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黒魔術師松本沙耶香 天使篇

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19部分:第十九章


第十九章

「だからだ。ここでだ」
「全てが終わるのだ」
「あの方の望みが達せられる」
「そのあの方とやらは」
 沙耶香自身がその存在について語ってみせた。
「今はどう思っているのかしらね」
「どうかだと?」
「何が言いたいのだ、一体」
「だから貴方達に言うことはないわ」
 それはここでも否定してみせる。
「ただ」
「ただ?」
「今度は何なのだ」
「泣いても笑ってもあと三日よ」
 またしても日数を話してみせた。
「三日しかないけれど」
「だから言った筈だ、今日で終わる」
「そうだ、今日だ」
 あくまでこう言う彼等だった。
「今日で終わるからだ」
「貴様が気にすることではない」
「そう。貴方達はそう思うでしょうけれど」
 言いながらその右手を己の顔の前で軽く振ってみせる沙耶香だった。
「私は気にしているのよ」
「鬱陶しい女だ」
「全く以ってな」
 異形の者達はそれを聞いてその顔を不機嫌なものにさせていった。そしてそれを言葉にも実に露骨に出してきていたのである。
「だが。その口も終わりだ」
「ここで我等はだ」
「貴様を倒す」
「絶対にだ」
 そうするというのである。
「さて、覚悟はいいな」
「言葉の訂正を聞くつもりはない」
「訂正?そんなことはしないわ」
 沙耶香は彼等のその言葉を軽い嘲笑で返した。
「それは安心するといいわ」
「ではどうするというのだ」
「戦うというのか」
「それは既にはじまっているわ」
 今度は微笑みになっていた。嘲笑から少し変わっていた。
「そう。見なさい」
「何っ!?」
「これは」
 異形の者達が気付いたその時はであった。周囲に恐ろしい数の波紋が起こっていた。異形の者達が取り憑いている人間達が乗っているそれぞれのボートの周りの水面がだ。その無数の波紋によって覆われてきているのである。そうなっていたのである。
「波紋だというのか」
「この波紋は」
「私は水の魔術が使えるのよ」
 それができるというのである。その無数の波紋の中でだ。
「こうしてね」
「ただの波紋ではないのか」
「これは」
「そうよ。この波紋は」
 今の沙耶香の言葉と共にであった。その波紋から無数の水柱が起こった。そうしてその柱がそれぞれ水蛇となって異形の者達に飛び掛ったのだ。
 身体は水である。しかしその形は蛇だ。その蛇達が無数に来て。異形の者達に襲い掛かり喰らい付いたのである。
「何だというのだ!?この蛇達は」
「まさかこれが貴様の」
「そうよ。この蛇達は氷の蛇」
 それだというのである。
「水は氷になるのよ」
「水が氷に」
「そうなると」
「そうよ」
 沙耶香は一歩も動いてはいない。そのまま語ってみせたのである。
「まさにこれがそうなのよ」
「では我等はこのまま」
「氷になるというのか」
「その蛇達には毒はないわ」
 それはないという。
 
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