英雄伝説~西風の絶剣~
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第7話 光の剣匠
sideリィン
「リィン、改めて礼を言わせてほしい、危ない所を助けてくれて感謝している」
「そんなにお礼なんて言わなくていいよ、困ってたら助けるものでしょ?」
サメゲーター達からラウラを助けたんだけどさっきから何回も頭を下げている、きっと義理堅い性格なんだね、でもそんなにお礼ばかり言われると困っちゃうな。
「リィン!大丈夫……?」
魔獣がいなくなった事を確認したのか物陰に隠れていたフィーが出てきた。
「うん、何とかなったよ」
「リィン、この少女は?」
「僕の妹だよ、君の事を見つけたのがフィーなんだ」
「そうなのか、私はラウラ・S・アルゼイド。そなた達のお陰で命を救われた、感謝する、フィー」
ラウラはフィーに手を差し伸べた、きっと感謝の握手をしようとしたのだろう。だがフィーはススッと僕の背後に隠れた。
「あ、こらフィー……ごめん、ラウラ、フィーはちょっと人見知りで……」
「いや気にしなくていい、私も配慮がなかった。こちらこそすまない」
ラウラは気にした様子も見せずに謝った。心が広いな、きっと立派な人に育てられたんだろうな……ん?『アルゼイド』……?
「ねえラウラ、君はもしかして光の剣匠殿の娘なの?」
「父上を知っているのか?いかにも、私はヴィクター・S・アルゼイドの娘だ」
光の剣匠の娘!?こんな所に一人でいるから一般人じゃないと思ってたけど、通りで自分の身長ほどもある両手剣を振り回せるはずだ。
「二人とも、助けてもらい本当に感謝している。もしそなた達がよければぜひ屋敷に来て欲しい、何かお礼がしたいんだ」
「いや、そんな悪いよ」
「騎士は受けた恩を必ず返すもの……駄目だろうか?」
う~ん、どうしようかな?余り人が多い所には行きたくないんだけど、でも断ったらラウラに悪いかも知れないな。
「……うん、分かった」
「本当かッ!」
パアッと嬉しそうに顔を輝かせるラウラ。
「リィン、いいの?」
フィーが心配そうに話しかけてくる。
「ここで断ったりしたらラウラの好意を無碍にしてしまうし」
「それはそうだけど、リィンってあいかわらずお人よしだよね」
「で、でも女の子の誘いを断るなんて失礼じゃないか」
「……なら好きにすればいい」
「フィ-?どうしたの?何か怒ってない?」
「別に……」
プク~ッと頬を膨らませるフィー、怒ってないってどう見ても怒ってるんだけど……
「そなた達、一体何をしているのだ?」
ラウラは不思議そうに顔をかしげていた。
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ーーーーーー
ーーー
今僕たちはラウラの住んでいる町「レグラム」を目指してエベル街道を歩いていた。
「そうか、そなたも剣士なのか。見たこともない剣を持っているがそれは一体?」
「ああこれは『太刀』といって東方につたわる剣らしいんだ」
「東方……もしかしてかの有名な『八葉一刀流』の?」
「いや、残念ながら僕は我流なんだ」
「そうなのか、それにしてはかなり鍛えていると見える。さぞや凄まじい修行をこなして来たのだろう、是非手合わせをしてみたい」
「あはは、まあその内にね」
剣士として何か通じるものがあるのかラウラは僕について聞いてきた。それにしてもさっきからフィーが右腕にくっ付いて離れないのだがどうしたのかな?
「む、見えてきたぞ、あれが霧の都レグラムだ」
ラウラが指差したほうを見てみる。うわぁ……凄い、僕の目の前には広大な湖と大きなお城が見えてきた。なんて神秘的な光景なんだろうか。
「ラウラ、あのお城は?」
「あれは『ローエングリン城』。かの有名な『鉄騎隊』が拠点としていたと言われる場所だ」
『鉄騎隊』……250年前の「獅子戦役」にて聖女と呼ばれたリアンヌ・サンドロット、彼女が率いていたと言われる部隊の事か。
「あそこに石像があるだろう、あれはリアンヌ様を象った物なんだ」
「へぇ……」
『獅子戦役』か。どんな時代だったんだろう、猟兵をやってると命の危機なんてあって当たり前だけどそれよりも相当酷い時代だったのかな。
『お姉さま~ッ!!』
その時だった、町の方から三人の少女が走ってきた。
「クロエ、セリア、シンディ?一体どうしたのだ、そんなに慌てて……」
「どうしたのじゃありません!!」
クロエと呼ばれた小さな女の子が涙目で叫んだ。
「お姉さまが森に修練しに行ったきり一時間も戻ってこなかったんですよ。私、お姉さまに何かあったんじゃないかと心配で……」
「「ああッ~~!?」
クロエと呼ばれた少女はラウラに抱きついた。するとシンディって子とセリアって子の二人は驚愕の表情を浮かべた。
「ク、クロエ!貴方だけずるいですわ!」
「そうよ!私達だってお姉さまの事どれだけ心配したか……!」
「ふふッ、お姉さま~♡」
何だろう、この光景は……クロエって子がラウラに抱きついて他の二人が嫉妬の視線でそれを睨んでる。
「ラウラ、その子達は一体……!?」
ギロッ!
な、何だ?突然三人に睨まれたぞ?
「貴方、お姉さまの何なんですか?」
この子はクロエでいいのかな?その子が凄い殺気を込めた目で睨んできたんだけど……
「え、いやあの……」
「お姉さまを呼び捨てにするなんて…図々しいにも程がありますわ!」
「男の分際でお姉さまに言い寄るのは止めてくださいませんか!」
「え、えっと……」
図々しい?言い寄る?どういう意味だろう?僕、知らない内にラウラに何か失礼なことしちゃったのかな?
「……」
「フィー?」
その時だった、僕の後ろに隠れていたフィーが出てきて三人の、主にクロエの前に立ち塞がった。
「な、何なんですの?」
「わたしのお兄ちゃんに酷いこと言わないで、このおチビ……」
「なッ!?」
あ、あのフィーが見知らぬ他人に怒った。しかも毒舌まで言うなんて一体どうしたんだ?
「貴方私の事をチビって言いましたわね!」
「……事実でしょ、寸胴おチビ」
「寸胴!?貴方だって同じ体系じゃないですか!」
「わたしは成長するから、貴方とは違う」
「私は成長しないって言いたいのですか!?」
……団長、皆、フィーが口喧嘩をしています、それもあんなに感情を露にして。ラウラや他の二人もポカンとした顔になってるし……
「フィー、もう止めなって!」
「クロエ、そなたも落ち着かぬか!」
僕とラウラが二人を羽交い絞めにして離した。
「ええい、三人共私の恩人たちに失礼だろう!彼らは私の危機を救ってくれたのだぞ!」
『ええ、お姉さまに一体何がッ!?』
ラウラが三人に先ほどの出来事を話した、最初は悲鳴をあげていたりしていたが徐々に落ち着いてきたようだ。
「……という訳だ、分かってもらえただろうか?」
「そんなことがあったとは露知らず……申し訳ございません、リィン様、フィー様」
「お姉さまを救って頂いたことには感謝します。お姉さまに手を出したら話は別ですが……」
シンディとセリアは取り合えずは納得してくれたようだ、だけど……
「俄かには信じがたいですわ、その殿方はあまり強そうに見えませんし……」
クロエは僕がラウラを助けたことを信じられないようだ。
「大体お姉さまを助けてのだって何か下心があったんじゃないんですの?男なんて御やかた様以外獣ですし……」
「一々リィンにつっかからないで。悪口しか言えないの?この貧乳」
「貴方ねえ、さっきも言いましたが自分の体系を見てから言ってくださいます?」
あわわ、またフィーとクロエが不味い雰囲気になってしまったぞ。
「すまんが三人共、そろそろ屋敷に戻りたいのだ、これにて失礼する」
ラウラが僕とフィーの手を握って駆け足で行く。
「あーッ!?一度ならず二度までもお姉さまと手を繋ぐなんて……!」
「やっぱり許せませんわ!」
後ろで三人が何か言ってるがラウラは構わず僕たちの手を握り階段を登っていった。
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「リィン、フィー。先ほどは済まなかった、三人は本当はいい子で妹のような存在なのだが、時々ああなってしまうのだ。本当にすまない」
階段を登った先の広場でラウラが僕達に謝ってきた、別に気にしてないんだけどなぁ。
「そんなに謝らないでよラウラ、僕は怒ってないよ」
「……わたしはちょっと怒ってる」
フィーが僕の腕をギュッっとしながらそう呟く。
「僕のことで怒ってくれるのは嬉しいよ、でも僕は怒ってるフィーより笑ってくれるフィーのほうが好きだよ」
「……バカ」
フィーが怒った時は大抵こう言うと機嫌が良くなる、それにしてもフィーがあんなに怒るなんて……今までそんな事はなかったのにもしかして僕のために怒ってくれたのかな?もしそうなら嬉しいな。
「………」
ラウラが何やら変なものを見るような驚いた表情をしていた。
「ラウラ、そんなポカンとした顔で僕を見てるけどどうしたの?」
「あ、いやすまぬ。別にそなたにおかしな所がある訳ではなく……ただ単に驚いたのだ。普通見知らぬ者にあのように罵詈雑言を浴びせられたらどんなに穏やかな人物でも怒るものだと思ってな」
「ん~、あの子達はラウラを心配してああ言ったんだと思うよ、僕もフィーに知らない男が話しかけてるのを見たら心配になるから気持ちは分かるし……それに僕は叱りはしても怒りはしないよ」
「叱ることと怒ることは違うのか?」
「叱るっていうには相手の為を思っていう事だと思うんだ、でも怒るっていうのは自分の中に溜まった鬱憤を相手にぶつけて晴らすことでしょ。それって自分も疲れるし相手も傷つけるだけだから僕は怒ったりはしないよ」
「……フフッ」
僕がそういうとラウラは可笑しそうに笑い出した、フィーもクスクスと笑っていた。
「えっ、二人ともどうしたの?」
「フフッ、そなたを馬鹿にしている訳ではない。そなたは相当なお人よしだと思ったのだ、なあフィー」
「本当だね、しかも自分のことには鈍感なのに家族がバカにされると怒るから余計にね……」
「いい兄上ではないか」
「うん、鈍感なのが玉にキズだけどね」
えっえっ?二人はなんで笑ってるんだ?よく分かんないや。
二人はラウラの屋敷に着くまで笑っていた。
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「お帰りなさいませ、ラウラお嬢様」
「じい、遅くなってすまなかった」
ラウラの屋敷についた僕たちを最初に迎えてくれたのは執事の服装をした老人の方だった、でもその身体からは年を取っていることを感じさせない静かだが強大な闘気を感じた、強いな……
「リィン、フィー、紹介する。執事のクラウスだ」
「始めまして、私はアルゼイド家に仕えているクラウスと申します。リィン様、フィー様、先ほどはお嬢様をお救いして頂き真に感謝しております、親方様に代わりお礼を言わせてください」
クラウスさんの言葉に僕達は驚きを隠せなかった、僕とフィーは気配を読む力に長けている、クラウスさんが先ほどの事を知ってるということは彼はあの場にいたという事だ。だけど僕もフィーも全く気配を感じなかった。
「じい、何故それを?」
「申し訳御座いません、お嬢様。実はお嬢様のお帰りが普段より遅かった為、私はお嬢様を探しに向かいました、そして魔獣に襲われているお嬢様を発見しました。直に助けようとしましたがその前にリィン様とフィー様が来られた為様子を見ておりました」
やっぱりあの場にいたのか、でも全く気が付かなかった……
「それならば声をかけてくれても良かったではないか」
「ええ、ですがリィン様と楽しそうに談笑しておられるお嬢様を見てお邪魔をするのは忍びなく……それにお二人の人柄を見て危険や悪意はないと判断しましたゆえ……」
「そうか……すまないじい、迷惑をかけてしまったな」
「いえお気にしないでください、このクラウス、お嬢様の危機にいつでも駆けつけます」
「うむ、頼りにしている」
ラウラとクラウスさんの会話を聞いてラウラがとても大切にされていることがよく分かった、ラウラの真っ直ぐな性格は皆に愛されているんだろうな。
でもアルゼイド家の関係者は凄い実力なんだな、光の剣匠はどんな人物なのだろうか…
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僕達は屋敷の外にあるテラスに案内されていた、湖が一望できて風が気持ちいいなぁ。
「お嬢様、紅茶をお持ちしました」
クラウスさんが紅茶とクッキーを持ってきてくれた、香ばしいクッキーの香りにフィーが目をキラキラさせている。
「ラウラ、これ食べてもいいの?」
「うむ、遠慮しないで食べてくれ」
「頂きます」
フィーがクッキーをサクッと齧る、すると幸せそうな笑顔になった。
「美味しい、ポリポリ」
「フィー、そんなに慌てて食べたら行儀が悪いぞ」
「ふふっ、別に構わないではないか。フィー、美味しいか?」
「うん、美味しい♪」
幸せそうにクッキーを食べるフィーを見ていると何だか和むな~。
「リィン」
ひゃうっ!いきなりラウラに話しかけられて驚いてしまった、恥ずかしいな。
「す、すまぬ。何やら驚かしてしまったようだが……」
「いや気にしないで、それよりどうかしたの?」
「そなた達は二人で大陸を旅しているのか?」
う~ん、どうしようか。あまり猟兵のことは話しちゃ駄目なんだよな。エレナの件でそういった事を隠すのは抵抗があるんだけど、団の皆に迷惑をかけてしまうかも知れないし……
「どうかしたのか?」
「あ、いや何でもないよ。まあフィーだけじゃないんだけど、他にも家族がいて皆で大陸中を旅しているんだ」
「そうか、私はレグラムからあまり出たことがない、だから外の世界に大いに興味があるんだ。帝国以外の国や町はどんな感じなんだ?」
「帝国以外にも沢山の町があったね、四季の綺麗な町や導力車が走る近代化した町……世界は広いって感じたなぁ」
「では強い武人もいるのか?」
「そうだね、沢山の強者と戦ったこともあるけどまだまだ僕の知らない強い武人もいるよ」
「そうなのか!私もいつかそのような武人達と剣を交えてみたいものだ」
ラウラは期待に溢れた目でそう語る。
「ラウラはどうしてその人達と戦いたいの?」
「私の父上は『光の剣匠』と呼ばれる剣士であり私の目標なのだ、圧倒的な強さを持っておりながら決して力に溺れず、強い信念を持ち力なき民を守る武人……それが父上なんだ」
そうか、ラウラにとってアルゼイド子爵は僕にとっての団長みたいな存在なんだ。父親に憧れる、その気持ち凄く分かるよ。
「アルゼイド子爵のことは噂で聞いたことはあるけどやっぱり素晴らしい人なんだね」
「うむ、私も将来は父上のような立派な武人になりたい、力なき者を守る騎士に……それが私の夢なんだ、リィンも力とはか弱き者を守るものだと思わないか?」
「そうだね、僕も大切な人を守れる力が欲しい、だから力を求めた」
「そうか、リィンもそう思うか、やはりそなたも良き剣士だ。力はそのために使うもの……だからこそ力を振りかざして力なきものを虐げる者が許せない。例えば『猟兵』だ」
ピクッ……
ラウラの言葉に僕は反応した、クッキーを食べていたフィーも反応して一瞬表情を曇らせた。
「『猟兵』……戦場の死神と呼ばれている人達だね」
「うむ、戦場を生業としミラさえあれば如何なる非道な依頼も受けるという猟兵、己の欲望だけの為に人を傷つけるなど……私はそんな猟兵が許せないんだ」
……そうだよね、普通なら猟兵はラウラのいう通りのイメージだ。エレナは受け入れてくれたけど猟兵は嫌われ者、それが当然だ。
ふとフィーを見るとフィーの表情を見慣れた人間にしか分からないが悲しそうな表情をしていた。
「……リィン、何だか気分が悪そうだが大丈夫か?」
「ううん、何でもないよ、大丈夫だから」
「……?」
「お嬢様。そろそろ門下生達の稽古が始まりますが……」
ちょうどいいタイミングでクラウスさんが声をかけてきた。良かった、ちょっと空気が悪かったから助かった。
「む、もうそんな時間か。リィン、フィー、これからアルゼイド流の門下生の稽古があるのだが良かったらそなた達も見学していかないか?」
「アルゼイド流の?……うん、是非見てみたい、お願いしてもいいかな」
アルゼイド流の稽古か、剣士として是非見ておきたい。それにちょっと暗い気分になったから気分転換もしたいからね。
そして僕達はアルゼイド流の門下生達が日々稽古に明け暮れている『練武場』に向かった。
因みにフィーはあまりノリ気ではなかった。
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ーーー 練武場 ---
『はあっ!やあっ!せりゃあ!!』
練武場の中では数人の男性が武器を持ち素振りをしていた。誰もが一糸乱れずに剣を振るう…凄い気迫だ、これがアルゼイド流……
「師範代、お嬢様、お待ちしておりました」
一人の門下生の人がクラウスさんとラウラを見てそう言った……って師範代ってクラウスさんが?
「クラウスさん、師範代だったんですね」
「そういえば言ってなかったな、じいはアルゼイド流の師範代で私の師でもあるんだ」
師範代か、それならクラウスさんの秘められた実力も納得だ。
「お嬢様、こちらの方々は?」
「この二人は私の客人だ、アルゼイド流の見学に来てもらったんだ」
「そうでしたか、自分はフリッツと申します、宜しく」
「リィンです」
「ん、フィーだよ。宜しく」
フリッツさんは爽やかに笑いながら手を差し伸べてきたので僕はそれに答えた。
「リィン殿、貴方も剣士なんですね、体は細く見えますが相当鍛えておられることが分かります」
「フリッツさんもかなりの鍛錬をこなしていますね、流石はアルゼイド流の門下生の方ですね」
他の門下生の方も強い、だがフリッツさんはより強いのが分かる。
「フリッツは門下生の仲でも一番の実力者です、リィン様も彼の実力を感じられた模様ですね」
クラウスさんの言葉に僕は頷く、僕も剣士として彼の強さを感じたからだ。
「如何でしょうか、リィン様、フリッツと手合わせをしてみては?」
「手合わせですか?」
「ええ、僭越ながら私は貴方様の実力に非常に関心がございます。それにリィン様も剣士としての血が騒いでおられるかと思ったのですが違いますかな?」
クラウスさんにはお見通しか。実は試してみたかったんだよね、洗練された剣術に我流の剣が通じるのかを。
「リィン、どうするの?」
フィーがそう聞いてくるがもう僕の心は決まっている。
「是非お願いします」
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ーーー
side:ラウラ
「それではリィン殿、お手合わせお願いします」
「こちらこそお願いします」
リィンとフリッツは練武場の中心にある台の上に立っていた、フリッツは両手剣を、そしてリィンは『太刀』と呼ばれる剣を構えた。
「あれが太刀、なんと美しい刀身なんだ」
まるで鏡のように洗練された美しい刀身に私は思わずそう呟いた。
「しかし異様に細長い刀身だ、あれでは直に折れてしまうのではないのか?」
「そんなことはないよ」
私の隣にいたフィーが話しかけてきた。
「フィー、それはどういう事だ?」
「わたしもリィンから聞いただけなんだけど『太刀』は強度や切れ味を追求した剣らしいから意外と頑丈らしいよ」
「そうなのか。見た目の美しさに加え実戦向きに作られているのだな」
初めて見る『太刀』での戦闘に私は胸を高鳴らせていた。
『お姉さま~っ!』
聞きなれた声が練武場に響いた。入り口を見るとクロエ、シンディ、セリアの姿が見えた。
「お姉さま、やっぱり練武場にいたんですね」
「そなた達、どうしてここに?」
「それは勿論稽古されているお姉さまの凛々しいお姿を見るためですわ」
シンディが私が練武場にいたことに喜んでいる。何故練武場に来たのだろうか、それを聞くとセリアは顔を赤くしていた。
「……ってあれ?お姉さま、稽古はされてないのですか?」
「うむ、今日は今からリィンとフリッツの実戦稽古が始めるんだ」
ギラッ!!
むむ、突然三人の眼光が鋭くなったぞ?
「お姉さま、あんな楽しそうに笑みを浮かべています……」
「リィンというのは先ほどの殿方よね?」
「まさかお姉さまに手を出したんじゃ……」
「そ、そ、そんな空の女神を侮辱するほどの大それた事を……!」
一体どうしたのだろうか、クロエ達は本来はいい子なのだが時々おかしな様子になるし……うむむ、妹分達の考えていることが分からない。
「そこの三人、二人の迷惑になるから静かにして。特にそこの寸胴娘」
「あ、貴方はさっきの失礼な娘……ってだれが寸胴ですか!」
フィーが三人に注意する、一人だけやたら辛辣だが……案の定クロエも反応してしまうしこのままではリィンとフリッツに迷惑をかけてしまうな。
「こら二人とも、今は稽古をしてるのだぞ。そんな大きな声で言い争いをしていたら皆に迷惑をかけてしまうではないか」
私がそう言うと二人はシュンとした顔になった。
「そうだね、リィンに迷惑かけたら駄目だよね……ごめんラウラ」
「ぐぐッ、お姉さまに迷惑はかけられません。今回は私が大人の対応で引いて差し上げますわ」
「……ペチャパイ」
「ムキ―——ッ!」
はあ、これは言っても駄目だな。
「む、そろそろ始まるか」
台の上に立つ二人は審判であるじいの指示を待つ、そして……
「試合開始!」
じいの声と共にフリッツが駆け出した、素早い踏み込みでリィンに迫る。
「はぁぁ!」
そして両手剣をリィン目掛けて振り下ろした、流石はフリッツだ、踏み込む速度も申し分ない、普通ならこれで決まりだろうが……
「ふッ!」
リィンはそれに反応して体をそらし攻撃をかわした、そして隙の出来たフリッツに横なぎの一撃を放つ、フリッツは両手剣を盾のように構えて防いだ。
流石はフリッツだ、武器を巧みに使いこなしている。
「はあッ、せいッ、とりゃぁッ!!」
お返しといわんばかりにフリッツは連続で剣を振るう、重い両手剣をあそこまで素早く触れるのは門下生の中ではフリッツだけだろう。
リィンは攻撃をかわしているが徐々に台の端に追い詰められていく。そしてとうとうリィンは端まで追い詰められてしまう。
「あら、追い詰められてしまいましたわ」
「ふん、やっぱり男なんてこんなものですわ」
シンディやクロエはこのままリィンが負けると思ったのかそう言っていた。普通ならそうかも知れないが私はそうは思わない、何故ならリィンは追い詰めれれているのに諦めた表情すら浮かべていない。
「リィン、信じてるよ」
フィーもリィンが勝つ事を信じている。さあ、そなたはどうするのだ、リィン?
「でやぁぁぁ!!」
フリッツが動き先ほどよりも更に早い踏み込みで剣を振り下ろす、それに対しリィンは太刀を構えた。
まさか受け止めるつもりか?無茶だ、両手剣の重量から放たれる一撃を頑丈に作られているといえあんな細い刀では受け止められない、折れてしまうぞ。
「はあッ!」
リィンは両手剣が刀に当たった瞬間刀の向きを変える、すると両手剣が反れるようにずれた。何が起きたのだ?
「なッ!?」
フリッツも自分の攻撃がそれたことに驚いていた。リィンはその隙を逃さずにフリッツに一撃を放つ。
「僕の勝ちです」
「……そうですね、この勝負、自分の負けです」
リィンはフリッツに当たる手前で刀を止めている。実戦ならやられていただろう、この勝負はリィンの勝ちだ。
「まあ勝ってしまいましたわ」
「本当にお強いのですね……」
「フンッ、まぐれに決まってますわ!」
シンディとセリアもリィンを認めたようだ、クロエだけは認めてないようだが……
「やっぱりわたしのリィンは強い……」
フィーもリィンの勝利に喜んでいるようだ、というか私のとは……?
「ふう、何とか勝てた」
するとリィンとフリッツが此方に歩いてきた。
「リィン、見事な剣技だったぞ、フリッツ、そなたも素晴らしい太刀筋だった」
「ありがとうございます、お嬢様。しかしリィン殿、先ほどの最後に自分の一撃を防いだ技は一体何だったのでしょうか?」
「それは私も気になった、リィン、あれは一体何なのだ?」
先ほどリィンがフリッツの攻撃をそらした技が気になっていた。
「あれは攻撃を受け流したんだ」
「受け流す?」
受け流す?どういう事だろうか、防ぐとは違うのか?
「太刀は「折れず、曲がらず、良く斬れる」の3要素を非常に高い次元で同時に実現した剣なんだ。でも流石に細いから鍔迫り合いばかりだと刃こぼれしちゃうし最悪折れてしまう、だから刀で攻撃を防ぐんじゃなく力の流れを利用して攻撃をそらすんだ。」
「そんな技術があったのか、剣の道は奥深いな……」
私はリィンの話を聞いて自分の知らない技や技術に感心する、やはり剣の道という物は奥が深い物だ。
「リィン!」
するとフィーがリィンに抱きついた。
「リィン、凄かったよ。とてもかっこよかった」
「ありがとうフィー」
リィンに頭を撫でられたフィーは嬉しそうに笑う。そ、そんなに気持ちいいのだろうか?……はッ!私は何を考えているのだ?
「見事な試合であった」
その時練武場に凛とした声が響いた、この声はまさか?私は声が聞こえた練武場の入り口を見る、そこには一人の男性が立っていた。間違いない、あれは……
「父上!?」
side:リィン
「父上!?」
ラウラの驚く声が響く、父上ってことはまさかあの人が……!
「『光の剣匠』……ヴィクター・S・アルゼイド子爵!」
あれが光の剣匠……み、見ただけで判断できた、強すぎると……立ち振る舞いには一切の隙がなく静かに放たれる闘気は団長と同じかそれ以上だ。
「今帰ったぞクラウス、留守の間ご苦労だった」
「これは旦那様……お帰りなさいませ」
「父上、お帰りになられたんですか」
「おおラウラ、今帰ったぞ。長らく留守にしてすまなかったな」
「いえ、こうして父上がお帰りくださり私は嬉しいです」
ラウラやクラウスさんと話すアルゼイド子爵、ラウラを見るその目は優しい父親のものだった、どことなく団長に似ている。
『お帰りなさいませ、親方様!!』
「皆、ただいま。皆も前に見たときよりも実力を上げたな、特にフリッツ、そなたの成長は目を見張るものだ、素晴らしいぞ。これからもその調子で精進するがいい」
「ありがとうございます!」
「うむ」
するとアルゼイド子爵が僕のほうに歩いてきた。
「客人達、挨拶が遅れてしまい申し訳ない、私はヴィクター・S・アルゼイド。このレグラムを治めている領主だ」
「え、えっとリィンです!」
「……フィーです」
フィーも緊張しているみたいだ。無理も無い、僕だってかなり緊張してる。
「そう緊張しなくてもいい。それよりもリィン、先ほどの仕合見事であった、まだ若いのに大した実力だ」
「あ、ありがとうございます!」
あの光の剣匠に褒められるなんて光栄だ……!
「ふむ、もうこんな時間か。そなた達が宜しかったら一緒に夕食でもいかがかな?」
「……えっ?」
ーーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー
えっと、これはどういう状況なのかな?今僕達はアルゼイド子爵の誘いを受けてラウラの屋敷で夕食をいただいてるんだけど完全に場違いだよね。雰囲気が違うというか……
「ふむ、どうかしたのかリィン、あまり食が進んでいないように見えるが?」
「あ、いえその……僕はこういった席に出たことがなくて、そのマナーも知りませんし……」
「ははッ、そうか。だが今は無礼講だ、そなたの妹君のように気にせず楽しむがいい」
フィーはさっきまで緊張してたみたいだが今はいつものペースに戻って食事をしていた
「リィン、これ美味しいよ。モグモグ……」
確かに子爵の言う通りだ、僕はスープを一口飲む。
「あ、美味しい」
その後は緊張も落ち着いてきた、子爵、もしかして気遣ってくれたのかな?
「リィン、一つ聞いてもいいだろうか?」
「はい、何でしょうか?」
「そなたは東方の出身なのか?」
「いえ、多分違うと思います」
「多分?」
「あ、いえ、それよりどうしてそんな事を?」
何で子爵はそんなことを聞いてきたんだろう?
「そなたは『剣仙』ユン・カーファイ殿を知っているか?」
「ええ、『八葉一刀流』の創設者……ですよね」
「うむ。実は昔、私はユン殿と出会った事があってな。その時にユン殿が持っていた剣がそなたの持つ刀であったからそなたも東方の者かと思ってな」
「そうでしたか……でも僕は我流です、八葉一刀流は名前しか知らないしこの刀は僕の師がくれたものですから」
「そうか、そなたの師に会ってみたいものだ」
「機会があったら是非……」
まあ無理だよね、その師が『猟兵王』ルトガー・クラウゼルだからね。でも『剣仙』か、『光の剣匠』も会ったことがある剣豪……いつか会ってみたいな。
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「本当にありがとうございました」
あの後、夕食を頂きそろそろ帰るところだ、もう辺りも暗くなってきたし……あれ、そういえば僕なんでレグラムに来たんだっけ?思いだせないな。
「リィン、そなた達はまだレグラムにいるのか?」
「うん、後1日くらいはいるよ」
「そうか、なら明日もまた来て欲しい、是非手合わせを願いたい」
「そっか、ならまた明日くるよ、僕もラウラの剣を見てみたいしね」
「うむ、約束だ」
僕はラウラとそう約束してレグラムを後にした。
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ーーー エベル街道 ---
「でも良かったの?」
「ラウラとの約束のこと?確かに猟兵のことがバレたら大変だけど僕もラウラと戦ってみたいし」
「そうじゃなくてお酒を買わなくても……」
「あ……」
わ、忘れていたァァァァ――――――――――――――――!!!!!
因みに怒られるのを覚悟して帰りマリアナ姉さんに謝ったが僕達が出かけた後皆飲みすぎて寝てしまったからいいと許してもらえた、次は気をつけないといけないな。
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