黒魔術師松本沙耶香 妖女篇
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16部分:第十六章
第十六章
歴史と美が共にあるその中で。さらに言うのだった。
「貴女の顔がね」
「私の顔が」
「今度はそれよ。はっきりと言っているわ」
言いながらであった。彼女の目を見る。黒いその目は白い肌と実に対比的でありその美しさをさらに際立たせていた。
「特に目が」
「目が、なのね」
「目は人の中で最も多く語るもの」
目を見続けながら言葉も続けていく。
「だから。それを聞いたのよ」
「そうだったのね」
「だからよ」
そして言うのであった。
「誰かが側にいて欲しい。一時であっても」
「よく見ているわね」
「そしてそれは」
その彼女にさらに告げていく。
「女性であってもいい」
「私がそういう趣味があるとでも?」
「それも聞いたわ」
聞いた、と言ってみせるのであった。ここでは。
「貴女自信からね」
「また目からなのね」
「そうよ。目からよ」
やはりそれだというのである。
「目から教えて貰ったわ」
「認めるしかないわね」
そこまで言われてはだった。美女も認めるしかなかった。ふう、と何処か今のやり取りと楽しみ同時にこれから起こるであろうことに期待している溜息を出すのであった。
その溜息を出した後で。また言うのであった。
「そうだとしたらどうするのかしら」
「いい場所を知っているわ」
沙耶香に妖しい笑みがさらにその美しさを増した。
「そこに行きましょう」
「いいわね。二人なのね」
「そうよ。二人よ」
まさにそうだと。語る沙耶香だった。
「二人だけの世界に。一時だけの世界であっても」
「わかったわ。行かせてもらうわ」
「ええ。それじゃあ」
こうして沙耶香は彼女をある場所に連れて行った。そこは巴里でも有名なあるホテルの一室であった。その白く柔らかいベッドの中に二人で裸でいた。そのうえで彼女に話すのであった。
「どうだったかしら」
「どうだったって?」
「この場所は」
沙耶香は上を見上げていた。その天井も白い。何もかもが白く美しく彩られたその部屋は豪奢でありロココを思わせる装飾に満ちていた。彼女はその中で美女に問うたのである。
「気に入ってもらえたかしら」
「ええ」
美女は彼女の横にうつ伏せになっていた。そのうえで枕に顔を沈めそこから彼女を見ているのであった。
「充分にね」
「そう。それは何よりよ」
「それでもね」
ここで彼女は言うのだった。その長い髪はベッドの上に溢れている。沙耶香も黒髪を解きそれをベッドの上や己の身体の回りに置いていた。そのうえで話すのであった。
「もっといいものがあったわ」
「そうよ。それはね」
「何だったのかしら」
「貴女よ」
微笑んで沙耶香に告げた言葉だった。
「貴女が一番よかったわ」
「それは当然よ」
「当然だというの?」
「私だから」
こう言ってみせた沙耶香であった。
「それも当然よ」
「この部屋よりもずっと魅力的だったわ。素敵だったわ」
「この部屋、いえホテルよりも」
ここでも妖しい笑みを浮かべて言ってみせるのだった。
「それよりも私はね」
「魅力があるというのね」
「私は魔都から来たから」
また言ってみせた言葉は妖しい香りに満ちたものだった。
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