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黒魔術師松本沙耶香 魔鏡篇

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2部分:第二章


第二章

「貴女のお勧めのものを出してね」
「お任せして下さるのですね」
「この東京の夜を飾るのは何か」
 飲み終えたグラスを置いてから右手で頬杖をついてだ。そうして言ってみせたのだ。
「美酒と美女だけれど」
「美女ですか」
「けれどその前に美酒が必要だから」
 言いながらカウンターの中の彼女を見る。その目を見てだ。
「その美酒は貴女に頼むわ」
「わかりました。それでは」
「さて。今夜は」
 美女はカウンターの彼女を納得させてからだ。それから彼女が勧めるカクテルを飲んでいく。そうしていくうちに店の者は誰もいなくなった。美女と彼女だけになった。ここで美女はその彼女に対して言ってきたのである。
「では」
「はい」
「行きましょう。貴女の部屋は何処かしら」
「私の部屋で、ですか」
「場所は何処でもいいわよ」
 彼女の目を見ての言葉だ。切れ長の目を細めさせそのうえで言ってみせている。それはまるで術にかけるかのようであった。
「何処でもね」
「何処でも」
「さあ、何処がいいのかしら」
 わざと彼女に判断を預ける。そうした感じであった。
「貴女は」
「私は」
「貴女の部屋かしら。それともホテルかしら」
「ホテルですか」
「そうよ。何処かしら」
 また問うてみせた。
「貴女が望む場所は」
「部屋には人がいますから」
「彼氏なのね」
「そうです」
 美女の言葉に対してこくりと頷く。
「彼氏が」
「それなら部屋は駄目ね」
「すいません」
「謝る必要はないわ」
 微笑んでそれはいいとした。
「なら。ホテルがいいわね」
「そこですか」
「いいホテルを知っているわ」
 ここからはもう美女の思うがままであった。完全にリードしていた。
「そこに行きましょう」
「それで御願いします」
「そこで二人で楽しみましょう」
 誘惑の言葉だった。明らかな。
「二人でね」
「二人で、ですか」
「二人きりの夜をね」
 こうも言ってみせたのであった。
「今から楽しみましょう」
「はい、それでは」
 こうして彼女を夜の中に誘う。そうしてホテルの浴槽の中でだ。バーテンダーの彼女のその白い肢体を湯舟の中で抱きながらだ。そのうえで囁くのだった。
「素敵ね」
「私がですか」
「そうよ。素敵よ」
 後ろから抱きそのうえで耳元にその紅の小さな唇を近寄せてそのうえで囁いている。その囁きの言葉は危険だがそれでいて甘い言葉だった。
「貴女は素敵な女性よ」
「そうですか。私が」
「女のよさは女にだけわかるものだから」
 こうも言うのだった。
「だからわかるわ。貴女は素敵な女性よ」
(有り難うございます」
「さあ。それじゃあ」
 その耳元にさらに囁く。
「朝まで長いわ。二人で楽しみましょう」
「それではこれからも」
「ええ。これからも」
 そのまま二人で夜を楽しむ。その宴が終わるとホテルを出た。バーテンダーの美女は恍惚となったままホテルと出てだ。そのうえで彼女に話してきた。
 
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