戦国異伝
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第二百十九話 九州に入りその十
「まああれだけの顔じゃしな」
「どの家に出してもですな」
「よい、まあ皇室や摂関家か」
「何と、そこまでですか」
「考えておる、良縁は約束する」
父である長政への言葉だ。
「安心しておれ」
「さすれば」
「浅井家もまた天下の柱、縁組は考えておる」
このことはその通りだ、信長も浅井家は織田家と縁組をしているので特に真剣に縁組を考えている。茶々についてもだ。
「もう万福、初、江はな」
「これで江もとなり」
「後は茶々だけとなればな」
決めねばならないというのだ。
「まあ任せておけ」
「では」
「猿が何か欲しそうじゃが」
信長はここで羽柴を横目で見て笑いもした。
「御主、そうしておなごばかり見るのもよいが」
「いや、それがしは別に」
「御主また妾を囲ったそうじゃな」
今度は笑いつつだ、信長は言った。
「ねねが言っておったぞ」
「それは誤解です」
「ねねの様な出来た女房はおらぬぞ」
「それはわかっていますが」
「わかっておるならよいがな」
「それでもですか」
「妾は程々にせよ」
「それがしもあくまで第一はです」
このことは秀吉も言った。
「ねねとしています」
「そのことは忘れるでないぞ」
「はい、ねねは正室です」
羽柴もこのことは真剣に言う、額からしきりに汗をかいているがそれでも目も泳いでおらず真剣そのものだ。
「妾は持とうとも」
「ねねを困らすでないぞ」
「承知しております」
「ならよい、ねねにも焼き餅は焼くなと言っておいた」
こうもだ、信長は言った。
「文を出しておいた、安土に帰ったら二人で読め」
「わかりました」
「それと御主の家の後継はな」
「はい、それは」
「治兵衛とせよ」
彼の甥である羽柴秀次にというのだ。90
「よいな」
「治兵衛ですか」
「御主も小竹も子に恵まれておらぬ」
「それで、ですな」
「あ奴しかおらぬからな」
だからだというのだ。
「後継は治兵衛じゃ」
「畏まりました」
「御主に子が出来れば小竹の家じゃな」
秀次は秀長の跡を継ぐといううのだ。
「どちらにしても治兵衛は大事にせよ」
「ですな、あ奴がいなければ」
羽柴もその辺りはわかっていて言った。
「羽柴の家は続きませぬな」
「人は多い方がよい」
「全く以て」
「御主もそれは覚えておけ」
「どうもわしは子に恵まれず」
ねねとも妾達との間にも一人もいない、羽柴の悩みでもある。彼自身が最も困っていることの一つである。
「ですから」
「だから大事にせよ」
秀次をというのだ。
「よいな」
「何があろうとも」
羽柴も信長に約束した、そしてだった。
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