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流転の防人

作者:bf109k14
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第2章「鉄壁」

 
前書き
第2章になります。ちなみに本作品にはキラ・ヤマトもどきは欠片も出ませんので御了承願います。 

 
アルゼナル・司令室

サリア隊の接近に対して発進したスーパーX3、その存在は即座にアルゼナルの司令室でも探知され、レーダー画面に現れた新たな反応を確認したヒカルは表情を強張らせながらジルに報告を行った。
「……新たな彼我不明目標を確認しました、数は1、サリア隊と同高度に上昇した後にサリア隊目掛けて前進を開始しました」
「……新たな目標ですって!?」
ヒカルの報告を受けたエマは驚きの声をあげ、傍らのジルは静かにレーダー画面を確認しながら口を開いた。
「……サリア隊の接近を確認して発進したんだろう、数から考えて目的は恐らくこちらと同じく相手との接触だろう」
(若しくは……戦力に自信があるかのどちらか)
ジルはエマの言葉に応じながら胸中で呟き、レーダー画面に映るサリア機の輝点を一瞥した後に主任オペレーターのパメラに問い掛けた。
「先方から何らかのコンタクトは?」
「現在調査しています」
ジルの言葉を受けたパメラはそう言葉を返しながらセンサー類を操作していき、目標群から発信されているとおぼしき無線波を確認すると、急いで報告を行った。
「目標から発信されていると思われる無線波を確認しました、複数の周波数帯に発信中です」
「……よし、オリビエ、通信を確認してそれを流してくれ」
パメラの言葉を受けたジルは即座に新任オペレーターのオリビエに指示を送り、オリビエはそれに従い発信されている無線波をキャッチしてそれをスピーカーに流した。
「現在当方に接近中の機体及び運用司令部に告げる、当方に敵対の意思無し、繰り返す、当方に敵対の意思無し、当方より発進せし機体は指揮官機であり接触兼交渉機である、交渉の為、通信可能周波数を知らされたし、繰り返す、現在、接近中の機体及び運用司令部に告げる、当方に敵対の意思無し、繰り返す、当方に敵対の意思無し」
スピーカーからはアルゼナルに向けて発信されているとおぼしき切迫した響きの声が響き、それを受けたエマは眉を潜めさせながらジルに問い掛けた。
「……本当でしょうか?」
「……多分な、パメラ、先方に応答して使用周波数を知らせてやれ、ヒカル、サリア隊に先方とコンタクトが取れた事を伝えろ」
「「……ハイ」」
ジルはエマの言葉に応じた後にパメラとヒカルに指示を送り、二人は了解の言葉と共に行動を開始した。

サリア隊

彼我不明目標群とのコンタクト成功の報は直ちにサリア隊にも告げられ、それを受けたサリアは彼我不明機の接近してくる方向を見据えながらヴィヴィアン達に通信を行った。
「今、司令室から連絡があったわ、先方に敵対並びに交戦の意思は無いそうよ、現在こちらに接近中の機体はこちらとの接触兼交渉機で先方の指揮官機らしいわ、各機はフォーメーションを維持したまま前進、接近してくる指揮官機を確認した後にあたしが先方の指揮官と通信を行うわ」
「「イエス・マム」」
サリアの通信を受けたヴィヴィアン達は即座に返信を送りサリアはそれを聞きながら前方を見据え、前方から接近してくる機影を確認して琥珀色の瞳を鋭くさせた。
「来たわね」
サリアがそう呟きつつ接近してくる機影に目をこらしていると小さな機影は徐々にその大きさを増して行き、サリアはその機影、スーパーX3の特異な外見を目にして困惑の表情を浮かべながら呟きをもらした。
「……何なの、あの機体」
サリアが呟きをもらしている間にもスーパーX3はその機影を更に大きくさせて行き、その特異な外見を目にしたヴィヴィアンは興奮した面持ちでサリアに向けて口を開いた。
「サーリァ、サーリァサーリァァァァッ、何なの、何なの、何なのあの機体、すっごく面白そうなんだけどっ!!」
「ヴィヴィアン、落ち着きなさい、各機、このまま一度フライパスする、フォーメーションを維持しなさい」
「「イエス・マム」」
サリアは興奮するヴィヴィアンをたしなめた後に皆に告げ、そしてサリア隊はフォーメーションを維持したままスーパーX3と行き違った。
「全機、右旋回」
「「イエス・マム」」
サリアがヴィヴィアン達に指示を送りながらアーキバス・サリア・カスタムを旋回させているとスーパーX3も彼女達の機動に合わせる様に左旋回した後にホバリング状態となりそれを確認したサリアは戸惑いを覚えながら自隊をスーパーX3目指して前進させた。
見慣れぬ特異な外見の機体に戸惑いを覚えながら接近していくサリア隊、一方彼女達を迎えるスーパーX3の側も接近してくる彼女達の姿に戸惑いを覚えていた。
「……一体何なの、アレ?」
接近してくるサリア隊をモニターで確認した藤田は飛行機とバイクを足して2で割った様な外見のパラメイルの姿を見ながら戸惑いの声をあげ、永倉は接近してくるにつれて明らかになったサリア達のライダースーツを目にして蟀谷を指で揉みながら口を開いた。
「どうします、長曽我部二佐(さん)?空自じゃエロゲみたいなコスチュームした女の子の操る妙な機体への対処法なんて教えてくれませんでしたよ」
「……そんな物世界各国どの軍隊でも教えていないさ」
永倉の言葉を受けた長曽我部は静かに答え、その後に諦念の表情を浮かべながら言葉を続けた。
「しかし、あの格好、目の保養を通り越して目の毒だな……それはさておき、ともかく彼方さんとの交渉開始だな」
長曽我部はそう言いながら無線機の周波数をアルゼナルから伝えられた周波数に合わせ、接近してくるサリア隊に向けて通信を開始した。
「……当方の接近中の機体に告げる自分が指揮官です、そちらの指揮官との交渉を希望します」
「……こちらアルゼナル、パラメイル第一中隊副隊長のサリア、接近中の部隊を指揮しています」
長曽我部の通信に対して接近中の機体群の指揮官、サリアからの返信が送られ長曽我部はそれに対する返信を送った。
「自分は日本陸上自衛隊の特殊戦術機動集団ゴジラ・コマンド隊長の長曽我部基久二等陸佐です、先ずは貴軍の警戒システムに無用の混乱を生じさせ、貴隊の発進を招いた事を陳謝致します」
「……は、はい」
長曽我部が名乗りの後に続けた陳謝の言葉を受けたサリアからは戸惑いを含んだ様子の返信がもたらされ、それを受けた長曽我部は一拍の間を置いた後に更に通信を続けた。
「しかしながら自分達は貴軍に敵対する意思はありません、また、現在自分達は極めて特異的な状況下にあり、情報収集や補給等が必要な状態であります、その為、貴軍の基地若しくは上級司令部との接触を図りたいのですが検討願います」
「……貴官の要請、承りました、少々お待ち下さい」
長曽我部の通信を受けたサリアはそこで一度言葉を区切り、隊内通信でヴィヴィアンとエルシャを呼び出した。
「……エルシャ、ヴィヴィアン、どう思う?」
「……いいんじゃなーい、何か敵じゃなさそうだし」
「話を聞く限り穏便に事を済ませたいみたいだし、大丈夫じゃないかしら」
サリアの問い掛けを受けたヴィヴィアンとエルシャは異口同音に返答し、それを受けたサリアはアルゼナルの司令室を呼び出した。
「……アルゼナル、先方との交信はそちらも確認していると思いますがどうしますか?」
「……先方の要請を受諾しよう、先方にアルゼナルへと向かってもらう様伝えてくれ」
「……了解しました」
サリアの通信に対してジルからの返信が送られ、それを受けたサリアはほんの一瞬表情を緩めたが直ぐに表情を引き締めながらスーパーX3に通信を送った。
「お待たせしました、長曽我部二等陸佐、そちらの要請を受諾します、あたし達の発進した基地、アルゼナルに向かって下さい」
「感謝します、直ちに部隊をアルゼナルに向けて前進させます、ある程度近付いた所で一度停止し、自分を含めた幹部を一度アルゼナルへ向かわせてそちらとの会談を希望したいので検討願います」
「了解しました、この交信は司令室でも確認していますから移動中に返事が来ると思います」
長曽我部からの返信を受けたサリアが交渉が思いの外順調に進んだ事に安堵の表情を浮かべながら応答しているとヴィヴィアンがゆっくりと前進を始め、スーパーX3の近くまで移動すると笑顔で手を振りながら通信を始めた。
「やっほー、長曽我部、あたしヴィヴィアン、宜しくねー、ねえねえ、この面白そうな機体何て名前なの?」
「こら、ヴィヴィアン、何してるのよ!!」
「ハハハ、構いませんよサリアさん、初めましてヴィヴィアンさん、この機体はスーパーX3と言います、自分の他に藤田梨々香一等空尉と永倉奈々美二等空尉が搭乗しています」
「藤田です、初めまして、ヴィヴィアンさん」
「永倉です、初めまして、ヴィヴィアンさん」
長曽我部が涼しげに笑いながらヴィヴィアンに声をかけていたサリアを制しつつ返信すると続いて藤田と永倉もヴィヴィアンに通信を送り、それを受けたヴィヴィアンは笑顔で頷いた後にサリアに声をかけた。
「ねえねえ、サーリァ、エルシャ達も紹介しようよ」
ヴィヴィアンの言葉を受けたサリアは何か言おうとして口を開きかけたが、ヴィヴィアンはあっけらかんとした笑顔を浮かべ、それを目にしたサリアは大きくため息をついた後にスーパーX3に通信を送った。
「申し訳ありません、長曽我部二等陸佐、後でヴィヴィアンにはよく言ってきかせます」
「……お気になさらず、それに自分達としてもそちらの名前を知って置きたいのでヴィヴィアンさんの提案には賛成ですね」
「……分かりました」
長曽我部の返信を受けたサリアは頷くとエルシャに視線を向け、頷いたエルシャがサリアの横まで移動するのを待った後に通信を続けた。
「彼女は重砲兵のエルシャよ」
「エルシャです、宜しくお願いします」
「長曽我部です、宜しくお願いします」
サリアに紹介されたエルシャが穏やかな表情で挨拶を送ると長曽我部も穏やかな声で返信し、それを確認したサリアは緊張した面持ちを浮かべたココとミランダを示しながら言葉を重ねた。
「後方の二人は新兵のココとミランダです」
「こ、ココです、よ、宜しくお願いします」
「ミランダです、宜しくお願いします」
「こちらこそ、宜しくお願いします、ココさん、ミランダさん、最初の内は戸惑う事も多いでしょうが、頑張って下さい」
「「……は、はい」」
ココとミランダの緊張気味の自己紹介を受けた長曽我部は穏やかな口調で返信を返し、ココとミランダはその穏やかな口調に安堵の表情を浮かべながら声を合わせて返事をした。

アルゼナル・パラメイル運用兼発進施設

サリア隊とゴジラ・コマンドの会見の様子はサリア機を介して司令室とパラメイルの運用兼発進施設にも映像つきで送られており、パラメイル運用兼発進施設では第一中隊に所属する残りのメイルライダー達が交渉の進捗状態と画像に映るスーパーX3の姿を確認していた。
「……こりゃ、あたし等の出番はなさそうだね」
予想外にスムーズに進む交渉を確認した緩やかにウェーブするプラチナ・ブロンドのロングヘアとエメラルドグリーンの瞳の鋭い雰囲気の美貌が印象的な美女、第一中隊長、ゾーラは肩を竦めさせながら呟き、その傍らにいたクリムゾンレッドのツインテールと鋭い輝きを宿したライトパープルの瞳の勝ち気な雰囲気の美貌が魅力的な美少女、ヒルダが頷きながら口を開いた。
「……そうと決まったらさっさと帰りましょう、ゾーラ」
「そうですよ、どうせドラゴンじゃないんだからキャッシュも出ないし」
ヒルダの言葉を聞いていたオレンジのショートヘアにサファイヤブルーの瞳の鋭角的な雰囲気の美貌の美少女、ロザリーも同意の声をあげ、ロザリーの後ろの方に控える大きな三つ編みに纏められた煌めく銀糸のロングヘアとその髪によって片眼を隠されたヴァイオレットの瞳の美貌の美少女、クリスが無言のまま頷く事でロザリーの意見に応じた。
「……そうだな、確かにさっさと帰っちまった方が良いかもな、続きも楽しめるしな」
ヒルダ達の言葉を受けたゾーラは相槌を打ちながら少し離れた所にいる滑らかな光沢を放つ金糸のロングヘアとローズ・クォーツの瞳の美貌の美少女、墜ちた皇女、アンジュに視線を向け、その視線を受けたアンジュが胸元を押さえながら睨みつけるのを確認すると笑いながら言葉を続けた。
「まあ、余り緊迫感の無い状態だが、司令官の命令があるまでは一応待機していよう、何かあるかも知れないからな」
ゾーラがそう言った瞬間、それに呼応する様にけたたましいサイレンの音が鳴り響きそれを受けたゾーラは凄みのある笑みを浮かべながら口を開いた。
「なっ……待機しといて良かっただろ、さあ、改めて本番だよ、各員出撃」
「「イエス・マム」」
ゾーラの指示を受けたヒルダ達は即座に応答(アンジュ除く)した後に駆け出したがアンジュだけは状況について行けておらず、それを確認したヒルダは舌打ちした後にアンジュに向けて口を開いた。
「何してんだよ痛姫、さっさと一番後ろの機体に乗りなっ!!」
ヒルダはそう言うと発進態勢が整えられた愛機、グレイブ・ヒルダ・カスタムに駆け寄ってシートに跨がった。
シートに跨がったヒルダはライダースーツのコネクターをシートに接続しているとゾーラが愛機アーキバス・ゾーラ・カスタムと共に夜空(そら)へと駆け出し、それを確認したヒルダは前方を見据えながら口を開いた。
「ゾーラ隊、ヒルダ、発進するっ!!」
「了解、ヒルダ機、リフト・オフ、コンプリート」
ヒルダは司令室からの応答を聞きながら機体を発進させ、グレイブ・ヒルダ・カスタムは一気に加速しながら発進して夜空(そら)へと駆け昇った。
ヒルダが発進するのに相前後する形でロザリーやクリスも発進して行き、最後に戸惑い顔のアンジュが乗り込んだグレイブが発進して行った。
サリア隊

ゾーラ率いる第一中隊主力が出撃した頃、スーパーX3と交渉を行っているサリア隊にもアルゼナル司令室からドラゴン襲来の兆しが生じた事が告げられ、それを受けたサリアは即座にヴィヴィアン達に指示を送った。
「各機、司令室より緊急警報発令、第一中隊主力が出撃して此方に向かっているわ、戦闘態勢を整えなさい」
「「イエス・マム」」
サリアの指示を受けたヴィヴィアン達は返答した後にフォーメーションを組み直し、サリアはそれが完了したのを確認した後にスーパーX3に通信を送った。
「長曽我部二等陸佐、間も無くあたし達は中隊主力と合流した後に交戦に備えます、戦場はこの空域が中心になると思われるので指揮下部隊に離脱を命じた方がいいと思います」「了解しました、直ちに部隊に一時離脱を命じます、情報伝達感謝致します」
サリアから注意換気を受けた長曽我部が返信を送るとサリアは片手を掲げて応じた後にヴィヴィアン達を率いて発進し、長曽我部はその背中に向けて敬礼を送った。
「長曽我部二佐、新たなアンノウンを確認しました。機数5、サリアさん達を探知した方向からこちらに向けて前進中です、恐らくサリアさんの言っていた中隊主力と思われます」
長曽我部が敬礼を解いていると接近してくる第一中隊主力をレーダーで確認した永倉が報告を送り、それを受けた長曽我部は無線の周波数を切り替えて極光に通信を送った。
「極光、こちらゴジラ・コマンドA、既に確認していると思うがこちらと接触していた部隊が対抗勢力との交戦状態に移行する可能性が高い、交戦空域は現在Aが存在する空域となる公算が高い、船団に直ちに離脱する様に連絡しろ、万一の場合に備え、実弾を装填し、第1特殊戦術飛行隊についてはスクランブル態勢にて待機させろ、送レ」
「ゴジラ・コマンドA、こちら極光、了解しました、誤射の可能性がある為シー・スパローについては使用せず、ファランクス及びゴール・キーパーに実弾を装填させます、第1特殊戦術飛行隊については現在スクランブル態勢にて待機中です、第1機龍隊についてはどうしますか?送レ」
「A、第1機龍隊についてはガルーダのみスクランブル発進に備えよ、ただし、発進するのは第1特殊戦術飛行隊が出撃し、更に増援が必要とAが判断した場合のみ発進を許可する、終ワリ」
「極光、了、終ワリ」
長曽我部が極光との交信を行う間にサリア隊は第一中隊主力との合流し、レーダーでそれを確認した永倉は交信を終えた長曽我部に向けて報告を行った。
長曽我部二佐(さん)サリアさん達が中隊主力と合流しました。そのままフォーメーションを組んで前進を開始しました」
「よし、藤田、第一中隊に向けて前進を開始してくれ、情報収集だ」
「了解(ラジャー)」
長曽我部の命令を受けた藤田はそう応じた後にスーパーX3を接敵前進中の第一中隊に向けて前進させた。
前進を開始して暫くすると前方に接敵前進を実施中の第一中隊の姿が確認され、それを確認した藤田はスーパーX3を操りながら長曽我部に報告を行った。「長曽我部二佐(さん)第一中隊と思われる機体群を確認しました、ナナ、確認出来る?」
藤田の言葉を受けた永倉はモニターを確認し、最大望遠でサリア達の姿を確認して報告を行った。
「サリアさん達を確認しました」
「よし、藤田、現在の距離を保ちつつ、第一中隊と平行して飛行、情報収集に当たるぞ」
「了解(ラジャー)現在の距離を保ちつつ第一中隊と平行に飛行します」
長曽我部の命令を受けた藤田は復唱しながらスーパーX3を第一中隊と平行する形で飛行させ、永倉はレーダーとモニター類を使用して第一中隊と周囲の状況を確認した。
「この部隊、相当手練れが揃ってますよ、なかなか根性の座った編隊を組んでいます、ただし、最後方の3機は動きがぎこちない、新人(ターキー)若しくは経験の浅いパイロットですね、たぶんココさんとミランダさんはここにいますね」
「新人(ターキー)若しくは経験の浅いパイロット……か」
永倉の報告を受けた長曽我部は緊張していたココとミランダの事を思い出しながら永倉の報告の中にあった一句を反芻し、その後に難しい顔付きになりながら言葉を続けた。
「……概して初陣の時は大事をやらかす事が往々にしてある、何事もなければ良いがな」
長曽我部がそう呟いた瞬間、まるでその言葉が聞こえたかの様に第一中隊の一機が編隊から離脱し、レーダーとモニターでそれを確認した永倉は緊迫した面持ちになりながら長曽我部に報告を送った。
長曽我部二佐(さん)第一中隊から突然一機が離脱しました、編隊から遠ざかっています!!更にその一機を追う様にしてもう一機が離脱……あれはサリアさん!?」
永倉が報告していると離脱した一機を追う様にサリア機が編隊を離脱し、それれも併せた報告を受けた長曽我部は厳しい顔付きになりながら口を開いた。
「その離脱が何らかの戦術機動であれ可能性はあるか?」
「あり得ません、何らかの戦術機動であれば少なくとも対抗勢力を確認してから行う筈ですからこのタイミングで行う筈がありません、それに離脱を開始したのは最後方の機体の一機でサリアさんはその後に離脱を開始しました、訓練飛行ならとにかく実戦中の戦術機動を経験の浅い者が一番最初に行うとは考えられません」
長曽我部の問い掛けを受けた永倉がそう答えながらレーダーとモニターを注視しているとココ機までもが離脱した二機を追い掛け始め、それを確認した永倉は顔をしかめさせながらそれを報告した。
長曽我部二佐(さん)新たに一機、ココさんの機体が編隊を離脱して二機を追い掛け始めました、最初に離脱した機体、何かやらかしてますよ、これは」
「不味いですね、フォーメーションが崩れてる、こんな時に対抗勢力と遭遇したら」
永倉の報告を聞きながら操縦手用のモニターで状況を確認していた藤田は顔をしかめながら呟き、まるでその呟きが聞こえたかの様に事態は最悪の方向へと動き始めてしまう。
編隊を離脱して水平飛行を始めたサリア機とココ機を含む三機の頭上の虚空に紅の雷光が爆ぜ、それをモニターで確認した永倉は渋面を作りながら口を開いた。
長曽我部二佐(さん)どうやら最悪の展開ですよ、三機の上空に異状現象発生、恐らく彼女達の対抗勢力だと思われます」
「……不味いな、このままだとまともに攻撃を喰らう」
(三機を救援するには第一中隊主力からでは距離が有りすぎる、ならば……)
永倉の報告を受けた長曽我部は顔をしかめて呟きながら指揮官用のモニターに映し出される状況を確認し、映し出されている状況を素早く把握した後に素早く藤田に命令を下した。
「藤田、スーパーX3を異状現象とサリアさん達の間に移動させろ、エンジンを目一杯ぶん回せ!!」
「了解(ラジャー)最大速度でぶっ飛ばします!!」
長曽我部の命令を受けた藤田は叩き付ける様な口調で応じるとスーパーX3を加速させ、スーパーX3は猛然と加速しながらサリア達の上空へと前進を開始した。

サリア機

スーパーX3が猛然と加速を開始した頃、サリアは戦闘直前の状況にも関わらず故国への逃亡を図ったアンジュのグレイブの横にアーキバス・サリア・カスタムを移動させ腰のホルスターから引き抜いたオートマチック・ハンドガンをグレイブのシートに跨がるアンジュに突き付けていた。
「もう一度警告するわ、アンジュ、隊に戻りなさい、敵前逃亡は重罪よ」
サリアは警告の言葉をかけたがアンジュは何かに取り憑かれた様な表情で方向すら定かでは無い故国へとグレイブを前進させ、その様子を目にしたサリアは顔をしかめさせながら再び口を開いた。
「アンジュッ!!」
「アンジュリーゼ様」
サリアがトリガーにかけた指先に力を込めながらアンジュの名を読んでいると、追い付いて来たココがアンジュに向けて声をかけ、その奇妙に明るく弾んだ声を受けたサリアは思わずトリガーから指を離して接近して来たココのグレイブに戸惑いの表情を浮かべた。
「あたしも、一緒に連れて行って下さいっ!!」
「ちょっ、ココ、何言ってんのよっ!!」
ココはアンジュを輝いた瞳で見詰めながら言葉を続け、それを無線で聞いたミランダが驚きのあげる中に屈託の無い笑顔をアンジュに向けた。
「あたしも見てみたいんです、魔法の国を」
ココの言葉と笑顔を目にしたアンジュは戸惑いの表情を浮かべ、そんな三人の遥か頭上の虚空では紅の雷光が爆ぜて更にその大きさを増していた。

スーパーX3

サリア達の上空で大きさを増して行く雷光、それは全速でサリア達の上空に向かうスーパーX3からも確認されており、長曽我部は厳しい表情を浮かべて爆ぜる雷光を見詰めていた。
(間に合うか)
長曽我部がジリジリとしながら見詰める中、爆ぜる雷光は虚空に巨大な穴を穿ち、スーパーX3はその穴が開き切る直前にサリア達の上空に到達した。
「警報!直上に高エネルギー反応確認、標的は恐らく真下のサリアさん達ですっ!!」
「藤田、このままサリア達の上空に点位しろっ!!」
「了解(ラジャー)!!」
永倉の警報を受けた長曽我部は即座に藤田に命令を下し、藤田が了解しながらスーパーX3を上空に点位させると永倉が緊迫の表情と共に更なる警報を発した。
「高エネルギー反応更に増大、来ますっ!!」
「総員、対閃光、対衝撃防御!!こいつは貰うぞっ!!!」
永倉の警報を受けた長曽我部は手すりに掴まりながら号令を発し、それを受けた藤田と永倉が身構えると同時に上空に穿たれた穴から一条の光線が放たれ、放たれた光線はスーパーX3を直撃してその巨体を爆煙によって覆い尽くした。

サリア機

突然上空に現れて身代りとなって放たれた光線の直撃を受けたスーパーX3、その光景はサリア達も目の当たりにしており、サリアは呆然とした表情を浮かべて爆煙に包まれるスーパーX3を見上げた。
「……そんな……あたし達の盾になったと言うの?」
サリアが呟くと同時に上空に穿たれた穴から更に幾条もの光線が爆煙に包まれるスーパーX3に叩き込まれ、その様子を目にしたアンジュとココは呆然とした表情でその様子を見上げた。
「……な、何ですの、これは?」
「……す……スーパーX3が」
アンジュとココは呆然と頭上を見上げながら呟きをもらし、その呟きを耳にしたサリアは小さく頭を振った後にアーキバス・サリア・カスタムを旋回させながら二人に向けて口を開いた。
「アンジュ、ココ、あたしについて来なさい、死にたく無いなら、早く!!」
茫然自失状態だったアンジュとココはサリアの声を受けると反射的にサリアの後を追い、サリア達は爆煙に包まれるスーパーX3の下から離脱した。
サリアが離脱しながら後方を確認すると虚空に穿たれた穴からは敵性生物ドラゴンが次々に姿を現しており、それを目にしたサリアが唇を噛み締めた瞬間、爆煙を突き抜けてスーパーX3が姿を現した。
「……っす、スーパーX3!?」
その光景を目にしたサリアが驚きの声をあげる中、ドラゴンの光線を立て続けに被弾した筈のスーパーX3はそのダメージを微塵も感じさせない軽やかな動きでゆっくりと旋回し始め、サリアは驚愕の表情で旋回するスーパーX3を見詰めた。

第一中隊主力

サリアが驚愕の表情でスーパーX3を見詰めていた頃、一連の状況を目の当たりにした第一中隊主力の面々も驚愕に包まれていた。
「……な、何なの、あの機体、あれだけの攻撃を喰らったのに、まるでダメージを受けていない……」
ヒルダは驚愕の表情でスーパーX3を見詰めながら呟き、それを受けたエルシャが頷いた後に口を開いた。
「パラメイルだったら最初の一撃で誰かの機体が撃墜されてたわ、サリアちゃん達はスーパーX3に、いえ、長曽我部二等陸佐に救われたのよ」
「……名前しか知らない奴を助ける為にドラゴンの攻撃、受け止めたって言うのかよ」
「……痛姫様とは大違い」
エルシャの言葉に続いてロザリーとクリスが言葉をもらし、続いてヴィヴィアンが興奮した面持ちで口を開いた。
「凄い、凄い、あのスーパーX3って機体、超面白いんだけど」
「……ココ、良かった」
ヴィヴィアンに続いてココの無事を確認したミランダが安堵の表情で呟きをもらし、それを聞いていたゾーラはドラゴンの群れを見据えながら口を開いた。
「よし、お喋りはそこまだ、続きはドラゴンどもを一掃してからにしな」
「「イエス・マム」」
ゾーラの言葉を受けたヒルダ達は慌てて返答し、ゾーラは頷いた後に旋回するスーパーX3に目をやると凄味のある笑みを浮かべながら口を開いた。
「なかなか洒落た挨拶じゃないか、気に入ったよ長曽我部二等陸佐、そして、スーパーX3」
ゾーラはそう呟くと部隊をドラゴンの大群に向けて前進させ、それを確認したスーパーX3のコクピットでは永倉が長曽我部に報告を行った
「サリアさん達は離脱に成功しました。更に第一中隊主力が間も無くドラゴンとの交戦に入る物と思われます」
「よし、どうにか間に合ったな」
永倉の言葉を受けた長曽我部は小さく頷きながら呟き、それを受けた藤田は小さく笑いながら口を開いた。
「これがスーパーXシリーズのコンセプトとは言え、中々肝が冷えますね」
「全くだな」
藤田の呟きを受けた長曽我部は微苦笑を浮かべながらそれに応じ、その後に厳しい表情でモニターに映るドラゴンの群を見据えた。
(……コイツ等が彼女達の敵、と言う訳か)
長曽我部がそう胸中で呟いているとドラゴンは巨大な咆哮と轟かせ、その後に第一中隊主力に向けて前進を開始した。

 
 

 
後書き
次回予告

スーパーX3の活躍によってドラゴンの一撃を回避した第一中隊はドラゴンとの交戦に入り瞬く間にドラゴンを駆逐して行くがその最中に再びドラゴンの群が出現して第一中隊に攻撃を仕掛ける、この状況を確認した長曽我部は戦闘介入を決断して第1特殊戦術飛行隊にスクランブル発進を命令、ゴジラ・コマンドはパラメイル第一中隊と共にドラゴンとの交戦に突入した。

流転の防人

第3話・共闘

乙女達と共に龍翼に挑めゴジラ・コマンド
 
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