俺の名はシャルル・フェニックス
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拘束と不死鳥
戦が終わった。
戦と言ってもいいのかと思うほど俺達の圧倒的な勝利で。
最早、蹂躙と言っても過言じゃない。
未だ戦闘行為が出来る奴が居ないか警戒しながらも、3人の方へと向く。
誠菜は青い顔になりながらも懸命に、必死に一部始終を見てた。
今は四肢が焼けて這いつくばりながら呻いてる一人の堕天使を見てる。
一切目を離さずに。
誠菜と後で話さないとな。
恋はそんな誠菜を番犬のように守ってる。
後で誉めなければなるまい。
恋が戦闘力のない誠菜を守ってくれたからこそ、俺は安心して戦えた訳ですし。
千冬はと言うと、生き残りを最低限の治療をして、拘束してる。
生き残りは堕天使たちへ引き渡す予定だ。
暗黙の了解みたいなものだからな。
と言っても、生き残りなんてそんなにいない。
はぐれ悪魔祓いの生き残りなんて一桁もいないだろう。
千冬の「清き審判」を受けたやつは全員死んでるし、それ以前に戦闘不能にした奴だって大半は致命傷か、即死か、だしな。
致命傷の奴は宝涙や涙を使えば死ぬことはないが、使う理由がない。
宝涙よりも劣る涙ですら、貴族や金持ちでなければ手が出せない値段がする。
宝涙は言わずもがな。
俺たちがやってんのは慈善事業じゃない。
例え宝涙や涙を使って治したとしても、この廃教会にいる奴らはグレゴリによって裁かれる。
死刑だってあるかもしれない。
そんな奴らに使うほど俺は甘くはない。
義理がない。
だからこそ――いや、だけれども、俺は、フェニックスの宝涙をロリ堕天使へとぶっかけた。
シュゥゥウウと音を出しながら、大火傷が回復していく。
宝涙の効果は凄まじく、瀕死の重症だったのに、全回復していた。
ああ、目を覚まさない内に縛っておかなければ。
生憎、縛る趣味も、縛られる趣味もないため、縛り方は良くわからん。
今日みたいのが何度かサーゼクスさんの依頼であって、拘束したことはあるが、あくまで戦闘能力を無くすための縛り方だし、趣味ではない。
だから、適当に足首と両手を背に回して縛る。
縛るのに使ってるのも束特性で頑丈なだけでなく、堕天使や天使が使う光力が使えなくなるという代物だ。
他にも種類は多々あるが、あまり種類を使わないので覚えてない。
魔力が使えなくなるのとただ頑丈なのしか使ったことはないからな。
まぁ、そんなことは置いといて。
千冬の後片付け(介錯と拘束)も終わったので、俺も仕事をすることにしよう。
なあに、燃やすだけの簡単なお仕事さ。
そのために朱き不死鳥の型から戻らなかったんだ。
大きな炎の塊を小山になってる死体へと投げつける。
火葬ってわけじゃなく、証拠隠滅みたいなものだ。
戦闘行為は隠しても戦った後はそのままなんて問題になるしな。
警察沙汰とか。
だから、骨まで燃やし尽くして、灰は散らしておく。
この廃教会も証拠隠滅のため、買い上げなげれば……土地の権利誰が持ってんだろ……
町役場に聞けば分かるか。
買った後は……そうだなぁ……レストラン……にしては広すぎるか。
50弱が戦闘出来るくらいの広さが有るもんなぁ。
マンション作るにしても、立地がなぁ……
戦闘より、戦後の方が面倒だって思うのは、やはり殺しに馴れすぎだろうか?
まぁ、後で皆と決めるか。
燃え尽きたし、朱き不死鳥の型から戻る。
途端に高揚感やらが潮が退くように冷めて行き、重力が増したような重さがのし掛かる。
1時間くらいしたら馴れるんだが、この感覚は嫌いだな。
さて、生き残りを送るためと、尋問するために移動しよう。
家に連れて行くわけにはいかないから別のアジトみたいなとこだけど。
その前に連絡いれとかないとな。
インカムをトントンと指で叩く。
叩き方や回数でどこに繋がるか指定することができるんだ。
他のやり方もあるけれど俺はこのやり方を好む。
「束。聞こえるか?」
『ばっちぐーだよ。シーくん』
「戦闘。終わったぞ。被害は無しで」
『うんうん。どうやら、今回も派手にやったみたいだねぇ。このこの』
「まぁな。いつものことだしなぁ。
脅しから入るのはスタイルみたいなもんだ。
運搬の手筈整ってるか?」
いつもなら、このまま戦闘組が捕縛者を連れてくんだが、今日は誠菜がいるからな。
終わったなら終わったで、早めに休ませてやりたい。
だから、運搬は黒歌がする手筈となってる。
『のーぷろぐれむだね。問題なさすぎもーまんたい!』
「そっか。じゃあ、俺たちは先にアジトの方に向かうわ」
『りょーかい、りょーかい。じゃあ、ゆきりんを赤髪の所から戻していい?
束さんお腹と背中がくっつきそうだぜい!』
「お前なぁ、自分で作れよ。インスタントくらいならできるだろ」
他のはできないけどな。
俺は電気ケトルならできる。
ヤカンで、というか、火を使ってやろうとすると何故か水は蒸発し、ヤカンが少し変形する。
俺もう呪われてるとしか思えないんだ。
調理実習の時なんか火の元に近づけさせてくれないしさ。
専ら切るか洗うかですよ。
自分の炎でやれば出来るって分かったけど、湯を沸かすのに自分の炎を使うってのも……なぁ?
本当に何でなんだろ。
『やだべー、だ!
ゆきりんのご飯と比べるとゴミだよゴミ。
もうゆきりん無しじゃ生きられない身体になっちゃったのさ!』
「はいはい。そうですか。
んじゃ、俺らの分も頼んどいてくれな。白雪にはわるいけどな」
『らじゃー、らじゃー。じゃ、切るねん。ばいびー』
「ああ、また後で」
『っ……ふふっ。うん。また後でねー♪』
喜悦を含んだ声色を最後にプツッと通信が途絶えた。
「なんか、喜ばせるようなこと言ったか……?」
確かに喜んだ時の声音だった。
これは間違いない。
自分自身鈍感なつもりはないし、それなりの経験と結果を出してるし、元々俺は喜びや愛情を感じ取れる、そういった血を受け継いでいて、その感覚が間違ったことは一度もないと言っても過言じゃない。
だから、こそ喜んだという結果は分かるが、喜んだ原因は分からん。
全く。
前々から束の喜ぶポイントが分からないんだが。
理子も多少分かりづらいけど、束ほどじゃない。
まぁ、そういった所とか結構魅力を感じるタイプなのでいいんだが。
と少し惚気てみる。
まぁ、それは置いといて。
「皆、撤収するぞ。
回収は黒歌に任せてな」
「誰が残る?」
と、千冬が訊ねてくるが、当たり前に。
「俺が残るさ」
「……恋、残る」
すぅっと、今まで誠菜の側にいた恋が一歩前に踏み出した。
表情は乏しいが、少し不満げな表情だ。
自分は戦える、だけど何もしてないことが不満なんだろう。
俺は誠菜を守るって仕事をしてもらったと思ってるが、恋はそう思わないんだろう。
「いや、恋。ここは俺に格好つけさせてくれ」
少し考えた後、フルフルと首を振る。
ロリ堕天使を一瞥し、まだ寝てることを確認し、恋へと近づき耳元で囁く。
「恋。お願いだ。誠菜の側に居てやってくれないか?
誠菜は心優しいから、今もの凄く辛いと思うんだ。
だけど、友達であるお前が居てやるだけで、安心するだろ。だから、頼む」
な?、と肩を叩くと恋も渋々頷いてくれた。
見させた俺が言っていいことじゃないんだろうけどな。
それでも、心配くらいするさ。身内なんだから。
「それじゃ、俺は黒歌をまつから。じゃあな」
「私は残るか?」
「いや、いいさ。千冬には家にいる問題児の相手を頼む。今腹すかせてるらしいしな」
「ハァ、了解した」
心底嫌そうに、千冬は溜め息を漏らした。
「ツンデレお疲れ」
「うるさい」
軽口を言うと、ギロッと睨まれた。おおっコワッ。
何か口に出すともっと睨まれそうなので手をヒラヒラとさせて、「早よ行け」と伝えるとスタスタと扉のない廃教会から出ていった。
千冬の後に続き、誠菜、恋の順で、出ていこうとするが、途中で誠菜が振り返った。
その視線は、廃教会全体を見た後、一人の堕天使を見た。
天野夕麻と名乗った、黒髪の堕天使。
俺の記憶が正しければ、レイナーレ。
そいつを見て哀しげな表情をしてから、何も言わずに去って行った。
やっぱり、誠菜は優しい。
優し過ぎて甘い。
美徳だが、美徳過ぎるから、そこが欠点となる。
裏の世界で暮らしていくなら。
けれど、もう戻れないし、戻せない。
すまないが、このまま歩き続けていって欲しい。
そのために出来ることなら俺は協力するから。
俺たちは家族だから。
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