黒魔術師松本沙耶香 紫蝶篇
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29部分:第二十九章
第二十九章
「ヒント?」
「そうよ。貴女のその蝶」
紫の蝶について語る。既にその蝶達は依子の周りを舞いはじめていた。
「ダリの絵にある蝶達だったのね」
「御名答」
依子はその言葉にうっすらと笑って答えてきた。
「では話は早いわ」
「そうね。どちらにしろ避けられないものだし」
「何処にされますか?場所は」
速水は懐の中に手を入れてきた。既にやる気であった。
「私は何処でもいいですが」
「そう。それじゃあ面白い場所があるわ」
依子は速水の言葉に応える形で言ってきた。楽しむ笑みをその口元に浮かべながら。
「それはね」
「何処かしら」
沙耶香がそれに問う。
「といってもおおよそのことはわかるわ」
「確かに」
速水も沙耶香のその言葉に頷く。
「ここに来た理由が理由ですから」
「話が早いわね。その通りよ」
依子は右手を己の頭の高さに掲げてきた。手の平を半ば空けてそこに紫の光を宿らせてきた。そうしてその光をすぐに美術館全てに及ぼさせてきたのであった。
「紫の光ね」
沙耶香はその光を見ても落ち着いた顔であった。それは速水も同じだった。
「さて。この光が消えた後で」
「そうよ。舞踏の場にね」
依子は光を放ったままの姿で悠然と笑いながら応えてきた。
「貴女達を誘ってあげるわ。さあ」
二人が導かれたのはその睡蓮の世界だった。赤や白の蓮が青い水の上に咲き誇り緑の葉が水面を覆っている。そこの葉の一つの上に沙耶香と速水がいた。二人はその葉の上に立ちながら目だけで周囲を見回していたのであった。
「ここですか」
速水は周囲を見ながらふと述べてきた。
「私達の舞台は」
「そうね」
沙耶香は速水のその言葉に答える。
「あの絵の中ね」
「はい。ダリの絵の中ですか」
速水はそれを確かめながら楽しげに笑っていた。笑いながら周囲に警戒を払う。それは忘れてはいなかった。
「またとない場所ですね。光栄です」
「そうね。それで」
今度は速水にかけた声ではなかった。もう一人にかけた言葉であった。
「紫の蝶達は。やっぱりいないのね」
「そうよ」
依子の声だけが聞こえてきた。
「それはね。私のものになっているから」
白い気が人の形を取って二人の前の蓮に姿を現わす。その気はすぐに依子となり二人の前に現われたのであった。
「ほら。ここに」
目を細めさせ先程紫の光を放った構えを取ってきた。するとその右手をあの紫の蝶達が包み込んだのであった。
「こういうことよ。私は絵の中の蝶達を自分の魔力で自らのものとして」
「そうして使っていた。そういうわけね」
「ええ」
沙耶香の言葉にこくりと頷いてきた。
「わかったわね。そしてここは最早私の世界」
こうも述べてきた。
「貴女達にとっては。不利な場所に」
「さて、それはどうでしょうか」
しかし速水はその言葉に対して悠然とした笑みで返してきた。
「私達にとってはここは楽しい舞踏の場です」
「そうね。折角招待してもらった場所ね」
沙耶香も述べてきた。
「それで不利だとは思わないわ」
「強気ね。相変わらず」
依子は二人のそんな言葉を聞いて言葉を傾げてきた。
「けれどそこがいいわ」
「でははじめるのね」
「ええ」
沙耶香の言葉にこくりと頷く。頷きながらその手の蝶を掲げるのであった。
「いいわね」
「駄目だと言っても許さないわよね」
「貴女のことですから」
「わかってくれているのね」
その手にそれぞれ紅い雷とカードを出してきた二人を見て言う。
「嬉しいわ。やっぱり互いを知っているのはいいことね」
「因果なことにね」
沙耶香は依子の今の言葉にこう返した。
「私は自由な恋愛を楽しみたいのだけれど」
「それはいつも楽しんでるじゃない」
依子はそう言葉を返す。
「何を今更」
「きついわね。その言葉は」
「嘘ではないでしょ。実際に貴女は」
「私はあくまで彼女達を楽しませただけ」
しれっとして言葉を返す。
「それだけなのにね」
「どうだか。けれどその因果もここで終わりにしたいわね」
「そうね」
「全くです」
速水も言葉を述べてきた。
「貴女との数多い戦いもこれで」
「終わらせるつもりね」
「お互いにね。ではいいわね」
沙耶香はその手の雷を放ってきた。赤い雷が光の帯となって依子に向かって放たれる。
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