戦国異伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二百二十一話 肥後の戦その七
島津の者達は退きにかかった、それは伏兵だった騎馬隊も同じだった。山田が放った火矢を見てだった。
彼等もすぐに退いた、井伊の軍勢を振り切って。その足は速く。
瞬く間に逃げ去ってしまった、それは島津の主力も同じだった。
素早く逃げ去った、それを見てだった。
本多正信は信康にすぐに言おうとした、だが。
信康は笑ってだ、こう本多に言った。
「御主もわかっておろう」
「はい、追いましても」
「逆にな」
「こちらがやられますな」
「よい時に逃げたわ」
信康は島津の側に立っても言った。
「まだ力がある」
「その島津に攻めても」
追い打ちをかけてもというのだ。
「手傷を負いますな」
「ここは退かせてじゃ」
「そのうえで」
「次の戦にかかろう」
これが信康の考えだった。
「そうしようぞ」
「ではここは追わず」
「あえて行かせる、次の戦は城攻めじゃな」
山田の考えと同じことをだ、信康は言った。
「その用意をしよう」
「次はですな」
「そうする、とはいってもその時もな」
城攻めの時もというのだ。
「囲むだけじゃ」
「攻め落とすことはですか」
「せぬ、やはり島津にはまだ力がある」
城攻めの時にもというのだ。
「迂闊に攻めてもこちらが手傷を負うしそれにじゃ」
「しかもですな」
「攻めている間に戦が終わる」
「この九州での戦が」
「だからじゃ」
それでというのだ。
「ここはこれといって攻めずにじゃ」
「囲んだままで」
「戦が終わるのを待つ」
「そうしますな」
「そういうことじゃ、我等はその城を囲み」
そのうえでというのだ。
「肥後を手中に収めていこうぞ」
「畏まりました」
本多も応えた、こうしてだった。
信康は戦に勝つと然程追わず程々にして後は陣を整えさせた、そうしてだった。
島津の軍勢の動きを調べさせてだ、こう全軍に命じた。
「ではな」
「はい、これより」
「その城を囲みますな」
「そのうえでじゃ」
そしてというのだ。
「後はじゃ」
「どうされますか」
「今後は」
「城を囲んだうえで肥後の国人達に人をやりじゃ」
そしてというのだ。
「織田家につくようにな」
「促していく」
「そうしますか」
「最早天下は定まっているとな」
その様にというのだ。
「伝えるのじゃ」
「しかし竹千代様」
ここで酒井が信康に言って来た。
「この肥後の国人達は」
「存外じゃな」
「頭が固いそうで」
「織田家にもじゃな」
「従わぬ者が多いやも知れませぬ」
こう言うのだった。
ページ上へ戻る