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K's-戦姫に添う3人の戦士-

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2期/ヨハン編
  K12 偽・Edge Works Goddess of ZABABA

「そこ! まで! デェェェェスッ!!!!」
「切歌!?」
「きりちゃんっ」

 切歌は、むんっ、と両手を両脇に当てて仁王立ち。

「探したデスよ、ヨハン。何こんなとこで寝こけてるデスか。ほら、さっさと帰って休むデスっ」

 切歌はヨハンの右手――いつもバスタードソードを持つほうの手を掴んで引っ張った。

「切歌も、僕を許すのかい?」

 ふて腐れた時のように唇を尖らせてそっぽを向く切歌。

「……あたしと調のためなら、ヨハンは何でもしてくれるんでしょ?」
「当たり前じゃないか」
「だったら、あたしたちのためにしてくれたことを、当のあたしたちが許さないで、誰が許すデスか!」

 再び切歌に手を引かれ、ヨハンは立ち上がった。

「切歌……ありがとう」

 ヨハンが切歌の片頬に手を当てると、切歌はしょうがないといわんばかりに、ヨハンを見上げて苦笑した。

「ヨハンは先に帰ってて。わたしたちはドクターを探しに行くから」
「ドクターを?」
「……昨夜からマムの容態がよくないデスよ。マリアが応急処置したけど、ちゃんとした治療はドクターでないとできないデスから」
「そうだったのか……なら僕も一緒に」
「だめ。帰って休んで。ヨハンだってケガしてるでしょう」

 今の調には有無を言わせぬオーラ、そう、迫力があった。いつもなら食い下がるのだが、今はできない。

 ヨハンが肯いたことで良しとしたのか、切歌も調も笑って走って行った。





「マム。具合はどう?」

 マリアは医務室に入るなり、すぐに尋ねた。

「今は特に不調はありません」
「よかった。あのね、マム。ヨハンが帰って来たの。それで、データ整理を代わってくれるって言うから、任せて私はこっちに来たのだけど」
「知っています。帰ってすぐ、私の元に『ただいま』を言いに来ましたから」
「そうだったの? ヨハンったら、そうならそうと言ってくれればいいのに。『僕は男だからね』って。相変わらずのフェミニスト」
「あの子らしいこと」

 こうしてナスターシャと他愛ない話をするなど、どれくらいぶりだろう。マリアは自然と笑顔を浮かべていた。

 だが、その憩いの時間を、艦内アラートが壊した。

 通信用画面が点いた。映るのは操縦室にいるヨハン。

《マリア。操縦室に戻ってきて。ノイズの反応を検知した。多分、ドクターがソロモンの杖で召喚したものだ。それに黄金のガングニールの反応も見られた。交戦に入ったと見てまず間違いない。調と切歌にはポイントを通達しておいた》
「OK。すぐ行くわ」
「お待ちなさい、マリア」

 ナスターシャがベッドに手を突いて起き上がっている。

「こちらが知り得たということは、あちらもまた然りです。私の車椅子を。私も行きます」
「だめよ、マム! あれからたった一夜しか経ってないのよ? 無理をしないで。マムに何かあったら、私たち……私、どうすれば……っ」
「ありがとう、優しい子。けど、思い出して。今は調も切歌もヨハンも戦っているのですよ。そんな中で私だけが臥せっているわけにはいきません」
「……分かったわ」

 マリアは目尻を乱暴に拭い、車椅子をベッドサイドまで持って来た。
 ナスターシャが慣れた腕使いでベッドから車椅子に移ったのを見届け、マリアはナスターシャを連れて操縦室へ向かった。





 マリアは車椅子を押して操縦室へ飛び込んだ。

「状況は!?」
「ミス・ガングニールが調、切歌とエンカウント。こちらの防戦一方だ」

 マリアもまた急いで操縦席に座ってモニターを見た。
 上空からの映像で観づらいが、ギアを纏った調と切歌がウェルを後ろに庇い、日本側のガングニールの装者、立花響と対峙しているようだった。

(何なの、このフォニックゲイン値! 私のガングニールを遙かに凌駕してる。これが人間のできることなの?)

 驚いている暇はない。マリアは気を取り直、響が不調の内に引き上げろと伝えようとした。

《頑張る2人にプレゼントです!》

 モニターの中、ウェルが切歌と調に両腕を突き出した。直後、二人は飛びずさり、それぞれに首を押さえた。

《何しやがるデスかッ!》
《LiNKER……?》

 ――ウェル捜索に二人が街へ出る時、万が一、日本側の装者との鉢合わせを想定してLiNKERを投与した。だからこそ、近くにいた切歌と調はギアを纏ってウェルの下へ直行できた。それをどうしてわざわざ連続投与など。

《そう、Youたち歌っちゃえよ! 適合係数がてっぺんに届くほど、ギアからのバックファイアを軽減できることは、過去の臨床データが実証済み。だったらLiNKERぶっ込んだばかりの今なら、絶唱歌い放題のやりたいほうだーい!》

(絶唱!? そんな。あの子たちも時限式なのよ? いくら連続投与だからって。そのバックファイアはきっと適合者以上。何て奴なの。我が身可愛さにそこまでして……でも、私じゃマムを治してあげられない……ドクターの手は必要……でも、でもっ)

《 Gatrandis babel ziggurat edenal  Emustolronzen fine el baral zizzl 》

 ガンッ!!

 隣の席からの殴打音に、マリアは肩を跳ねさせた。

「ヨハン……」

 壁に打ちつけたヨハンの拳から、血が一滴、二滴と落ちていく。表情は、彼が俯いていて窺うことはできない。

(無理もない、か。ヨハンにとって何より大事な二人をこんな目に遭わせてるんだもの。むしろ飛び出して行かないだけ冷静だわ)

《 Gatrandis babel ziggurat edenal―― 》

「――え?」
「これは……融合症例一号も、絶唱を?」
「え、エネルギー数値、シュルシャガナ、イガリマ、共に減圧っ。まさかあの子、二人のエネルギーを奪い取ったっていうの!?」

 モニターの中で響が空へと拳を掲げた。
 まさかこちらに気づいて本隊を撃破するつもりか、とマリアの背筋は冷えたが、響のしたことは――

「空撃ち…だと…?」

 オーロラ色の極大エネルギー波を何もない空へ向けて放つ、それだけだった。

「う…っ!」
「「マム!!」」

 ナスターシャが咳き込み、血を吐いた。

 マリアは調と切歌に通信回線を開き、急ぎウェルを連れて離脱するよう告げた。
 その間にも、横でヨハンがステルス迷彩を切り、アンカーを射出するよう操作している。

「調と切歌、ドクターの収容を確認。――マリア。マムを医務室へ。僕が操縦してここから離脱するから。ドクターにマムの具合を診てもらって」
「分かったわ。ここはお願い」

 マリアは操縦席を立ち、ナスターシャの車椅子を押して操縦室を出た。 
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