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戦国異伝

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第二百二十話 戸次川の戦いその五

「この地の兵糧を買い占めるのじゃ」
「ううむ、何か」
 ここまで聞いてだ、丹羽は唸る様にしてこう言った。
「そのお考えは」
「どうしたのじゃ」
「はい、猿の様ですな」
「ははは、猿のやり方にか」
「似ておりますな」
「どの様な強い者でも飯を食う」
 このこともわかってのことだった。
「だから食えぬのならな」
「戦えぬ」
「無論島津も兵糧はある、しかし」
「それでもですか」
「薩摩の土地は痩せておる」
 信忠ははっきりとした声でこのことも言った。
「あそこには桜島がある、その火山でな」
「では薩摩では」
「米が大して採れぬ、五万の兵を養うだけの米はとてもない」
 このことも指摘したのだ。
「五万の兵は他の国の米も使っておるが」
「苦しいと」
「その米をこちらが買い占めてじゃ」
「島津を兵糧からも攻めますか」
「これを機にしてな」
「では」
 丹羽は信忠のその言葉に頷いてだ、そのうえで。
 すぐに流された分だけの兵糧が買われたが余分にだった。島津が買う分の米まで買い占められた。そして。
 流された分以上の兵糧を確保した、信長はそれを見て言った。
「ほう、これは」
「見事であると」
「そう仰るのですな」
「その通りじゃ」
 こう石田と大谷にも答えた。
「奇妙もな」
「まさか敵の米までも買い占められるとは」
「そこまではですか」
「やるとはな」
 そのことがというのだ。
「見事じゃ。しかも民からは一粒も奪っておらぬ」
「ここで民から米を奪えば」
「それは、ですな」
「天下人のすることではない」
 到底、というのだ。
「だからじゃ」
「奇妙様のこの度のことは」
「お見事だと」
「うむ、これでじゃ」
 信長は笑みも浮かべて言った。
「後は戦を進めるだけじゃが」
「奇妙様の器は」
「それは、ですか」
「かなりわかった」
「上様の次に相応しいと」
「そう仰るのですな」
「そうじゃ」
 まさにだ、その通りだというのだ。
「あ奴ならじゃ、しかし」
「しかし?」
「しかしとは」
「何があるかわらかぬ」
 信長はこうも言った。
「だからわしにも奇妙にも何かあった時のことは考えておる」
「と、いいますと」
「それは」
「安土で言う」
 それはというのだ。 
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