ドリトル先生と森の狼達
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第十幕その十
「僕が半分アウトなのかな」
「それがわからないのがね」
「もうアウトなのよ」
ガブガブとダブダブが先生に最初に言いました。
「あのね、一体ね」
「先生大切なことが全くわかっていないから」
「あの、小説とかで絶対出て来るよ」
「こうしたテーマはね」
次に言ったのはジップとチーチーでした。
「イギリスの小説でも日本の小説でも」
「絶対じゃない」
「先生、この前源氏物語読んだよね」
「日本の長編小説ね」
トートーとポリネシアも先生に言うのでした。
「古典を現代語訳したのも」
「原文でもだったわね」
「うん、名作だね」
先生は源氏物語自体には目を輝かせてお話出来ました。
「日本が誇る一大小説、読み終えた後の満足感は例えようがないよ」
「それで、だけれど」
「主人公についてどう思ったかな」
ホワイティと老馬は先生に尋ねました、それも強く。
「主人公の行動とかね」
「女の人達の気持ちとか」
「悲しいものを感じることが多いね、華やかな中にも無常なものがある」
こうしたことはよくわかる先生です。
「日本人独特の人生観はあの時からあるんだよ」
「それだけ?」
「それだけなの?」
チープサイドの家族は先生を囲んで尋ねました。
「あの、他には?」
「他に思うことはないの?」
「ううん、あの作品について語ったらね」
先生は源氏物語の文学的価値、そして作品全体にある雅と無常についてはわかるのでした。それで動物の皆にお話するのでした。
「かなりの時間がかかるけれど」
「肝心なところは?」
「源氏物語のテーマは?」
オシツオサレツが二つの頭で尋ねました。
「何かな」
「それは」
「うん、それはね」
先生は皆に源氏物語のことをお話しました、ですが。
その全部を聞いてからです、動物の皆は先生が研究室から戻って来た時と変わらないお顔で言ったのでした。
「やっぱりねえ」
「先生は先生だね」
「そこでそう言うのが」
「じゃあ少女漫画読んでも駄目かな」
「日本の少女漫画読んでも」
「ああ、漫画も素晴らしいね」
先生はわからないまま応えるのでした。
「日本の漫画も。その少女漫画もね」
「素晴らしい文化だっていうんだね」
「そうしたことはわかるんだね」
「登場人物の心情描写とか絵や演出のよさとか」
「そうしたことはね」
「わかるんだね」
「それがわかるものじゃないかな」
少女漫画によくあるテーマには気付いていないままのお言葉です。
「僕は誰でも少女漫画も少年漫画も読んでいいと考えているけれど」
「だからそうしたことじゃなくて」
「だからね」
「あのね、そもそもね」
「先生肝心なことが抜けてるから」
「本当に」
「肝心なこと。源氏物語や少女漫画でも」
先生は皆の言葉に首を傾げさせ続けます。
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