藤崎京之介怪異譚
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case.5 「夕陽に還る記憶」
preface
何も無くても良かったの…。ただ、音楽があって…そんなに贅沢じゃなくても、生きて行けさえ出来れば良かったの…。
私は…望んではいけなかったの?家だって大きくなくていい。家族が寄り添って暮らせるだけで…充分だったのに…。
高望みなんてしない。ただ…音楽があって、それを聴く人が居て…それ以上に望むものなんてなかった。
夕暮れの校舎に響く音の波…。その至福を、私は喪わなくてはならなかった。
なぜ…?私は…なぜ白い壁に阻まれた…こんな淋しい場所へ閉じ込められるの?あの美しい音は…ただのノイズに変わって、夕暮れの紅の代わりには…赤い血が滴り落ちる…。
ねぇ…私は死ぬの?こんな淋しい所で、一人で逝くのは嫌…。音楽を…誰か、音楽を奏でてよ…。あの美しい音を…私を癒してくれる…音楽を…。
望んだものなんて…それだけだったのに…。
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