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ダンジョンに復讐を求めるの間違っているだろうか

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怪物祭 (下)


 「【怨敵を喰らえ(パーガトリウム・フレイム)】!!」

 超短文詠唱に呼応して、刹那にデイドラの足元を中心にして石畳が赤熱。
 次の瞬間、火山噴火の如き爆鳴とともに半径三M丈六Mの大焔柱が聳立(しょうりつ)した。
 大焔柱の生み出した衝撃波は路地の家屋を爆散、または薙ぎ倒して、トロールの巨体を浮かし、膨大なる空気の濁流に背後一〇Mにあった半壊の建物に叩きつけた。
 衝撃波を発してなお火勢を衰えさせない大焔柱は周囲に火粉を噴き散らし、瓦礫と焦土と化した住宅街に焔粒が風巻(しま)いていた。
 やがて、それらの焔粒が翼果のように熱風に運ばれ、地面や瓦礫に降り立つと、小さな()萌えて(燃え立ち)、その場は焔の華に埋め尽くされた。
 その様相はまるで現世に顕現した煉獄のようだった
 その真ん中、大焔柱は役目を終えたようにしばらく沈黙した末にその規模を収束させていき、やがて、いつかのときの人型の焔塊と化した。

 「あああああああああああああああああっ!!!」

 デイドラは、その焔塊の中、体の中心から体全体に電流が連続的に駆け巡るような激痛に叫号していた。
 あまりの激痛に倒れることも許されず、絶叫のみで理性をつなぎ止めていた。
 しかし、その絶叫は焔のうごめく音に掻き消える。

 「絶対に許さないっ、許さない、許さない、許さないっ!!!」

 充血した目を『魅了』に堕ちたトロールよりも燗燗とぎらつかせ、建物に倒れ込んでいるトロールを睨め付ける。

 『グルルッ………………』

 そのトロールは倒れ込んだまま起き上がれないようだった。
 それも当然で、瞬間的な圧力上昇と大焔柱による熱を含んだ熱風によって表皮は焼きただれて、狭い路地が一回限りの擬似的な砲身となったことによって集約された衝撃波をまともに喰らい、全身に粉砕骨折、内臓破裂を引き起こしていた。
 未だに息がある方が奇跡だった。

 「立てっ!!!!立って、俺に殺されろっ!!!!」

 一向に起き上がる気配を見せないトロールにデイドラは絶叫し、一歩踏み出す。
 しかし、その絶叫は逆巻く焔の壁に阻まれ、一字一句もトロールには届いていない。

 「そんなものか!!!!」

 だが、そのことに気付くはずもなく、デイドラは叫びつづけ、足を再び踏み出す。

 「お前の所為でっ!!!お前の所為でっ!!!!」

 ――そうだ。そいつらによって私たちは無残に殺された。そして、お前は私たちを見殺しにした。だが、今ここにその一部を贖うときだ――

 そのデイドラに心の奥隅に燻っていた黒い何かが聞き間違えるはずもない父の声で囁きかけた。
 その囁きをデイドラは――唾棄した。

 「うるさいっ!!!お前は俺の父さんじゃない!!!消えろっ!!!」

 デイドラは誰にともなく叫ぶと、その怒りを発散するように激痛を振り切って、腰から短刀を二振り抜き放ち、トロールにがむしゃらに投擲した。
 しかし、その煉獄の焔を纏った短刀はデイドラの怒りと思いに答えるように寸分違わず、下級冒険者の攻撃なら難無く弾くトロールの腹部に抵抗なく刺さる。

 『グルアアアアアアアアアッ!!!!』

 短刀が刺さった痛みとその突き立った燃え盛る怪狼の牙からの類焼にトロールが絶呼する。
 獲物を消化しようとする粘体生物のように短刀から広がる焔はトロールの巨体をあらがう間も与えず、包み込んだ。

 『ガアアアアアアア――』

 そして、間もなくして、トロールは盛大な断末魔の途中で魔石ごと灰と化した。

 「何だよ…………それ…………」

 その一部始終をデイドラは業火の中で見ていた。
 あまりの呆気なさに、喪失感、虚無感に激痛の存在を忘れて呆然としていた。

 「中層のモンスターじゃないのか!俺よりずっと強かったのじゃないのか!」

 デイドラの怒りが萎むと伴い彼に纏わり付いていた焔も勢いを衰えさせる。

 「俺は…………俺は…………何のために………………――」

 言葉は続くことはなかった。
 デイドラは言い切る前に精神力(マインド)の枯渇とともに、倒れ込み深い眠りについたのだった。

 「デイドラっ!!デイドラっ!!」

 そのデイドラが眠りについたと同時に焔が掻き消えた路地を冒険者を連れたテュールが駆けた。
 路地だった場所、いや正しく言えばデイドラを中心にして半径二〇メートルは、海を焼き払ったとまで言われた魔剣を一兵卒まで行き渡らせていたかつてのラキア軍の猛攻があったようにすべてが灰と帰し、何も残っていなかった。 
 

 
後書き
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