炎の中の笑み
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三章
そうしてだ、役に対して問うた。
「ここで」
「そうだな、後ろからな」
「後ろからですか」
「迫りだ」
そして、とだ。役は何かを見つつ本郷に話した。
「まずは背中をだ」
「一太刀ですか」
「いや、刃物はだ」
犯人が使っていたそれはというと。
「大きくはないな」
「っていいますと」
「ナイフだ」
それを使ったというのだ。
「それでだ」
「最初の一撃をですね」
「浴びせてだ」
それからだというのだ。
「相手が弱ったところでだ」
「さらに、ですか」
「今度はメスだな」
手術に使うこの刃物をだというのだ。
「それを出してだ」
「後は切り裂きジャックみたいにですね」
「切り刻んでいた」
「そうですか、じゃあ」
「切り裂きジャックの様だな」
「模倣犯ですか?」
本郷は真剣に考える顔で役に問うた。
「犯人は」
「いや、君も感じ取ってくれるか」
役は本郷の問いに答えずにだ、彼にこう返した。
「君の能力でな」
「つまり自分で、ですか」
「確かめてくれるか」
「わかりました、じゃあ」
本郷は役のその言葉に頷いた、そうしてだった。
目を閉じそうして目以外の感覚を使った、耳や肌に鼻、そして何よりも直感をだ。そしてその秘められた能力も。
そうしてだ、こう役に答えた。目を開いてから。
「違いますね」
「そうだな」
「殺し方は似ていますけれど」
「また違うな」
「真似ているって意識はないですね」
「犯人にはな」
「とんでもない憎悪を感じますけれど」
切り裂きジャックにもあったというそれをというのだ。
「何かこう」
「殺し方に凝っているのではなくな」
「ただもう衝動的に」
「切り刻んで壊したい」
「そうした感情を感じました」
「私もだ」
役もだ、そうだったというのだ。
「そうしたものは感じたが」
「ジャックを意識してはいないですね」
「また別だ」
「そうした奴ですね」
例えだ、殺し方が似ているとにしてもというのだ。
「風俗嬢をただ惨殺したい」
「それも無性に」
「そのことを誰にも明かすつもりはない」
「切り裂きジャックは警察に手紙を送りつけていますけれどね」
この手紙がジャック本人の手によるものかは不明だ、しかし警察を挑発する様な手紙を送ったことは事実だ。
「この犯人は」
「そうした意志は感じられないな」
「自己顕示欲はないですね」
「全くな」
「憎くてとにかく殺したい」
「風俗嬢をな」
「殺されているのは風俗嬢ばかりですね」
このことをだ、本郷はここで役に言った。
ページ上へ戻る