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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第2章 反逆の少女たち
  第19話 マリアの受難




~迷宮≪地獄の口≫妖体迷宮~



≪簡略化するバード君≫


 場面は変わり、シィルとバード達。

 ……彼女達は、バードはそこそこ活躍をしていた。
 あの後、エレノア・ランと遭遇したが、とりあえず相手は幻影だった。そして、そのランは、『チャンスをあげる』と言い封印を解いてバードとシィルを泳がしたのだ。そして、妖体迷宮の中なのに、不思議な小さな女の子《アーシー》と遭遇して、お菓子を代金に、色々と占ってもらい、その後拷問をされている女の子達を見つけた。
 女の子を拷問していたのは拷問戦士。バードとシィルは、女の子達を助ける為に奮起!捕らえていた女の子達を調教していた拷問戦士数体を倒し、女の子達を解放した。
 
 だが、その行動がエレノア・ランの怒りを買ってしまい、脱出不可能の牢獄へと入れられてしまうのだった。

 ……とまあ 真面目に書いてると、かなりの文字数を要し、1話分程は、楽には取ってしまう為、こちらの世界でもバード君の活躍は大幅カットである。少しは書こうかと、思いもしたが……、残念ながらバード君と言う戦士は、いろんな意味のランキングで除外されている為こういう扱いになってしまうのである。

「……ああ、もう此処から出る事は出来ないのね」
「だいじょうぶ……だ? シィルちゃん」
「ど、どうかしたのですか? 疑問系になってますよ?」
「いや……なんだかとてつもなく不幸な目に合ったような気がしただけ……だよ。大丈夫」
「不幸な目……?」

 シィルは何の事かわからず首を傾げていた。
 実を言うと、先ほどのエリア……つまり、大幅にカットした部分のお話。遭遇したアーシー事、アーシー・ジュリエッタが気まぐれにお菓子無しでバードを占った結果。


≪極凶≫


 と言う今だ嘗て見た事のない運勢が出てしまったのだ。簡単に一部だけ紹介すると……

□ 願望……急に思うように行かぬ、行くわけがない。
□ 縁談……本人同士の意思通じ方が全く足りない。四の五の言わず出直して来い。
□ 交際……親切だと思い込むといけない。騙されてるだけ。
□ 病気……回復が遅れる。更に5割以上の確立で悪化。
□ 転移……やめた方がいい。じゃないと、別の意味で転移するだろう。
□ 事業……人の口車に乗るな。だが、自分も信じるな。
□ 産児……丈夫な児が生まれる。……生んでくれる相手がいればだが。


 これが、占った結果のものである。これでもほんの一部。まるで呪詛の様に長く長く続いている文字もあるのだ。

 そして、アーシーの占いは100発100中の精度を誇る。
 書かれているのはほんの一部であり、正直寿命そのものが運で尽きてもおかしくない体質だという事。だからこそ、生きているのが不思議……と思う程だったらしいのだ。

『あのひと すごいなぁ……あるいみだけど。いっしゅうまわってるって言うのかな?ってかんじだ。だから、いきていられるのかなぁ……。てんちゃいのわたしでも、わかんない』

 遭遇したときの彼女の感想がこれである。

 とまあ、こんな感じの物凄い不幸な冒険者バード。だが、同情できない部分も当然ある。

 と、場面はバード達へと戻る。





~迷宮≪地獄の口≫妖体迷宮・牢屋~




 シィルは、何とかこの場所から脱出しようと魔法を駆使し 破壊しようとするが、ビクともしない。魔力も少なくなってしまい、壁にもたれかかる

「もう……だめです。この牢屋からは抜け出せないです……」
「シィルちゃん、まだ諦めるのは早い。がんばれば絶対に抜け出せるよ」
「でも……、色々と試したけれど、どれも駄目だったですし……」

 そう、破壊しようとする以外にも色々と試しているのだ。壁を叩いてみたり、蹴ってみたり、隠し扉を探したりと、だが、どこもこれも上手くいかないのだ。
 そう……出口など何処にも無いかのように。

「……ランス様がいてくれたら」

 シィルは、この時呟いていた。
 勿論頭の中では、ランスだけではなくユーリの事も思っていたのだが、彼女の中にある一番はランスだからだ。だから、無意識に彼の名前が出ていた。
 その男の名前にバードは納得がいかない様なのだ。

「むっ、どうしてそうシィルちゃんは、ランス、ランス、ランスばかり言うんだ。そんな君を奴隷扱いするような男の何処がいいんだ」
「えっ……バードさ……」

 バードは、シィルの背後に回りこみ、後ろから彼女を抱きしめた。

「そんな男の事なんか忘れて僕の方を見てくれないか……? 君が好きなんだ……」

 まさかの、告白だった。
 ……吊橋効果と言うものもあるが、状況を考えてもらいたいと思うがバードは続ける。

「この洞窟を無事に抜け出せたら、結婚してほしい。絶対に君を幸せにする」
「で、でも……」
「そう、ランスの事なら、僕に任せてくれ、話をつけてやる」
「だ、だめ……」

 バードは抱きしめる力をあげるが、明らかにシィルは拒否をしている。振りほどこうとはしていないが、身体を伝ってそれは明確に、はっきりと伝わる。

「シィルちゃん……僕の事がきらいなのかい?」
「違います、バードさんは良い人ですけど……、でも、でも、違います……」

 その時だった。
 緊張した空気を引き指すように壁が壊れる音が響いていたのだ。どうやら、牢屋の壁が外部からの力により崩れたようだ。

 崩れた壁の向こうから現れたのは白く長い髪を赤いリボンで纏めた少女がいた。

「バード! 助けに来た……わよ。あれ……その人は??」

 バードが誰かを抱きしめているのを見て、身体が固まってしまったようだ。シィルは、驚いていはいたが あの状況から抜け出せて少しほっとしていた。何より、牢屋の外に出る事が出来た事もそうだろう。

 彼女の名は《今日子》
 情報屋の真知子の妹であり、行方知れずになってしまったと思っていた娘なのだ。そしてどうやら、バードと知り合いみたいだ。

「今日子……!!」
「……いいわ、またねバード。別に助けに来たわけじゃないのよ。ランの持つ生命の鏡を奪いに来たついでなんだから……」

 そう言うと、今日子はそれ以上何も言わず すたすたと出て行ってしまった。

「……行こうか」
「ええっ!」

 バードは、今日子が出て行ったのを確認すると、静かにシィルに向かって言った
 シィルは、バードと今日子の会話に何処か落ち着かない様子だったが、この場所から早く出てランス達と合流する為に気を引き締めなおしていた。

 ……つまり、バードと言う男は ガールフレンドがいるにも関わらず、シィルに告白したのだ。そして、毎回冒険に出る度に隣に立っている女性は変っているとか。その辺りはランスにも似たり寄ったりだが……それはとりあえず置いておこう。

 こうして、バードとシィルは牢屋を後にしたのだった。


                                                                                                    



~迷宮≪地獄の口≫ピラミッド迷宮 棺の間~


 マリアは、一足早く部屋の中へと入っていた。
 目の前にあるのは大きな棺。何故かマリアは目を輝かせている。

「すごいわ! 棺だわ! すごい、すごい、感動だわ! 早く調べてみましょう!!」

 マッドサイエンティストの彼女、どうやらピラミッドの棺に学術的興味を覚えたようだ。明らかに喜びの表情をしている。

「女の子なら、怖がったり……とかあると思うが、まぁ、マリアだし無いか」
「変態娘と言う奴だ」
「オレは、怖くも無ければ、興味も無いな」

 やや、冷やかな目でマリアを見てるユーリ達。
 でも、その事に気づいた様子はまるで無いマリアはそのまま目を輝かせて。

「早く開けてみましょうよ!」
「げーっ、この変態」
「先を急いだ方が良くないか?」
「オレもそれに賛成だ」
「でも、でも、手がかりになるかもしれないよ? 本当は、これ持って帰って研究したいんだけど……」

 マリアは、どうやらこの大人の人間が2,3人は余裕で入ろうか?と言う大きさの棺を持って帰ろうとしていたようだ。

「無茶言うな」
「重いだろ、やめろ」

 3人によって、当然それは却下されていた。

「とりあえず棺の中は調べるとしよう。金目の物があるかもしれん」

 とりあえず、と言う事で ランスは、マリアと共に棺を躊躇せずに思いっきり空けていた

「罰当たりな……っと思ってみたが、別に、呪いの類を信じているわけじゃないがな」
「オレも同感だ、悪霊的なのが出てきたとしても倒せば済む話だし」
 
 ランス達を横で見ていたユーリとミリは互いにそう言っていた。ユーリもミリも、剛の者であると言う事がわかる内容だった。

「うーむ。金目の物は無いな。む! オレ様が何故こんな事をしなきゃならん!」
「いやいや、勝手にお前がやりだしたことだろ?」
「あー、ミリ。突っ込んでも意味無いぞ? 実体験上の話」
「そうなのか?」
「あー、私もそう思う」
「お前ら喧嘩売ってんのか?」

 ランスの事は大体わかりつつあるマリアと、何だかんだと言っても付き合いもそこそこなユーリはミリにそう言っていた。ランスは腑に落ちないようだが、そろそろ自覚した方が良いと思う皆であった。

 とりあえず、マリアも大体満足したようで、この場を離れようとした時。
 ユーリは、不意に何かの気配を感じていた。気配の根源はこの道の奥からだ。

「……何かいるぞ」
「なんだと!? ミルか!!」

 ユーリの言葉にランスが反応し剣を構えた。ミリも自身の妹がいるかも知れないとランス達に続く。

「ミル! 絶対に助けてやるからな!」
「あっちって……、あの部屋?」

 4人が行き着いた奥の部屋。
 そこにあるのはたった一つの棺。だが、明らかに他とは違うものだった。他の棺は埃を大量に被っており、はっきり言って薄汚いイメージが強い棺なのだが、この棺は埃の後が殆ど無く装飾も施されている。
 どこぞの王様の棺……といったイメージだろうか?そして、気配の正体の根源がわかった。その棺にはミイラ男が腰をかけているのだ

「きゃっ! み、ミイラ男!?」
「なんだと!?!? ……おい! ユーリ! ミルでは、ないではないか!!」
「誰がミルがいるって言ったんだよ! 何かいる……としか言ってないだろ!」
「そんなことより、あのミイラだろ? お前ら。ピラミッドだからってそんな変わったもんまで出てこなくていいのにな」

 ランスは相変わらず理不尽気味にユーリに怒り、ユーリはランスに言い返していた。ミリは妹のミルじゃない事にやや落胆気味だったが、警戒を決して解かず、ミイラ男に剣を向けていた。

「ああ、身構えなくていいさね。戦いつもりなんてない」

 ミイラ男は普通に話をしてきた。どうやら、言葉は話せるようだ。

「なんなのだ? 貴様は」
「なに、ただのミイラ男、この棺生活に満足してる平和なミイラ男さ」
「………」
「ん? どうかしたのか?ユーリ」

 慎重な姿勢を崩さないのがユーリだった。
 他のみんなは何処か気さくに話てくる男に毒気抜かれたようだが、ユーリはただ一点を見つめていた。

 そう、ミイラ男の挙動をだ。
 
 だが、ランスの後ろ、ミリの傍でいた為ミリはユーリの事に気が付いたようだが、他の2人は気がついていなかった。

「……あっきらかに、警戒してるね、びんびんに。そんな 力入れなくて大丈夫だよ」

 だが、ミイラ男はユーリの視線にどうやら気がついているようだ。

「ふむ、惚けた振りをしているが、やはり只者じゃないって事だな」
「え? どう言う事?」

 ユーリが一歩前に出てそう言っていた。マリアは判らないようで、ユーリに聞く。……ミイラ男、確かに傍から見たら、いや言動を聞いたら ただの薄汚いモンスターだ(ランスならそう言うだろう)。だが、明らかにそれを隠れ蓑にし、真の実力を隠している様に見えたのだ。確かに警戒はしていたが、そんなあからさまにしている訳でもなく、表情もランスの影で見えないようにしたのだが……、ミイラ男は雰囲気と其々から発している気を頼りに見切ったのだろう。

「警戒心を読み取られたって事だよ ただのミイラ男にそんな芸当できるとは到底思えなくてね」
「はは、こりゃ一本とられたな。このわしを試した気配だった、と言うのか。最近の若者はやるやる」

 ミイラ男はユーリの意図に気がついたようで、からからと笑っていた。

「生前、まぁ 200年も前だが、お前さんのような部下が欲しかったよ」
「に,200年? ま、まぁミイラ男だし、棺だからそれくらいは立ってるって思ったけど……」
「なんだ? その基準は、100だろうが200だろうが、ただのジジイミイラ男に違いないだろう! がははは!」
「ま、否定はせんよ。ただのミイラジジイで良いさね。ワシはそれより砂漠の真ん中にあった筈のここがいつの間にか、こんな地下におったこの事が不思議でたまらんのじゃよ」

 ミイラ男は、そう答えた。
 その言葉にマリアは、はっとして口元に手を当てながら話す。

「ご、ごめんなさい……。それは、私達が魔法で移動させたせいなの」
「んん? 魔法で移動させた? ほほー 凄い。お嬢ちゃんは若いのに凄い魔法を使えるようじゃ」
「……ん? 砂漠。と言う事はこのピラミッド。ひょっとして、リンゲル国のものなのか?」

 ユーリは、ミイラ男の言葉の中にある砂漠と言う単語を聞いて、リンゲル国の事を思い浮かべていた。もう、今は滅びてしまったが、嘗て自由都市圏内にあった国のひとつ。砂漠に聳え立つリンゲルと言う国があったと言う事を、文献で知っていたのだ。

「おお、知っておるのか? そりゃ、嬉しいのぉ。確かにそうさね。ワシはリンゲル王国国王ザーハード6世に仕えておった親衛隊副隊長、バ・デロス・ガイアロードじゃ」
「親衛隊服隊長!? わぁ、凄い!」
「大仰な名前の癖に、今はミイラ男か? 情けないぞ、がはは!」
「成程……リンゲル王国なら、聞いた事があるし、この作りにも納得できるな。……が、あの鏡だけがわからんな」

 ユーリは、ピラミッドの作りを見て、過去の文献を見た時にあったリンゲル国の事を思い返していた。構図が確かに記憶の中にあるそれと同じである。……だが、あの明らかに意図して作られたワープ装置だけはわからなかったのだ。

「あ~、アレは国王が作ったんだよ。あん人は性欲の悪魔って名もあったからの」
「むきぃぃぃ!!! 感心して損した!! アンタの王のせいで酷い目にあったのよ!!」

 マリアはミイラ男につっかかって言った。どうやら、あのワープ装置を起動するキーとなる鏡の前の行為は国王自らが仕掛けたとの事。……国王の性癖までは後世に残してないみたいだ。

「がははは、随分昔の田舎の王にしては中々見所があるヤツでは無いか!」

 ランスは笑いながらそう言っていた。
 リンゲルと言う国は全く聞いた事が無い為恐らくは滅びているとランスは悟り、その理由から田舎の国と決め付けていたようだ。……確かに、滅びたことは間違ってはいない。

 ただ……、それは戦う相手が悪すぎたのだ。相手は……。

「まーお嬢ちゃんには ワシから詫びよう、じゃが、許してやってくれ ワシから見てもアホな王だと思ったが……、平和を愛する国王じゃったから」

 何処か遠い目をしているミイラ男。

「ぅぅ……、そんな言われ方したら、怒れないじゃない」
「それで、あの鏡の命令は他にどんなのがあるんだ?」
「ええっと……あれじゃな。何処までワープ装置を解放したんじゃ?」
「パンツと胸かな?」
「わぁーー! 全部が私じゃない!!」
「がははは! オレ様もそれは是非聞きたい!」

 さっきまでの遠い目はどうしたんだ?と突っ込みたくなるが、とりあえずほっとこう。じめじめした空気よりはこっちの方が良いだろうから。

「ああ、そうだ。鏡の命令より、ミルと言う娘を探してるんだ。オレの妹でな。何か心当たりは無いか?」
「ミル? その娘かどうかはわからんが、4つ目のワープ装置の先で娘の話し声を最近耳にするぞい。因みに、位置的にはその部屋はワシの部屋、つまり此処と壁を挟んだ隣でな。それなりの大きさの声なら、ここまで声が響いてくるんじゃよ」
「話声? 誰かと手を組んでいるのか……。だとすれば厄介だな」
「いや、多分幻獣と遊んでるんだと思うわよ。ミルの遊び相手だし」

 ユーリの言葉に首を横に振るマリア。
 100%とは言えないが、最近ではその光景がよくあったからだ。

「がはは、マリア! 話をちゃんと聞かないか。第4のワープ先と言っておるのだぞ?」
「うぅ……考えないようにしてたのにぃ……」
「ああ、ミルが何処にいるのかわかった以上、早くそこに行かないとな。教えてくれ」
「ああ、構わんよ。ええっと、ワープの解放は……、そうじゃった、確か、鏡の前でレズ行為じゃ」
「うきゃあああ!! 私は何も聞いてない!聞いてなーーい!!」

 ……流石にその解除条件は、マリアに同情せざるを得ないだろう。両手で両耳を塞いで発狂しているマリアを見てユーリは両手を合わせている。

「友を救う為だろう……。頑張れマリア。応援してる。南無南無……」
「応援しないで助けてよぉぉぉ!! って、ナムナムって、なによっ!」
「……そうしたいのは やまやま何だが、……オレは男だし」
「ふふふ、それはオレの出番でもあると言う事だな。頑張ろうぜ、マリア」
「なな、なんでミリがそんな張り切ってるの!?」
「そりゃ、オレは男も女もイけるクチだからな。……ふふ、可愛がってやるよ」
「ううっ!! そ、そんなぁぁぁ」

 まさかの事実を聞いてマリアは唖然としていた。
 ミリはカスタムの町の薬局を営んでおり、面識はあったんだけど……、そんな事までは知らなかったのだ。

「がはは! 町の為、そしてお前自身の友の為だ! 文字通り一肌脱げ! マリア! いやぁしかし いけ好かない条件だな。ぐふふ……」
「……なんで、わたしばっか」
「マリア、大丈夫だ。4回だったのが3回で済むかもしれないんだぞ? ラッキーじゃないか。そう考えたら」
「どこが!! 最後のがどぎついじゃないですかぁぁ!!」
「む? となれば3つ目のワープも気になるな。おい ミイラ男、3つ目のワープとやらの条件はなんなのだ?」
「ふ~む、それはのぉ……そうじゃ、鏡の前でオナニーじゃ」

 指をぴん!と立てながらそう言うミイラ男。その答えを聞いてランスはじゅるりと、よだれを垂らしていた。どっちに転んでも、自分にとっては良い思いが出来るのだから。

「ぅぅ……、と、ところでオナニーって何?」

 マリアはひょっとしたら、そっちの方がマシなのじゃないか?と思って聞いたようだ。

 ……だが、知らないとは、とても初心(ウブ)な少女である。レズ行為の意味は知っているのに。
 ミリは、そんな マリアの肩を叩いた。

「ふふ、オナニーって言うのは、自分で自分の身体を慰める事さ、自分で胸やあそこを触ってだな。気分を盛り上げて快感を得る。つまりはひとりHだ」
「うわぁぁぁぁん!!」

 マリアの魂の慟哭が部屋中に響き渡っていた……。
 勿論、ランスの表情はまたまた、だらしなくなり、ミリの表情は妖艶なものになっていた。それは以前のリア王女を彷彿させる表情だった。


「やれやれ……、まぁこれも仕方ないんだ。本当に、本当に緊急事態だからな。それより……」

 ユーリはミイラ男の方を向いた。
 マリアにとっては災難でしかないことだが、これは貴重な情報なのだから。それをくれたのだ。

「情報を感謝する。全てが終わったら、何か差し入れに来よう」
「おお、本当か?ワシは≪うはぁん≫を喰ってみたいのぉ。久しぶりに」
「ああ、それくらいならお安い御用だ。あ……少し遅れる可能性があるが大丈夫か?約束は違えない」
「構わんさね。ワシはもう200年も此処にいるのだ。……あのケイブリ……とと、それは兎も角、待つことには慣れてるよ」

 そう言って手を挙げた。その後、自身の棺の中へ手を入れると1本の剣を取り出す。

「これは、ワシと共に葬られた幻獣の剣じゃ。久しぶりに良い戦士を見る事が出来た。こいつを使ってくれ」
「……良いのか。見ただけで判る。これは相当な剣じゃないのか。正確に目利き出来る訳じゃないが、わかるぞ」
「だからこそ、じゃよ。こんな所で朽ち果てさすには勿体無さ過ぎるじゃろ?」
「成る程な……。重ね重ねすまない。使わせてもらうよ」

 ユーリはその剣、《幻獣の剣》を受け取った。
 手にする感触は、あの妃円の剣となんら変らない。手に馴染むし中々に重い。歴戦の戦士が使っていた剣だ。様々な思いも込められているんだろう。

「がははは! おいユーリ、それは随分良さそうな剣だ。オレ様に寄越せ!」
「……相変わらず傍若無人だな!? お前にはその剣があるだろうが。しかもオレが買ってやったヤツだ!」

 ランスとユーリはぎゃいぎゃい騒いでいた。
 それを見たミリは軽く笑う。

「あの2人、なんだか兄弟みたいだねぇ」
「あ、私もそれ、思った」
「それにしても、弟のほうがしっかりしすぎだろ? もうちょっと兄ちゃんしっかりして欲しいって思うな」

 ミリはランスとユーリを見つつそう呟く……。それは、どっちが兄でどっちが弟?マリアは、直ぐに判ったから、そっとミリに耳打ちした。

「あ、あの……、ユーリさんって19歳なんですよ?」
「……はぁ?? 嘘だろ、俺とタメだってのかい?」

 ミリは目を丸くさせながらユーリの方を見ていた。そのあどけなさが残る表情。確か、フードを被っていて 素顔を見るのは中々見えないのだが、今は所々破れていて、良く見える。……大人びているな、とは思ったが、まさか自分と同じとは思っても無かったみたいだ。

「……あはは、ユーリさんは、とてもお顔の事、気にしてるみたいなので、言わないで あげてください」
「……マジみたいだな。ああ 判った。オレはSだが、そんな苛めはしないさ。ユーリには恩もあるしな」

 ミリはそう言って笑っていた。
 ユーリにはあの重症だった時に薬をくれた事もあり、そして何より仲間を弔ってくれたんだ。感謝してもしたり無い程、貰っているんだ。

「ランスとは、ヤったが…、ユーリともヤッてみたいな。女に出来る最大級のお礼がこれってオレは思ってるんでね。可愛い女の子もいいが男の子ってのもな?」
「ちょぉぉ!! 何言ってっっ!!」
「ん? ああ、そうだな。まずは、マリアとだったな」
「わーーーんっ!! 忘れかけてたのにーーーっ!!」

 マリアとミリも傍から見たら、ランス達同様に、騒いでいるようだった。そして、暫くして。

 ランスもどうやら、イナズマの剣もあるし、ユーリがその剣の方が強いと言ったら、あっさりと笑って引き下がっていた。ランスは、武器の目利きは出来ないみたいだから、今後もこれは使えそうなのである。

「さぁ、行こうぜ。早くミルのとこへ」
「あぁぁ……行かなきゃなんないのね……、もう、鏡が嫌いになりそう……」

 マリアはげんなりしつつも立ち上がった。覚悟は……決まってないが、行かないといけないから、半ばヤケなのだろう。


「っとと、ちょっと先に行っててくれ」

 ユーリは、皆で部屋を出ようとした時立ち止まった。

「どうした、さっさと行こうぜ?」
「そうだ! ミルちゃんがオレ様を待っているのだからな!」
「?? あ! 判った!! ひょっとして、あの鏡使わなくても行ける方法を思いついたの!? ユーリさん、頭良いから!?」

 マリアは目をキラキラさせながらそう言うけれど……、何の根拠も無いのに頭良いと言われても、逆に馬鹿にされてるとしか思えないが、ユーリは首を左右に振った。

「期待にそえなくて悪いが、なんでそうなるんだ。違う違う。ちょっともう一言だけ、言おうと思ってな? 時間は取らせないさ。先に言っててくれ」

 ユーリはそう言っていた。
 マリアは、露骨に嫌な顔をするが、見られる人が1人でも減るということ、それ自体は良いことと言えるだろう。そして、ユーリの実力を知っている皆は1人にしても特に問題ないと判断し、先へと向かっていった。

「うん? なんだい? まだワシにようか?」
「ああ、……アンタの国リンガルは、滅ぼされていると言う事は知ってる。なぜか…、その点だけがあやふやだったんだ。だから、聞きたくてな。……アンタが言いかけた名前を聞いて殆ど確信はしてるが」
「……ああ、失言じゃったな、ケイブリ……まで言っちゃったし。そうさね、ワシの国をたったの2日で滅ぼしたのは《ケイブリス》ってヤツじゃよ、知ってたのか?」

 その名はよく知っている。
 正式な名は、《ケイブリスダーク》
 今から200年前、ミイラ男の言葉からも合致するその年号で起きた事件。魔法大国ゼスに侵入した魔人であり、最も古き時代の生き残りと言われている魔人。
 多くの人間が虐殺された地獄の3ヶ月と記されており、リンゲルはその期間の犠牲となった国の一つだ。王国をたった2日で滅ぼしたとは記してなかったが、あの魔人ならやりかねない。

 魔人類最強の部類に入る魔人なのだから。


「ああ……知っているさ」

 ユーリが頷いたその時だった。

“きぃぃぃぃぃ………”

「(……なんじゃ?)」

 ミイラ男は違和感を覚えた。身体が全く動かないのだ。全く動かない、さっきまで話をしている男の方一点を見たまま……、視線も動かせない

「(これは……一体)」

 混乱してしまうのは無理もない事だ。かつて、この状況に見舞われた者は例外なく皆混乱をしているのだから。

『魔人ケイブリス……、知っている。……アイツは今でこそ、人間界に攻めてきてないが、今後はまだ判らない。……不可侵を謳ってるもう1人の魔人と睨み合っているからな』
「(……誰だ? 何を言ってる?)」

 ミイラ男は突然、頭の中に響く声に驚きを隠せない。だからか、素の言葉が出てきてしまっていた。だが、表情に出す事も出来ず声に出す事も出来ない。
 まるで、時が止まっているかのようだったから。

『……目的を達するために避けては通れない……通るつもりもまるでない、がな。……お前達の無念さも感じている。名を発したその時にな。……お前達の想いを共に背負おう』
「(ッッ!!)」

 その言葉……何故だかわからない。無償に嬉しく感じていた。
 あの絶望的な力を目の当たりにして、もうあれは天災も同義、運命なのだと、自分の中で諦めをつけていたのだが、自身の育った国を、仲間を、主君を、滅ぼしたあの名を憎いと思っていないか?と言われれば、嘘になるのだから。

 そして、わかった。

 この≪声≫は、その絶望と戦おうとしている。

 そして、無念を晴らしてくれるかもしれないのだ。あの恐ろしさを知っているからこそ、出来るのは、信じられない事だった。だけど、その常識をも覆しそうな気配を身に纏っている。そう感じるのだ。

『それに、ここにはまだ感じる。……荘厳な気配を……懐かしささえ、醸し出している気配を……、アイツ(・・・)もどうやら此処にいるようだ』
「(アイツ……?)」
『悪い、こっちの話、だったな』
「(お前は……ユーリと言う男、なのか?)」
『………』

 ミイラ男は意図してそう答えた。目の前にいる男も例外なく固まっている。だが、この世界に来た切欠は間違いなく目の前の男なのだから。

『ふ、違うとだけ言っておこうか。我はまだ降り立つ事が出来ないのでな……。その点は頑張ってもらうしかない。ではな…… 《うぁはん》とやらは、必ず届け出よう。いつか、また』
「(……ッ!)」

 その声が聞こえなくなったと同時に、再び世界は動き出した。



「ッッ!! う、動ける!」
「……どうした? 大丈夫か?」

 ユーリは、男の方へとゆっくりと歩いていた。本当に時間が止まっていたとしか思えない状況だった。

「い、いや……なんでもない。どうかしたのか? オレに何か?」
「……口調、変ってないか?」
「っとと、そうじゃったな」

 ユーリの疑問に慌ててミイラ男は口を押さえつつ、そう言っていた。

「ああ、用って程の事じゃない。道具袋の中に これがあったんでな?」
「これは……」
「桃りんごだ。うはぁんにも使う高級食材。今はこれくらいしかないからな」
「お、おおっ! 本当かぃ! どうもありがとぁ!」

 ミイラ男は受け取った桃りんごを見てまるで、上に掲げるようにしてそう言っていた。

「こ、こんな物を再び口に出来る日がくるとは!」
「はは……、これ程の剣の対価だと、うはぁんだけじゃ、安すぎるからな。これでも足りないが生憎持ち合わせが無い。……分割払いだと思ってくれ。それじゃあな」

 ユーリはそう言うと、手を振りながら部屋を後にする。そして、部屋を出て行ったその時、ミイラ男の目つきは変わった。包帯で体中を巻いているから見えにくいがはっきりと、変ったのだ。

「……あの男は、何者なんだ?」

 考えてもわからない。
 だが、悪いヤツじゃないとは判る。あの声も……同様に。

「また、会える日を気長に待つとしようか……」

 ミイラ男は声の正体を粗方確信をしつつ、りんごを、しゃりっと齧った。重厚な果汁が口の中に広がる……。それを噛み締めながら、再び棺の中へと戻っていった。



 
 

 
後書き
〜人物紹介〜


□ アーシー・ジュリエッタ

Lv1/3
技能 占いLv2

一見ただの赤ずきんちゃんだが、その正体は魔人バークスハムの使途の1人。
その占い的中立は100%を誇り。本人に頼まれて占ってはいないが、バードを好奇心から勝手に占って、全てを知り、バードを「わたしでもわからない」と言わしめていた。
技能ではないが、お菓子批評を特技とすし、味で誰が作ったお菓子かまで判別が出来るらしい。
結構味にはうるさいようだ。



□ 芳川今日子

Lv14/33
技能 魔法Lv1 神魔法Lv1

情報屋、真知子の妹。占い師でもあり 情報屋としても優秀だが、それ以上に催眠術も使える優秀な魔法使いでもある。だが、不幸なのはバードに惚れてしまっていると言う事であり、彼の為に単身で妖体迷宮にまで乗り込む程の者である(ミリ達よりも先へと進んでいる)
尚、バードとシィルの姿を見てしまっているが、今でも一途に想い続けている。
……姉にはもっと良い男がいると言われているが、聞く耳を持ってくれてないようだ。


□ バ・デロス・ガイヤロード

Lv10/10
技能 統率Lv1

嘗て、自由都市にあった王国、リンゲル王国ザーハードス6世に仕えていた親衛隊副長。
魔人ケイブリスの進撃もあり、王国共々滅ぼされてしまい。その国王の死の際に一緒に埋められてしまっていた。

最近では、桃りんごの味が忘れられず涎が止まらないだとか……。
桃りんごの種をせっせと蒔いて 育てようと試みるが、ピラミッド内では水など無いため、どうするのだろう……?
 
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