ロザリオとバンパイア〜Another story〜
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第42話 運命の時へ…
猫目先生と燦のやり取りを見て、そして燦の笑顔を見ていたジャックは、心から笑う事が出来た。燦の笑顔を見る事が出来て、良かった、と、そんな風に考えていた。
燦は元々人見知りをしてしまう性格だったのだ。
いや……信じられない…といったほうが良いかもしれない。他人のことが…だ。ジャックとの出会いで、良くなってきたが……、まだまだ、不安はあった。だが うれしい事に思ったより早く、学園の先生と打ち解けていた。
『御子神…』
そして、ジャックは御子神に話しかけた。
「ん? 何だ?」
神妙な顔つきのジャックに不安を抱きながら聞きかえした。
『……くれぐれも燦をよろしく頼む。 あの子は俺にとって……もう特別な存在だから』
ジャックは、御子神に自分の思いを伝えた。彼女と出会い、そしてほんの少しの期間だけど、一緒に暮らしてきて思い募らせた事を。
その言葉を、そしてその顔を、黙ってみていた御子神は。
「……やはり お前はアカーシャと同じだな」
何かを確信したように御子神が語った。
『……え?』
ジャックは、御子神が言う 《アカーシャと同じ》その意味がいまいち理解する事が出来なかった。
「お前は… お前の最大の武器でもあり、弱点でもあるのは 《優しさ》だ。 それは、アカーシャと同じでな。 時には非情にならなければならない部分は必ずある。そして、優しさだけでは何も変わらないと思っていたが。 その優しさがいずれこの世界を変える事に最も重要なこと…なのかもしれんな」
ジャックにそう伝えた。
大きな力を持つ者が多くいるのが妖だ。故に、その強さ故に 欠落しかけているのが、その優しさと言う部分だった。
ジャックは、理解しているつもりだった。
『ふふ……、 そうかもしれないな。 ……だが 俺はその感情は絶対に手放さないよ。 優しさ、情、それらの感情は墓場まで持っていくつもりだ。一番大切な物だから』
その問いに俺は肯定する。優しさだけでは何も変わらない。それは事実だ。だけど、その気持ちがなければ、相手を想う気持ちがなければ、互いに歩み寄れたりはしないだろう。
ジャックは、そう言うと御子神の前にたった。
『……すまない御子神。 1つ、頼まれてくれないか?』
「ん? どうした」
ジャックは御子神が返事をした後、手に力を入れ、ぎゅっと拳を握りこんだ。それと同時に、拳が光る。様々な色に輝いたかと思えば、次第に消失していき……、ジャックがゆっくりと手を開いたそこには、小さな宝石の様な物が手の中にあった。
「……これは?」
『これは、俺の魔力で作った石だよ。オレの力が込められている。……後で、この石を燦に渡してやってくれ。俺の替わりだ。いつまでも傍にいるよ……って』
御子神は、その目を見て表情を見て、違和感があった。それは、《あの時》 あの時の戦いと同じような悲しみ……、揺ぎ無い決意が表れていた表情をしていたからだ。今は多少のいざこざはあるものの、以前の戦いの時に比べたら、比較的平和だと言っていい。
『お前…… 何を考えている…? 何をするつもりだ?』
だからこそ、御子神はあの時の事が一瞬脳裏に浮んだ。最後の最後で、1人だけに無茶をさせた事。……失いかけてしまったあの時の事を。だから、自然と声も大きく、荒いものになる。
『……ははは! なんでもないさ。 気にするな。燦の事は、自分の娘同然。と今まで思って来た程、なんだ。学園生活、学業と言うものは大切な事だと言う事は知っている。……仕方が無いとはいえ、燦と別れるんだちょっとナーバスになっただけだよ。でも これが一番なんだ。燦にとってはな』
ジャックは、笑いながら答えていた。
「(悲しみといえば確かに分からないでもないが、あの表情は気になるな……)」
御子神は、完全には不安を消す事が出来なかったけれど、今の状況を考えると仕方の無いものだと考えた。優しいこの男の事を考えたら仕方が無いだろう。
「ふふ、 アカーシャと言えば今度モカを預かるという話が出てな。近々来るはずなんだ」
御子神は、不安を消そうとする為、なのだろうか、無意識だったのかは自分でもわからないけれど、話題を変えた。
『モカ…? モカが! ……それは 確かなのか? 御子神… モカが来るって言うのは』
突然だ。先ほどまで 寂しさ、そして穏やかさが等しく混ざった表情をしていたジャックだったが、突然、顔つきが真剣になっていたのだ。
その顔を見て、再び御子神は不思議に思った。
「娘のモカとお前は、確か面識があるんだろう? なぜそんなに驚くんだ? 娘には平穏な暮らしを…それがアカーシャの望みでな。この件は だいぶ前からこの事は決まっていたんだ。アカーシャの性格少しを考えればわかることだろう。……モカには色々あったから」
問題ないと言った様に話した。モカにある色々な事、と言うのはジャックもそれとなくだが訊いた事があった。アカーシャ本人から、訊いた事でもあったのだ。
『いや… 何でもない。そういえば久しぶりに会うかもしれないからな…。 なあ…御子神。そう言えば モカはもう何歳になるんだ?』
ジャックは、必死にかつての記憶を揺り起こす。もう、夢の様に淡く消えそうな記憶の影を。
「確か……、明日が誕生日らしいから、もうすぐ10歳。だな。月日が経つのは随分と早いモノだ」
御子神はそう答えた。妖と言うのは長命なモノが多いだからこそ、よくそれを感じるのだろう。
それを聞いたジャックは。
『……ッ!!!』
再び驚いた表情になった。
「む…? さっきからどうしたんだ? 驚く様な会話をしているとは思わんのだがな?」
御子神にすればジャックがそこまで驚く理由がわからない為、不思議には思っていた。
『変わっていないと言うならば……。《運命の時》が近い…か…』
御子神に聞えないほどの大きさの声で呟いた。
「なんだって?」
聞えなかった為、御子神は再度、ジャックに聞きなおした。
『いや 何でもない……さ』
ジャックはそれ以上は何も言わず、御子神に背を向け燦のほうに向かって歩き出した。
『燦。どうだ? この学校についてはよくわかったか?』
ジャックは、いつもと変わらぬ笑顔で聞いていた。燦の前では決して笑顔を絶やさない。そう決めていたから。
<うん! とてもよくわかった!! 私、学校ってところに憧れていた事すっかり忘れてた… もう大丈夫だよ!将来…お父さんに迷惑がかからないようにしっかりする!それで…卒業したら…お父さんとずっと…ずっと一緒にいるから! 一緒に暮らそうっ! 私、頑張るからっ!>
燦は、必死にペンを走らせ、自分が想っている事を書き続けた。勿論、笑顔だった。
『そうか…… それはよかったな! 卒業か… ははは。楽しみだな。あ、 でも、ちゃんと働かないと社会には出て行けないぞ? 大丈夫か??』
<あはは! わかってるよ! お父さん! ずっと、めいわく、かけられないからっ!>
『迷惑、と思う事は無いけど……やっぱり、燦の事を思えば、な?』
<ぁ……、うんっ! がんばるからっ>
燦は笑顔でそう答えた。ジャックの事が大好きでいつまでも一緒にいたいと想っているけれど、ちゃんと自立出来てこそだと思っていたから。
『ははは……、そうだよな。燦は賢いから。燦 後な、少し出かけるところができたんだ。何十年来の友人と会ってくる。約束していたのをすっかり忘れていたようだ』
そう言うと燦は少しくらい表情をした。
『……お前はまだまだこの学園で勉強しなきゃな。それに友達も出来るかもしれないぞ? 心配するな。また…会いに来るから』
燦の頭を撫でながらジャックは言った。すると、少し暗かった表情が明るくなる。
「うん… お父さん… 気をつけてね」
燦は、筆談では無く、彼女自信の声で答えてくれた。
『!! ……ああ ありがとな』
驚いた表情を見せたが…すぐ笑顔になり、燦に笑いかけた。その身体を包み込む様に抱きしめる。燦からの言葉は、ジャックにとって……何よりも贈る言葉となったから。
『じゃあ 行ってくる』
<気をつけて…>
燦は、直ぐに筆談に戻ったけれど、ジャックはそれで良いと思っていた。
(あの一瞬でも十分…だな。伝わった……)
そう思いながら、理事長室を後にした。
これから始まるのは、運命の時。その分岐点。それに精一杯抗う為に、彼女達の下へと向かったのだった。
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