零から始める恋の方法
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プール
「では、みなさん。今日はお疲れ様でした」
「お疲れ様―」
「おつかれー」
「おつかれー。あ、機会があればまた誘ってよね!カラオケとか俺はいいと思う!」
各々がそれぞれ感想を述べて帰り道につく中、私と上元先輩は自然と一緒に帰ることになった。
「方角大丈夫か?」
「あ、あっちのコンビニのほうなんです。ちょっと歩きますけど・・・。上元先輩は?」
「俺か?俺もそっちのほうだな。少し俺のほうが遠いが、割と近所だ」
上元先輩の家ってそんな近かったんだ。
「となると、持上も電車通学か・・・」
「そうですね・・・。ちょっとドキドキです・・・」
しかし、今まで一度もあっていないということは登校時間に違いがあるのだろう。
できれば、一緒に登校ということもしてみたいが・・・それはいずれまた今度、としよう。
今は待つのみ、ひたすら忍耐だ。
「と、そろそろ晩飯時か・・・。なんかおごろうか?」
「そ、そんなの悪いです!それに私だって夜ご飯を用意するだけの料理の腕とお金はあります!」
なんか少し馬鹿にされたような気分だ。
やはり、ご飯は自炊に限るのだ。
できれば、炭とかを調達してきてかまどでご飯とか炊きたいぐらいだ。
「そ・・・そうか・・・」
「えと・・・上元先輩毎日コンビニ弁当とかなんですか?」
まさか毎日コンビニ弁当ということはあるまい。
これは個人的興味というだけでなく、サッカー部マネージャーとしての仕事の一環のつもりだ。
先代マネージャーが残して行ったマネージャーやることリストの中には選手の健康管理という項もあった。
そんな偏った栄養では筋力もつきにくく、免疫機能の低下などによって大事な試合を病欠したり、本来のコンディションを出しきれない、ということさえもある。
「まあ・・・な・・・。ほら、俺って親父が単身赴任でお袋も日本中飛び回ってる忙しい奴だし」
それで、上元先輩は一人暮らしなんでしたっけ。
以前、先輩マネージャーから聞いたことがあります。
「それはダメです!」
「いや・・・別に大丈夫だろ」
「そんなことはありません!」
「大丈夫だろ・・・きっと」
「そんなことはありません!そんな偏った栄養では健康に悪いです!部員の健康管理もマネージャーの仕事の一つです!よって、明日私が上元先輩に基礎的な料理を教えに行きます!」
「いや・・・そこまでする必要は・・・」
「大丈夫です!料理は基本的なことの繰り返しでいい感じのものができます!最初に作った弁当なんてみんな卵料理ばっかりなんですよ!」
こんな消極的な姿勢ではいけない。
上元先輩はきっと部屋とか汚いタイプの人だ。
ゴミ屋敷まではいかないけど、部屋が汚いタイプの人だ。
絶対そうだ。
あ、なら部屋の片づけとかもしないと。
私の家は割と立派な一軒家だ。
当然といえば当然だが、三人暮らしだったので、アパートだと少し狭苦しいらしく、奮発して購入したんだとか。
ありがたいことだ。
しかし、逆に言えば一人暮らしをするには広すぎる自宅でもある。
さて、そんな自宅の一室である私の部屋。
ここには簡易的な工作ができるように作業用のテーブルとか工具とかが置いてある。
他にもプレゼンテーション用の機材などおよそ女子の部屋とは呼べないもののなかなかに気に入っている部屋だ。
そんな部屋に上元先輩と二人っきりな状況なわけだが・・・。
「・・・想像となんかだいぶ違うんだが」
「あうぅ・・・すいません・・・」
よくよく考えてみれば、ある程度調理器具が充実している我が家のほうが教えやすい環境だったので、ここに招いたわけだ。
なんとなくで自分の部屋に招いてみたが・・・ちょっとイメージ下がっちゃった?
「工作とか好きなのか?」
「はい!日曜大工とかわりと好きです!」
この部屋に置いてある料理本などを入れている棚などもすべて自作。
丁寧に木を丸鋸で切り取り、ベルトサンダーで滑らかにしてある。
結構自信作だ。
「うまいな・・・。これ普通に売れるんじゃないか?」
「売る気はありません、みんな私の大事な子供たちです!」
そうだ、この子たちはみんな私が作り上げたかわいいかわいい子供たちだ。
ホームセンターで木材を物色し、丁寧に切り取って今自分が持ちうる最高の技術を持って、満足できる逸品を作り上げる。
そして、それを使い始めた時のうれしいことうれしいこと。
これは工作をしている人にしかわからないね。
ちなみに利英さんの家にはなぜか溶接用の施設とか何故か工業用レーザーカッターとか怪しいものがいっぱいあった。
是非一台ほど分けてほしい。
「で、料理を教えてくれるんだっけか。因みに何つくるんだ?」
「そうですねー・・・。この本に書いてある中で作ってみたいものとかありますか?」
そう言って渡したのは料理の初級教本。
基礎的ながらもおいしい料理の作り方がわかりやすく書かれているので結構気に入っている。
さまざまな個所に挟み込まれた付箋と自分用に分量なども細かく書き換えてあったりなど色々と苦労の跡が見えてしまっているが・・・。
「これとかかな・・・?」
そう言って指差したのはにくじゃが。
初級本だけあって、今となっては私の敵ではないし、料理初心者の敵でもないこの本の中でも結構簡単な部類のものだ。
で、おいしいしね。
まあ、料理のテンプレですね。
個人的には卵料理がおすすめですよ、にくじゃがは弁当には適さないので。
「あ、にくじゃがは汁とか出てきて弁当には会わないので、作る場合は注意してくださいね?」
「そうなのか?」
「はい。もし中身が動いたりしてしまうと、ほかの料理に汁が移ってしまってせっかくのお弁当が台無しです。ですからなるべく乾燥した物を中心に作ってください。簡単なところでいうとはるまきとかですね」
「はるまきが簡単・・・?アレって難しそうなイメージがあるんだが・・・」
「餃子よりは簡単ですよ。あとは仲のグザイの分量さえ間違えなければとても簡単です。にくじゃがは割とすぐできるものですので、後でそっちも作ってみましょうね」
「そ・・・そうなのか・・・」
と、いうわけで私と上元先輩の料理教室が始まった。
「なかなかいい感じですよ!とてもおいしそうです!」
「そ・・・そうか?そう言われるとなんだか少し恥ずかしいものがあるな・・・」
特に何のハプニングもなく、教本通りに肉じゃがを作って言った結果、最初にしてはとてもおいしそうなものになった。
ただ、若干じゃがいもの皮をむく際に深く刃を入れたせいでじゃがいもがこぶりなものになってしまってはいるが・・・。
ちなみに私は何も手出しをしていません。
「そうですね・・・。では、このままお昼ご飯も作ってみますか。チャアハンは好きですか?」
「は?チャアハン?」
こうして、今度は炒め物教室が幕を開けるのであった。
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