ランス ~another story~
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第2章 反逆の少女たち
第21話 四魔女の一角:ミル・ヨークス
~迷宮≪地獄の間≫ 幻獣の間前~
「この扉……、開かないな」
「ああ。この先が妖しいな、さっきのミイラ男が言ってた場所付近だし」
ミリとユーリが扉をさわりながら呟いていた。鍵穴らしきものは無いが、扉はピクリとも動かない。
壊して入ろうか?とも思ったが、洞窟自体が潰れる可能性も捨てきれないのだ。
それに、四魔女の1人がいるかもしれない場所であまり目立ったことをするのも好ましくない。
「あ、ここはね……えっt「よし! ナニを入れるか」馬鹿!! 違うわよ! ルビーを入れるの! 確か、ミルが話してたの思い出したんだ。『お部屋に鍵をつけたんだ~』って。こういうのが好きなんだ」
マリアは、ランスの言葉を一蹴しつつそう答えた。だが、肝心のルビーは誰も持っていないのだ。
「宝石か……、それは当然この迷宮で手に入るものなのか?」
「……それは、わかんにゃい」
「えぇい! ほんとに役にたたん!」
「うるさいわね!! 鍵の事を教えただけでも感謝してよっ!!」
「はは、やっぱマリアは可愛いな。もう一度、オレとしないか?」
「……後にしてくれ、とりあえず、此処を探索しよう」
「今も後も無いよ!! ぜぇぇったい却下!!」
……とりあえず、一行は色々と言い合いながらも、辺りを探索する事にした。
このエリアは、まだ探索していない箇所が多数ある為、1つずつ調べる。そして、最後の部屋、1人の戦士の亡骸が横たわっている部屋にたどり着いた。
「ここで、力尽きたんだろう。供養にもならんと思うが……」
ユーリは、肩膝をついて手を合わせていた。冒険者とは、常に死と隣り合わせと言っていい。明日は我が身だとも亡骸を見て思えるのだ。
「ま、オレもこんな風には なりたくはないもんだな」
「うん……、指輪をつけてたせいとは言え、私達の迷宮のせいで、こうなっちゃったんだから……。ごめんなさい」
ミリもそう言いつつ、ユーリと同じく軽く手を合わせていた。マリア自身は、自分たちがした事の罪の大きさを再度認識しながら手を合わせていた。
そして、必ず終わらせると誓う。
「がはは、馬鹿を言うな、コイツがここで死んでいるのは、弱かったからだ! 弱い者は死ぬのは当然の事だ。自然の摂理と言うものだ!」
ランスは相変わらずのご様子だ。
……だが、ランスの言い分にも勿論一理ある。分相応の力を持たないのなら、来るべきじゃなかったんだとも思える。その過程で命を落とせば自身の責任だが、もうこうなってしまった以上は、手を合わせるくらいはいいだろうと、ユーリは思っていたのだ。
「やれやれ、相変わらずだな。……ん?」
ユーリは、目を開けてそう言った時だ。
亡骸の手の部分。もう白骨化してしまっているが、その指と指の間に光る物が見えたのだ。
「これは……」
「あっ! ルビーね?」
ユーリは、手を伸ばしてその光る物を取る。マリアもその石に気がついたようだ。
「がははは! 流石、オレ様の強運だな! すべてが上手く行くと言うものだ! よし! ユーリ、それを寄越すのだ!」
「はいはい。ほら」
ランスは笑いながら手を差し出した。
ユーリも軽く苦笑いをしつつ、ランスに向かってルビーを投げた。あのタイミングで、ランスが何かを言わなかったら、ひょっとしたら気づけなかったのかもしれない……そうも思える。
「強ち、まぐれ当たりじゃない感じがするな」
「……それは間違ってないぞ?ランスは、生まれもった素質に絶対に運も持ち合わせてるって思うんだ。……アイツと一緒にいれば良くわかるってもんだ。その天運のスキルを」
ミリの呟きにユーリは頷いた。
以前のリーザスでの事件を思い出しているのだろう。ランスが行く所行く所、何故か上手く情報があつめり、結果として良い方向へと向かっていく。それは、良い運であれ、悪い運であれ……常人以上に何かを惹きつける能力に長けている、と確信できるのだ。
流石に、リーザス城下町の武器屋《あきらめ》の店主であるミリーには負けると思うが。
「ま、節操無しなのが玉に瑕だが」
「玉に瑕ってレベルじゃないわよ! もうっ 性欲の悪魔は、きっとランスの事! って言うか、あのミイラさんの王様の生まれ変わりなんじゃない!」
話を聞いていたマリアがそうツッコミを入れていた。
確かに、節操無し……のレベルでもない。≪鬼畜戦士≫の名が相応しいだろう。
……確か、そう言うあだ名がついていたと記憶もしている。
そして、一行は、再びあの開かずの扉の前へとやってきた。ランスは、先ほど手に入れたルビーをその扉の穴の中に入れる。すると、大きな音と共に、扉が左右に開いていったのだ。
そして……。
「誰? 何か御用なの?」
1人の女の子が現れたのだ。
紫色の長い髪。そして、ミリに良く似た容姿。その姿を見たミリは、前に出つつ、大声で叫んだ。
「ミル!!」
叫びながらミリは部屋の中へと入っていく。
そう、部屋の中にいた少女こそが、四魔女の一角≪ミル・ヨークス≫だった。
「おねーちゃん!? もう、何で来たのよ。もう私の事はほっといて! って言ったでしょ!!」
「漸く見つけたぞ、ミル! カスタムの皆にこんなに迷惑をかけやがって、さぁ! 指輪を外して姉ちゃんとくるんだ!」
「ふーんだ!」
ぷいっ、と頬を膨らませてそっぽ向くミル。
その仕草は子供のそれだが、容姿を見たランスは、鼻の下を伸ばしつつ、涎をじゅるりと流していた。
「ぐふふ、そうか、アレがミル。間違いなさそうだな。彼女も美人ではないか!」
「やっぱり、お前はまずそこなんだな?」
「当たり前だ。それがまず重要! 最重要項目だろう」
「んな、欄は無い」
ランスとユーリが暫く言い合っていたが、その間、ミリとミルも言い合いをしていた。
「こら!! ……いい加減にしないと、お尻ぺんぺんじゃすまさないよ!」
「ひぃ……」
「……お尻? 子供じゃあるまいし……」
声を荒げるミリ。
どうやらその気迫に圧されたのか、はたまた 本気で怖がっているのか判らないが、子供染みているというのが、この時の感想だ。ミリもなぜそんな言葉を選んだのかにも疑問が残る。
「な、なによ! そんなのなんか、怖くなんか無いもん!」
「ミリ、聞いて! その指輪をずっとはめていると、貴女の為にもならないの。お願いだから、話を聞いて!」
マリアも一歩前へ出てそう叫ぶが、ミルは身体を震わせて怒鳴った。
「みんな、みんな嫌いだ!! 私をのけ者にして、マリアもお姉ちゃんもだいっ嫌い!!」
「がははは! 怒られてるのだから仕方が無いだろう! オレ様がお仕置きをしっかりとしてやらねばならんな!」
「ぁ……、ランス? ミルは……」
「幻獣さん!! みんな、来て!!」
マリアがランスに何かを言おうとした時だ。ミルは手を前に突き出すように翳した。すると、亡霊に似た存在、ミルの前に幻獣が現れた。その姿は、青白く、手の部分には鋭い爪を持ち、得物を見定める為の目がギョロリと動いている。
「ふん! たった1体でオレ様をとめるだと? 身の程知らずだな。世の中の広さと、大人への階段の上り方を教えてやろう!」
「たった一体? ふふん、勘違いは止めてよね! そんな訳無いじゃない!」
剣を抜きながら、ミルに挑発するランスだったが、挑発に乗るような事は無かった。
子供染みた性格から、乗ってくるのかと一瞬思ったが、真逆であり、勝ち誇っている様な表情にも見える。その表情の意味をこれから知ることになるのだ。
ミスは翳した手をそのままゆっくりと横へとスライドさせる。
すると、その手が通った後、まるで空間を切り裂いたかのような筋が通り、そこから次々に幻獣が生み出されていくのだ。
それは、時間にして、2、3秒の出来事。
たった2,3秒で、合計5体もの幻獣を生み出したのだ。
「たった、数秒であれだけの幻獣を呼びだしたというのか!?」
「これが、指輪のせいなのよ! 本来、召喚系の魔法もそうだけど、幻獣の召喚はこんなに簡単に出来るものじゃない!」
脅威的な数と速度に驚きを隠せない2人。
その光景がミルを満足させていた。
「ふふっ! 今のミルはたくさんの幻獣さんを呼び出せるんだから、最強、無敵なのよ! やっちゃって、幻獣さん!」
そのまま、ミルは突き出した右手を素早く振った。それが合図だったのか、一斉に幻獣が襲い掛かってきた。
「来るぞ! 構えろ!」
ユーリは、剣の柄を握り締めつつそう叫んだ。確かに、情報では無尽蔵の幻獣を召喚すると言っていたが、溜めが無く召喚されるのほあ脅威以外でも何にも無い。ミルは部屋の奥に陣取っている地理的有利も無く、正面から押し通るしか方法が無いのだ。
「がはは! 1体だろうが5体だろうが、最強無敵は、このオレ様の事、楽勝だ!とーーっ!!」
ランスは幻獣に向かって剣を振るうが、そのまま、何の効果も無く幻獣の体をすり抜けてしまった。ランスは、思ってもいなかったようで、体勢を崩しそうになるが、何とか持ちこたえると、目の前に迫ってきた幻獣の爪がランスの身体をねらる。
「ぐぉ!! ぐぬぬ……」
ランスは、どうにか防御する事は出来ているようだったが、防御する事は出来ても攻撃を当てる事が出来ない。
いくら攻撃を繰り返しても、その身体をすり抜けるだけだ。
「こらああ!! なんでじゃああ、向こうの攻撃は当たってオレ様の攻撃が何で当たらんのじゃぁ! おい、マリア! これは一体どういうことだ!!」
「わ、判らないわ! いっけーー!! チューリップ!!」
マリアは慌ててチューリップを撃ち放つが、その砲撃も幻獣の身体をすりぬけて、壁に当たり、爆発する。幻獣たちにはノーダメージだった。
「っ!? チューリップも効かない!?」
指輪が無いとは言え、同じ四魔女であったマリアも思わぬ事態に目を丸くさせ、驚いていた。判っているのは、1つ。物理的攻撃は一切通じないと言う絶対不利だと言う状況のみだった。
「あははは!! 私の幻獣さんは、そこらへんのオバケさん達と一緒にしないで! そんな攻撃は効かないわよ! 幻獣さんは普通の攻撃じゃ倒せないのよ!」
「そんな……、今までミルが呼び出していた幻獣にそんな力なんて無かったのに……」
「っ……! 未熟者でも、指輪の力で一端の魔法使いになれるってことか……! このっ! どこまでカスタムの皆に迷惑をかければ気が済むんだ!! ミル!!」
「わ、私、みじゅくものじゃないもん!」
幻獣の魔法は、異世界から生物、モンスターを召喚する魔法だ。
そして、モンスター達にはある特殊な性質を持つ。それが物理攻撃の遮断だ。
そこが、霊体系のモンスターと圧倒的に違う所である
霊体系であれば、物理攻撃が効きにくいと言う特性があるが、効かないと言うことは無いのだから。つまりは、毎ターン向こうの攻撃で延々と続くと言う事態だと言うこと。
「だぁぁぁ!! 汚いぞ!! こんなもん、反則じゃないか! こら!」
「ふふん! 私のつよさが反則って事!? ほら、みじゅくなんかじゃないじゃない!」
「指輪に頼った力だろう! そんなのはお前の強さなんかじゃない!!」
「ミリ!!」
ユーリがミリに襲い掛かる、幻獣の爪を剣で弾き返した。
「っ!! す、すまないね、ユーリ」
「今は乱戦だ。ミルを説得するのも大事だが、周りに目を配れよ。指輪の影響で」
ユーリはそう言うと、離れた位置にいる幻獣の方へと向かった。そして剣を再び鞘に素早く収める。
「ば、馬鹿野郎! 戦いで武器を仕舞うなんて!」
ミリは、ユーリに迫っている幻獣を見て、更に剣を仕舞ったユーリも見て慌てて剣を抜きながら駆け出したが。
「煉獄……」
ユーリの剣全体が異様な空気を纏っている事に気が付いている。
そして次の瞬間、幻獣の身体は真っ二つに切断され、煙の様に消え去っていった。
「なっ!! 幻獣さんがっ!?」
物理攻撃は全く効かないはずなのに、間違いなく一体倒された事に動揺を隠せないミル。
「そんな、私の幻獣さんを!! あなた、何をしたのよっ!」
「自分の業の種を明かすやつがいるか」
ユーリはそう突っぱねながらそう言っていた。
「ユーリ、一体何をしたんだ?」
「話は後だ。時間なら オレが 幾らでも稼いでやるから、その間にミルを助けてやれ」
「っ……ああ! すまない!」
ミリはユーリの言葉を聞いて、ミルに再び迫った。ユーリの剣は、再び幻獣に迫る。2体目をなぎ倒した所で、ミルの表情が更に強張っていった。
「まさか……、幻獣の剣を使ってるの! そんな分けない! 幻獣の剣はもうずっと昔、大昔から行方しれずになってるのに!!」
「……え?」
ユーリはその言葉を耳にした時、思わず声を上げてしまっていた。
今のは、バイロードから譲り受けた剣ではなく、リーザスで手に入れた妃円の剣だ。種明かしとするなら、物理攻撃が効かないのならと、スタイルを変えた一撃を放っただけなのだ。だが、もっと簡単に倒せる方法を、ミル本人から聞くことになるとは思ってもいなかったようだ。
「ああ、態々説明ありがとう。幻獣の剣と言うのはそう言う効力があるのか?」
ミルに向かってその幻獣の剣を見せるように掲げあげた。
ユーリはセカンド武器として、腰に挿していたのだ。
「がはは、さすがはオレ様の下僕! さぁさっさと片付けるのだ! オレ様はミルをお仕置きすーーる!!」
「そ、そんな! それは幻獣の剣!? なんで?それを持って……いや、なんで幻獣さんを倒せるの!」
ランスは、後は任せたと言わんばかりに、幻獣を無視してミルの方へと駆け出していった。それを見たミルはすかさず、代わりの幻獣を再び呼び出す。自分の周囲に先ほどのと同じ数だけを呼び出す。
「ぐぬぬ!! おのれ! 卑怯な!!」
「そっちこそっ! その剣は、幻獣さんの天敵なのに!」
「何を言っているのだ! こんなダメージを与えられない敵を量産した貴様に反則呼ばわりされたくないわ!」
ミルは別にランスに言ってるわけでないのに、何故かランスが激しく反応していた。……自分の下僕の成果は自分のもの、と恐らく思っているのだろうけど、ここはスルーをする事にした。
「ふん! おい、ユーリあのミイラ男から貰った剣でさっさと倒すのだ! そして、戦いが終わったら、その剣オレ様に寄越せ」
「理不尽すぎでしょ!!」
「それに、ユーリ1人に戦わせて自分は楽するつもりか」
ランスは胸を張りつつ理不尽にユーリ言っていた。その光景を見たら、こんな戦闘中なのに呆れた視線を送らずにはいられないのがミルとマリアの2人だ。だが、自分達には何も出来ないのには変わりないのも事実だ。
「はぁ、とりあえずお前はコレを使え。一応言っておくが、返せよ。それは」
ユーリは、幻獣の剣を鞘に収めつつ、ランスに向かって放った。くるくると回りながら上手い具合にランスの所
「うぉっと!! こら! お前が働け! さては楽をするつもりだな!!」
「違うわ! さっきも見ただろう、俺はそれが無くても特に問題ない」
「あ、そうだった。でもなんで??」
「話は後、って言ってたしな。マリア、せめて足手まといにならない様にするぞ!」
「う、うん!」
マリアとミリは、攻撃を防ぐ事しかできない。だから、殆ど役に立てない状況なのだ。だからこそ、ダメージを負って足手まといになるわけにはいかないと考えていたのだ。
「くぅぅぅ、私の大切な幻獣さんを! もう、ごめんなさい言っても許してあげないんだから!!」
「何を言ってるんだミル! 悪い事をしてるのはお前のほうだろう! 謝るのは悪い事をしたほうだ。オレは、オレはお前に教えたはずだろう!」
「ぅ……」
ミルはミリの叫びに反応を示していた。
如何に指輪に操られているも同然の状態とは言え、唯一の家族から言葉、心の叫びなのだから。だが、それはほんの一瞬だけだった。
指輪の邪悪な力のせいで。
「もう! お姉ちゃんも皆もだいっきらいだ!!! 幻獣さん!! 総攻撃lry!!!」
ミルは、右手だけじゃなく左手も前に突き出すように翳し、交差させた両腕を一気に左右に振った。その瞬間、空間の裂け目は先ほどの倍以上に広がり、そこから無数の幻獣が再び生まれてきたのだ。
5体 8体 10体……12体!
更に数はどんどん増えていく。
「な、なんて数なの……!」
「だりゃああ!! 死ねーー!! くそ、多すぎるだろ!!!」
「ちぃ、ミル……!!」
心からの叫び、家族を思う言葉をも遮ってしまう。ミリは、この時ほど指輪に怒りを覚えた事は無かった。そして、自分の無力を嘆いてしまっていた。家族を……たった一人の家族を守る事が出来ないのかと。そんなミリの肩に手を置く。
「大丈夫だ。……妹は、救える。……必ず」
「っ!!」
表情から読み取ったのだろうか、ユーリはミリが思っていた事に答えてくれていたのだ。ユーリは、剣を再び鞘へと収め、今度は柄から手を放していた。つまりは、完全に無防備の状態だ。
「っ!! ユーリさん!!」
「ば、ばかやろう! 流石にそれは無茶だろうが!!」
「おいコラ! 貴様、貴様が死ねば、オレ様が更に疲れてしまうだろうが! 誰が許可した!」
流石にこの行為にはランスも反応してしまう程のものだった。だが、ユーリは、首を左右に軽く振る。
「ランス、マリアと戦っていた時の事だ。覚えてるか?」
「む?」
ユーリは振り向かずにそう答えた。ランスもその時の事を思い出そうとしていた。だが、ユーリの行動の方が早い。
「合図したらミルに向かって走れ。あいつらはオレに任せろ」
「むぅ!! そんだけ自信満々に言うならば、成功させるんだろうな!?」
「勿論だ」
10体以上の幻獣が一気に向かってくる悪夢の様な光景の中でユーリの声は笑っていた。
「ば、ばかにしてぇ……はぁ、はぁ……幻獣さんが負けるはず無いんだから……」
流石のミルも一度に大量に生み出した影響も祟っているのか、軽く肩で息をしていた。指輪の効力を考えれば、まだ十分に余力が残っているだろう、と思えるが今は考え無いようにする。
「ランス! 今だ!」
「だりゃあああ!!」
ランスは、ユーリの合図と共に、何の迷いも無く飛び掛った。
ミル、幻獣とユーリ、そしてその後ろにランスが突撃してくる。
つまり、ランスがミルの所へと行く気ならば、ユーリを飛び越え、更に幻獣をも超えなければならないのだ。
「そんなのできっこない!! 死ねぇぇぇぇ!!」
「……ふん!!」
ユーリは、手を交差させ、左右に素早く開いた。その動作は、先ほどミルがしてみせたそれと全く変わらない。同じ動作をして、そして……。
「……なっ!!」
ミルは目を見開いた。
目の前に自分が呼んだ筈の幻獣無数の壁の様にいた筈なのだ。だけど……、ユーリの生み出した亀裂が、幻獣を消し去ってしまったのだ。
この時、ミルは動揺せずに幻獣を召喚していれば、まだ戦えたかもしれない。戸惑い、恐れ。それを生んでしまったが為、思考が停止してしまったのだ。それが勝敗を別つ隙間となった。
「ラァァァンスアタァァァック!!!」
ランスは剣を高々と掲げ上げると、ミルの手前の地面に向かって思いっきり振り下ろした。
「きゃ、きゃあああああっっ!!」
凄まじい爆発が巻き起こり、ミルの身体を思い切り吹き飛ばしたのだ。背後の壁に背中を強く打ちつけ、ミルは完全に気を失ってしまった。
こうして、四魔女の一角 幻獣使いミル・ヨークスは敗れ去ったのだった。
~悪魔界 某所~
場面は大きく変わる
「ぅぅ……、人間なんかに、人間なんかにぃぃ……」
どこか、見たことのある悪魔の女の子。俯きながら、石ころを見つけては蹴飛ばし、見つけては蹴飛ばしながらとぼとぼと歩いて戻っていたのだ。
「……見てたわよフェリス」
「!!!」
突然、背後から殺気ににた気配を感じているフェリス。そう、ランスに一杯食わされた……じゃなく、ヤられてしまった悪魔が彼女だった。そして、背後に佇んでいる、禍々しい気配を纏った女性こそが、フェリスの上司に当たる悪魔。
《第三階級悪魔 フィオリ・ミルフィオリ》
「ふぃ、フィオリ様……!?」
「なんて様なの? フェリス……、あれは完全にあなたが悪し同情の予知無しね。当然降格処分」
「ひぃ!! そ、そんなぁぁ!!! お、お許し下さいフィオリ様ぁぁ!!」
人間界では、人間に頭を下げ許しを乞い……。悪魔界では、上司の悪魔に頭を下げて許しを乞う。まるで、上からも下からも言われる中間管理職か?と思えるが、今の彼女は降格処分が下ったからもっと もっと悲惨なのだ。
「第八、……いや、それじゃ甘いか」
「いえ!! 十分、十分すぎますぅぅぅ!! お許し下さいっ!!」
「今のあなたに反論できると思ってるの?」
「ぁぅぅ……」
一睨みで黙ってしまうフィリス。そう、今日のこの日。人間界で、ランスと言う男に出会ってから……
彼女の転落人生がスタートしたのだった。
~迷宮≪地獄の口≫ ミルの間~
戦いは終わり、ミルが気を失った事で新たな幻獣が生まれる事も無く場も一気に静かになっていた。
「ミル!!」
ミリは、倒れているミルの所へ駆け寄る。そして、倒れている少女の口元に手を当てつつ、脈拍状態を確認していた。
「馬鹿者、オレ様がこれから美味しく頂くのに、殺すわけ無いだろう」
「そう、大丈夫だ。ランスのその部分だけは信用できるからな」
「おいコラ! その部分だけとはなんだ!」
口喧嘩しながら2人はミリ達の傍へとやってきた。ミリは……ぐっと、涙を堪える。仕草を見せないように、堪えつつ、ランスたちのほうを見て。
「ありがとうな、2人とも。オレは……オレはもうミルだけなんだ。妹を救ってくれてありがとう」
「がはは、オレ様は美女の願いなら聞いてやる素晴らしい男なのだ!」
ランスは両手を腰に当てて大笑いしていた。ユーリは、軽く笑うと。
「当たり前に存在するものなんてありえない。あって当たり前なものなんてこの世には無い」
「ユーリ……?」
ミリはユーリの言葉の意味がよくわかってなかったが、どこか表情が悲しそうなのは判った。
「だが、それでも家族は一緒にいるべきなんだよ。……全力で、その間を大切にしないといけないからな、ミリ」
「……ああ、ミルをもう絶対に離さないさ、ふふ、過保護だって言われるくらい、べったりになってやろうかね?」
「はは、そんなミリは中々想像出来ないがな」
「あ、それ私も思った!」
場が笑いに包まれていった。
先ほどの、ユーリの見せた表情……、誰も聞くことが出来ない。でも、ユーリが思っている事は判ったのだから、それだけで十分だと、マリアもミリも思っていた。
そんな時だ。
「ぶっ!!!」
マリアが思わず吹いていた。なぜなら……。
「さぁ!! お待ちかねタイムだ! がはは!!」
「何で、裸になってんのよ!!」
「何で? 勿論ナニのために決まってるだろう!」
「おいおい……、ミルは今気を失ってるんだぜ?」
「何を言うミリ。このままでは、またミルが悪い子として目を覚ましてしまうのだぞ? ちゃんとお仕置きを兼ねた救済をして、指輪を外してやらないと助けられんではないか」
「あっ! それはそうだけど、ちょっと待って、ランス! ミルはまだ……」
「ええい! うるさい、マリア! 大体処女を失わんと、指輪を外す事ができんのなら、仕方が無いだろうが! オレ様だって、不本意なのだ。仕方なく、なのだ!」
ランスは今回ばかりは、本当にそう思っているようだ。
いつもなら、不本意などするつもりないだの言ってても、表情はそう言ってない。涎を垂らしたり、鼻の下を伸ばしたりと、出やすいタイプなのだから。だが、その気配は無い。
「んで、どの変が不本意なんだ?」
ユーリがやれやれとため息をしつつ、ランスにそう聞いていた。
「当然、気を失った女とヤルなど、楽しめんでは無いか! だが、起きてあの幻獣を連発されるのも面倒くさいだろ」
「そっちかよ!!」
「最ッ低……」
ミリとマリアは思わずそう言ってしまっていた。
ランスと言う男の事……、まだまだ判ってないな、とユーリは苦笑いをしていた。……別に判りたくもないが。
「では、ぐふふ……行くぞー! とぉーーー!!」
ランスは、そのままミルの下半身をむき出しにし、一気に行為に移っていった。
ランスが楽しんでいるその時。
例によって、後ろを向くユーリとマリア。
「ほんと、性欲の悪魔よね……」
「それがランスだ。いい加減に諦めて認めたほうが楽でいいぞ?」
「そんなので楽になんて、なりたくないわよ」
マリアはため息をしていた。
「っっ! な、何コレ!! い、痛ーーい!! 痛い、痛い、痛い、いやぁぁぁっ……!!」
「がはははは、目を覚ましたか? 大丈夫だ、そのうち良くなってくる! とーーー!!」
後ろでは、どうやら意識を取り戻したミルがいて、驚きつつも声を上げているようだ。そして、次には驚くべき光景が広がっていた。
「おわっ!?!?」
まず聞こえてきたのはランスの声。
いつものそれと違った為、マリアとユーリは振り返った。
ランスの周囲に煙の様なものが現れており……、そして驚くべきなのは、ランスの傍にいた筈のミルである。
「びぇーんっ、びぇーーんっ!! いたいいたい、いたいよぉぉ」
身体が小さくなっていたのだ……。
目算で歳は10歳くらい? 流石に童顔とかそんなレベルではない。
「なんで ここで童顔が出て来るんだよ!!」
「っ!? ゆ、ユーリさん何言ってるんですか!?」
「あ、ああ……いや、なんでも」
ユーリは、何か言われた気がした?為つい叫んでしまったようだ。言われた気がしたのは間違いないのである。
「そんなことよりも、なんなのだ! このガキは!!」
今回ばかりはランスも驚きと動揺が思いっきり頭の中を支配しているようでパニックになっていた。その中で冷静だったのが姉であるミリだった。
「これが、本当のミルの姿さ」
「えええ!!??」
ミリの言葉に更に驚くランス。
「……本当なのか? マリア」
「うん。……言おう言おうとはしたんだけどね、ミルは幻術も得意だったから、それで大人に見させていたの、背伸びしたい年頃ってヤツだね」
「背伸びねぇ……」
「ユーリさんは、大丈夫ですから」
「……何の話をしてるんだ!!」
マリアの悪意の篭ってる(ユーリからしたら)フォローに思いっきり反論するようにユーリは叫んでいた。そして、対照的にランスは意気消沈している。
「お、オレ様が、こんなちんちくりんな、ガキとヤってしまうとは……」
そう、いろんな意味で萎えてしまったようだ。
「ほら、ミル。もう泣くんじゃない。いつかは絶対に通る痛みだ。大人になる為のな」
ミリはミルの頭を優しく撫でていた。
まだまだ、泣き止まない様子だが、次第に落ち着きは取り戻しつつあるようだ。泣き声の大きさが小さくなっている。
「……因みにミリ。ミルは何歳だ?」
「ああ、今年で9歳だな」
「ひ、一桁だと……、オレ様が、オレ様が、そんなガキンチョに……」
どうやら、聞かない方が良かったんだろうか?ランスは、年齢を聞いて更にショックを受けたようだ。それを見たミリは苦笑いをしながらミルの手をぎゅっと握り、ユーリ達に向かって口を開く。
「さて、悪いけど、俺は此処で抜けさせてもらうぜ。ミルを町へと連れて帰らないといけないからな」
「あれ? 合流はしてくれないの? それなら一緒に町まで行くけど?」
「マリア」
ユーリは、マリアの肩を叩く。
そして、マリアが向き直ったのを確認すると、首を左右に振った。
「今は、姉妹で一緒にいる方が良いだろ?」
「……ああ、オレも付いていきたいのは山々なんだ。だが、ユーリの言うように付いていてやりたいんだミルの傍に。それに指輪の悪影響があるかもしれないんだからな」
「っ……、そ、そうよね? ごめんなさい。少し無神経だったわ」
「いや、気にしてないさ。それに仕方ない。つい最近まで一緒に修行をしてた仲だったしな」
ミリはそう言って笑顔を見せながら手を振った。
「指輪の悪影響は心配だな。魔力を持っていかれる以上の事が無い、とは決していえない。……オレ達は大丈夫だ、家族の、妹の傍にいてやれ。何かあったら、本気で後悔するぞ」
「……ああ、そうだな。悪いが後は頼むよ」
ユーリの言葉を聞いて重みを感じるミリ。
間違いなくユーリも何かあったのだと思うには十分過ぎるほどのものだった。だから、経験しているからこそ、言葉が重く感じるのだと思えるのだ。ミリは決して妄りに聞かず、今だ泣き止まないミルの方を見た。
「ほら、ミル。いい加減泣き止め。その痛みは、大人になる以外にも良い女になる為の痛みでもあるんだ。だから、耐えろ」
「ぅ、ぅ……くすん」
「それにしても、厄介な迷宮にしやがったな、お前の部屋を見つけるのにどれだけ苦労したと思ってるんだ?」
「……ぅぅ、ぇ? わ、私の部屋なら……階段下りて直ぐ入れる場所だよ。マリアに合言葉教えてあげてたし、直ぐに来られるから、それで来たんだと思ったんだけど」
「…………」
「…………」
ミリとユーリの無言のプレッシャーがマリアに突き刺さった。
その圧力はマリアも十二分に感じているようで、冷や汗をだらだらと流している。迷宮に着てからの記憶、指輪をつけていたころの記憶を必至に揺り起こした。
「え、で、でも、そんなの言ってたかなぁ……? ミルの勘違いじゃない……?」
「え?言ったよぉ?ほら、壁を3回ノックするんだ、すると壁の方から『クリオネちゃん』って声を掛けてくれるからそれで……」
「『ファイト!!』って言うのよね! ……って、あ!」
記憶が鮮明に戻ってきているのが判った。正直、研究に没頭するあまり、完全にてきとうに聞き流していたのも思い出していた。だが、聞き流してはいたが……思い切り聞いている。
「ま、アイツが聞いてたら、お仕置きだ!! とか言いそうだが、今はアレだからな。兎も角研究熱心も良いが、周りにも目を向けろよ?」
「ぁう……、返す言葉もございません」
ユーリは軽くマリアの頭にデコぴんをしていた。そして、ミリが続く。
「ま、そのおかげでオレは助かったがな、だけど、気をつけないと周りだけじゃなく、自分にも災難が繰るんじゃないか?」
何の話?と一瞬聞こうとした。
だが、即座にその考えをシャットアウトした。戦いも沢山あって、ミルも助かったし、記憶の彼方へ忘れ去ろうとしていたのに。
「本当にランスがあの調子で良かったな? 鮮明に説明されるところだったぞ?」
「うわぁぁん!! 鮮明に言われなくても思い出しちゃったじゃな~~い!!」
「なら、気をつけろ」
「うぅ……、はい」
「ははっ!」
ミリはそんなやり取りを笑顔で見て、そして懐から帰り木を取り出しミルの手を再びぎゅっと握った、もう離さないといわんばかりに。
「短い間だったけど、お前らと一緒に冒険できて、メチャクチャ楽しかったぜ。ユーリ、ランス、マリア!また町に来たらよってくれよ!オレ達は薬屋もやってるからな!」
「ああ。また町に戻ったらよらせて貰うよ」
「うん! ミル、また会おうね? 勿論≪皆一緒≫に!」
ミリとミルは、そのまま帰り木の効果で、町まで帰っていった。マリアに、ミルの指輪。白色に輝くフィールの指輪を託して。
「よーし! 何にしても後2つ! 半分来たよ! さ、いざ4層に! ランの所へ!」
「あんな、ガキンチョを……オレ様の守備範囲は15からの筈が……」
マリアが力いっぱい宣言するが、ランスは当分帰ってこない様子だった。だが、そう言うわけにもいかないだろう。
「ほらほら、とっとと調子を戻せって。ずっと落ち込み続けるなんて似合わない事しないで」
「うるさい……、ガキには判らんのだ。ガキに手を出した男の事など……」
「……こんな調子でも人を怒らせるのが得意な男だな!」
四っ角を頭に一瞬で数個出来る程のクリティカル攻撃だが……、ランスの状況が状況だから取りあえずなにも言わなかった。
そして、そんな時だ。
『……ス、さ……たすけ……、おね……ます……』
「「!?」」
それは消え入りそうな声だったが、確かに響いてきた。この先、下の階からだ。
ランスもその≪声≫を聞いた以上は何もしないわけない。
「ランス、今の声は……」
「シィルの馬鹿だ! 行くぞ! お前ら!!」
「えぇ!! いきなりなに?? なにか聞こえたの!?」
先ほどまで、抜け殻の様な姿だったが、そこから一転、剣を握り締めつつランスは下の階へと向かって走り出した。本人は決して認めようとはしない。
だが、ランスの、……彼の中でシィルがどれだけ大きな存在なのかがわかる瞬間であった。
後書き
〜人物紹介〜
□ フェリス(名前判明 悪魔)
Lv-/-
技能 悪魔Lv2
悪魔界に帰って更に酷い目にあった悪魔の少女の名前はフェリス。
訳合って本名は隠していたが、これが彼女の真名である。
元々の階級は六。若くしてそこまで上り詰めたエリート悪魔だが、全てを狂わせたのはランスとの出会いだったのは言うまでも無いだろう。
悪魔は通常のLvの概念から外れており、階級と功績によって強さが変動する。
つまりは、今回の降格でどうなるのか……、あまりに可哀想なので、ここでは伏せておく。
……いずれ判る事だが、あえて言おう。「頑張れ」
□ フィオリ・ミルフィオリ(ゲスト)
Lv-/-
技能 悪魔Lv2
フェリスの上司であり、第三階級悪魔、そしてかなりのドS。
今回の失態をばっさりと斬って捨てて、フェリスに降格処分を下した。
今後、これを糧に また這い上がるだろう……なんて事は言わないし、言ったとしても、また突き落とすだろう。なんて言ったってドSですから。
アリスソフト作品:闘神都市3よりゲスト出演。
ちなみに……別の世界の神様 ≪散々≫様から知識を貰ったキャラであり容姿を見て気に入ってしまった……と言うのは、勝手な都合である。
性格は正反対だが、色条優希と似た空気を纏っているのである。
□ ミル・ヨークス
Lv10/34
技能 幻獣召喚Lv1
カスタム四魔女の一角。その才能は魔法の技能ではなく、非常に珍しい幻獣の魔法の才能を持ち合わせている少女であり、他の三人からも一目置かれていた。
ミリ・ヨークスは、姉であり、指輪がなければ本当に仲の良い姉妹である。
指輪のせいでこってりと絞られてしまったが、自分を想ってくれてると小さいながらも理解できていた。
ランスにトラウマを植えつけたと言う意味では、ここまで出てきた少女の中ではロゼ以来の快挙であろうか。
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