少年と女神の物語
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第百十七話
前書き
募集した神様の関係で書くのはこの次の章です。
では、本編へどうぞ!
「・・・・・・なあ、薫?」
「うん?何だい、武双?」
「いや、さ。確かに俺、オマエに『茶粥の美味しい店に行きたくないかい?』って言われて、まあ興味はある、って言ったけどよ」
「うん、そう言われたから僕は甘粕さんにここまで車を走らせたんだよ」
「ま、そうだな。けどさ、まさかそこの甘粕さんも、東京から奈良まで車で走らされるとは思わなかったんじゃねえかな・・・!」
とまあ、うん。そういうわけで。
今俺、というか俺と薫、それに甘粕さんの三人は、奈良の茶粥の名店を貸し切って茶粥を食べています。
◆◇◆◇◆
「はぁ・・・・・・」
「うん?お気に召さなかったかい?」
「いや、そこは問題ない。つかかなり美味かったからむしろ満足ではあるんだけどな」
「それは助かった。天下のカンピオーネの気分を害したなんてことになったら、僕の首が飛んでしまうからね」
若干ふざけた口調でそう言ってこられると、もう何か言おうとも思えなくなる。めんどくさくて。というわけで飲み物を飲んで一服してから、本題に入る。
「んで?聞きたいのはあれか?この間アテが殺した神殺しの関係」
「話が速くて助かるよ。もう死んだ神殺しであるとはいえ、情報があるととても助かる」
カンピオーネの情報を集めてるところもあるわけだし、そう言うところに渡して他の情報でも貰うつもりなんだろう。使えるものは使って自分に有利なように動かす、って感じかな。
「・・・まあ、そうだな。ただでさえ護堂が戦った後始末もあるのに俺の分もやらせてるし、茶粥も美味かった。その辺の情報ならくれてやるよ」
「うんうん、君ならそう言ってくれると思っていたよ。この間女神アテが戦った痕跡についても、中々に大変なことになっているしね」
「あー、あれかぁ・・・」
この間、あの九人目とアテが戦った跡地・・・ようするに梅先輩の家の神社なんだけど。あそこは無事に立て直された(というか俺が権能を使って手伝った)。なんだけど、さすがにアテの狂気を一瞬でも浴びた周辺の動植物に何の影響もない、というわけにはいかず・・・グネグネにねじれたり曲がったりした謎の植物やら奇形な虫やら妖怪じみたネズミ、猫、犬やらが発生してしまったのだ。植物の方は全部根まで殺してから俺の権能で復活させればそれで済んだんだが、生き物の方はそういうわけにもいかない。勝手にどこかにいったりもするから全部回収するのも難しいし、回収しないのではその辺の学会が大騒ぎだ。
というわけで、正史編纂委員会に所属していたりする人たちの中でも有力な人たちが、虫とり網やら動物用の網やらを片手にアテの神気を追って走り回ったそうだ。
「なんつーか、うん。あの時迷惑をかけた人たちには別でお詫びをするから」
「別に気にしなくてもいいのに。彼らだって仕事なんだから」
「仕事にしたって、絵面的にあれだろ・・・なんか、即席工場で造った武器でも渡すから」
「あ、それならクナイか小刀をいただけませんか?最近巻き込まれるごたごたを考えると、丈夫なものがほしいのですが」
よくこのタイミングで口をはさめたな、こいつ。意外と将来有望なのかもしれない。そんなことを考えながら俺は権能を発動して注文の品を作り、渡してやる。
「それで、あの九人目の権能だよな・・・。なにから聞きたい?」
「できることなら、全部」
「うわダル・・・まあいいけど」
さて、何から話すべきか・・・
「・・・まず一つ目に、アイツが北欧神話に登場する王様から簒奪した権能だ」
「王様?」
「ああ。オーディンの血を引く“スウァフルラーメ王”から簒奪した権能。ティルヴィング持ってやがったよ、アイツは」
「それはまた・・・はた迷惑な権能だね」
言い方はあれだが、確かにその通りだ。願いがかなう魔剣なんて何が起こるか分かったもんじゃない。
「それで、神話の通りそれは三つめの願いと同時に破滅が訪れるものなのかい?」「それは分からん。三つ使われる前に殺したらしいし」
「そうか・・・まあ、それはよかったと判断しよう。面倒事はごめんだしね」
そう言う薫の隣で、甘粕がキーボードをたたいている。なるほど、そっちで記録をとるんだな。
「見た目についてはどうだったんだい?」
「伝承の通りだった」
「それは楽でいいね」
伝承どり、の一言で済むしな。
「それで、他の権能は何が?」
「そうだな、次に説明が楽なのは何があったか・・・ルサルカのでいいか」
「ルサルカ、というとスラヴ神話の妖精のことかな?」
「そう、それだ。かつての豊穣神的な側面も持つのを殺戮したっぽいけどな」
で、説明は。
「内容は超単純。水を操れる、水を作り出せる、権能の支配下にある水は植物を急成長させる効果がある」
「・・・確かに単純だね、それは。君の豊穣王と万水千海を組み合わせた感じかな?」
「大体そんなもんだ。豊穣王ほどの自由度はないみたいだけど」
あれはまあ、それくらいの権能だろう。かなりの被害を出すことは出来そうだけど、だからと言って強力な権能ってわけじゃない。組み合わせ次第で危険になる権能、ってところだろう。
「他には何かないのかい?」
「まだ二つある、な。一つはともかく、もう一つの説明がクソ面倒なんだけど・・・」
「そこをどうにかお願いできないかな?」
「ザックリでいいなら。正直あれを全部は面倒で仕方ないしな・・・」
化身系統の権能はその辺りが面倒だ。自分で把握するのも大変そう・・・って、俺も権能の数的にそんなもんか。
「んじゃ、まずは楽な方から。ギリシア神話のラミアーから簒奪した権能で、子供の血を吸って強化するやつだ」
「ああ、それで血がない子供がいたわけか」
「そういうこった」
「それだけの権能?」
「身体強化、ってのはばかにならねえぞ。ただでさえカンピオーネのスペックはおかしなことになってるんだから」
そう言う意味合いでは、怪力の権能ってのも便利なもんだ。
「それで、最後の一つは何なのかな?」
「あー、あれなぁ・・・系統としては、護堂のと同じ感じだ」
「化身、か・・・それは面倒そうだね」
薫も理解してくれたようだ。
「それで、内容は?」
「ああ、そうだな。まず一つ目は・・・ああいいや、面倒だ。はいこれ」
と、俺は奈良に来るまでの暇つぶしにスマホのメモ帳に打っていたものを直接甘粕に渡した。考えてみたら、最初っからこうしとけばよかったな。
「こんなものがあるんなら最初から渡してくれればよかったじゃないか」
「すっかり忘れてたんだよ、茶粥食べるためだけに奈良まで連れてこられてな・・・」
呆れって、強いと思うんだ。
「それにしても、この名前のところは君たちが?」
「あー、それか。何か呼び方がないと分かりづらい、ってことでな」
「確かに、呼び方があった方が楽ではあるね。ふむ、『破滅齎す愚王の魔剣』に『水災招く豊穣婦』、『悪食の幼児愛好者』、『満月の怪物』か。どうせならこの名前で報告することにしよう」
「勝手にそっちでつけてくれてもいいんだぞ?ウチが家族内で勝手に決めたんだし」
「神殺しの魔王がお決めになられたものを変えるなど、我々にはできませんよ」
なんだそりゃ。
◆◇◆◇◆
「はぁ・・・ったく、なんでこうなったんだか」
と、茶粥を喰った後。俺は奈良にある旅館の中でも最高級のところを貸し切られそこに泊まることになった。今から帰っても時間がかかりすぎるし、という薫の配慮からである。
「あいつらは他のところに泊まってるし、あいつの悪ふざけもここまで来るといっそ笑えてくるな」
なお、薫には『君の姉や妹ほどじゃないにせよ媛巫女をつけてもいいよ?』と言われたが断った。正直変なのを付けられる方が面倒で仕方ない。トラウマの関係で部屋を閉め切れない以上なおさらである。寝込みを襲われたりして逆に殺しちゃうと思うところがないわけでもないし。
「さて、これ以上何かすることがあるわけでもねえしな・・・さっさと寝るか」
明日早いうちにでも出てさっさと家に帰りたいし、早く寝て新幹線なりなんなり使って帰るか。
「って思ってた俺が、バカだったのかなぁ・・・」
次の日の朝の話です。窓の外では雷ゴロゴロ風がビュービュー。それはもう民家とかを吹き飛ばさん勢いでの大荒れで、そして。
ものすっごく、力がみなぎってきます。
「奈良にカンピオーネが来たのが、悪かったのかなぁ・・・」
さ、頑張ろう。
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