少年と女神の物語
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第百十八話
『もしもし、武双かい?』
「ああ、薫か。聞くまでもないと思うが、念のために聞いとく。この大荒れは、そっちのご老公とは関係ないんだよな?」
『断言するのは少しばかり難しいんだけど・・・ないよ。少なくともそんな話は聞いてない』
ふむ、ならつまりこの大荒れはスサノオの持つ嵐の神格の現れとかじゃなく。
「まつろわぬ神が別で降臨した、ってことなのか・・・」
『そう言うことになるだろうね。それで、我々はどのようにしたらよいでしょうか?』
ふむ、まあ普段ならどっか人のいない場所を作らせればそれでいいんだけど、この規模ともなるとな・・・
「避難だ。さっさと住民をどっかに連れてけ」
『かしこまりました。どれほどの範囲で行えばよろしいでしょうか?』
「奈良県全域」
『了解しました。甘粕さん、奈良県全体から人を避難させるよう、に・・・え、今なんて言った?』
すぐそばにいるらしい甘粕に指示を出そうとした薫は、しかしその途中で言葉が途切れてしまう。
「だから、奈良全体から人を避難させろ」
『そこまでしないといけないのかい?』
「ああいう派手なのを相手にすることになるとな・・・天候をつかさどるとなると、攻撃も範囲攻撃になりそうだし」
そんなことを言いながら窓を開けて外に出ると、すぐさま雷が俺めがけて落ちてくる。勿論ながらこれをそのままにしておくわけにもいかないので、ゼウスの権能で肩当を出現させて雷を吸収する。
「そんなのを相手にするとなると、俺も走り回りながらになる。で、面白がって出てきたりした一般人が邪魔になるわけなんだが、これを一々殺しながら進むんじゃあ面倒で仕方ない」
『だから、人を全員?』
「そうだ。とりあえず法隆寺で戦うから、そこを避難させてから全体避難ってかんじで」
『まったく、大変なことをさらっと言ってくるね・・・』
「急げよー。少しでも遅れたら人の命が散るから」
『分かってるよ』
と、その会話で電話が切れたので、両腕からブリューとボルグを出して握り、まつろわぬ神の気配を探る。敵は・・・上、か。少なくとも神の気配は上の方から感じる。視界内にそれっぽいやつがいない以上は・・・
「敵は雲の上、ってか?全くもってふざけてやがるな」
一言そうつぶやいてから民家の上まで跳び、走る。一切気配を隠さず、むしろ呪力を練り上げまくりながら走って少しでも神の気を引くようにしていると・・・
『オウオウ!そこにいるのは神殺しか!』
その場に響き渡るように、野太い声が聞こえてくる。頑張ればどうにかどの方向なのかは探れそうだけど、まあそれよりもまずは。
「ああそうだ、神殺しだよ!そっちはまつろわぬ神であってるか!?」
こんな感じだろう。する必要性もない確認を交わして時間を稼ぎ、法隆寺に向かう。別にどこでもい行けど近いところって感じで決めたんだから、最低限それくらいはしておくべきだろうし。・・・こういう時、神速の権能がほしくなるな。
『いかにも、まつろわぬ身で顕現した!さすれば神殺しよ、いざ尋常に勝負といこうではないか!』
「その前に姿見せろやコンチクショウ!攻撃届かねえんだよッ!!」
言いながら全なる終王を発動して、テキトーな方向に雷を撃つ。が、それは向うの撃ってきた雷とぶつかって届く前に潰れてしまった。まあ雷神に対して雷がそこまで効果あるとも思えないし、当てられる当てられないはそこまで重要な問題ではない。
『ハッハッハ!風神たる我がいるべきは地にあらず!姿を見せよというのなら、そうしようと思えるだけの力量を見せるのだな!』
「まあ素直に従うはずはねえよなって分かってましたよ!」
言ってる間にも「これ鎌鼬か!?」って感じの風が吹いてきたりしたのを避けたり、即席工場で槍を作って投げてみても全部暴風の前に落ちていくという無力さを実感したりする。槍程度じゃ軽すぎて相手まで届かない。ブリューか誓いの槍を使えば相手までたどり着けるかもしれないけど、だからこそ使うのはここぞ、ってときにしたい。さて、どうしたもんか・・・
「・・・っと、着いたか」
沈まぬ太陽を発動しようとして、しかし今使ったところで日の出の対象になりそうなのは日本周辺。今目の前にいる神のせいで曇っている以上日の出は期待できない。舌打ちしたくなるのをどうにかこらえていたところで目的地の法隆寺についた。
「さて、少しくらいは時間稼いでやるから、さっさとしてくれよ・・・」
薫に対してそう言いながら、聞こえもしないのに何を言ってるのかと少し馬鹿らしくなる。なんにしても、はやいとこ今の状況を打開する策を見つけないと・・・
「・・・あ」
どうするか考えてながら見回していたところで、とあるものが目に入った。すぐにそれを使うことに問題ないかどうかを考え、即決。何も問題はない。むしろ相手は神だ、何でも使うくらいの勢いでいかないと。
『どうした神殺し、呆けておる暇はなかろう!』
と、そんな判断をしていると前方斜め上から風の爆弾みたいなのが、後方斜め上から雷が迫っていたため、それを横に跳ぶことで避ける。あと、今の声は間違いなく風が来た方から聞こえてきたし・・・
「敵はあっち。即席の武器は強度が心配だが、そこは権能で補強可能。邪魔なものも権能でそぎ落とせばいいから・・・」
『ほうら、ぶつぶつ言わずにさっさと戦わぬか!』
ほんの少し考え事をしているだけなのにここまで起こるとか、この神様間違いなく短気だな。
とまあそんなことは置いといて。重要な問題はどれも解決可能。敵の意表を突く、って点についても間違いなく完璧。やるだけの価値はある作戦だと思う。しかし、それにしても・・・
「・・・奈良ってのは、こうも戦いやすい場所だったのか・・・武器がそこらじゅうにあるなんて」
新たな発見である。そして、この要素は十二分に使える。
「我は水を司る。すべての水よ、我が求める武具の形とせよ」
小声で言霊を唱えて水に命令を出し、同時に。
「雷よ!」
これまでのものとは比べ物にならない威力で雷を放ち、注意を引く。狙うのはあの野太い声が聞こえてくる方向。これでもか!ってくらいのを連発していると、雲が大きく動いた。雲の上にいるまつろわぬ神が動いたのに連動したんだろう。しかし、何で避けるのか・・・
と、次の瞬間。背中に勢いよくぶつかった何かの感触に対して反射的にその場を移動してしまった。
「今の、は・・・」
何がぶつかったのか、見ていなかった以上は分からない。だが、想像することはできる。というか、神相手の戦いの中であるのにダメージがないことから考えても、それは・・・
「雷・・・オイオマエ、あれか?好きな場所から雷を放てるとか、そう言う感じなのか!?」
そう、雷。そして、それは明らかに今対峙している神とは真逆の方向から放たれた。だからそう判断したんだが・・・
『生憎と、そう器用ではないな!』
「なら今のは何なんだよ!?」
『言ったであろう?我は風神であると!』
「わけわかんねえんだけども!?」
ああもう、何なんだこの神は!?超友好的だったプロメテウスともまともな自我があったのかも怪しかったザババとも違う、ただひたすら面倒な神、って感じがするな。なんだこれは。
けどまあ、水もちゃんと仕事してくれたみたいだし・・・
『うん?どうしたのだ?』
なんか誰かに何か聞いてるんだけど。なんなのこの神様。まさかの神様に電波入ってるの?変な電波受信してるの?もしくは厨二病な神様なの?
・・・ま、いいや。
「今ここに我は力を現す。人ならざる力をもって相撲を取り、未来あるものを守り抜こう!」
そんなことは気にしないでさっさと権能を使う。今回使うのは濡れ皿の怪力。効果はとても分かりやすい怪力を得るというもの。そして、こうして得た怪力を使って何をするのかと言われれば・・・
「よいしょ、っと」
『・・・・・・うん?五重塔にしては、形がおかしくはないか?』
「ああ、そっちが俺の派手に雷撃ちまくってるのに目がいってる間に、邪魔な部分は全部切り落とした」
『ああなるほど、それで細長い形となっておるのか!』
愉快愉快!と笑う風神。本気でぶん殴りたくなるウザさなのだがまあそれは抑えて。五重塔から傘みたいな部分を全部切り落とした棒を、怪力を用いて引っこ抜いて両手で構える。もろそうな部分はすでに即席工場で作り出した部品で補強済み。この後に使う権能も把握してるし、うん、問題ないな。
『して、そのようなものを作ってどうするつもりだ?』
「こうするんだよ!!!」
そして、声の方向に向けてぶん投げた。投げ槍の要領で。思いっきり。
『・・・・・・は?』
そして、神が状況を理解できて内っぽい声をあげているのをよそに舞台袖の大役者を使ってジャンプ力を得て、並列して忘れ去られた雷神の雷槌を発動。両手で握って空中で回り、遠心力まで全部乗せて。
「ウオラァ!」
元五重塔に叩きつけ、再加速。おまけで雷も纏ったんだけどそれはどうでもよく、重要なのは『十分な硬度』と『十分な重さ』をもつ槍が『十分な速さ』で敵の方向に飛んでいった、ってところ。これなら・・・
『って、あぶな!?』
「チッ・・・当たらなかったか」
ただまあ、やっぱりそう簡単にはいかないみたいで。
音からして雷でも当てたんだろうけど、俺の視界の外側でしっかりと壊されたらしい。惜しかったな・・・うまいこと行けばあれで少しは傷をつけられたかもしれないのに。
『いやぁ、危ない危ない、助かった・・・』
「ホントになんともなさそうだな・・・」
『うむ、正直助かったぞ』
誰に対していってるんだよ、俺の作戦がちんけすぎたってか?
『しかし神殺し。お前はあれだな、勝つためには何でもやる、にしても制限がなさすぎやしないか?』
「そうでもねえだろ、神殺しなんてみんなこんなもんだ」
『・・・ハ、ハッハッハッハッハ!それは面白そうだな!』
なんでコイツ、心底楽しそうなんだよ。ムカつくな・・・考えてることが、全く同じで。
そんなことを考えながら、俺は雷を乱射して、向こうもそれにこたえる。余波が出てる気はするけど、まあそんなことはどうでもいいか。
ページ上へ戻る