ!!!」
「やりやがったなぁ!!」
突如斬られてしまった光景を見た為、驚きのあまり固まっていたが、直ぐに鬨を上げた。
太刀筋がまるで見えなかった。突然首から頭が切り離された。そのイメージであり、恐怖心も明らかに刻まれていたが、それを虚勢の叫びで覆い隠していたのだ。
「……命がいらんものから、かかって来い!」
ユーリはそう言うと、剣を鞘へと収め ヒトミを自分の後ろへとやった。戦いに巻き込まれないようにする為だ。
「舐めるなぁぁ!!!」
残った男達、其々が得物を構えながら突撃をしていく……が。
「……煉獄」
剣に煉獄を、闘気・殺気を込めるユーリ。
そして、ユーリは突進してきた男達を素通りしていた。
まるで、それはすり抜けたのか?と錯覚してしまうように。
後ろで光景を見ていたヒトミも、人間より目、動体視力が遥かに良いヒトミもそう錯覚してしまう程の速度で。
『ぎゃあああああ!!!!』
身体を満遍なく斬られてしまった男達は先ほどの男の様に血飛沫を上げながらた地べたに倒れこんだ。そこから血溜まりが円状に広がっていく。
「ひ……ひぃぃっ!!」
「は、はなしがちが……ちがうっ、ら、楽して儲けれるって聞いたからっ ひぃ!!」
パニックを起こしている残り2人の男の内の1人の前へといつの間にか移動をしていたユーリ。その剣先を男の喉下に添えながらユーリは聞いた。
「儲け? なら、軍とかって言うのはガセか」
「ひ、ひいぃっ……、そ、そうだ、あ、あの黒髪のカラーがいる今は、カラーなんざ、軍が大っぴらに攫う事なんか出来ないからっ」
「黒髪のカラー?」
ユーリは、その言葉を聞いて疑問に思っていた。
カラーの事をよく知っているわけではないが、これまでに見た事があるカラーは皆共通点がある。1つは女しかいないと言うこと、そして、額にはクリスタルがあると言う事、そして……皆髪の色が薄い青だと言う事だった。
黒髪のカラーは見た事が無かったのだ。
「し、死ねええ!!!!!!!」
男の1人は、話しているユーリが隙だらけだと見るや否や、剣を振りかざしユーリに付きたてようとしたのだが……、
「馬鹿が。……本当の隙なんか作るのは二流がする事だ」
最短で最小限の動きで十分に見切り避けた後、カウンター気味に男の喉元に忍者刀を突き立てた。
「が……ひゅっ……」
気道を貫かれてしまい、空気が外へと漏れてしまう。
だが、そんな事はもう考えいなかった。
失われていく血と共に、命も完全に失ったのだから。
「誰かの命令で動いたって訳じゃないと言うわけか?」
「ひ、ひぃ……!! は、はいっ!し、しいて言うなら、方法はミネバと言う武将に色々と方法を……手をご教授していただいて、見返りを渡す予定にはしてます……が」
男は、圧倒的な力の差の前に完全に心が折れてしまっていた。武器も全てかなぐり捨てて、手を挙げて完全に降伏をしていた。
そして、その後も色々と聞き出していた。
捕らえたカラー達の身体を裏で売り、身体を犯し抜いた後に額のクリスタルを引き抜き殺すと。そのクリスタルとカラーの身体で財産を築くのが計画だったと。カラーは、そのクリスタルを狙う者は多い為、捕まった時点で、犯され取られて死ぬ事が多いが、今回は彼女達は幸運といえるだろう。
身体そのものを売る為に処女のままにしておこうと言う意向があったからだ。
そのミネバと言う者も、地位の高い武将ではなく秘密裏に行っていた為、ユーリはヘルマンが大きく動く事は無いと悟っていた。
「成程。なら、ここで助けたから、カラーとヘルマンの全面戦争に発展するなんてことは無いな……フンッ!!」
「ぐえっっ!!」
ユーリはそう言うと、拳を男の頭部目掛けて撃ち放った。
確かに男は、兜をかぶっていはいるが、衝撃が伝わりつつ、後方へと飛ばされてしまい動かなくなった。
完全に気を失ったようだ。
「丸腰の相手を斬るのは忍びないからな、だが殴らせてもらった」
ユーリは恐らくはもう聞いてない男にそう吐き捨てていた。
既に何人か殺していたり、犯していたり、向かってきたりすれば、斬っていただろうと思えていた。
話しを聞く限り、1人も殺していないとの事だった。
信用できないがとりあえず良いとしたようだ。
そして、ユーリは軽く剣から血を拭うとヒトミの方へと向かった。
「ふぅ、ヒトミ、大丈夫か?」
「うん。お兄ちゃんは?」
「ああ、オレは大丈夫だ。……だが、あまり見せたくはないがな。こんな光景は」
ユーリはヒトミにそう言っていた。
ヒトミは妹の様なものだ。そのコに血生臭い光景を見せたくないと思うのは当然だろう。
「大丈夫だよ。私だって……沢山見てきてるし、それよりお兄ちゃんが無事だったら、何でも良いんだ。誰かを助けてるお兄ちゃんを見るのも好きだから」
「そっか。よし、なら一緒にカラーの皆を助けよう。ヒトミも手伝ってくれるか?」
「うんっ」
ヒトミは胸を張ってそう言っていた。
種族は違えど同じ女の子だから。そして、自分も犯されそうになり、殺されそうにもなっていたんだ。気持ちは……判る。殺されてしまうのではないかと言う怖さとその運命を呪う気持ちも。
きっと同じだったんだと思えるんだ。
「みんな、みんな、もうだいじょうぶだからね??」
ヒトミはユーリと共に、カラーの一人一人の猿轡を外し、拘束用ロープも解いた。数はどうやら全員で12人。リーダー格であろう実力を持っていそうな娘が2人。
「本当に申し訳ない。何と礼を言ったらよいか……」
カラーの娘は頭をすっと下げていた。
カラーと言う種族の事もあるせいか、彼女達は人間達を怖がったり憎んだりしているものが殆どである。今回助けたからとは言え、真っ先に、怖がる前に礼が来るとは思っていなかったから、ユーリはやや驚いていた。
そして、それ以上驚く事もあった。
「キミは相当できるな。それ程の力があるのに、やられてしまったのか?」
「……わ、私のせいなんですぅ……」
「ルリッカ……」
後ろで涙目になっているルリッカと呼ばれている娘が涙目でそう言っていた。
「わ、私が人質にとられちゃったから、こんな事になって……ご、ごめんなさい~~……」
へたり込むと大声で泣き出していた。
彼女が捕まり、そしてこの娘も捕まり…、そして徐々に人数を増やして言ったようだ。
「大丈夫だ。頭を上げろ。皆この人のおかげで無事だったんだから」
娘は方膝をつくと、泣き続ける彼女の頭を撫でていた。その器量を見ても大物に違いないと思える。
「助けてくれたのはこの御方だ。皆、礼を言うように」
先頭に立って頭を下げる女性をはじめに、ぎこちないが皆が頭を下げていた。……人間の男に対して憎しみしか持っていなかったんだろう。それが、人間の男に助けられた事で、憎しみと感謝の気持ちが混濁してしまったようだ。
「人間を憎む気持ちは判るつもりだ。……理不尽にさらされたら誰だってそうだからな。ただ……その中にもまともなヤツがいると言う事だけ、思ってくれればありがたい」
ユーリがそう言うと、カラーたちは自分達がどう言う表情で目の前の男を見ているのか理解した様だ。直ぐに表情を改めていた。
この人が、助けてくれたのだから。
自分達を救ってくれた人なんだから。
「……申し訳ない」
「かまわない。彼女達や君の事を考えたら それが、その反応が普通。俺は何も気にしないさ。それより、これからだ。ここから先の事だが、お前達はうし車の中で隠れていてくれ。オレがカラーの森にまで送っていこう」
「そ、そこまでは……」
助けてもらった上に、そこまでしてもらうわけには、と思っていた様だが、ユーリは続けた。
「考えても見ろよ。まだ、ここはヘルマン領だ。カラーの森まで距離だって相当あるんだ。お前達カラーは色んな連中に狙われてる。……これも何かの縁だ。助けた以上は最後まで面倒を見るさ」
ユーリはそう言っていた。
助けたのに、別れた後に何かあったら後味が悪いだろう。そのユーリの言葉に返す言葉が見つからないようだ。
「まぁ、後はお前達がオレの事を信じてくれるかどうかだ。流石に信じられないのに、一緒についていくとは言えないからな」
人間を、特に人間の男に恨み貫いているカラー達だ。自分も感謝されているとは言え人間で男なのだから。
「わ、私は……あなたの事は……」
口ごもってしまっている娘も数人いる。こうなってしまえば、無理にでも付いていくわけにはいかないだろう。中々の実力の持ち主は2人程いる。だから、無理をしてついていく事は無いだろう。
「私としては、貴方に礼をしたい。なのにこれ以上迷惑を掛ける訳には……」
「いや、迷惑と思わなくていい。ただの自己満足もあるからな。あ、そうだ」
ユーリはヒトミの方を向いた。彼女の意見を何も聞いていないのだから。
「ん? 私はかまわないよ! というより、大賛成だよっお兄ちゃん! だって、折角助かったのに……、また攫われちゃったら嫌だもん!」
ヒトミはそう手を挙げてそう言うと、笑顔になっていた。
こんな幼い娘と一緒にいる冒険者風の男。その信頼関係は見たら直ぐにわかると言うものだ。
「申し訳ない……、私達だけでは、皆を庇いきれないのも事実だ。お願いできるだろうか?」
「ああ、任された。仕事だと思ってきっちりやるよ」
ユーリはそう言うと、先ほど拭いた剣を鞘に収めた。
「私の名はイージス・カラーと言う」
「サクラ・カラーです」
2人は頭を下げて、そう答えた。そういえば、名前を名乗ったりはして無かっただろうとユーリは思い出した。
「ああ、そうだったな。オレの名はユーリ・ローランド。こっちは仲間の」
「ヒトミですっ!」
「宜しく。道中お願い致します」
「お願い致します」
ユーリは、自己紹介を済ました後……、前方を見た瞬間、剣の柄を握り締めた。
「どうかし……ッ!!」
「敵ッ……!!」
2人も、気配を察したようだ。素早く弓矢を構えた。
「10……いや、15はいるな。あいつらの仲間……と言うよりは山賊と言った所か、カラー達を見られたようだ」
辺りの気配の数を数えてそう言うユーリ。
まだ、姿を見せていないのに、ここまで気配を読まれる程度の連中の練度は 全然問題ないが、数が多い。こちらにいる、カラーで、戦えそうなのは、二人だけだ。そして武器も少ない。
「……オレが前衛を勤める。援護を頼めるか?」
「任せてくれ。そのくらいはしてみせる」
「同じく……。問題ない」
弓の弦をいっぱいに引き……前方に狙いを定めた。
「ヒトミは、他のカラーのコ達をうし車に隠せ、後ろの2台の車には乗せるな。窮屈だろうが、なるべく1つに固まっててくれ」
「うん、わかった」
ヒトミは頷くと、カラーのコたちを誘導しにいっていた。
突然の出来事の連続でまだ混乱しつつあるカラー達だったから、ヒトミのおかげでとりあえず、スムーズに退避は出来ていたようだ。
「よし……、そろそろ出てきたらどうだ? 気配が駄々漏れだ」
「けっ……!!」
男達は、岩陰から次々と出てきていた。
数は、ユーリが言った数15人だ。
後衛に弓矢を持っている男、前衛に斧や剣を構えている男達がいた。6対4の割合だろう。
「ひひひ、商人の類かと思いきや、まさかカラー共に出くわすとなぁ!」
「見てみろよ、カラーのクリスタル! 全員が赤いぜ? って事は皆処女だ。楽しめそうだ!」
その声を筆頭に皆が下衆びた笑いをしていた。その顔、声を聞くと良く判る。
……憎んでしまう気持ちが本当に良く判ると言うものだった
「下衆が……」
ユーリは、怒りと共に、柄を握る手に力を込めていた。
それを見たイージスとサクラ。
暗雲とした何かが手を中心迸っているのが良く判る。怒りが具現化されているかのように感じたようだ。狙われているのは明らかにカラーである自分達だ。
なのに、彼は自分の事の様に怒りを見せているんだ。
――……今回助けてくれた男は、本当に信頼出来る。信じていい。
イージスとサクラの両名はそう感じていた。
その後は、ユーリが15人中10程を蹴散らした。
仲間達が次々と殺られていく光景を目の当たりにした連中は、蜘蛛の子を散らすようにユーリから逃げようとしながらうし車へと向かってきたのだが、そこをすかさず、イージスとサクラの弓で射られて絶命した。
「っと……終わりみたいだな。見掛け倒しだったようだ」
ユーリは剣を振って血を落とすと、鞘へと仕舞った。
「心底感服する。貴方の力を。……そしてありがとう」
「いいさ。それに、あんた達の弓腕、そして魔法も大したものだ。錬度がまるで違う」
「畏れ入ります」
サクラとイージスが頭を下げた。
ユーリはそれを確認すると、剣を仕舞おうとしたその時、ある事を思い出していた。
「かなみから渡された剣……拭いてなかった」
ユーリは忍者刀を抜き出した。
その刀身にはまだ血が付いており、汚れてしまっている。忍者刀を拭こうと切っ先に布をつけたその時。
「ぬッ!!」
突如、天より雷光が降り注いできた。
気配はまるで感じず、突然どこからかわからないが攻撃魔法を撃たれたようだ。ユーリは、寸前で攻撃された事が理解できたが……、完全には躱しきれなかったようだ。
「ぐっ……ち、新手か?」
ユーリは、右腕に受けた雷撃からくる痺れを確認する。動かせない程ではない。だが、技を出すのには鈍ってしまうだろう。それも利き腕だったのが、致命的だった。次からは、抜刀術の技能を発揮しにくくなるだろうから。
「イージス、サクラ……今すぐ皆を連れて逃げろ」
「なに……?」
「コイツはヤバい。さっきまでの連中とは訳が違う」
ユーリは短くそう伝えた。
攻撃の範囲まで来ているのに、気配がまるで感じないのだから。どこから狙っているのかが、はっきり判らないのだ。
「ここは立地条件は悪いが見通しはきく。お前たちを追うならここを通らなければならないだろう。早く皆を連れて逃げろ」
「ユーリはどうするんだ!?」
「大丈夫だ。相手をするだけだ」
「1人でか?危険すぎるぞ!」
「魔法使いとは何度も戦りあった事はある。戦い慣れているんだ。オレの事は心配するな」
ユーリはそう言って笑いかけた。
だが、今回の相手……、間違いなく以前戦ったラギシスとは比べ物にならない程厄介な相手だと言う事は理解できていた。
如何に強大な力があったとしても、それは当たらなければ意味は無い。だが、この相手は気配が掴めず、更に攻撃を繰り出された時にも 位置が掴めなかった。
そして、その攻撃魔法も並の威力じゃない。
ユーリにとって、《強大な攻撃》よりも《見えない攻撃》の方が怖いのだ。防御に徹する前に攻撃をされてば意味は無いのだから。ずっと、集中し続けるのも人間には無理な芸当だからだ。
「早く行け!!」
「く……!」
「も、申し訳有りません」
苦渋の決断をした2人だった。
彼は命の恩人であり、森まで送ると言ってくれた心優しい人間だった。初めて信頼出来た人間だと言えるだろう。
なのに、置いて逃げなければならない状況が歯痒かったのだ。あの攻撃、自分達は攻撃がきて初めて反応する事ができた。反応する事ができたのはユーリだけだったんだ。
この場にいたら、足手まといになる。
そして、多くの今は戦えない仲間だっているんだから。
「どうか……ご武運を」
「ああ、町に付近にまで逃げたら町中にまで入るなよ。身を潜めておいてくれ。直ぐに行く」
人はきっとユーリを見たら、馬鹿だというだろう。
別に依頼ではなく、ただ仕事先でのたった一度、出会っただけで、命をかける。 それだけで、ここまで命をかけられるのか?と。
理不尽に晒される事が許せないと言う心情が彼には強くあるからと言うのが何よりも強い。だからこそ、幸福きゃんきゃんであるヒトミは勿論、老若男女、種族ですら関係無い。
そして、何よりも……。
「相手は強い……。これは面白くなりそうだ」
相手が強ければ尚更燃える。
そして自身が負けるつもりも毛頭ない。
以前に真知子が言ってたとおり、戦闘狂になってしまっていると言う事も同じ位大きいようなのだ。
〜人物紹介〜
□ イージス・カラー
Lv29/50
技能 弓戦闘Lv1 魔法戦闘Lv0
カラーの戦士であり、弓使い。
カラーの森で3姉妹の次女として生まれるが、悲しい過去が合ったがゆえに、人間を極端に嫌っていた。
今回の事が切欠で、人間の中にも信頼出来る足る者もいると認識を改めたいた。
その弓の腕はカラーの中でも最強クラスとも言える力であり、今回攫った連中とは比べ物にならない程の技量も兼備えているが、真面目であり 仲間想いであった為、他のカラーの娘達と共に攫われてしまった。
□ サクラ・カラー
Lv28/50
技能 弓戦闘Lv1 呪術Lv1
カラーの戦士の1人。現女王の側近であったが、今回はイージスと共に森を巡回している際に共に攫われてしまった。
彼女もイージスと同じく、囚われた仲間を見殺しにできず、捕まってしまったのだった。
□ ルリッカ・カラー
Lv10/33
技能 弓戦闘Lv0 魔法戦闘Lv0
カラーの幼い戦士。
戦士なのだが……常に色々とトラブルを引き連れてきてしまう事もしばしば。
以前も、人間に攫われそうになった所を、イージスに助けられた経験があるとか。
今回の騒動の発端は彼女が捕まった所から始まったらしい。
今後も攫われてしまう可能性が大いに大なのである。
ページ上へ戻る