黒魔術師松本沙耶香 魔鏡篇
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3部分:第三章
第三章
「また。御会いできますよね」
「あのお店に行ってもいいのね」
「何時でも待っています」
こう答える。今は青いジーンズに白いシャツ、それに上に黒いジャケットを羽織っている。そうした実にシンプルな姿だ。だがそこにも健康的な色香がある。
「ですから何時でも」
「入らせてもらうわ。それではね」
「また」
こう話して別れを告げる。美女はそのままようやく朝になろうとしている魔都の中を歩いていた。空は白から次第に青になろうとしている。その中を歩いていた。
そのまま朝の道を歩きある場所に入った。そこは不思議な場所だった。
暗闇だが暗闇ではない。誰かがいた。それは灰色のフードに身を包み粗末な机と椅子に座った者だ。男か女かも年齢もわからない。顔も見えはしないからそれもまた当然だった。フードは全てを隠してしまっていた。
美女は暗闇の中のそのフードの者のところに来てだ。そうして言ってきた。
「依頼は来ているかしら」
「一つ」
しわがれた声だった。一応は男の声だった。しかしそれが果たして本当に男のものなのか女のものなのかはわかりはしない。
その声でだ。美女にさらに言ってきた。
「相手は奇術師だ」
「私と似た仕事ね」
「そうじゃな。似てはいる」
フードの者は美女の言葉に応えて述べてきた。
「あんたとな」
「私は魔術師だから」
美女は唇と言葉を微笑まさせた。そのうえでの言葉だった。
「確かに似てはいるわね」
「その奇術師からの依頼じゃ」
「手品に関するものかしら」
美女は奇術師からそれを察した。そのうえでの問いだった。
「それだと」
「鏡」
フードの者の問いは一言だった。
「鏡にまつわる依頼じゃ」
「そう、鏡ね」
美女はそれを聞いてまた言葉を微笑まさせた。
「それはまた面白いものね」
「受けるのか?それで」
「来た依頼は受けるわ」
これが彼女の返答だった。
「それが松本沙耶香の流儀だから」
「もう一つあったがそちらはあの御仁に取られてしまった」
「そう、彼に」
「あの御仁はあんたと違って真面目じゃからな。そうした流儀とかを出さずとも自然に仕事を受ける。そしてそのうえですぐに向かう」
「彼はそうした人だから」
「速水丈太郎」
その男の名前を出した。
「相変わらず勤勉じゃ」
「そうね。ただ私は違うわ」
「楽しむのじゃな」
「今回もね。楽しませてもらうわ」
実際にそうなのだと言う。やはりその言葉は笑っている。
「それではね。行って来るわ」
「鏡となれば一筋縄ではいかんな」
フードの者はまた言った。
「それも楽しみなのじゃな」
「ええ、楽しみよ」
沙耶香はそのまま返した。
「それではね。またね」
「ではな。また会おう」
フードの者に別れを告げて暗闇から姿を消した。そしてそのうえで東京の街に戻った。そのうえで向かったのはある屋敷だった。ゴシック様式を真似たと思われるその壮麗かつ鋭角的な外観が印象的だ。
白い重厚な雰囲気の壁に鋭角の屋根がある。そしてそこには煙突も見える。建物は三階建てであり窓も長方形でガラスと鉄が見える。そして庭は左右対称で緑の狼や獅子の姿が見える。沙耶香はその屋敷の中に入った。
そして白い木の扉に触れる。すると扉は自然に開いた。そしてそこに入ると中は質素なものだった。教会を思わせる峻厳な雰囲気がありシャングリラの大広間の先に階段が見える。そこに入ったのだ。
大広間の端に左右それぞれ廊下が見える。二階は天井に阻まれ見えない。そうした屋敷だった。沙耶香がシャングリラの下に足を進めるとだ。ここで階段から一人の美女が降りてきたのであった。
「松本沙耶香さんですね」
「そうだといえばどうなるのかしら」
「お待ちしていました」
これが返答だった。
「依頼をしたのは昨日ですがもう来られたのですか」
「それはもう聞いたからよ」
そうだというのであった。
「今朝ね」
「今朝お聞きになられてもうですか」
「そうよ。来たのよ」
「まだ八時にもなっていませんが」
「それでも聞いたのよ」
沙耶香は笑っていた。その美女に向けてだ。
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