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ダンジョンに復讐を求めるの間違っているだろうか

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夢の中 Ⅱ

 ――起きろ、デイドラ――

 デイドラは野太い、体に響くような声に目を覚ます。
 完全に意識が戻っていないのか、デイドラは目を擦りながら起き上がる。
 が、自分がテュールのベッドに寝ていたはずという記憶を取り戻したのか、臀部(でんぶ)に硬質な感触を感じていたデイドラは次第に瞼を持ち上げ、最終的にはこれ以上は不可能だろうと思えるほどに目を見開いた。

 「こ、ここは………………?」

 まるで見覚えのない真っ白の空間をデイドラは宛てもなく見回した。

 ――ここが何処だろうと関係ないだろう?デイドラ――

 その彼に先ほどの声が降り懸かる。

 「だ、誰だ、お前は!」

 その声にデイドラは彼にしては珍しく取り乱して、頭上を見上げ、声の主を探す。

 ――前も言っただろう――

 「前って何のことだ?」

 当然デイドラには心当たりなど全くない。

 ――ああ、そうだった。記憶から消しているのだったな――

 それに気付いて、声の主は取り繕うように笑いながら言う。

 「それはどういう意味だ!」

 ――そんなことはいい。それより、お前は自分の存在理由を忘れていないか?――

 声音には質問というより詰問の色を呈していて、自分の思い通りにならないことに対する怒りが感じられた。

 「存在理由って、何だ?」

 ――忘れておるな。まあ、いい。これからじっくり――いや、予定変更だ。ずっと味わわせてやる――

 声は一度一気に怒りの炎を燃え上がらせたが、何か仕返しを思い付いたのか、一瞬で怒りを引っ込ませ、喉の奥でくくっといやらしく笑った。

 「どういうことだ」

 ――なあに、すぐにわかるさ――

 我を忘れて、声音や口調まで変貌させた声の主は言った。
 その声にデイドラは底知れぬ予感めいた恐怖を覚える間もなく、意識を失った。


     ◇


 「あぁっ!」

 意識を失うと同時に、デイドラは悪夢から目覚めたようにベッドから跳ね起きた。
 時刻は深夜。

 「あぁ…………あぁ…………」

 起き上がったデイドラの目の焦点は小刻みに震えていて、口から譫言のようで言葉になっていない声が漏れていた。
 体から汗が吹出し、目と同じくらいに小刻みに震えていた。
 暗闇の中、彼の姿は怨霊に取り憑かれた家の住人のようなだった。
 その彼の耳には幾重にも重なった怨嗟の声が響いていた。
 その声はデイドラのよく知る人々の声だった。
 しかし、その人々の口からは聞いたことのないような怨讐に満ちたそれだった。

 「やめろ…………」

 デイドラは次第にうずくまり、震える手で耳を押さえる。
 しかし、声は逃避を許さないように、否咎めるようにその語気を強める。

 「許してくれ…………許し――」
 「デイドラっ」
 「っ!………………」

 自分の名を呼ぶ声にぴくんと肩を僅かに跳ね上がらせ、震えを止めたデイドラは声に引かれるようにして、振り返った。
 目に入ったのは、月光の中、階段の途中でデイドラを見下ろす、今にも涙を流しそうな悲壮な表情を湛えたノエルだった。

 「大丈夫か」
 「……ああ、大丈夫。ただ着替えてなくって寝苦しかっただけだ」

 未だ怨嗟の声は途絶えておらず、平気であるはずがないが、デイドラは神経を擦り減らして、平静を装うとした。
 しかして、努力は功を奏し、浮かべた笑みは引き攣っているものの声色だけは平常に近いものを出せていた。
 この時自分が何故咄嗟にノエルを騙したのかわからなかった

 「そうか。何かあればいつでも言ってくれ。私は、デイドラ、お前の家族だからな」

 しかし、その家族を思うような慈愛さえ感じられる表情を見て彼は悟った。
 自分はノエルを家族と見ている、そう悟ったのだ。

 「ああ」

 優しいノエルの声に答えるデイドラだったが、その声を消し去ろうとするように怨嗟の声が耳に纏わり付き、ほとんどの内容は聞き取れていない。

 ――お前は家族を見捨てたというのに――

 これは父の声によるものだった。

 「着替えたら自分のところで寝る」

 それを無視しようとして、無視しきれなかったデイドラはテュールのベッドから離れて、ノエルのいる階段に向かう。

 (俺の父さんはそんなことは言わない)

 思いながら、デイドラは心の奥隅に黒い何かが巣くうように感じた。

 「そうか」

 ノエルは笑みを浮かべて先に階段を上り、デイドラはそれを追って階段を上った。
 二階は一階と広さは同じ、というより二階の方が広い。
 あるのはソファー二つ、洋服ダンス二つだ。
 ソファーと洋服ダンスがそれぞれ一つずつが向かい合うように壁際に配されていて、部屋を均等に二つに区分けするように真ん中についたてがある。
 怨嗟の声を聞きながら、デイドラはうち一つの洋服ダンスに向い、外出用の上衣とズボンを脱ぎ、寝巻に着替える。
 既にノエルはついたての向こうだ。

 「おやすみ」

 着替え終え、デイドラがついたての向こうのベッド代わりのソファーに横になっているであろうノエルに言った。

 「ああ、いい夢を」

 ノエルは優しい声で返した。
 それも、デイドラにははっきり聞こえなかった。 
 

 
後書き
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