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101番目の哿物語

作者:コバトン
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第四話。メールとお泊まりと……

2010年6月18日午後6時30分。七里家。



そんなわけで、俺は……詩穂先輩の家に。
部屋の中に入ってしまったんだ。
そこは駅前から歩いて10分くらいの距離にある、大きなマンションで。
707号室が詩穂先輩の部屋だ。
そんな高い場所にある1LDKの部屋に俺達は免れていた。

「いらっしゃーい。何もない部屋だけど、ゆっくりしていってねっ!」

詩穂先輩に案内されて室内に入ると、そこはデザイナーマンションのように綺麗に揃えられたかのような穏やかな色彩のお洒落な部屋で、男の俺には敷居が高く感じるほどのお洒落な空間だった。
置かれているソファはフカフカで、カーペットは肌触りがよく、調度品一つ見てもセンスが良いそんな部屋だ。壁には先輩の趣味なのか、お洒落な帽子がいくつも掛けられていて、それ自体がインテリアのようだ。
つまり、先輩の部屋は『女の子が理想な一人暮らしをしてみた』みたいな部屋だった。
女性らしい部屋のせいか、部屋に入った瞬間。
女性特有の匂いにより俺はまた……なっちまった。

「ふえー」

「凄い綺麗……」

一緒に部屋に入った音央や鳴央ちゃんもすっかり感心していた。
俺達三人が部屋に入ったところでまるで狭さを感じない。
それくらい広いリビングだった。
ちなみに一之江は今はいない。
何でも外せない用事があるとかで、夜中に合流することになっている。
なので一之江は夜中に先輩から借りた合鍵を使ってくるはずだ。
パジャマを持参してな。
そう、何故かしらんが女子達は皆パジャマパーティーをやる気になっている。
男の俺がいるのにもかかわらずにな!
そんなこんなで先輩の部屋に通された俺はソファに、音央達はリビングのテーブルに着いたのだが。
……落ち着かないな。
綺麗過ぎる部屋だから、というのもあるが。
なんとなく。
そう、なんとなく部屋に違和感を感じるのだ。
……うーん、なんだろうな?

「うふふっ、それじゃ、ご飯の用意しちゃうね?」

「あ、何か手伝いましょうか?」

先輩がキッチンに向かおうとしたのを見てすかさず音央が立ち上がる。
しかし。

「いいのいいのっ。お客さんたちはのんびりしてて! 今日は頑張ってくれてるモンジくんや音央ちゃんたちにわたしからのお礼もしたかったんだよん」

先輩はそう言って一人でキッチンの方にパタパタと行ってしまった。

「え、あ……すみません。お言葉に甘えます」

音央はそのままストン、と座って。

「どうすんの?」

ソファに座っていた俺に小声で尋ねてきた。

「どうするって、何を?」

「お泊まり会って言ってるけど、あんたが会長の何かを手伝うと、大抵オバケか何かが出るんでしょ?」

「まあ、その時出たオバケと今は一緒にいるわけだが」

俺は音央と鳴央ちゃんを見ながら頷く。

「あ、あはは……」

照れたみたいに俯いて笑ってから、鳴央ちゃんは上目遣いで俺を見た。

「でも、本当に、その『ベッド下の男』が現れてしまったらどうなさるんですか?」

そう言いながら心配そうに先輩の寝室を見た。

「とりあえず出たらやっつけるのは確定として、だな」

「まあ、そうよね。そんな物騒な痴漢オバケ、とっとと倒したいもの」

俺の言葉に音央も同意して拳を握り締めた。

「しかも先輩の家に、というのが許せないしな」

「先輩の家に泊まるっていう、この事実を知ったらあんたを許せないって思う会長のファンは大勢いるでしょうね」

「あぁ……何だってこんな事になっちまったんだ」

いらぬところで恨みを買ってしまっている。
泊まるのは俺の意思じゃないのに、それが原因で妬まれるとは。
さすがは不運に定評のある二年の遠山。
今は一文字だが。
この事がバレたら、俺はもう穏やかな学校生活を送れなくなるだろう。
だけど、そんなリスクがどうした?
こんな事はいつもの事だろ?

「まあ、なんとかなんだろう。
それよりも問題は倒し方だな」

「はい。ただ、『ベッド下の男』噂自体は、別に殺傷などがあるわけではないので、戦闘になったとしても私と音央ちゃんならなんとか出来るかと思います」

自信満々にそう語る鳴央ちゃん。
普段見る泣き虫というイメージを覆すほど、その目には強い光が宿っていた。

「え、音央と鳴央ちゃん、戦えるのか?」

「うん? あたしはほら。あんたをザクザクした事があるじゃない」

「ああ……あの茨か。使えるのか、あれ?」

「うん。鳴央と練習したもの」

「音央ちゃん、最初は全然上手く使えなかったんですけど……」

「モンジをぶち殺そうとした時の気持ちを思い出して! って意識を変えたら、その瞬間からまるで手足のように茨の鞭をビシバシ使えるようになったわ」

「……そうか。それはよかったな」

「うふふっ」

もう嫌だー!
なんで俺の周りには俺を殺そうとする奴が集まるんだよ⁉︎
アリア(風穴)、理子(爆弾、ナイフ、ヘッドショット)、白雪(日本刀&機関銃乱射)、レキ(狙撃)、かなめ(刀、包丁……eat)、一之江(背後を振り向かせて殺害)、キリカ(蟲でおしょくじ……いただきまーす♡)……そして今度は音央か。
また死ぬかもな俺。
まあ、二度、三度すでに死んでるから今更感があるけど。
死んでも生き返ればどうっていう事はないからな。
だが殺られて喜ぶ性癖はねえ!
ヒステリアモードの派生にもしかしたらそっち方面のものがあるかもしれないが、少なくとも俺にはそっちの趣味はない。

「はぁー、まぁ、いいや。それで鳴央ちゃんは何が出来るんだ? 音央はあの茨で巻きついて相手をくびり殺すとか出来そうだけど」

「わざわざ物騒ないい方すんなー」

いや、だってなー。
さっきまでの態度見てたら誰だってそう思うよ?
反対に鳴央ちゃんは殺す以前に戦うことすら苦手そうだけど。

「え、あ、私は、その……戦闘は、苦手ですね」

音央の講義をスルーして、鳴央ちゃんに話しかけると予想通りの答えが返ってきた。

「だよねー。鳴央ちゃんがいたあの家だって、富士蔵村の一部だったわけだしな」

「ま、鳴央が何もしないでも済むようにあたしたちで頑張ればいいわよ」

「それもそうだね」

「あんたも主人公なんだし、私より数十倍も強いんだからなんとかなるわよ」

「そうだね。音央や鳴央ちゃんみたいな美少女が戦わなくても済むように俺が頑張るよ」

「ま、またそんな事を言って……本当にバカなんだから!」

「あ、あぅ……」

真っ赤になる六実姉妹を堪能しながら俺は考える。
主人公として、俺が出来ることはなんだろうか。
皆んなを俺の物語にした責任。
大切な物語を守る為に必要な強さ。
そういったものなら既にある。
他に足りないとしたら……なんだろうか?

「ま、最悪やっつけられなかったとしても、先輩の家からは撃退するという方向で。
一之江が合流してからやっつけるという手もあるからね」

「そうね。夜中からでも来てくれるなら心強いわ」

「私も見てましたが、一之江さんは息をするかのように、当たり前のように大勢の村人をやっつけてましたから。あの方は本当に強いんだと思います」

自分が強くあるために、様々な努力をし続けている一之江。
だからこそ、彼女は強く、気高く在るのだろう。
______負けていられないな。
彼女の隣を並んで歩く。
いや、彼女の前を歩いて守る。
そんな存在になるくらいではないと彼女を物語にした責任は果たせない。
強くなろう。
誰よりも。
大切な物語達を守る為に。
そう決意した時だった。

「ひゃあああ、焦げちゃったー!」

先輩の悲鳴がキッチンから聞こえてきて、俺達三人は顔を見合わせた。

「音央、鳴央ちゃん、やっぱり手伝いにいって貰えるかな?」

「うん、そうね」

「ふふっ、行ってきます」

音央と鳴央ちゃんは立ち上がり、キッチンの方に歩いていく。
俺もせめて食器の用意くらいはしよう。
そう思い立ち上がったその時だった。
違和感を感じた。
お洒落で雰囲気も良く、適度に生活感もある理想的な一人暮らしの部屋。
それなのに、何故か違和感みたいなものを感じてしまう。
……気のせいだろうか?
既に『ベッド下の男』が存在していて、条件が整るまで姿を見せない……とかならある程度のピンチは承知の上なんだが。
……何故だろう。
『ベッド下の男』とは関係ないのだが、何か違和感を感じずにはいられない。

「モンジー! あんたもちょっと手伝いなさいよー!」

キッチンから俺を呼ぶ音央の声が聞こえてきて。
俺はその声に返事を返し、キッチンに向かう。
だが、やっぱりもう一度背後を振り返った。

「……なんだろうな? 何かが引っかかる」

首を傾げるが、その原因は解らない。
気になりがらも俺はキッチンに向かった。




この部屋に時計が一つも無かった事に気付いたのは、この事件を解決したずっと後のことだった。







2010年6月18日。 午後3時15分。


差出人・仁藤キリカ。


タイトル・いいなー


内容・モンジ君たら、詩穂先輩の家にお泊まりなんだって?
いいなー! ずるい! 私も行きたい!
ううっ、でも今は結構大変なので我慢します。しょぼん。
お土産話いっぱい聞かせてね。
特に恋話とかだったらポイント高いよ!
あっ、一応心配だから『ベッド下の男』は調べておくね。
何か解ったらメールしまーす。
ふふっ、頑張るんだゾ☆

モンジ君のキリカより、チュッ♡










時は少し遡り、午後の授業を受けていた時にそのメールに気がついた。

「……頭痛くなってきたな」

キリカから送られてきたメールを何度も読み流して思う。
送る相手間違えてませんか、キリカさん?
特濃葛根湯、この世界に売ってるかな?
頭痛とかにも効くんだよなー、アレ。
今度探しに月隠に行ってみるか。

「……ジジくさいですよ、モンジ」

「人の心を読むなよ!」

背後から聞こえてきた一之江に溜息を吐きながら返答する。

「特濃葛根湯って……高校生が飲むようなもんじゃないでしょうに」

仕方ないだろう! クスリが効きにくい体質なんだから。
ワトソンと戦った時もそうだったが、俺はクスリが効きにくい。
だから普通の医薬品じゃ効きにくいから成分を凝縮した葛根湯が効くんだ。

「なるほど。そして貴方は新たな都市伝説となるのですね」

「ん? 何の話だ」

「101番目の葛根湯物語の主人公、一文字モンジとなったのです」

「待て! 何だよ、101番目の葛根湯物語って。それとモンジ言うな!
俺の名前は一文字疾風だ、」

「一文字疾風? それはどこのモンジですか?」

「解ってて言うな!」

一之江に突っ込みながらも思う。
『ベッド下の男』のロアの事を。
かなり有名なロアである以上、強い存在なのは確かだろう。
そんな存在に俺は挑まないといけないのだ。
それも、一之江は夜中までいない状況で。

「やっぱり、例の『赤マント』を調べるのか?」

「はい。ロア状態だったから外見が変化しているかと思うのですが、あの特徴的な性格や姿ならば意外と見つけやすいかと。蒼青(そうせい)学園の仲間達に連絡して調べてみます」

俺の問いかけに囁き声で返す一之江。

「仲間……達?」

それは初耳だった。
一之江に俺以外のロアについて語れる仲間がいるという事が。

「言っていませんでしたっけ」

「うん、初耳だ」

「蒼青学園にはロアやハーフロアが結構な人数いるので、チームを組んだりしているのですよ。とても頼りになる人々です」

「おいおい、あの金持ち学園にそんなにロアがいるのかよ」

「全国でも有数なロアの産地かと」

どこの地方特産品だよ!
お金持ちの子息令嬢の為の名門校が、まさか都市伝説の溜まり場になっているとは。
そんな事誰が予測できるのか。いや、予測できないからそうなっているのか。
しかも、一之江が頼るくらいだとかなりの実力者がいるのだろう。

……なんだかな。
なんとなく、悔しいと思ってしまう。

「仲間の一人に境山を縄張りにしている人がいるので、その人に『赤マント』の事を尋ねてみます。かなりの派手好きな人ですがトマトさえ与えとけば大概の言う事を聞いくれるのでちょろいです。なんとなくモンジに似ていますし信用はできますよ。強さ的にも」

「そうか」

……なんだろうな、この感じ。
一之江が俺以外の人を頼るのを聞くと面白くない。

「嫉妬オツ」

「うるせえー!」

違う。嫉妬ではない……と思いたい。

「まあ、今は貴方の物語なんですから。そんな嫉妬する必要はありませんよ」

「うん?」

……もしかして今のは、フォローだったりするのだろうか。

「……いや、まあ、えーと……ありがとうな」

「こうやってちょっとデレたフリをすると立ち直るからちょろいですよね」

「ちょろいとか言うな!」

授業中にもかかわらず強めの囁き声を出してしまい、多くの生徒達の視線が俺達に集まってしまった。

「静かにしてください、ハゲ」

「ハゲてねえよ!」

まるで被害者のように言う一之江。
こいつは本当に読めないな。
まあ、いい。今日の授業も残り僅かだ。
キリカに返信するか。
そう思い携帯を取り出すと。
その時、またもやメールの着信があった。
俺はメールを開いて見た。
見てしまった。
このメールが俺達の日常の終わりを告げていたとは知らずに。


差出人・理亜。


タイトル・申し訳ありません

内容・お疲れ様です、兄さん。理亜です。
申し訳ありませんが、本日は友人の家に宿泊の予定です。
早く帰ってカレーライスを作る予定だったのですが、どうしてもはずせない用事が出来てしまいました。
もちろん女性の友人なのでご安心下さい。
いずれ兄さんにも紹介いたします。
宿泊する旨は私の両親にも兄さんの両親にも、どちらにも連絡済みです。
本当に申し訳ありません。
かなめさんも一緒です。
カレーライスは後日作りますね。
それでは。





この時のメールがのちに。
俺やかなめ。
そして、俺と理亜の関係を大きく変える出来事へと発展していったのだが。
この時の俺にはまだ解らなかった。 
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