どうやら俺は主人公を殺したらしい
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三話、私の聖剣が奪われた瞬間
前書き
回想により、2年くらい遡ります。
あと大半がイリナ視点からの一人称です。
私、紫藤イリナは聖剣使いになる………はずだった。
聖剣使いになって神のために、そして自分の信じる主のためへと。
それが私の目標で、聖剣使いになることも、ある意味通過点であり、いつしか転生天使にも成りたいと思っていた。
だから私は、その日が来るように努力した。
そして、当たり前のように、チャンスが回ってきたのだ。
そう、聖剣使いになるための「儀式」に選ばれたのだ。
もともと私は、小さい頃に、このプロテスタントに属する教会に買われ、5、6歳の時からここにいる。
つまり、最初から聖剣使いになることは、私自身なんとなくわかっていたし、嬉しいの一言だ。
儀式という名の、神からのさらなるご加護。
それは私達エクソシスト並びに、教会側からしたら、大変な名誉なことであって―――
「ねぇ! ゼノヴィアっ!」
私は、目の前にいる昼食中の友人に声をかける。
「……はぁ……なんだ、イリナか。どうしたんだ、そんな大きな声で……」
「はぁ……なんだ……っじゃっないわよっ! ゼノヴィアに聞かせたいことがあるのっ!」
そう、彼女に聞かせたいこと。
それは―――
「私、聖剣使いに選ばれたのよ!」
「………そうか」
ゼノヴィアはそれだけ言うと、少しだけ嬉しそうに、だけど悲しそうにスープを、ズズっと、啜る。
「え……驚かないの?」
「フッ、私も聖剣使いだからな。同じ聖剣の持ち主として、既に知っていたさ」
「じゃあ、なんか言ってよ! もうっ、私がなんか空回りしたみたいじゃない……」
「すまないすまない。私も色々あってな。あとおめでとう」
「う、うん、ありがとう」
うーん、サラリと褒められるのは反則だわ!
ちなみに、私はその「色々」というゼノヴィアの言葉に、察しがついた。
それは聖剣デュランダルの調整と、ゼノヴィア自身がそれを扱えるようにするための訓練だろう。
「聖剣デュランダル」とは、あの今は無き、「聖剣エクスカリバー」と同等の伝説を持つ聖剣のため、使い手も限られる。
故に、ゼノヴィアはまだ使いこなしていない。
「聖剣デュランダル」は、使用以外は、異空間に閉じ込めなければならないほどに危険視されているのだと言う。
しょうがないことだろう。ましては、私も含め、まだ、15歳のゼノヴィアにとっては。
「まあ、察しが付いてくれて助かる。お前が思っている通り、私は、あいつを未だに使いこなしていない。だから今は、この『破壊の聖剣』を代用しているがな」
ゼノヴィアは、背上にある、白い帯を何重にも巻いた筒状のもの……彼女のもう一つの聖剣である、『破壊の聖剣』を指差しながら、自虐的に笑った。
私は思った。
もともと、ゼノヴィアは聖剣を扱うために必要不可欠なものである「因子」を持っていた。
それも天然の「因子」という大変希少なものであるために、ゼノヴィアは私が思っているほど、もっと凄いかもしれない。
だって、私がゼノヴィアと会う前は、「斬り姫」って言われてたらしいし。今もだけど。
あー、私もそうだったらなぁ、とは思ったことあるけど、今になってはどうってことない。
だって、私も聖剣使いだからね!
「それで、儀式はすませたかのか?」
ゼノヴィアは、少し神妙な顔つきで私に問う。
ゼノヴィアの言う儀式とは、「因子」を持っていない者が、神からの与えられる慈悲によって「因子」を得られるというもの。
元より、ゼノヴィアのケースはこの世で10人もいないという。いや、もしからしたらゼノヴィアただ一人かもしれない。
「うん! もう終わったわ。あの時は人生で最も最高の日だったわぁ。ああ、いつも神からの慈悲を受けているのに、あんなことまでしていただけるなんて………」
「……そうだな」
私が恍惚にあの時の思いに浸っている傍ら、ゼノヴィアはそれしか言わず、少し表情が暗くし、また再びスープを啜る。
「ねぇ………どうかしたの? さっきから元気ないけど……」
「ああ……すまない。顔に、出ていたのか」
「悩みがあるなら私に言いなさい! それか私達の主に祈ればいいじゃない」
「………それじゃあ、お前にでも言うとするよ」
「むっ、その言い方はないんじゃない?」
「すまないすまない。助かるよ、イリナ………フッ、これで良いのか」
むむむっ。若干やる気のない抑揚だったけど、今回は良しっ。今日の紫藤イリナは許してあげます。
として、私はゼノヴィアの悩みを聞いたのだけれど。
私はゼノヴィアの話を聞きながら、少しばかり驚いた。
なんとあのゼノヴィアに幼馴染みがいたのだ。
それも一つ下の男の子。名前はデクタ・テイン、らしい。
キャッ、まさかゼノヴィアその男の子ことが……とは思ったけど、どうやらただの幼馴染みらしい。
本当にそうなのかなんて、私には分からない。ただ、ゼノヴィアがそう言うのならそうなのだろう。
「うーん、それで、そのデクタ君が幼馴染みなのは分かったけど、本題はそのあとでしょ?」
「ああ、実はそうなんだが……」
何故か言い淀むゼノヴィア。
うーん、やっぱりそれがゼノヴィアの悩みの種なのかなあ。
そんな私の心配をよそに、ゼノヴィアは、ざっくりと言った。
「うむ、実は誘拐されたんだ」
「え…………誘拐」
「いや、私もそこまで詳しくないのだが。……、そうだな。誘拐されたといっても……。確か綺麗なお姉さんに…………あれ、何だっけ」
「え、えー、ちょっと最後の気になるんだけど」
「というか、忘れた。なんせ六年も前だからな」
え、なにそのテキトー感。
一応、幼馴染みなんだよね。私はゼノヴィアのそのなんとういうか、ノー天気さにびっくりだよ!
しかも、真顔でそんなこと言うから、もっとびっくりよ。
まあ、今から六年前となるとゼノヴィアも9という歳だ。それに脳筋のゼノヴィアだし。
「………なにか私に失礼なことでも考えていないか?」
「ないない! そんなことないわよ! 」
「………ならいいのだが」
危ない危ない。
早く話変えないと。
私は状況を変えるために、ずっと立ちっぱなしだった私は、コトンとゼノヴィアの隣の椅子に座る。ちょっと立ちっぱなしはキツかったです。
「それでさ、ゼノヴィア。早速だけど、私の聖剣見てくれない?」
「お前の聖剣……か。そうだな、私も見てみたいと思っていたところだ」
「そうよね! そうよね! それにゼノヴィアに一番に見せたかったから、今日一番に貴女に会いにきたのよ」
やっぱり幼馴染みだし。この教会で一番仲が良い友人でもあるから、なんてそこまでは、少し恥ずかしくて言えなかったけど。
「はむはむ、で、その聖剣はどこにあるんだ?」
ゼノヴィアは、残った朝食であるパンを頬張り、私に問う。
うーん、私もそろそろお腹空いたなぁ。
「私の部屋っ! だからそれ食べ終わってからでいいから、あとで行きましょう!」
そうよ。危うく私の本来の目的を忘れることだったわ。ゼノヴィアの幼馴染みのデクタ君のせいでなんかおかしくなったけど。
ああ、早く私の聖剣を披露したいわ。
っとその前に祈ったほうが良いわよね。彼の無事を。なんか物騒だし。
きっと主もそうお考えだわ!
「ああ、主よ。彼の………デクタ・テインの無事が叶いますようどうかご加護を」
「いや、俺死んでないから」
「………ん?」
「あと、聖剣取りに行かなくていいですよ。先に謝っときます。あれ俺のものですので」
その声の主は男だった。ただし、声には幼さを感じる。
振り返れば、何故かこちらを嫌々そうに見る黒髪の少年がいて。
容貌は私たちと同じプロテスタントの服装をしていた。……が、おそらく私はずっとはてなマークだった。
突然声を掛けられて、ツッコミ、謝罪、挙げ句の果てには私の聖剣を「俺のだゾ」宣言。
きっと今の私はどう見てもやっぱりはてなマークだったに違いない。
対して、私の隣にいたゼノヴィアは何故か、動揺していた。
「えっと、お久しぶりです。ゼノヴィアさん」
「お前………」
私には、ゼノヴィアと謎の少年が何をしているのかなんて分からなかった。ただアイコンタクトしただけで声を交わさずに。
そんな独特の雰囲気が周りに伝播したのか、私たち以外にもいた教会内の神父らがぞろぞろと集まる。
そして唐突に誰かが言った。
「貴様っ! 何者だ!」
誰が言ったのかはわからなかったが、誰もがそう思うに決まっている。そんな誰もが、に私も入っているんだけど。
だってこの少年はこの教会に所属などしておらず、どう見ても見知らぬ者だ。
ただ可能性としては、他の教会から訪れた同じプロテスタント所属のエクソシストかもしれないけど。
私たちは慎重しなければならない。
ここ最近は、悪魔による工作、偽装をまんまと受け、一つの教会が無くなった……なんて報告を受けたばかり。
私の目の前にいる少年がその悪魔だとは限らないが、否定なんてできない。
私は、自分の腰にかかった剣帯を触るだけで、何もできない。聖剣も自分の部屋の中だし。しかも全エクソシストが携帯しなければならない装備も運悪く部屋に忘れたし……。
ああ、本当にどうしよう! ゼノヴィアはただぼーっとあの少年と目と目の会話しているだけだし。
その少年を見たところ、私と歳は変わらなさそうだけど警戒は怠ってはいけない。
だから少しでも目を離さないわ!
そんな私の葛藤などいざ知らず、黒髪の少年はいろんな意味で、緊迫したこの空気をぶち壊す。
「アーメンでーす、皆さん。えー、俺、今日からプロテスタントに転属する者で、名前はデクタ・テインと言います。
一応、大天使ミカエル様から承った御命令ですので、絶対遵守であるのと同時に、あとから届くと思います――――――『天閃の聖剣』の持ち主兼、プロテスタント教会所属である俺を証明する資料みたいなのがあるので、そんな阿呆みたいに騒ぎ立てないでくださーい」
少年は気怠そうにそう言った。
私の聖剣を担ぎながら、そう言ったのだった。そして………」
「いや回想なげーよ!」
「ちょっと! 途中から話しかけないでよね、デルタ君!」
イリナさんは、ほっぺをぷくう、と膨らます。
いや、少し可愛いけど、可愛くねーよ。
てか、本当に長げーよ。
いくらイリナさんに勝負を挑まれる度に、もう2年前ぐらいの回想みたいなのを語るけど、全然慣れないし、キツイ。いたいっす。
あと最後の何だよ。『アーメンでーす』ってさ。どこのチャラ男だよ。普通にアメーンって言ったわ。
なんて、心の中でツッコんでいたら、もうすでに時すでに遅し。
目の前の彼女は、目を瞑りながらまたもや回想に浸っていた。
まあ、これは俺に対しては全くの意味はないけど、イリナさんには意味があるらしい。
紫藤イリナ曰く、それはあの時の屈辱を忘れないためである、らしい。
……うん、確かに聖剣を奪ったのは俺だ。
でもその代わり、俺は紫藤イリナの命は守ると決めた。だって、原作で持っていたはずの聖剣を持ってなかったなどという理由で死んでしまったら、なんか後味悪いし。
だけど、ここで勘違いしてはいけないのは、あくまでそれはおまけに過ぎない。
第一優先は、俺だ。
女の子を守るぜ!、みたいな願望なんてないし。神父の自分がいうのもなんだけど、護りたい人を守ればそれだけでいいと思っている。それにこうやってエクソシストをするのだって、ある人からの強制……じゃくて恩返しに過ぎない。ただまあ、本当にイリナさんには悪いとは思っているし。いつまで、続くかは知りもしないけれど、彼女の絶対安全は守るだろう。
俺はその「いつ」、がいったい、いつになるのかなぁ、と思いながら、イリナさんといつの間にか恒例行事になりつつある、俺の聖剣をかけての勝負の為に、エクソシスト専用小道具、武器らを準備する。
そして、俺は今日に限って思い出してしまった。
モノホンの神様から与えられた特典をやっとこさ得たあの時を。彼女の言う少年だったあの時を。俺が教会を吹っ飛ばしたあの時を。
後書き
次も回想です。
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