剣の世界で拳を振るう
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新境地 アークソフィア
「――――ここがアークソフィアか」
転移門から出てきた俺は、その町並みを見てそう言った。
転移門が位置する場所は、心休まるような作りの噴水広場。そこには結構な数のプレイヤーがいて、それでいて賑やかに話をしていた。
それはまるで、ここがSAOの中だと言うことを忘れそうになるくらいには。
「よかった。ちゃんと来れたみたいだな」
振り向けばキリトがいて、何処かホッとしように右手をあげていた。
「まぁな。転移何てのは初めてでもないんだし、第一言葉を間違えたら転移できない仕組みになっているはずだ。
そんな簡単に転移事故なんぞ起きるものでもないだろう」
「まぁ、そうなんだけどな…」
そう言って言い淀むキリト。
まぁ確かに俺は転移事故でここに来ているわけだから、そう言ったことがないとも言えないのが現状であり、これから先どうするかと言う重要な案件があることを視野に入れないと行けないのだ。
「取り合えず着いてきてくれ。皆に会わせるよ」
「アウェー感がハンパない件」
足取りを重くしながらも、しぶしぶキリトについていく俺だった。
そうして到着した場所は、商店街と思わしき場所の入り口付近に位置する一つの酒場。
結構綺麗な建物で、内装も言わずもがな。
その店内の一席に、集まるようにして固まっている集団が一組あった。
「おうキリト!こっちだ!」
赤色のバンダナを額に巻いた無精髭の男――クラインが手をあげて俺達を呼び寄せる。
「悪い、遅くなったか?」
「ううん。ついさっき全員が集まったところだからそんなに待ってないよ」
続いて話をしだしたのはキリトの嫁であるアスナだった。
この世界ではどうなんだろうか?
「お帰りなさい、キリトさん」
「さっさと席に座りなさいよ」
ここら辺は何も変わらない。
シリカとリズベットがキリトを急かすように席に座らせる。
だが俺は知っている。
これが俺だけ立たされることになるのだと言うことを。
「…………」
「す…リーファもここにお呼ばれしてたのか?」
先ほどから俺を見て放心していたリーファに声をかける。
その顔は「自分だけじゃなかったんだ」とでも言いたげな顔だった。
その後ろにいる…限りなく現実に近い顔のシノンは訝しげな表情をしている。
「な、何で私の名前を知ってるんですか!?て言うか、ウンディーネですよね!?」
ああ、やっぱり、別人か。
「まぁその事も今から話す。取り合えずこれで全員だな」
「ああ。それじゃあ話を始めよう」
そうして俺がここへ来た経歴を話始めた。
途中、俺が1度ゲームオーバーになったことを言ったら物凄い食いつかれたことは置いておく。
兎も角、全体的に話終えたところで、何故かお通夜のような雰囲気になってしまったようだ。
「まぁ現状確認はこれで良いとしよう。
向こうとの連絡は取れるわけだし、今は帰れる方法を探す他ないだろうな」
「…そうだな。
ところでケンのレベルはいくつなんだ?強かったなら攻略に参加してほしいんだけど」
そういってきたのはやはりキリト。
たしかそう言うことはどこも変わらずマナー違反だった筈だが…実際SAOの住人じゃないのだから構わないと言えばそうなのだろう。
「さっき見たら148だったな」
「「「「148ぃ!?」」」」
そんなに…まぁ驚くだろうな。
俺だってSAOクリアした当時のレベルは102ぐらいだったし。
「こっちに来たときのステータスがそのまま反映されたんだろ」
「そ、そう言うものなのか?」
「むしろそうとしか言えない」
大体レベルよりも戦い方重視な俺からすれば、レベルは補助程度にしか見ていないのだ。
実際にALOではそう言った感じだったし。
「な、ならさ!武器はなに使ってるのかな?ほら、戦い方とかも知っておいた方が良いと思うし!」
何故かアスナが慌てたように聞いてきた。
「ん?超近距離方戦闘オンリーだが何か?」
寧ろ俺の記憶には剣をたかった記憶が序盤しかない。
「超…」
「近距離…?」
どうやら伝わってないようだ。
ならばちょうど言いかもしれない。
「まぁ実際に見た方が早いだろ。
キリト、システム外デュエルしようぜ」
「…つまり、模擬戦ってことか?」
「当然。
大体、システムアリでやったら速攻でケリがついちまうからな」
その言葉にキリトが反応し、遅れて理解したのか、他の皆が反応する。
「へぇ…面白いじゃないか」
「ちょ、待ってよキリトくん!
ケンくんも!」
まずアスナが止めに入り、
「そうですよ!キリトさんはSAOトッププレイヤーの中でも指折りに強いんですよ?!」
シリカが繋いで、
「例えレベルが上だろうと、やられるのが目に見えるわね」
シノンが発言。
「大体キリの字は二刀流を持ってるからな。幾らお前さんでも太刀打ちできっこないぜ?」
続けてクラインも参戦し、
「ここじゃ飛ぶことだって出来ないのに…勝てるわけないじゃん」
リーファが止めを指す。
「まぁお前らがどう思ってるのかはわかった。
いきなりぽっと出てきた若輩者に、我らがキリト様様が負けるのが怖いわけだな?」
「「「「「なっ!?」」」」」
「さらに言えば、負けるのがわかっているキリトを庇いたくて仕方がないってことなんだよな?いやいや、気遣いありがとな?こんな心配してくれるとは…キリトも隅に置けないねぇ?」
粗か様な挑発だった。
そもそもの話、キリトは了承していた。
だが回りが止めるのであればその周りをどうにかすれば問題はない。
キリトも分かっていたようで怒っては居ない。…ちょっと不安そうな顔してるけど。
まぁそんな挑発も項をなし…
「キリトくん、手加減とか要らないから」
「お兄ちゃん、殺っちゃって」
「パパ、ファイトです!」
「キリト、気合い入れてけよぉ!」
と、見事に乗ってくれた。
「おいおい、大丈夫なのか?」
「まぁ良いんでないの?この方がお互い自由に立ち回れるだろうし」
エギルが小声で話しかけてくるのを、笑いながら返した。
実際に俺の世界のキリトよりか、こちらの方のキリトが気持ち的な意味でも勝っていることだろう。
だが、SAOを生き抜いたキリトだからこそ、このキリトが持っていない強さを持っていることも確かなのだ。
この事がこの世界のキリトの強さを測る判断材料になるかは別としても、久しぶりのデュエルに気が高ぶるのは押さえられない。
「じゃあ、やろうか」
「アスナ、合図頼むよ」
取り合えず外に出て、広い場所へと移動する。
お互いに向き合って構えを取り、アスナが合図をする形で落ち着いた。
だが――
「おいおい、超近距離って…ステゴロかよ」
「剣の世界で剣を握らないって…」
「アイツバカね」
言いたい放題のヤジが飛ばされる。
まぁ解っていたことだから良しとしよう。
「じゃあ準備は良い?」
「おう」「ああ」
「それじゃ…始めっ!」
「はあっ!」
「ふっ!」
アスナの合図と共にキリトが飛び出す。
俺に接近しつつ振りかぶった右手の剣をしゃがんで回避する。
「ほっ!」
「がっ!?」
地面に手をついてキリトの顎を蹴り上げる。
が、寸前でもう片方の剣でガードをしてバックステップ。
「だが逃がさない」
「うおおっ!?」
俺は直ぐに中腰になって駆け出す。
一瞬の内にキリトの懐に入った俺は、キリトの胸ぐらを右手でつかみ、キリトの右腕を引っ張る形で右手を押し込む。
するとあっさりと地面に横にされてしまうのだ。
キリトは訳がわからない顔をしながらも、抵抗するべくローリングしながら距離を取ろうとする。
「逃がさないって言ったぞ」
「ぐうぅぅう!?」
キリトの胸ぐらを掴んだまま俺の方へと引き込み、そのまま持ち上げて地面に投げる。
「キリトくん!?」
「がはっ!?」
確りと打ち付けられたキリトは、痛みはないままのフィードバックを味わう。
「まぁこれだけじゃないんだが…超近距離ってのはこう言う事だな。
それで…まだやるか?」
「…もうちょっと、付き合ってくれよ!」
「上等!」
説明は終了。
だが、今度は負けず嫌いな足掻きが始まる。
俺の世界のキリトとは違って武術を然程と知りもしないこの世界のキリトは為されるままである。
ギャラリーからは止めに入る言葉が聞こえるが、ここからはもう意地のぶつかり合いなのだ。
男の子にしか分からないプライドは、観客の男子プレイヤーを沸かせ、女子プレイヤーは見ていられないと呆れ顔になる。
「おおおお!」
「てぁあっ!」
そしてこのデュエルは、キリトが気絶する夕方近くまで行われたのだった。
因みにこの後、キリトを慕う女性人に責め立てられたのは言うまでもない。
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