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機動戦士ガンダムMSV-エクリチュールの囁き-

作者:桃豚(21)
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87話

(ハイデガー少尉、聞こえていますか?)
 それが、自分の名前を呼ぶ声だという当たり前のことに気が付かず、クレイは石を呑込んだかのように咽喉を動かした。
 クレイ・ハイデガー。自分の名前を呟いてみる。
 唇に馴染んだ己の名前を、確かに己の名前と認識できる。それでも、頭の中で反響した音は身体の方にまでは伝わらず、奇妙なぎこちなさだけが身体に残った。
 無線越しに聞こえた少女の声はざらざらと粗塩が鼓膜に振りかけられているように、ミノフスキー粒子の干渉を受けて聞き取りづらかった。
 秘匿回線での無線通信。聞いたことがある声だ、と思って、クレイの脳裏に恐怖と安堵が同時に去来した。
「その声は、モニカさん、ですか?」
(はい。アッカーソンです)
 ほっと胸を撫で下ろす。
 彼女のことは忘れていない。過去の己と連続的であるという、人間なら多くの人間が日ごろ当たり前のことに感じているその感覚が奇妙なほどに懐かしい。そしてその懐かしさに惨いほどに喜色を感じていることを、クレイは全く自覚しなかった。
(時間が無いので単刀直入に言います。貴方に私たちサナリィの資産である《Sガンダム》を回収していただきたい)
 言い終わるか否か、といったくらいのタイミングでディスプレイにデータリンク更新のウィンドウが立ち上がり、別ウィンドウで《ガンダムMk-Ⅴ》のライブラリに存在しない機体のデータの詳細がずらりと並ぶ。
 MSA-0011X。Z計画系の機体らしいが、クレイは全く知らない機体だった。
(本来ならば数週間後に試験部隊で試験運用する機体でした。それが先ほど無人のまま喪失、1度コロニー外に脱出後にコロニーへと再び引き返して、現在少尉の元に向かっています)
「俺のところに?」
 (はい)モニカの声色は、酷く灰色で平坦だった。(少尉の感応波を拾ってるのだと思います。フランドール中尉が乗っているようですから)
「は?」
 フットペダルを押し込む力を緩める。負荷Gが背中から微かに圧し掛かるのを感じながら、クレイはどことも知れぬ全天周囲モニターの景色を見回した。
 CG補正された黒塗りの世界には、ただ星の光が無数に散らばるだけで、まるでそういう模様の壁紙が張り付いているだけのようにしか見えなかった。
 急すぎて事態が飲み込めない。
 《Sガンダム》とかいう機体がどういう経緯で「喪失」したのかもよくわからない。それなのに、何故、エレアがそれに乗っていることになるのか―――。
 ずきりと視神経が痙攣する。視界の中で、少女の顔が乱舞するようにフラッシュバックし、漆黒の《ゼータプラス》の顔が最後に重なる。
 手が震える。それが何の震えなのかはわからないが、それはどうでもいいことだ。
 なんにせよ、エレアがそのガンダムに乗ってこちらに向かっているというのならそれでいい。後は無事に彼女を、エレアを出迎えればそれで終いだ―――。
 拍子抜けと言えば拍子抜けだ。だが、無事に事が済むならそれで、いい。そんな当ての無い楽観を砕いたのは、(少尉には)とやはり録音したテープのような、モニカの声だった。
(―――少尉には、《Sガンダム》と戦闘して、なるべく損傷させずに確保してもらいます)
 その声の意味が、わからなかった。
 意識を保つので精一杯なのだ。だから、モニカが口にした言葉の意味が難解で理解できなかったのか―――そんなはずはない。
 彼女―――モニカは口にしたのだ。《Sガンダム》と―――彼女と、エレアと戦え、と。
(彼女が乗っているという予測は《Sガンダム》からフランドール中尉のものと思われるバイタルデータが送られてきているからですが、そもそもミノフスキー粒子の影響下で遠く離れたMSの詳細なデータを確認することは不可能です。今、《Sガンダム》の情報を手に入れられるのはフランドール中尉が一定以上の出力でサイコ・インテグラルシステムを起動しているためにサイコモニターで確認できているからです)
 早口で言って、そこで声が途切れる。
 どれほどの沈黙だったろう。数十分にも思えるほどに―――その実、物理的時間経過は10秒も無かっただろう―――長い停滞だった。
 誰かの息遣いが無線越しに心臓を叩く。
 (フランドール中尉は―――)彼女が咽喉を裂くようにして声を漏らす。(恐らく中尉の奪取時にサイコ・インテグラルシステムを強制発動させることで意識を喪失させ、なんらかの薬物で昏睡状態にすることで同時に発生する破壊衝動を抑えられたのだと考えられます。それが今は薬物の効果だけが消失した状態―――つまり、破壊衝動だけが顕在化している可能性が高い。彼女は今、敵と味方の区別がつかない状態にあります)
 ですから、と。そう、口にした少女の声が揺れる。その声色に決然を、そして微かに躊躇いを残した声が、耳朶を触る。
(ですから、少尉に―――サイコ・インテグラルシステムに適応可能な少尉にお願いします。今のフランドール中尉と戦い得るのは少尉だけです)
 少女の声が鼓膜を抜け、頭の中を満たしていく。確かな水圧を持った音が脳みそを圧潰させていく。
 あぁ、やはりそうなのだ。先ほどの言葉、あの白い『ガンダム』―――《デルタカイ》?―――に乗っていた、なんだか知り合いな気がするパイロットが口にした。
 お前の機体にはサイコ・インテグラルシステムが搭載されている。お前はニュータイプだから、それに適応している―――。
 それは、認めた。認めたと思っていた。
 だがやはり、心の中ではまだその事実は誰かの言った些末事と思いたがっていた。
 己の人生。それを全て己の力で切り開いてきたなんて思ってはいない。そんなことを無頓着に信仰できるほど青くもないし、何よりクレイは智を知りすぎていた。
 だが。それでもどこかで思っていた。この世界、己の生を生きているのは己の力が基盤なのだと。
 それが否定された。理性はその否定を受け入れた。身体もその否定を受け入れた。それでもなお己である、と口にした。
 それでもクレイ・ハイデガーを構成する一部分であり且つ重要な核となる部分、実存から洩れる暗黒の光の眩しさ、己の生の構造体の中心骨子が穴だらけの襤褸だったという事実を受け入れたくなかった。
 だが今ので確定した。無線越しに鼓膜に音を伝える少女は確かにここ数か月、自分の部隊のエンジニアをしていて、その言葉には単なる情報以上の重さがある。
 そして何より―――クレイは、もう、この少女の名前を、思い出せなくなっていた。
(先ほども言いましたが《Sガンダム》はサナリィの資産です。最悪、サイコ・インテグラルシステムの基幹部が装備されている頭部ユニットだけが残っていれば―――)少女の声は、平坦だった。平坦を繕おうと必死で、それでも堪え切れずに波打っていた。
(《Sガンダム》のパイロットの生死は、問いません)
 この女は、今、何を言ったのか。
 その意味が理解できない。先ほどとは違う次元で。
 全身の血液が目まぐるしく回る。沸騰した流血が頭に流れ込み、既に死んでいたはずの感情を増幅させる。
 少女の―――エレアの顔が頭に浮かぶ。
 あどけない少女の顔。無邪気に笑みを浮かべる少女の顔。すやすやと眠る少女の顔。白い肌を淡く染めて、自分を受け入れてくれた少女の顔。
 それを、それを、それを―――。
「それは、命令ですか?」
 咽喉元まで出かかった声を呑込んで、代わり別な言葉を引っ張り出す。
 沈黙は、今度は短かった。はい、と応える17歳の少女の声は罪悪を滲ませながら、それでも抑揚無く、事務的にパソコンにデータを打ち込むように無機的な動作で言った。
「08、了解」
 だから、クレイもそれ以上の言葉も無く、ただそう応えた。
 彼女の名前ももう思い出せない。だが、垢抜けない少女の姿を覚えている。
 17歳。まだ、ハイスクールだって卒業していないような年ごとの、まさに少女なのだ。それも軍属というわけでもない。
 その少女が口にした。
 やむを得ない事情があれば、殺してもいいと。その言葉がどれほどの重さを持った言葉なのか。どれほどの重圧のもとに彼女が口にしたのか。
 それはわからない。わからないから、クレイはそれについて何事を言う資格があろうか。
 それに、可能性の話をしただけだ。上手くやれれば、彼女を、エレアを助けながら《Sガンダム》を確保できる。
「だが本当にエレアが来ているんですか? その、俺は全然わからないのですが」
 沸騰しっぱなしの身体を静めるように、普段通りの声色で言う。
(恐らくサイコ・インテグラルシステムを利用したアクティヴ・ジャマーを行っているため少尉には感知できないのだと思います。サイコ・インテグラルは時間軸上の自己の身体感覚を積分することで知覚域を拡大させますが、ある一定以上の強度を超えると自己身体だけでなく他者の感覚知覚をも統合して知覚領域を拡大させます。その際に読み取る他者の五感の感覚に対して、感応波を用いてその相手の感覚に対して欺瞞情報を送り込むことで感覚欺瞞を引き起こす。あるいはサイコミュ端末をジャックすることすら可能です。少尉はもう、その支配下にいる)
 対ニュータイプ用のアクティヴ・ジャマー。それも、あの男が言っていたような、気がする。
「それで、本当に俺で勝てるのですか?」
 素直な疑問だった。
 エレアとは何度か戦ったことがある。その度に腕の差を実感した。
 彼女は強い。今まで戦った何ものよりも強い。それに加えて、サイコ・インテグラルなるシステムを使用している。これでは無傷で確保など夢のまた夢だ。《Sガンダム》のカタログスペックだってばかにならない。
(今の少尉の状態は、限定的にサイコ・インテグラルシステムを使用しているだけです。完全に解放すれば……)
「つまりそれをすれば勝てる可能性がある、と」
(はい。その解放は右手のディスプレイ―――N-B.R.Dのモニター用に設置したディスプレイに規定のコードを入力すれば解放できます)
 言われるがままにディスプレイを見遣る。ちろちろと光を漏らし、微かに稼働している様子だった。そうして、ディスプレイ上に投影されたデジタルのキーボードで10桁ほどの規定コードを入力すると、小気味良い音とともにディスプレイの脇から何かの部品がスライドする。後は、これを再度押し込むだけだ。
(ですが少尉。よく聞いてください。サイコ・インテグラルシステムに適応していない人間がシステムを規定値以上の出力で解放した場合、物の数秒で廃人になります。少尉は既にある程度適応していますから数秒ということはありませんが、それでも5分以上の連続使用は―――)
 その瞬間。
 クレイは肌を撫でる悪寒を感じた。
 それが攻撃を指向する人間の意思、殺意と呼ばれる思惟なのだと察知し、計器が声を上げるより早くその殺意の源泉を把握する。
 一瞬、それがエレアなのかと思った。だがその敵意はあまりにわかりやすく土臭い敵意は、あの少女のものではない。
 直上を見上げる。機体のセンサーよりも鋭角なクレイ・ハイデガーの知覚野が、その敵を観る。
 《リックディアス》が3機。
 それが敵なのか味方なのか―――IFFで探るまでも無く。
 舌打ちする。今はそれどころじゃない―――お前らを相手にしている暇はないというのに。
 右肩にかかる巨大なビームライフルシステムを掲げる。今の己の持ってしまった持っていた能力のお蔭で、敵より早く初撃を叩き込める。
 隊長機を後方において前衛に2機。ごく普通の陣形だ。
 初撃で隊長機を潰す。それと同時にインコムを射出して周囲に展開。本体を囮にすることで本命のインコム一撃で仕留める。仕留めきれない場合は格闘戦で撃ち滅ぼす。
 決断から行動へは迅速。機体はロックオンすらしていないからマニュアルで銃身を調整し、己の知覚だけで敵をサイトに入れる。
 出力は最大へ。速度は遅く、攻撃の意思はただ破壊だけを専心する。
 即座にトリガーを引く。黒々した銃口から大出力の光が濁流となって漆黒の世界を埋め尽くし、亜光速の速度でもって《リックディアス》めがけて押し寄せる。
 ロックオンも何もない砲撃を回避する術などない。光の中に飲み込まれていった《リックディアス》は、爆破すら起こさずクレイの知覚から消失していった。
 何かが心の内で蠢く。それから目を逸らしてはならないと知りながら、それでも今は何も語らずに、口を堅く閉じてその感情を飲み下す。
 スロットルを開放し、フットペダルを踏み込む。それと同時に背部のインコムシステムを起動。2機の周囲に展開するように、されど自機の後方へと置き去りにしてさらに加速する。
 機体のセンサーが捉える。
 《リックディアス》が身動ぎする―――明らかに動きが固い。教科書通りというわけでもない―――というより教科書通りにやろうと懸命になっている風と言った方がいい。
 誰かの顔を思い出す。つい今日のこと―――目の前で弾けた、名前も知らない誰かの頭。
 ぎちぎちと身体が軋みを挙げる。操縦桿を握る手に込める力がどこかへ行ってしまいそうになるのを繋ぎとめ、全神経を敵に向ける。
 己の業、そんな言葉では終わらせられない。それでも今は己の為すべきことを為さねば、それと共に在ることすら出来ない。
 だから。
 だから、操縦桿越しに左腕に構えるハルバードを握り直し、バックパックのビームキャノンの照準をクレイから見て右の《リックディアス》に重ね合わせる。
 右側に迂回するように軌跡をなぞる。当然左翼に展開する《リックディアス》がそうはさせまいと前に出ながら挟み込むように相対距離を詰める。
 だがそれで終わりだ。相対距離を一息に詰めるが故に、敵機はインコムの牙の内側に―――。
 後はトリガーを引くだけ。そうすれば、この2機も瞬時に鉄くずに変わろう。
 そうして操縦桿のスイッチに重ねた指に力を込めようとした時だった。
 視界の中で何かが光った、と思うのと、クレイの身体を貫く異様な圧が爆発したのは同時だった。まるで壁が押し寄せてきて身体にぶち当たるような、それでいて蚊の針のように鋭い槍で頭から股座までを一直線に貫かれるような冷然とした悪寒。
 躱せ、と頭が判断するより早く身体が躍動した。
 スラスターを逆噴射し、一息に飛びのく様は脱兎の如く。さもなくば―――。
 ロックオン警報の劈くようなビープ音が鼓膜を突き刺す。重圧が降り注ぐ方向、クレイ・ハイデガーは直上を観上げた。
 光が閃いた。稲妻さながらに降り注いだメガ粒子が《リックディアス》に直撃する。
 それは確かにMP兵器―――ビーム兵器による砲撃だったはずだ。通常ならば、ビーム兵器は徹甲弾のそれに似た振る舞いをする。つまり、その攻撃の性質は貫くことに特化する。弾丸のように射出されたビーム兵器が装甲を貫通する。それに続く爆発は機体の推進剤などが高熱のビーム兵器により誘爆する、いわば二次的な作用なのだ。
 だがそれは違う。《リックディアス》に襲い掛かったメガ粒子は、弾丸というより『鞭』だった。1度《リックディアス》の右腕に直撃し、紙を裂くようにして切り落とす。そうして照射され続けたビームの鞭がぐにゃりとしなり、不定に蠢動した光はそのまま《リックディアス》の胴体部に接触し、力士を思わせる巨躯をあまりに容易く縦に両断していった。
 まだ終わらない。《リックディアス》を仕留めたメガ粒子の蛇が鎌首を擡げる。即座に次の獲物に狙いをつけるや、身体をしならせた蛇がもう1機の《リックディアス》へと大口を開けて飛びかかっていく。
 スラスターを焚いての全力回避。その愚鈍そうな体躯にそぐわない俊敏でもって《リックディアス》が背後に飛び去る。大きくしなったビーム光はそれでも軌道を描き、《リックディアス》のすぐ脇を掠めていった。
 だが、それは所詮ハンティングの一環でしかなかった。《リックディアス》が回避に専念したのを合図に、スラスターを全開にした白い猪突が肉迫する。そうして《リックディアス》が回避しきるのを見計らったように、白い機体が襲い掛かった。
 急接近に対応しきれなかった《リックディアス》の動作は、もう何もかもが手遅れだった。ビームライフルを構えかけては右腕ごとビームサーベルで切り落とされ、左腕にビームサーベルを抜きかけてはやはり肩口から光の刃で叩き落とされた。接近と同時に自動で作動する頭部の2連装機関砲だけが間に合ったが、それも無為でしかなかった。
 白い機体が左腕を振り上げる。
 その腕は、一見して異形だった。MSの腕部にも関わらずマニュピレーターが存在せず、腕ごとギプスでもはめられているかのような左腕―――その左腕が軋みをあげながら口を開ける。4つの牙が大口を開けるや、数発ほどの弾丸を撃ち放った頭部めがけて巨大な口が甲高い獅子吼と共に打ち下ろされた。
 衝撃だけで機関砲が拉げた。クローががちりと頭ごと《リックディアス》を喰らい、上半身を押し潰していく。
 金属同士がぶつかるような甲高い咆哮と共にクロー全体が振動を起こし、《リックディアス》を轢き潰す。
 外部からの破砕と内部からの崩壊に、《リックディアス》の体躯は2秒とて持たなかった。外部装甲は獅子の牙によって引き裂かれ、機体内部の構造が砂粒のように砕けていく。中のパイロットは一溜りも無かっただろう。生きながら振動によって身体がバラバラになって挽肉になっていくその過程、痛いという陳腐な言葉でしか語り得ない、死―――。
 屠殺を終えた白い機体がゆっくりと振り返る。
 白い体躯に黒のラインが走る。装甲の継ぎ目から、蒼い燐光が滲む。
 《Zガンダム》に類似したメインカメラユニットに装備された翡翠の双眸が、クレイを見据える。
 機体のセンサーがその機体の型番を表示する。
 MSA-0011X―――《Sガンダム》。鋭い鮮緑のデュアルアイが宿る凛然とした面持ちに、見知った少女の顔が重なる。
 少女の名前を口にする。
 全くそんな気配が無い。自分の感覚は、この目の前の機体に少女の―――エレアの存在を知覚できない。
 連邦用のコードで通信を入れる。無線自体は繋がっているが、返ってくる音はただざらざらとしたばかりだ。
「エレア? その機体に乗っているのか?」
 《Sガンダム》は身動ぎ一つ取らず、何の色も無くただ無感動に《ガンダムMk-Ⅴ》を瞳に映す。
 応える代わりに、《Sガンダム》は右手を掲げた。放熱板のような2枚の板が立ち上がり、前面を指向する。
 (わに)の咢が口を開ける。口の中で紫電が迸り、超圧縮されたメガ粒子が今か今かと解放を待ち望んでいるかのようで―――。
 少女の名前を張り上げる。肺が膨れて破裂しそうになりながら、声帯が断裂しそうになりなら、それでも彼女の名前を叫び続ける。
 だがそれが何になろう。《Sガンダム》は何の心の動きも無く、ただ右手を覆う武装の照準に《ガンダムMK-Ⅴ》を収めた。
「俺がわからないのか!? なぁ、エレアなの―――」
 ―――か。
 獣の咢から鋭利な閃光が屹立した。  
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